12 / 153
第1章 café R 〜ふたりの出会い、みんなの出会い〜
第12話:その日の夜
しおりを挟む
準備を整えておいた莉子の元に、時間通り連藤が来店する。
開けられたドアに莉子がかけより、手を掴むと、自分の肩へとそっと乗せた。
「カウンターにしますね」
そう言った莉子の声に、返事のかわりに肩が優しく握られる。
ゆっくりと歩き、カウンターの椅子に連藤の手を乗せると、器用にそのままするりと座る。
「オーナー、お客は?」
「今日は連藤さん、貸切ですよ!」
「言いようだな」
莉子は慣れた手つきで準備をしながら、連藤に声をかける。
「連藤さん、いかがします? 白飲んでから、赤に行きます?」
「そうしてもらおうかな」
莉子は白ワインを注ぎ、チーズとクラッカーを差し出した。
「白ワインは2時。正面にお皿です。クラッカーとチーズの盛り合わせです」
クラッカーなどの皿盛りの場合、連藤は慎重に皿をなぞり、そこから食べ物を探す。そして、手に当たったものから食べるという流れだ。
「連藤さん、さしでがましいかもしれませんが……」
ワインで飲み込んだ連藤が首をかしげる。
「なんだろう?」
「私、皿の場所とかお伝えしましょうか? 手を借りる感じになりますけど」
「どういう……?」
「こんな感じ」
莉子が連藤の背後につき、右手をとった。
「ここにお皿、お皿の大きさはこのぐらい。あとはつまんで……って感じですけど」
連藤は思わず微笑んでしまう。
今までこれを不都合と思ったことはなかったし、これ以上にやりようもないと思っていたからだ。
皿の大きさを知る作業も普通のこと。
でも………
「オーナー、これ、できたらお願いしてもいいかな?」
「はい、よろこんで!」
連藤は莉子が自分の手を触れる瞬間がたまらなく好きなのことを自覚した。
そっと、少し怯えたように触れる感じ。そして、細くて冷たい手。
まるで人形のようで、だけれど感情があって。
連藤は莉子の手に触れると、生きている、そう感じるのだ。
暗い視界のなかに、光があふれるような、そんな感覚だ。
不思議だけれど、そう思う。
「オーナー、ありがとう」
だからこそ、自然に笑顔もこぼれてしまう。
「え……いや、いいえ!」
連藤は莉子の返事にまた笑い、グラスに指を絡めた。
今日のワインは酸味があって爽やかだ。チーズにもよく合う。
「オーナーも飲んでは?」
「あ、そうですね。あの、お肉のタイミングでご一緒してもいいですか……?」
「オーナーのタイミングで」
「ありがとうございます」
莉子はサラダを滑りだし、お肉の準備に取りかかった。
今日のステーキは表面をカリッと強火で焼いて、あとは余熱で火を入れていく。
「すんごいいい部位とかではないんですけど、肉らしい鉄分を感じるお肉で……ぜひ、アメリカのジンファンデルでご一緒して欲しいと思って」
盛り付けの準備をしてから焼いていくが、ふと、莉子の頭をよぎるものがある。
───今って、2人っきりじゃない!?!?
だが、明日の方がドキドキするのはどうしてだろう?
これは仕事の延長で、明日はオフなのに会うからだろうか……
きっとそうだっ!!!
それに気づいてしまっては手元が震え始める。
───普通にしなくちゃ!
焦る莉子の心と料理を作らなくちゃという気持ちでちぐはぐになっていく。
なんとかお肉を焼きあげ、盛り付けた莉子だが、まだ意識している気持ちがある。
「連藤さん、お肉、できました」
上ずる声をころして皿を出すが、グラスに皿をぶつけてしまった。
傾いたグラスを手を伸ばして止めた莉子は、ほっと息をつく。
が、腕を伸ばしたせいで、お肉もワインも無事なのに、連藤の顔が目の前にあるのはどうしてか!
「あ、え……」
戸惑う莉子の頬に、連藤の指が伸び、するりと頬をなぞっていく。
ゆっくりと連藤は莉子の顔を手で包み、笑顔を浮かべた。
「小さい顔だ」
あまりの衝撃に、莉子は言葉にならない。
はっきりと見える、イケメンの連藤の顔。これほどまじまじと見たことはなかったけれど、近づいてもイケメンって犯罪だと思う!!!
莉子は慌てながらも連藤の両手を外し、
「あ、あああ、赤ワイン、入れますから!」
言いながらカウンターへと戻っていく。
連藤は正面に向き直ったものの、自分がどうしてこうしてしまったのか、不思議に思っていた。
触れてみたい。どんな顔なのか、感じてみたい。
そう思ってはいたけれど、とっさに触れるとは連藤自身、思っていなかった。
連藤は手の感触を思い出して考える。
───少し熱い頬は肉を調理していたからだけど、それでも可愛らしいし、輪郭は卵形だった。それに顔が手にすっぽりとおさまるほどオーナーの顔が小さい。美人系というのも頷ける───
「れ、れ連藤さん、今日はジンファンデル、アメリカの赤ワインです。どうぞ!」
まだ上ずったままの声をさらしながら、莉子が言う。
それに連藤はまたくすりと笑い「ありがとう」何もなかったように返してくる。
莉子はこの余裕がたまらなくいけ好かない。
私だけドキドキしてて、なんなのぉぉぉ!!!!
まだ赤みが引かない頬をさすり、自分もワインを飲んで、牛肉を頬張るのだった。
開けられたドアに莉子がかけより、手を掴むと、自分の肩へとそっと乗せた。
「カウンターにしますね」
そう言った莉子の声に、返事のかわりに肩が優しく握られる。
ゆっくりと歩き、カウンターの椅子に連藤の手を乗せると、器用にそのままするりと座る。
「オーナー、お客は?」
「今日は連藤さん、貸切ですよ!」
「言いようだな」
莉子は慣れた手つきで準備をしながら、連藤に声をかける。
「連藤さん、いかがします? 白飲んでから、赤に行きます?」
「そうしてもらおうかな」
莉子は白ワインを注ぎ、チーズとクラッカーを差し出した。
「白ワインは2時。正面にお皿です。クラッカーとチーズの盛り合わせです」
クラッカーなどの皿盛りの場合、連藤は慎重に皿をなぞり、そこから食べ物を探す。そして、手に当たったものから食べるという流れだ。
「連藤さん、さしでがましいかもしれませんが……」
ワインで飲み込んだ連藤が首をかしげる。
「なんだろう?」
「私、皿の場所とかお伝えしましょうか? 手を借りる感じになりますけど」
「どういう……?」
「こんな感じ」
莉子が連藤の背後につき、右手をとった。
「ここにお皿、お皿の大きさはこのぐらい。あとはつまんで……って感じですけど」
連藤は思わず微笑んでしまう。
今までこれを不都合と思ったことはなかったし、これ以上にやりようもないと思っていたからだ。
皿の大きさを知る作業も普通のこと。
でも………
「オーナー、これ、できたらお願いしてもいいかな?」
「はい、よろこんで!」
連藤は莉子が自分の手を触れる瞬間がたまらなく好きなのことを自覚した。
そっと、少し怯えたように触れる感じ。そして、細くて冷たい手。
まるで人形のようで、だけれど感情があって。
連藤は莉子の手に触れると、生きている、そう感じるのだ。
暗い視界のなかに、光があふれるような、そんな感覚だ。
不思議だけれど、そう思う。
「オーナー、ありがとう」
だからこそ、自然に笑顔もこぼれてしまう。
「え……いや、いいえ!」
連藤は莉子の返事にまた笑い、グラスに指を絡めた。
今日のワインは酸味があって爽やかだ。チーズにもよく合う。
「オーナーも飲んでは?」
「あ、そうですね。あの、お肉のタイミングでご一緒してもいいですか……?」
「オーナーのタイミングで」
「ありがとうございます」
莉子はサラダを滑りだし、お肉の準備に取りかかった。
今日のステーキは表面をカリッと強火で焼いて、あとは余熱で火を入れていく。
「すんごいいい部位とかではないんですけど、肉らしい鉄分を感じるお肉で……ぜひ、アメリカのジンファンデルでご一緒して欲しいと思って」
盛り付けの準備をしてから焼いていくが、ふと、莉子の頭をよぎるものがある。
───今って、2人っきりじゃない!?!?
だが、明日の方がドキドキするのはどうしてだろう?
これは仕事の延長で、明日はオフなのに会うからだろうか……
きっとそうだっ!!!
それに気づいてしまっては手元が震え始める。
───普通にしなくちゃ!
焦る莉子の心と料理を作らなくちゃという気持ちでちぐはぐになっていく。
なんとかお肉を焼きあげ、盛り付けた莉子だが、まだ意識している気持ちがある。
「連藤さん、お肉、できました」
上ずる声をころして皿を出すが、グラスに皿をぶつけてしまった。
傾いたグラスを手を伸ばして止めた莉子は、ほっと息をつく。
が、腕を伸ばしたせいで、お肉もワインも無事なのに、連藤の顔が目の前にあるのはどうしてか!
「あ、え……」
戸惑う莉子の頬に、連藤の指が伸び、するりと頬をなぞっていく。
ゆっくりと連藤は莉子の顔を手で包み、笑顔を浮かべた。
「小さい顔だ」
あまりの衝撃に、莉子は言葉にならない。
はっきりと見える、イケメンの連藤の顔。これほどまじまじと見たことはなかったけれど、近づいてもイケメンって犯罪だと思う!!!
莉子は慌てながらも連藤の両手を外し、
「あ、あああ、赤ワイン、入れますから!」
言いながらカウンターへと戻っていく。
連藤は正面に向き直ったものの、自分がどうしてこうしてしまったのか、不思議に思っていた。
触れてみたい。どんな顔なのか、感じてみたい。
そう思ってはいたけれど、とっさに触れるとは連藤自身、思っていなかった。
連藤は手の感触を思い出して考える。
───少し熱い頬は肉を調理していたからだけど、それでも可愛らしいし、輪郭は卵形だった。それに顔が手にすっぽりとおさまるほどオーナーの顔が小さい。美人系というのも頷ける───
「れ、れ連藤さん、今日はジンファンデル、アメリカの赤ワインです。どうぞ!」
まだ上ずったままの声をさらしながら、莉子が言う。
それに連藤はまたくすりと笑い「ありがとう」何もなかったように返してくる。
莉子はこの余裕がたまらなくいけ好かない。
私だけドキドキしてて、なんなのぉぉぉ!!!!
まだ赤みが引かない頬をさすり、自分もワインを飲んで、牛肉を頬張るのだった。
0
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~
白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街は、パワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。就職浪人になりJazzBarを経営する伯父の元で就職活動をしながら働く事になった東明(とうめい)透(ゆき)は、商店街のある仕事を担当する事になり……。
※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に同じ商店街に住む他の作家さんのキャラクターが数多く物語の中で登場して活躍しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。
コラボ作品はコチラとなっています。
【政治家の嫁は秘書様】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる