3 / 55
一反木綿のキヌちゃん編
小洗屋のシラタマと一反木綿のキヌちゃん 3話
しおりを挟む
今日は天天小豆を洗ってほしいという。
天天小豆はこぶりの小豆だ。
炊き方によって食感が変わる小豆でもある。
「小粒の甘納豆を作ろうと思ってな。もうすぐ、お祭りがあるだろ」
お祭りと言ったのは、着物コンテストのことで間違いない。
その日は村に大勢の妖が集まる。
あの着物デザイナー・糸史のコンテストだ。都からもたくさんの人が来るのはまちがいない。
それこそ雑誌の記者もくると聞いているし、村や近隣の宿屋も予約でいっぱい。
大きな会館もすでに抑えられ、村のなかは、静かに騒がしい。
「屋台をだすの?」
シラタマが聞くと、両親はそろって首を横に振った。
「駄菓子屋のぬらりひょんさんがね、屋台をだすって。綿飴とうちの甘納豆を売りたいってね」
「へえ~」
駅前にある駄菓子屋は、本当はお茶屋さんだ。
だけど3代目の子ども好きが高じて駄菓子屋もやるようになった。
今はどっちが本業かわからないほど、どちらも人気のお店になっている。
「そっかぁ。天天小豆、洗うの難しいけど、がんばるね!」
「うん、ありがと、シラタマ」
父の大きな手は優しくて、いつも目を細めてしまう。
ごろごろと喉をならすと、母がぎゅっと抱きしめてくれた。
「本当にいい子。大好きよ、シラタマ」
「あたしも母ちゃんと父ちゃん、大好き!」
唐突に始まる大好きの告白だけど、シラタマはとっても幸せになれる。
本当に、2人の子どもになれて、よかったって思う瞬間だ。
ゆっくりと朝食を食べてから出かける少し前、父に呼び止められた。
こっそり店舗に連れていかれる。
すると、昨日の残りのおはぎを4つ、父は笹の葉に包み出した。
「今日もキヌちゃんに会うんだろ?」
「うん!」
「2人でお食べ。母ちゃんには内緒な」
シラタマは次の返事を飲み込んだ。
母に見つかったら、お昼ご飯が食べられないとゴニョゴニョ言われるのは間違いないからだ。
シラタマは天天小豆の入った袋にそっと入れ、父に手を振る。
「行ってきます。上手にあらってくるからね!」
もしかすると、キヌちゃんはすでに来ているかもしれない。
おやつにおはぎがあるよ!
きっとこれを聞いたら、キヌちゃんはおおはしゃぎで作業をするに決まってる。
いつもの場所に着いたシラタマだが、キヌちゃんの姿はなかった。
辺りを探してみたけど、大切に干していた布は片付けられ、染める道具も薬品も、たくさん悩んで考えて書き込んでいたデザイン集もない。
もう布が完成したのかとも思ったが、
『あと、3日で完成よ、シラタマちゃん。楽しみね!』
その言葉を思い出す。
「……キヌちゃん、どうしたのかな。もう少ししたら、くるかな……」
天天小豆はこぶりのザルにいれて研いでいく。
皮が柔らかいため、力加減がとても難しい。
一度水に浸し、そっと肉球を当てていく。
しゃり。しゃり。しゃり。
しゃり。しゃり。じゃり。
じゃり。しゃり。しゃり。
ていねいに、優しく優しく洗っていたら、もうお日様も真上にいる。
でも、キヌちゃんは来なかった。
天天小豆はこぶりの小豆だ。
炊き方によって食感が変わる小豆でもある。
「小粒の甘納豆を作ろうと思ってな。もうすぐ、お祭りがあるだろ」
お祭りと言ったのは、着物コンテストのことで間違いない。
その日は村に大勢の妖が集まる。
あの着物デザイナー・糸史のコンテストだ。都からもたくさんの人が来るのはまちがいない。
それこそ雑誌の記者もくると聞いているし、村や近隣の宿屋も予約でいっぱい。
大きな会館もすでに抑えられ、村のなかは、静かに騒がしい。
「屋台をだすの?」
シラタマが聞くと、両親はそろって首を横に振った。
「駄菓子屋のぬらりひょんさんがね、屋台をだすって。綿飴とうちの甘納豆を売りたいってね」
「へえ~」
駅前にある駄菓子屋は、本当はお茶屋さんだ。
だけど3代目の子ども好きが高じて駄菓子屋もやるようになった。
今はどっちが本業かわからないほど、どちらも人気のお店になっている。
「そっかぁ。天天小豆、洗うの難しいけど、がんばるね!」
「うん、ありがと、シラタマ」
父の大きな手は優しくて、いつも目を細めてしまう。
ごろごろと喉をならすと、母がぎゅっと抱きしめてくれた。
「本当にいい子。大好きよ、シラタマ」
「あたしも母ちゃんと父ちゃん、大好き!」
唐突に始まる大好きの告白だけど、シラタマはとっても幸せになれる。
本当に、2人の子どもになれて、よかったって思う瞬間だ。
ゆっくりと朝食を食べてから出かける少し前、父に呼び止められた。
こっそり店舗に連れていかれる。
すると、昨日の残りのおはぎを4つ、父は笹の葉に包み出した。
「今日もキヌちゃんに会うんだろ?」
「うん!」
「2人でお食べ。母ちゃんには内緒な」
シラタマは次の返事を飲み込んだ。
母に見つかったら、お昼ご飯が食べられないとゴニョゴニョ言われるのは間違いないからだ。
シラタマは天天小豆の入った袋にそっと入れ、父に手を振る。
「行ってきます。上手にあらってくるからね!」
もしかすると、キヌちゃんはすでに来ているかもしれない。
おやつにおはぎがあるよ!
きっとこれを聞いたら、キヌちゃんはおおはしゃぎで作業をするに決まってる。
いつもの場所に着いたシラタマだが、キヌちゃんの姿はなかった。
辺りを探してみたけど、大切に干していた布は片付けられ、染める道具も薬品も、たくさん悩んで考えて書き込んでいたデザイン集もない。
もう布が完成したのかとも思ったが、
『あと、3日で完成よ、シラタマちゃん。楽しみね!』
その言葉を思い出す。
「……キヌちゃん、どうしたのかな。もう少ししたら、くるかな……」
天天小豆はこぶりのザルにいれて研いでいく。
皮が柔らかいため、力加減がとても難しい。
一度水に浸し、そっと肉球を当てていく。
しゃり。しゃり。しゃり。
しゃり。しゃり。じゃり。
じゃり。しゃり。しゃり。
ていねいに、優しく優しく洗っていたら、もうお日様も真上にいる。
でも、キヌちゃんは来なかった。
1
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜
yolu
児童書・童話
凌(りょう)が住む帝天(だいてん)町には、古くからの言い伝えがある。
『黄昏刻のつむじ風に巻かれると呪われる』────
小学6年の凌にとって、中学2年の兄・新(あらた)はかっこいいヒーロー。
凌は霊感が強いことで、幽霊がはっきり見えてしまう。
そのたびに涙が滲んで足がすくむのに、兄は勇敢に守ってくれるからだ。
そんな兄と野球観戦した帰り道、噂のつむじ風が2人を覆う。
ただの噂と思っていたのに、風は兄の右足に黒い手となって絡みついた。
言い伝えを調べると、それは1週間後に死ぬ呪い──
凌は兄を救うべく、図書室の司書の先生から教わったおまじないで、鬼を召喚!
見た目は同い年の少年だが、年齢は自称170歳だという。
彼とのちぐはぐな学校生活を送りながら、呪いの正体を調べていると、同じクラスの蜜花(みつか)の姉・百合花(ゆりか)にも呪いにかかり……
凌と、鬼の冴鬼、そして密花の、年齢差158歳の3人で呪いに立ち向かう──!
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
蒸気都市『碧霞傀儡技師高等学園』潜入調査報告書
yolu
児童書・童話
【スチパン×スパイ】
彼女の物語は、いつも“絶望”から始まる──
今年16歳となるコードネーム・梟(きょう)は、蒸気国家・倭国が設立した秘匿組織・朧月会からの任務により、蒸気国家・倭国の最上級高校である、碧霞(あおがすみ)蒸気技巧高等学園の1年生として潜入する。
しかし、彼女が得意とする話術を用いれば容易に任務などクリアできるが、一つの出来事から声を失った梟は、どう任務をクリアしていくのか──
──絶望すら武器にする、彼女の物語をご覧ください。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
ビワ湖の底からこんにちわ
あとくルリ介
児童書・童話
遠い未来の世界で、お爺さんと孫娘、学校の友達や先生が活躍するコメディです。
地獄でエンマ大王に怒られたり、吸血鬼に吸われたり、幽霊船で嵐の島を目指したりします。終盤、いろんなことを伏線的に回収します。
(ジャンル選択で男性向け女性向けを選ばなければならなかったのですが、どっち向けとかないです。しいて言えば高学年向け?)
がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ
三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』
――それは、ちょっと変わった不思議なお店。
おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。
ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。
お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。
そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。
彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎
いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。
ドラゴンテールドリーマーは現在メンテナンス中です
弓屋 晶都
児童書・童話
『友達って、なんだろう……』14歳がゲームと現実を行き来する幻想成長譚。
こんなご時世で、学校の友達と遊ぶ場所もスマホゲームの中になりがちな今日この頃。
中学二年生の『花坂みさき』はデータのダウンロード中に寝落ちて、
チュートリアルを終えたばかりのMMORPGアプリの世界に入り込んでしまう。
現実世界では窮屈な女子グループの中で自分を見失いつつあったみさきが、
ゲームの中で可愛いペットや新たな友達と出会い、自分を変えたいと願い始める。
しかし、そんなゲーム世界にもウイルスの脅威が迫り……。
ファンタジックなゲーム世界と現実世界が、夢の中で交差する。
魔法とドラゴンの炎舞う、七色に輝く大龍のエンディング。
現代に生きる少年少女の、優しい成長物語です。
※こちらは、小学校高学年から中学生を読者に想定した内容となっています。
難しめの漢字は開き気味です。
子ども達の知っている単語には説明が出ません。
逆に大人は普通に知っているような単語に説明が入ることもあります。
(2022ポプラキミノベル小説大賞最終候補作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる