café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第1章 café R 〜ふたりの出会い、みんなの出会い〜

第4話:続・みんなでランチ!

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 12時ごろを予約時間としたため、11時すぎたころからそわそわし始めたのは巧だ。

「瑞樹、もう行ってもよくね?」
「まだ早いよ」

 デスクが隣同士なのも問題なのかもしれない。
 が、小声の会話は止まらない。

「今日、瑞樹、どっちにする?」
「え? AとB? あー……どうしよう。巧は?」
「オレ? すんげぇ悩んでるんだよね。パスタも食べてみたいじゃん」
「それわかるー。したら僕、Bにしようかなぁ……」
「え、瑞樹、Bにすんの?」
「昨日はA食べたしね。巧は?」
「でもな、あのビーフシチューの感動をもう一度味わいたいしなぁ……」
「確かに、あの感動はたまらなかったよね! やっぱり、僕、Aにしようかなぁ」
「なんだよ、瑞樹、優柔不断すぎっ」

「うるせぇぞ」

 声と一緒に2人の頭に落ちてきたのはゲンコツだ。
 社会人になってゲンコツを食らうとは、精神的にもダメージがくる。
 恐る恐る見上げるとそこにいたのは三井だ。

「連藤が歩いていきたいって言うから、歩いて行こうぜ」

 腕時計を見ると、11時30分を回ろうとしている。
 三井の後ろにはすでに連藤がおり、白杖を手に、心なしかウキウキしているのがわかる。
 白杖を持つ手が、握って閉じてを小さく繰り返しているからだ。

 だけれど、これは長い付き合いでなければわからないだろう。
 表情には一切、緩みはない。 
 それでも楽しみだとわかるのは、この3人だからだ。



 夏が始まろうとしている外は、むっとした湿気がある。
 それでも空気が軽いため、歩いていて暑いといった気分にもならず、心地がよい。

「久しぶりだな。昼に歩くなんて」

 三井の声に、瑞樹が弾んだ声をつなげた。

「今日は気温も高くないから、ほんと、気持ちいいっ!」

 ジャケットを腕にかけ、背伸びをする瑞樹の横で巧がぼそりと言う。

「三井はもっと昼間に動けよ」
「巧、昼には女はいない」

 歩く道は街路樹の道のため、アスファルトではない。
 連藤の白杖に当たる感触は、固くも弾力がある。
 革靴の底に当たる感触も弾力がある。

「……あぁ、木のチップか」

 懐かしい感触を思い出しながら、連藤は白杖を器用に操りながら歩いていく。
 道をかたどるようにレンガの列があり、それに白杖を当てながら歩く姿は、目が見えていると思えるほどだ。

「あ、連藤、ここだよ、ここ!」

 巧が彼の腕を止めた場所、目の前に蔦の這った喫茶店と呼びたくなる、クラシックなカフェがある。
 ドアベルを鳴らし、中へ踏む込むと、白シャツに黒エプロンの莉子が振り返る。
 肩ほどの黒髪を耳にかけながら懐っこい笑顔が浮かんだ。

「あ、いらっしゃい」

 入ってきた4人に、彼女は軽く手を上げ、挨拶してくる。

「こちらの席、どうぞ」

 店内はすでに2人席と、カウンターが半分埋まっていた。さらに奥に4名掛けのテーブルがふたつあるが、そのどちらにも予約のカードが置かれている。

「男性4人って聞いたから、少し広めがいいかと思ったけど、みなさんスマートだから問題ないですね」

 莉子は4つ、水の入ったグラス並べていく。

「あ、オーナー、この浅黒くて大きいのが三井で、白くてひょろ長いのが連藤」

 巧の説明があながち間違いではないのだが、三井は巧の頭を一度小突いた。

「昨日、巧と瑞樹がこちらのお店に来たそうで。お邪魔します」

 優しそうに笑顔を浮かべた三井に対して、連藤は軽く会釈をするものの、口もどこも笑わない。
 少しだけ莉子の方向に顔は向いているものの、それだけだ。
 莉子はそれに動じることなく、エプロンの中からオーダー票を取り出し、ペンを掲げた。

「うちのカフェはランチメニュー2つしかないんです。どちらがいいです?」

 瑞樹がすかさずメニュー表を取り上げ、

「ここのAランチの、ビーフシチューがオススメ! あ、オーナーさん、今日のBのパスタはなんですか?」

「今日のパスタはミートソースです。パスタはスープもつきます。あとはサラダとドリンクです。
 ドリンクはコーヒー、紅茶、ウーロン茶から選んでいただいてます」

 悩む巧と瑞樹をおいて、連藤が口を開いた。

「では、私はビーフシチューで。ドリンクはコーヒー、食後で」

 連藤が言うと、「じゃ俺も同じで」三井が続く。

「じゃ、僕、Bにする。食後にコーヒーでお願いします」
「え、瑞樹、Bにすんの?……したらオレも! オレは食前にアイスコーヒー」

「では、ご注文はAセットお2つ、コーヒーを食後に。Bセットがお2つで、食後のコーヒーが1つと食前にアイスコーヒーが1つですね。かしこまりました」

 莉子は軽やかにカウンターへと向かっていく。
 すぐさま4人分のおしぼりとカトラリー、巧のアイスコーヒーを置き、素早く戻る。

「せわしねぇな」三井が呟くが、

「ひとりで切り盛りされているんだろう。無駄のない動きだ」

 足音を聞いている連藤は言う。

「連藤のそういうところが千里眼でなんか嫌なんだよなあ。仕事でもそうだろ?」

 三井は嫌みたらしくいうが、

「俺のサポートのお陰で、ミスのない仕事ができてるんだから感謝してもらいたい」
「本当、連藤さんってキッチリしてますよねぇ」
「瑞樹はダラダラだもんな」
「僕、巧に言われたくない」

 4人でくだらない会話をしているうちに、それほど待たされずに料理が届き始めた───
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