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第1章 café R 〜ふたりの出会い、みんなの出会い〜
第2話:ビーフシチューがここのオススメ
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最初にcafé Rへ来たのは連藤の後輩である、巧と瑞樹だった。
彼らは今年近くの企業に入社した新米サラリーマン。
そんな彼らはオフィスの近くで、ランチの名店を探る旅に出ていたのである。
そこで発見されたのが、café Rだった───
「瑞樹、こんなところにカフェあったんだな」
黒髪に少しつり目の彼が言う。長めの前髪を揺らし、端正な顔を向ける相手は、瑞樹という青年だ。
瑞樹は彼にとって同期であり、高校からの友人でもり、親友という間柄だ。
瑞樹と呼ばれた彼は淡い茶色い髪を手で軽く直しながら、可愛らしいタレ目をより細めて、大きく頷く。
「ね。知らなかったよねぇ。巧も知らないってことは、連藤さんたちも知らないのかな?」
「じゃねぇかな? 三井と連藤から一切聞いたことないな」
「うっそ」
小声でしゃべるふたりだが、このカフェにあまり訪れることのない人種だと、莉子は思う。なぜなら……
あまりにも美青年すぎるっ!!!!
目の保養がふたりも来てくれたことに感謝しながら、莉子はオーダー票と水を持って、彼らのテーブルへと着いた。
少しだけ姿勢を正したふたりだが、瑞樹が懐っこい顔で莉子を見上げてくる。
「僕らここ初めてで。あの、こちらのランチは何がオススメですか?」
莉子はオススメ、と口のなかで繰り返してから答えた。
「うちはビーフシチュー、かな。ランチのAセットなんですけど」
メニューカードを裏返して出てきたのはランチメニューだ。
Aセットのメニュー内容は、ビーフシチュー、サラダ、パン、ドリンク付きで税込1,800円となっている。
ちなみにBセットのメニューは日替わりパスタ、サラダ、パン、スープ、ドリンク付きで税込1,000円。
Aセットは多少お高めではある。
が、オススメであればと、ふたりは声を揃えて言った。
「「じゃ、Aセットで」」
食後にホットコーヒーを出すことを確認すると、素早く莉子は動き出した。
というのも、この店を切り盛りしているのは彼女ひとりだ。
他のお客のオーダーをさばきながら、ドリンクを出し、会計をし、料理を作る。
どれも動きが滑らかで、洗練されている。
これほどの動きをする店にはまだ当たっておらず、ふたりで見惚れていると、すぐにサラダが登場した。
手のひらより小ぶりの木製のボウルに盛り付けられたのはサラダである。張りのある葉野菜と少し変わった野菜が盛りつけられている。黄色の人参やロマネスコ、アイスプラントが散らばっていて、目でも楽しめる。
すでにかけられていたドレッシングだが、オリーブオイルの風味がいい。粒マスタードも散らばり、酸味と辛味がちょうどいい。
小ぶりとはいえ、しっかりしたサラダが出てくるとは思っておらず、ふたりは無心で頬張りおえた頃、熱々のビーフシチューがテーブルに届いた。
スープ皿に乗せられたビーフシチューの肉の存在感はもちろん、彩り野菜も美味しそうに見える。
すぐに添えられたパンは温めなおされており、皮がパリッとしたフランスパンだ。このフランスパンは握りこぶしほどの大きさの丸いパンのため、ざっくりと割ると湯気がふわりとあがり、しっとりとさける感触が素晴らしい。
彼らはサラダとパンを楽しみながらも、やはり、メインディッシュ、ビーフシチューに注目していた。
実は連藤の得意料理がビーフシチューなのだ。
2度ほど彼のビーフシチューをいただいた機会があるふたり。
連藤のビーフシチューは、どこぞのレストランに負けない旨味とコクがあった。
それに勝てる、あるいは互角に渡り合えるものでなければならない───!!!
食べおえたとき、ふたりはテーブルに沈んでいた。
連藤とは違う、だけれど、それはそれは素晴らしいおいしさだったのだ。
どこか懐かしくて、初めて食べたのにそうとは思えない。だからといって、どこかで食べたわけではない美味さ!
ふたりはあまりの衝撃にうなだれたままコーヒーを待っていたとき、さらなる衝撃に見舞われた。
コーヒーがハンドドリップっ!
この忙しいランチの時間にハンドドリップで淹れるだなんて……!!!
レストランでも増えている、ボタンで出てくるコーヒー。
だけれど、ここは丁寧にひとつひとつ淹れてくれているのだ。
セットのコーヒーなのに、ここまで丁寧だと、午後の仕事にやる気が増す気がする。
だからこそのお客の人数であるようだ。
先ほども入店したいお客が来たが、彼女はお待ちいただくか、また時間を改めてのご案内をしていたのが聞こえている。
この衝撃のランチに、ふたりは驚きを通りこして、感動していた。
食後の時間を見計らって、莉子に声をかけたのは言うまでもない。
「あの、オレたち明日も来るんで、4名席、予約したいんですけど」
「あ、はい、はい?」
巧の言葉に莉子は一度聞き返してしまうが、それにかぶせて瑞樹が言う。
「だってここ、席が埋まるの早いじゃないですか」
「ああ、わかりました。でも、お客様で初めてです、ランチで予約なんて言われたの」
莉子はころころと笑いながら予約の時間をメモすると、ずいっと巧が顔を寄せた。
「オレ、巧っていいます。このヘラってしてるの、瑞樹」
「あ、はい、僕、瑞樹です。お姉さんは何て呼べばいいですか?」
「え、あ、は、え………みんな、オーナーって呼んでくれて、ます、ね」
「じゃ、オーナー、これからよろしく! 俺たち、常連になるんで!」
外国人並みのスキンシップで握手を交わした莉子だが、このとき、彼らが本当に常連になるとは思っていなかった───
彼らは今年近くの企業に入社した新米サラリーマン。
そんな彼らはオフィスの近くで、ランチの名店を探る旅に出ていたのである。
そこで発見されたのが、café Rだった───
「瑞樹、こんなところにカフェあったんだな」
黒髪に少しつり目の彼が言う。長めの前髪を揺らし、端正な顔を向ける相手は、瑞樹という青年だ。
瑞樹は彼にとって同期であり、高校からの友人でもり、親友という間柄だ。
瑞樹と呼ばれた彼は淡い茶色い髪を手で軽く直しながら、可愛らしいタレ目をより細めて、大きく頷く。
「ね。知らなかったよねぇ。巧も知らないってことは、連藤さんたちも知らないのかな?」
「じゃねぇかな? 三井と連藤から一切聞いたことないな」
「うっそ」
小声でしゃべるふたりだが、このカフェにあまり訪れることのない人種だと、莉子は思う。なぜなら……
あまりにも美青年すぎるっ!!!!
目の保養がふたりも来てくれたことに感謝しながら、莉子はオーダー票と水を持って、彼らのテーブルへと着いた。
少しだけ姿勢を正したふたりだが、瑞樹が懐っこい顔で莉子を見上げてくる。
「僕らここ初めてで。あの、こちらのランチは何がオススメですか?」
莉子はオススメ、と口のなかで繰り返してから答えた。
「うちはビーフシチュー、かな。ランチのAセットなんですけど」
メニューカードを裏返して出てきたのはランチメニューだ。
Aセットのメニュー内容は、ビーフシチュー、サラダ、パン、ドリンク付きで税込1,800円となっている。
ちなみにBセットのメニューは日替わりパスタ、サラダ、パン、スープ、ドリンク付きで税込1,000円。
Aセットは多少お高めではある。
が、オススメであればと、ふたりは声を揃えて言った。
「「じゃ、Aセットで」」
食後にホットコーヒーを出すことを確認すると、素早く莉子は動き出した。
というのも、この店を切り盛りしているのは彼女ひとりだ。
他のお客のオーダーをさばきながら、ドリンクを出し、会計をし、料理を作る。
どれも動きが滑らかで、洗練されている。
これほどの動きをする店にはまだ当たっておらず、ふたりで見惚れていると、すぐにサラダが登場した。
手のひらより小ぶりの木製のボウルに盛り付けられたのはサラダである。張りのある葉野菜と少し変わった野菜が盛りつけられている。黄色の人参やロマネスコ、アイスプラントが散らばっていて、目でも楽しめる。
すでにかけられていたドレッシングだが、オリーブオイルの風味がいい。粒マスタードも散らばり、酸味と辛味がちょうどいい。
小ぶりとはいえ、しっかりしたサラダが出てくるとは思っておらず、ふたりは無心で頬張りおえた頃、熱々のビーフシチューがテーブルに届いた。
スープ皿に乗せられたビーフシチューの肉の存在感はもちろん、彩り野菜も美味しそうに見える。
すぐに添えられたパンは温めなおされており、皮がパリッとしたフランスパンだ。このフランスパンは握りこぶしほどの大きさの丸いパンのため、ざっくりと割ると湯気がふわりとあがり、しっとりとさける感触が素晴らしい。
彼らはサラダとパンを楽しみながらも、やはり、メインディッシュ、ビーフシチューに注目していた。
実は連藤の得意料理がビーフシチューなのだ。
2度ほど彼のビーフシチューをいただいた機会があるふたり。
連藤のビーフシチューは、どこぞのレストランに負けない旨味とコクがあった。
それに勝てる、あるいは互角に渡り合えるものでなければならない───!!!
食べおえたとき、ふたりはテーブルに沈んでいた。
連藤とは違う、だけれど、それはそれは素晴らしいおいしさだったのだ。
どこか懐かしくて、初めて食べたのにそうとは思えない。だからといって、どこかで食べたわけではない美味さ!
ふたりはあまりの衝撃にうなだれたままコーヒーを待っていたとき、さらなる衝撃に見舞われた。
コーヒーがハンドドリップっ!
この忙しいランチの時間にハンドドリップで淹れるだなんて……!!!
レストランでも増えている、ボタンで出てくるコーヒー。
だけれど、ここは丁寧にひとつひとつ淹れてくれているのだ。
セットのコーヒーなのに、ここまで丁寧だと、午後の仕事にやる気が増す気がする。
だからこそのお客の人数であるようだ。
先ほども入店したいお客が来たが、彼女はお待ちいただくか、また時間を改めてのご案内をしていたのが聞こえている。
この衝撃のランチに、ふたりは驚きを通りこして、感動していた。
食後の時間を見計らって、莉子に声をかけたのは言うまでもない。
「あの、オレたち明日も来るんで、4名席、予約したいんですけど」
「あ、はい、はい?」
巧の言葉に莉子は一度聞き返してしまうが、それにかぶせて瑞樹が言う。
「だってここ、席が埋まるの早いじゃないですか」
「ああ、わかりました。でも、お客様で初めてです、ランチで予約なんて言われたの」
莉子はころころと笑いながら予約の時間をメモすると、ずいっと巧が顔を寄せた。
「オレ、巧っていいます。このヘラってしてるの、瑞樹」
「あ、はい、僕、瑞樹です。お姉さんは何て呼べばいいですか?」
「え、あ、は、え………みんな、オーナーって呼んでくれて、ます、ね」
「じゃ、オーナー、これからよろしく! 俺たち、常連になるんで!」
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