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第2話 死神とカフェ
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カフェの名前は、KAEDE。
漆喰壁に筆記体風に綴られた鉄の文字がとてもオシャレだ。
白い漆喰と赤レンガが、虫食いのように壁を結んでいて、レトロな雰囲気がある。
「早く早く!」
梶くんに急かされ、カフェへと押し込まれるも、梶くんは手早く白いドアを閉めた。
「はぁ? あんた、学校は?」
カウンターの奥から、黒いショートヘアをかきあげ、女性が現れた。
スラリと美人で、背が高い。
白シャツにジーンズ姿で、エプロンを腰に回しつつ、
「早く行きな、学校!」
「姉貴、匿って! まじヤバいの出たんだって!!」
何言ってんの。と怒鳴りかけた女性は、僕の顔を見て動きを止める。
僕は一応、「おはようございます」と小さく頭をさげると、一瞬考えて、
「……そこのテーブル席、座って」
優しい笑顔でいわれたので、僕は素直に従うことに。
だけど、僕の背後は騒がしい。
『おしゃれで可愛いお店だね! あそこのシャンデリア、かわいいー! 見て、あそこの時計、レトロでよくない?』
僕の後ろの死神少女は、楽しそうに店内を見回している。
でも、泳ぐように店内を動き回る彼女が熱帯魚みたいで、キレイだなと思ってしまう。
『見て! このクッション、猫ちゃん型だよ。かわいー! でもめっちゃリアルー』
僕はマフラーを外しながら、その席に腰をおろした。
写真の猫を模ったクッションは、そこに猫が座っているように錯覚させる。
死神少女はふわふわと僕の隣で浮きながら、
『あたし、こんなカフェ来たかったんだー……』
色白の頬を赤らめ、心底嬉しそうに微笑んでいる。
テーブルをはさんで僕の向かいにどたんと腰をおろした梶くんだけど、落ち着きがぜんぜん戻らない。
学ランの中のカーディガンの袖を伸ばしてみたり、縮めてみたり、少しくすんだ淡い髪を指で結ったりとせわしない。
「あ、あの、その……」
僕の声にかぶせるように、
「佐伯さ、幽霊とか、信じるタイプ?」
唐突な問いに、僕の頭の中は疑問符に。
そんな僕を察してか、梶くんが姉貴と呼んだ店員さんが水を置いてくれた。
「大河、あんたバカ? いきなり言って信じる人いるわけないでしょ? ……てかさ、こんな真面目な子とあんた友だちなわけないよね? 君も、うちの弟になんかカツアゲとかされてない? それ、犯罪なんだよ? よし、お姉さんと警察に行こう! ね!」
いきなり腕をつかまれ、僕の腰が浮く。
それに梶くんが慌てて間に入ってくる。
「姉貴、んなことしないって言ってんだろ? たしかにチャラくてサボるけど、犯罪はしてないってっ!」
こんなときにも後ろの彼女はマイペースだ。
海のブイみたいにプカプカしながら、メニュー表を指さした。
『ねぇ、ゆきちゃん、あたし、ココア飲みたい』
「……え? 僕の名前……」
『佐伯 裕貴でしょ? あたし死神だもん、名前ぐらい知ってるし。あたしはヴィオラ。ヴィオって呼んで。ね、ゆきちゃん、ココア飲みたい』
「ゆきちゃんって……というか、ココアって……飲めるの? 死神なのに?」
彼女と会話を進めていると、向かいの姉弟の目が点になっている。
「佐伯、誰と話してんの……?」
「え? 隣の、……死神? 見えない? 幽霊じゃないの!?」
僕が彼女に指をさすと、彼女は楽しそうに笑って手を振って挨拶している。
なのに「幽霊を信じるタイプ?」と言い出した梶君が、半信半疑の顔つきだ。
「……ちょ、オレ、一度整理させて……さっきの事故現場で見たの、アレ、なに!?」
梶君が話してくれたことは、こうだ───
「グロテスクなヤツがいるんだよ。顔が20個ぐらい? 固まってついてるような感じのヤツ。そいつがにゅるって車から出てきたの。で、オレ、霊感、ばりばりあんの。そのグロいヤツって、事故現場とか、自殺の多いマンションとかにいるから、てっきりそいつが死神だと思ってて……でも、佐伯の隣に、死神、いるんだもんな?」
「うん。見た目は僕らとかわらないぐらいの女の子だよ。黒いローブ着て、背中には大きな鎌をしょってて、紫色のドレス着てる。髪の毛は金髪。フランス人形みたいでかわいいよ。死神じゃないみたい」
紹介をした僕をヴィオは嬉しそうに笑顔を浮かべて覗き込んでくる。
青い瞳は大きく、金色のゆるい癖っ毛が笑顔にかかった。
それを耳にかけ直しながら、彼女は自慢げに桃色の唇を開く。
『そのグロいの、ファントムだと思うんだな。人間の負の心が具現化した塊』
「あ、彼女が言うには、君が見たの、ファントムって名前だって」
『ファントムは人の背中に憑いて移動して、死神が憑いている人間を襲うの。引っ掻いて、死の呪いをかけちゃうんだよ。おっかないよねぇ。だからゆきちゃん、狙われちゃったんだけど』
彼女は指を立てて自身ありげに伝えてくる。
でもこれを僕が説明するのか……。
「えっと、ファントムって、人の背中に憑いて移動して、それに引っ掻かれると死ぬんだって。で、僕みたいな人間を襲うらしいよ」
梶君は、僕が左を見て、前を向いてを繰り返す様に、ふぅん。と返事をするものの、少しダルそうにテーブルに肘をついた。
「オレが死神見えないって、なんかショック。幽霊と会話もできるぐらいなのにさぁ」
残念そうに梶君がテーブルに寝そべった。
身長が高いだけあって、指も長い。その伸びた指先をヴィオは見つめてボソリと呟く。
『霊感あるって言うし、もしかしたらいけるかな……』
試すように彼女は細い腕を伸ばすと、色白の小さな手を梶君の手に重ねた。
そして、囁き声で喋りだす。
『……今、……あなたの脳内に、……直接、……話しかけています……』
「……ふぇ? え? なに、なに? こいつ、直接脳内に……!」
『あたしはヴィオラ……ヴィオって呼んで……そして、ココアを、ちょうだい……』
「ココア、だと……! あ、佐伯、何飲む?」
僕は紅茶が欲しいと伝えてみた。
漆喰壁に筆記体風に綴られた鉄の文字がとてもオシャレだ。
白い漆喰と赤レンガが、虫食いのように壁を結んでいて、レトロな雰囲気がある。
「早く早く!」
梶くんに急かされ、カフェへと押し込まれるも、梶くんは手早く白いドアを閉めた。
「はぁ? あんた、学校は?」
カウンターの奥から、黒いショートヘアをかきあげ、女性が現れた。
スラリと美人で、背が高い。
白シャツにジーンズ姿で、エプロンを腰に回しつつ、
「早く行きな、学校!」
「姉貴、匿って! まじヤバいの出たんだって!!」
何言ってんの。と怒鳴りかけた女性は、僕の顔を見て動きを止める。
僕は一応、「おはようございます」と小さく頭をさげると、一瞬考えて、
「……そこのテーブル席、座って」
優しい笑顔でいわれたので、僕は素直に従うことに。
だけど、僕の背後は騒がしい。
『おしゃれで可愛いお店だね! あそこのシャンデリア、かわいいー! 見て、あそこの時計、レトロでよくない?』
僕の後ろの死神少女は、楽しそうに店内を見回している。
でも、泳ぐように店内を動き回る彼女が熱帯魚みたいで、キレイだなと思ってしまう。
『見て! このクッション、猫ちゃん型だよ。かわいー! でもめっちゃリアルー』
僕はマフラーを外しながら、その席に腰をおろした。
写真の猫を模ったクッションは、そこに猫が座っているように錯覚させる。
死神少女はふわふわと僕の隣で浮きながら、
『あたし、こんなカフェ来たかったんだー……』
色白の頬を赤らめ、心底嬉しそうに微笑んでいる。
テーブルをはさんで僕の向かいにどたんと腰をおろした梶くんだけど、落ち着きがぜんぜん戻らない。
学ランの中のカーディガンの袖を伸ばしてみたり、縮めてみたり、少しくすんだ淡い髪を指で結ったりとせわしない。
「あ、あの、その……」
僕の声にかぶせるように、
「佐伯さ、幽霊とか、信じるタイプ?」
唐突な問いに、僕の頭の中は疑問符に。
そんな僕を察してか、梶くんが姉貴と呼んだ店員さんが水を置いてくれた。
「大河、あんたバカ? いきなり言って信じる人いるわけないでしょ? ……てかさ、こんな真面目な子とあんた友だちなわけないよね? 君も、うちの弟になんかカツアゲとかされてない? それ、犯罪なんだよ? よし、お姉さんと警察に行こう! ね!」
いきなり腕をつかまれ、僕の腰が浮く。
それに梶くんが慌てて間に入ってくる。
「姉貴、んなことしないって言ってんだろ? たしかにチャラくてサボるけど、犯罪はしてないってっ!」
こんなときにも後ろの彼女はマイペースだ。
海のブイみたいにプカプカしながら、メニュー表を指さした。
『ねぇ、ゆきちゃん、あたし、ココア飲みたい』
「……え? 僕の名前……」
『佐伯 裕貴でしょ? あたし死神だもん、名前ぐらい知ってるし。あたしはヴィオラ。ヴィオって呼んで。ね、ゆきちゃん、ココア飲みたい』
「ゆきちゃんって……というか、ココアって……飲めるの? 死神なのに?」
彼女と会話を進めていると、向かいの姉弟の目が点になっている。
「佐伯、誰と話してんの……?」
「え? 隣の、……死神? 見えない? 幽霊じゃないの!?」
僕が彼女に指をさすと、彼女は楽しそうに笑って手を振って挨拶している。
なのに「幽霊を信じるタイプ?」と言い出した梶君が、半信半疑の顔つきだ。
「……ちょ、オレ、一度整理させて……さっきの事故現場で見たの、アレ、なに!?」
梶君が話してくれたことは、こうだ───
「グロテスクなヤツがいるんだよ。顔が20個ぐらい? 固まってついてるような感じのヤツ。そいつがにゅるって車から出てきたの。で、オレ、霊感、ばりばりあんの。そのグロいヤツって、事故現場とか、自殺の多いマンションとかにいるから、てっきりそいつが死神だと思ってて……でも、佐伯の隣に、死神、いるんだもんな?」
「うん。見た目は僕らとかわらないぐらいの女の子だよ。黒いローブ着て、背中には大きな鎌をしょってて、紫色のドレス着てる。髪の毛は金髪。フランス人形みたいでかわいいよ。死神じゃないみたい」
紹介をした僕をヴィオは嬉しそうに笑顔を浮かべて覗き込んでくる。
青い瞳は大きく、金色のゆるい癖っ毛が笑顔にかかった。
それを耳にかけ直しながら、彼女は自慢げに桃色の唇を開く。
『そのグロいの、ファントムだと思うんだな。人間の負の心が具現化した塊』
「あ、彼女が言うには、君が見たの、ファントムって名前だって」
『ファントムは人の背中に憑いて移動して、死神が憑いている人間を襲うの。引っ掻いて、死の呪いをかけちゃうんだよ。おっかないよねぇ。だからゆきちゃん、狙われちゃったんだけど』
彼女は指を立てて自身ありげに伝えてくる。
でもこれを僕が説明するのか……。
「えっと、ファントムって、人の背中に憑いて移動して、それに引っ掻かれると死ぬんだって。で、僕みたいな人間を襲うらしいよ」
梶君は、僕が左を見て、前を向いてを繰り返す様に、ふぅん。と返事をするものの、少しダルそうにテーブルに肘をついた。
「オレが死神見えないって、なんかショック。幽霊と会話もできるぐらいなのにさぁ」
残念そうに梶君がテーブルに寝そべった。
身長が高いだけあって、指も長い。その伸びた指先をヴィオは見つめてボソリと呟く。
『霊感あるって言うし、もしかしたらいけるかな……』
試すように彼女は細い腕を伸ばすと、色白の小さな手を梶君の手に重ねた。
そして、囁き声で喋りだす。
『……今、……あなたの脳内に、……直接、……話しかけています……』
「……ふぇ? え? なに、なに? こいつ、直接脳内に……!」
『あたしはヴィオラ……ヴィオって呼んで……そして、ココアを、ちょうだい……』
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