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弱虫。泣き虫。
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「もう、帰ろう。帰って寝よう」
投げやりになってボソッと呟けば、ジュークボックスから流れる『恋に落ちれば』がその声をかき消した。
「恋に落ちれば、きっと変わってくれるの。
恋に落ちれば、きっと良くなる、
その悪い癖だって、愛おしくなるって信じてた」
恋に恋した、まだ精神的に幼い女性が、幻想から目覚めるまでを繊細に歌ったバラードだ。
「きっと、私が何か変わらなくちゃ、
いつになるかは分からないけれど、変わろうと思えばそこから私が始まる」
最後にそっと寄り添う優しさがこの曲をただの皮肉から、すべての人への応援歌に変えたのだ。
亜美の隣にはいつのまにか圭がいた。
最後のサビに向け、緊張が高まってゆく。
「愛しているから、だから忘れよう。
恋に落ちれば、苦しいけれど
愛されたいなら、私を愛してあげよう」
二人で熱唱する。
曲が終わって、気まずくなるのは容易に想像できた。
圭が耳元で囁く。
「抜け出さないか」
私は微笑み返すとゆったりとした気持ちでカフェテリアを後にした。
私は私を愛せばいいだけ、
私が他人から愛されなくても
私が私を愛しているのだ。
最後のフレーズがゆっくりと遠くなってゆく。
「ゴールドパールレイクからサンセット見ようよ」
ゴールドパールは人工湖で農業のために整備された大きな湖だ。
海のようなその広さと、その特徴的な名前から
『ゴールドコースト』とも呼ばれていた。
故郷を偲ぶ若者がゴールドコーストから電話をかけることは珍しくないそうだ。
ベンチに腰掛ける。
圭が持ってきたボトルの水を一本貰う。
さりげない優しさが嬉しいのだ。
この星は地球のように太陽の周りを回ってはいない。
だから、朝昼晩なんて表現は通用せず、空に映し出される映像で自律神経をコントロールするシステムが採用されていた。
当然時差は無く、リアルタイムでこの国が活動している。
「私、浮気されて職場恋愛だったから居づらくて転職したんだ。
このプロジェクトが終わったら行く当てもないし、だから、この期間中に成果出さなきゃなってプレッシャーもあるんだ」
何故圭に弱音を吐けているか分からなかった。
アルコールのせいもあるかもしれない。
圭はずっと黙って夕日を眺めていて、
そっとハンカチを渡すと
また夕日を眺めた。
「僕も———」
投げやりになってボソッと呟けば、ジュークボックスから流れる『恋に落ちれば』がその声をかき消した。
「恋に落ちれば、きっと変わってくれるの。
恋に落ちれば、きっと良くなる、
その悪い癖だって、愛おしくなるって信じてた」
恋に恋した、まだ精神的に幼い女性が、幻想から目覚めるまでを繊細に歌ったバラードだ。
「きっと、私が何か変わらなくちゃ、
いつになるかは分からないけれど、変わろうと思えばそこから私が始まる」
最後にそっと寄り添う優しさがこの曲をただの皮肉から、すべての人への応援歌に変えたのだ。
亜美の隣にはいつのまにか圭がいた。
最後のサビに向け、緊張が高まってゆく。
「愛しているから、だから忘れよう。
恋に落ちれば、苦しいけれど
愛されたいなら、私を愛してあげよう」
二人で熱唱する。
曲が終わって、気まずくなるのは容易に想像できた。
圭が耳元で囁く。
「抜け出さないか」
私は微笑み返すとゆったりとした気持ちでカフェテリアを後にした。
私は私を愛せばいいだけ、
私が他人から愛されなくても
私が私を愛しているのだ。
最後のフレーズがゆっくりと遠くなってゆく。
「ゴールドパールレイクからサンセット見ようよ」
ゴールドパールは人工湖で農業のために整備された大きな湖だ。
海のようなその広さと、その特徴的な名前から
『ゴールドコースト』とも呼ばれていた。
故郷を偲ぶ若者がゴールドコーストから電話をかけることは珍しくないそうだ。
ベンチに腰掛ける。
圭が持ってきたボトルの水を一本貰う。
さりげない優しさが嬉しいのだ。
この星は地球のように太陽の周りを回ってはいない。
だから、朝昼晩なんて表現は通用せず、空に映し出される映像で自律神経をコントロールするシステムが採用されていた。
当然時差は無く、リアルタイムでこの国が活動している。
「私、浮気されて職場恋愛だったから居づらくて転職したんだ。
このプロジェクトが終わったら行く当てもないし、だから、この期間中に成果出さなきゃなってプレッシャーもあるんだ」
何故圭に弱音を吐けているか分からなかった。
アルコールのせいもあるかもしれない。
圭はずっと黙って夕日を眺めていて、
そっとハンカチを渡すと
また夕日を眺めた。
「僕も———」
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