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6、それでは、街歩きと参りましょう

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「レイ!」
パタパタと軽い足音を立て、少女は従者の青年が待つ裏門の前へ駆け寄っていく。そうして、無邪気にその胸に飛び込まんとした。レイはその姿を見ると、少し驚いたように目を見開いて、それから片手で少女を制した。

「こら」
「!」
「はしたないですよ、マリア様」
口元に人差し指を当て少しばかり膝を折り、少年は自らの主人を注意する。しかしその瞳には、隠しきれない愛情と幸福感が満ち満ちていた。
マリアは注意を受け、素直にぱっと立ち止まり、恥ずかしそうに顔の前へ掌を広げてみせた。
「あ……そうですわよね。わたくしとしたことが、少しはしゃいでしまいましたわ。ごめんなさいまし」
「ふふ、お気持ちはわかりますとも。マリア様には聞きたいこともございましょうし、この一帯はオートクチュール領では見られないような商売も盛んですから。しかし、それはそれとして」
レイははにかんで首を傾げた。ふと館に目を向けると、眉を下げて、どことなく照れ臭そうに笑った。そうしていれば堅苦しいお仕着せのモーニング他、ただの年頃の少年のようだ。物珍しく、好感の持てる姿だ。マリアは後ろ手に手を組んで、やはり普段よりも軽い、同い年の、同じ身分の友人と遊ぶ時をイメージする。……もっとも、マリア自身はそのような経験を物語や歌劇の中で知るのみであり、今も、前世も、したことはないのだが。
レイがゆっくり口を開いた。
「……エスコート役は私めで、本当に宜しいのですか?」

勿体ぶった割に、その中身は存外平凡で拍子抜けするようなものである。思わず少女らしく首をかしげた。
「まあ。随分と今更ではなくて?」
「いえ。こちらにはランドルフ様もいらっしゃいますし。私が此処に訪れたのも、遥か昔に一度のみです。常のように、ご満足頂ける案内が出来るか否か……」
「なんだ。そんなこと?」
相変わらず変なところばかり気にしいな自身の執事を眺め、くすりと口元に手をあてて微笑む。見た目とは違ってなんとも細やかというか、おかしなところばかりを気にかけるのが得意なひとね。マリアはレイに向き直り、親愛なる執事へお返しとばかりに、唇の前に人差し指を立てた。

「瑣末なことを気にしなくっていいのよ。だって、わたくしが貴方と回りたいだけなんですもの、レイ!」
「!……はは。それは失礼致しました。無粋な事を。では、この不肖レイが、一晩お供いたしましょう」
「ええ!」
楽しげにマリアが胸の前で手を合わせた。軽い音が響いて、周囲の空気が温かになる。空には綺麗な夕日が刺していた。海辺のコントラストと相俟って見えるオレンジ色はノスタルジーで、たのしくて、やさしい香りがする。
レイは珍しく、主人の後ろではなく、隣を歩いた。
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