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羅生門日帰り旅編
羅生門 日帰り旅 8話
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ふたりで美味しいどら焼きを食べて、肉球をペロリとしてからシラタマは時計を見る。
「もう、3時半、回ってる」
その声に、キヌちゃんはぴょんとベンチを降りた。
「待ち合わせ、4時だもんね? もう戻ったほうがいいねぇ。……はぁ。寂しいなぁ」
「もう?」
「もうだよぉ」
肩をガックリ落としながら、キヌちゃんはいう。
シラタマも同じ気持ちだ。耳の尻尾もしおれてしまう。
「ねぇ、キヌちゃん、次の花祭りは帰って来れないの?」
シラタマの提案に、キヌちゃんは、「あ!」と声を上げた。
「もしかして、花祭りのことかなぁ……」
懐からだしたハガキには、筆ペン1色で、
『あいりっしちゃんとまつりいくよ』
そう書いてある。
左下の方に小さく、
「リッカ……? ……これ、リッカちゃんからのハガキ?」
「そう。だと思う」
鉛筆の字も相当だが、筆ペンだともっとみみずが這った字をしている。
それにしても内容が突飛すぎる。
シラタマはお月見寺に戻る道でキヌちゃんに説明をすることにした。
魔女の娘のアリーちゃんの話から、最近の一本傘のしずくちゃんの話まで、ゆっくり丁寧に話していく。
「……へぇ! アリーちゃんのお友だちが、アイドルのアイリッシュちゃん……で、しずくちゃんもいっしょに、ね。とっても楽しそう!」
「でしょ? お祭り来れそう? 糸史おばちゃん、厳しい?」
お月見寺の本堂の近くまできたとき、ぽすんとシラタマの頭がなでられる。
「初めてじゃないか、ここにくるのは」
「お師匠」
「糸史おばちゃん」
声が重なるが、糸史の隣にはシラタマの母もいる。
「シラタマ、時間ぴったりね」
「遅刻しなかった? よかったぁ」
ゆるんだマフラーを巻き直しながら母はシラタマの頬をなでる。
むふふと笑う横で、糸史がキヌちゃんの頭をぽすぽすと叩く。
「キヌ、シラタマとは、少しは楽しめたかい?」
「はい、お師匠。たくさんおしゃべりしちゃった」
キヌちゃんもまた、うふふと笑い、糸史の横にそっと並んだ。
「糸史おばちゃん、キヌちゃんと花祭りまわりたいの。おやすみできる?」
そっと見上げたキヌちゃんに、糸史はにっかり笑う。
「もちろん、おやすみだよ。みんなに会ってしゃべって楽しい気持ちになると、創ることも楽しくなる。遊びは大歓迎さ」
「やったね、キヌちゃん」
「うん!」
キヌちゃんは糸史おばちゃんと手を繋ぎ、シラタマは母と手を繋ぐ。
次に会うのは、花祭りだ。
「キヌちゃん、またね!」
「シラタマちゃん、またね!」
歩き出すけれど、何度も何度もシラタマは振り返ってしまう。
本堂の境内を歩きながら、シラタマの目にはたっぷりの涙がたまる。
「……さびしいよぉ、母ちゃん」
「もう1回だけ、手を振りな。元気出るよ」
振り返ったとき、キヌちゃんがシラタマを抱きしめた。
一反木綿は移動がはやいのを思い出した。
それこそ、だるまさんがころんだは、キヌちゃんに勝てないことも。
「シラタマちゃん、またね! 次、会えたとき、かわいい襟刺繍、もっていくから」
「今度は、薄皮まんじゅう、もっていくね」
今度はシラタマは振り返らなかった。
母ちゃんの言った通りだ。
元気になった。
ぎゅっとされて、元気になった!
そして、花祭りまでに、もっともっと素敵な小豆洗いの猫又になっていよう。
シラタマは強く決意する。
「もう、3時半、回ってる」
その声に、キヌちゃんはぴょんとベンチを降りた。
「待ち合わせ、4時だもんね? もう戻ったほうがいいねぇ。……はぁ。寂しいなぁ」
「もう?」
「もうだよぉ」
肩をガックリ落としながら、キヌちゃんはいう。
シラタマも同じ気持ちだ。耳の尻尾もしおれてしまう。
「ねぇ、キヌちゃん、次の花祭りは帰って来れないの?」
シラタマの提案に、キヌちゃんは、「あ!」と声を上げた。
「もしかして、花祭りのことかなぁ……」
懐からだしたハガキには、筆ペン1色で、
『あいりっしちゃんとまつりいくよ』
そう書いてある。
左下の方に小さく、
「リッカ……? ……これ、リッカちゃんからのハガキ?」
「そう。だと思う」
鉛筆の字も相当だが、筆ペンだともっとみみずが這った字をしている。
それにしても内容が突飛すぎる。
シラタマはお月見寺に戻る道でキヌちゃんに説明をすることにした。
魔女の娘のアリーちゃんの話から、最近の一本傘のしずくちゃんの話まで、ゆっくり丁寧に話していく。
「……へぇ! アリーちゃんのお友だちが、アイドルのアイリッシュちゃん……で、しずくちゃんもいっしょに、ね。とっても楽しそう!」
「でしょ? お祭り来れそう? 糸史おばちゃん、厳しい?」
お月見寺の本堂の近くまできたとき、ぽすんとシラタマの頭がなでられる。
「初めてじゃないか、ここにくるのは」
「お師匠」
「糸史おばちゃん」
声が重なるが、糸史の隣にはシラタマの母もいる。
「シラタマ、時間ぴったりね」
「遅刻しなかった? よかったぁ」
ゆるんだマフラーを巻き直しながら母はシラタマの頬をなでる。
むふふと笑う横で、糸史がキヌちゃんの頭をぽすぽすと叩く。
「キヌ、シラタマとは、少しは楽しめたかい?」
「はい、お師匠。たくさんおしゃべりしちゃった」
キヌちゃんもまた、うふふと笑い、糸史の横にそっと並んだ。
「糸史おばちゃん、キヌちゃんと花祭りまわりたいの。おやすみできる?」
そっと見上げたキヌちゃんに、糸史はにっかり笑う。
「もちろん、おやすみだよ。みんなに会ってしゃべって楽しい気持ちになると、創ることも楽しくなる。遊びは大歓迎さ」
「やったね、キヌちゃん」
「うん!」
キヌちゃんは糸史おばちゃんと手を繋ぎ、シラタマは母と手を繋ぐ。
次に会うのは、花祭りだ。
「キヌちゃん、またね!」
「シラタマちゃん、またね!」
歩き出すけれど、何度も何度もシラタマは振り返ってしまう。
本堂の境内を歩きながら、シラタマの目にはたっぷりの涙がたまる。
「……さびしいよぉ、母ちゃん」
「もう1回だけ、手を振りな。元気出るよ」
振り返ったとき、キヌちゃんがシラタマを抱きしめた。
一反木綿は移動がはやいのを思い出した。
それこそ、だるまさんがころんだは、キヌちゃんに勝てないことも。
「シラタマちゃん、またね! 次、会えたとき、かわいい襟刺繍、もっていくから」
「今度は、薄皮まんじゅう、もっていくね」
今度はシラタマは振り返らなかった。
母ちゃんの言った通りだ。
元気になった。
ぎゅっとされて、元気になった!
そして、花祭りまでに、もっともっと素敵な小豆洗いの猫又になっていよう。
シラタマは強く決意する。
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