café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第1章 café R 〜ふたりの出会い、みんなの出会い〜

第9話:夜のカフェ、その後

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「オーナー、このパスタ、マジうまい」

 巧が満面に笑顔をちらしながら頬張っている。
 その横で、瑞樹は白ワインを飲み込みつつ、アヒージョの鉄鍋を傾けながら、懐っこい顔で莉子に言う。

「あ、オーナーできたらアヒージョって温めなおせますか?」
「もちろん。マッシュルーム、足しましょうか?」
「本当に?! 三井さんづけで、マッシュルーム追加お願いします」
「わかりました」

 アヒージョの鉄鍋が火に炙られる向かいで、連藤がグラスを回し、香りを楽しんでいる。

「オーナー、この赤ワインとビーフシチューがとても合う。だが、この赤ワインはどこのだろう?」
「私のお気に入りのローヌのワインです。本当はボルドーとかもいいんでしょうけど、なかなか手が出なくて」
「でもこのスパイシーな香りがここのビーフシチューにとても似合う」
「うちは繊細なビーフシチューじゃないので、だからこそ、かもしれないですね」

 カウンターに並んで座った3人の相手をしていると、奥のテーブル席から声があがる。

「おい、そこ、楽しげにしてんじゃねぇよ。俺の金で飲んで食いやがってっ」

 三井が悪態を付くのも無理はない。
 合コンは、失敗に終わったのだ。

 連藤のあの発言によって、女の子の機嫌は真っ逆さまに。
 連藤の言葉はむしろのかもしれない。
 三井からタクシー代をむしりとると、彼女たちは憤怒の顔でお帰りになったのだった。

「三井、お前の話術でフォローできるんじゃなかったのか?」

 連藤がワインを傾け声をかけるが、テーブルに寝そべる三井は連藤を睨む。

「馬鹿か! あんな全否定する奴がどこにいんだよっ!」

 あまりに飲みっぷりがいい。軽くボトル1本は飲み込んでいる。
 莉子はテーブルを片付けるついでに、三井のグラスを水に入れ替えておく。

「全否定した人、ここにいるよな、瑞樹」
「うん、となりで赤ワイン飲んでるね」
「うるせぇぞ、お前ら!」

 勢いよくグラスをあおるが、中身が水だ。
 思わず顔を上げた三井に莉子が言う。

「三井さん、飲みすぎですよ?」

 言われて水をちびりと飲んだ三井を見て、瑞樹はため息をついた。

「あーいう絡みする男って嫌ですよね、オーナー」
「男でも嫌だよな、あーいうの」

 瑞樹と巧は心底嫌そうに顔を歪める。
 だが、ワインを飲めば機嫌が直るのか、温め直したアヒージョをつまみながら、おいしそうにワインを飲み干していく。

「だが、オーナー、迷惑をかけてすまない」

 空になったグラスを見つめて連藤が言う。
 莉子はそのグラスにワインを注ぎながら、声を立てて笑った。

「連藤さんが謝らなくても。久しぶりに面白いのが見られました」

 莉子の言葉に不服なのは三井だ。

「オーナーまで。マジ俺、ゆりちゃん落としたかったんだよ。あの胸の形の良さ! 唇の厚み! どれもいいし」
「1回はお試しに?」
「だーかーらー今日はセフレになってもらおうと……って、オーナー、何言わせ……ひっ!!」

 視線だけで人が殺せそうなほどの、差別的な目だ。

「うちの店では、セフレの勧誘はおやめください」

 さらに縮こまった三井に莉子が冷たく微笑んだとき、連藤も微笑んだ。

「オーナーが強い人でよかった」
「10代から1人でここを切り盛りしてますから、ちょっとやそっとじゃ驚きません」

 その言葉に食いついたのは、巧と瑞樹だ。

「じゃ、ここのカフェ、すんごく長いっ!?」
「ぜんっぜん、知らなかったよ、僕ら……」

 ふたりの驚きっぷりに、莉子は当たり前だと言わんばかりだ。

「ここは、『オフィス街寄りのカフェ』ではなくって、『住宅街寄りのカフェ』なの。
 ここの地区って二分してるでしょ、公園を境に。
 だからランチタイム以降は、ママたちの井戸端会議の場所で、あと、夕方はワンちゃん散歩してる人が来たりとか。
 だからオフィス街の人たちは知らなくて当然だと思う。それに店も大きくないから、そこまでのお客様をさばけないしね」

「「なるほど」」

 納得できたのか、改めて料理を頬張る2人だが、連藤は不思議そうだ。

「でも夜もやっているなら、もっと賑わっても……」

 そう言うのも無理はない。
 今、彼ら以外、席にいないのである。

「ここはディナーがないので。
 金・土・日は夜のお客は多少は来てくれますが、今日みたいな平日は滅多に」

「それで食っていけるのかよ」

 潰れていたかと思った三井だが、隙間で言葉を差し込んできた。

「なんとかなってるのが不思議ですが、もう少し常連さんが増えても、いいとは思ってます」

 この莉子の笑顔に、男4人が常連になろうと思ったのは言うまでもない。

 だが、なぜだろう。
 特段オシャレでもない、ただただ普通に古いカフェ。

 それでも、まるで実家のような温かさを感じたのだ。
 料理の美味さも半端ないのだが、ここの雰囲気がそもそも癒しになっている。

 3回目の来店で虜にしてしまうカフェ。
 できるだけ人に明かしたくないカフェ。
 隠れて隠れて、生き抜いてきたのがよくわかる。

「オーナー、素敵な店だと、改めて思うよ」

 その連藤の言葉に、莉子はそっと頭を下げたのだった。

「なので、明日からランチと夜に来店する。よろしく頼むよ、オーナー」

 莉子は連藤の告白に固まった。
 巧と瑞樹を見ても、大きく頷いている。


 間違いなく、常連になろうとしている………!!!!


 莉子は「ありがとうございます」と返しながらも、内心では、『この美形4名の男の来店に、自分の心が耐えられるのか?』と、心配でたまらなかった───
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