上 下
12 / 20

4、新たなステージに向かいましょう①

しおりを挟む
「──で?男連れで我が離宮に乗り込んできた、と?」
「ええ。そうなりますわね」
「3年ぶりに会う婚約者となる俺に対する当て付けかそれは……」
「?」
珍しいことに、自らの足でマリアを出迎えたランドルフは、早々に眉を顰める結果となった。彼自身昔から破天荒なこの少女には振り回されてばかりだが、歳を重ねてもなおその突飛な発想と行動力は昔と何ら変わらないらしい。まあ、それも美点のひとつか、と、15となった彼は静かに溜息を着く。
「ということで、これからお世話になります。ランドルフ殿下」
「誰が貴様まで世話すると言った下男!!」

所変わって、クロステル帝国南部。オートクチュール領からおおよそ2時間弱程の馬車旅の末辿り着いたそこは、海風が心地よく吹き付ける美しい土地であった。城内の窓の外からは広々とした海が見え、常夏の愉快な花が咲き、まるであのランドルフを育んだ土地とは思えないほど穏やかである。

あの書面が届いてから、3年。約束の期日ぎりぎりに離宮へと滑り込んだマリアは既に10歳となっていた。
7つの時から飛び抜けて美しい少女であったが、10歳ともなれば、美しさ、可愛らしさの中に仄かな色気も香り出す。年頃の乙女となった彼女は誇張ではなく、帝都一と言われてもおかしくないほどの才媛と化していた。
「にしても、なんというか……貴方は本当にここで暮らしていたんですの?」
「失礼な事を考えているな貴様。まあ、今更構いもせんが。俺は王宮に居た時間よりこちらに居る時間の方が余程長い。叔父上が治めている土地だが、ただ……この日和見主義な風土はどうにも肌に合わずに困る」
「ええ。失礼ながら殿下はてっきり北部にある鋼鉄の要塞……のような所に住んでいるものだと」
「マリア様」
「其方の方が寧ろ良かった。北部であれば帝都にも近いしな」
はあ、とまたもや溜息をつきながら、ランドルフは出会った頃よりもフランクにぼやく。嫌い嫌いと言えどやはり故郷である故だろうかと思ったが、特に言及はしないでやり過ごすこととした。
「まあ、良い。貴様が此処に暮らすとなれば名目きって俺とオートクチュール家の婚約関係は認められるだろう。我が叔父は古風な者でな、女が家に入るのは常識と疑わない。貴様が軍家の娘であると分かっているのか否か知らんが……長旅、ご苦労であった。部屋へ案内させる。荷物を置いて来い。揃って挨拶に向かうぞ」
「ええ。ありがとうございます」
「ああそれと下男。貴様の部屋は見繕っていない。……仕様が無い。我が世話係と同室で良いか」
「構いません。押しかけたのは私ですから。ただ……部屋やら職務やらの希望はひとつとしてございませんが、後で調理室を見学させて頂けませんか」
後生です、と目を伏せるレイ。ランドルフは片眉を上げてそれを聞き届けると、
「料理の心得が?まあ、構わないだろう。給仕長に伝えておく」
と、ぶっきらぼうに告げた。心象は良くないといえど、だからといって別段なにやら拘束したりといったつもりは無いのだろう。その程度には彼は大人であるらしい。
「ありがたき幸せ」
流れるように跪いたレイを見つめて、マリアは内心ほっと胸を撫で下ろす。あれだけ言い募ったとはいえ、殿下の機嫌によってはレイのみ追い返される可能性も考えていたのだ。
「……なんだじろじろと。据わりが悪い」
「いえ。殿下、なんだか大人びましたわね。背が伸びたのも勿論ですけれど」
「はあ?」
「丸くなられた、というのかしら。出会った頃はもっとこう、近寄り難いような感じでしたでしょう」
「近寄り難いだと?良く言う。ずけずけと王族に皮肉を言うようなお転婆砂塵女が。貴様こそ多少常識を学んで落ち着いたのではないか」
「まあ酷い。わたくしがそれほど不躾な女に見えますこと?」
「どの口が言うか、たわけ」
ふ、と、ランドルフの口元に笑みが浮かぶ。
「……本当に、良く参った」
その言葉を聞いたマリアは初めて会った時のように、黒衣のスカートを摘んで膝を折り、美しい礼を披露した。その横で、レイも最敬礼の姿勢をとる。
「ええ、殿下。たいへんお待たせ致しました」

……こうして、マリア・オートクチュールはランドルフの離宮へ世話になることになったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。 貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。 そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい? あんまり内容覚えてないけど… 悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった! さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドを堪能してくださいませ? ******************** 初投稿です。 転生侍女シリーズ第一弾。 短編全4話で、投稿予約済みです。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

処理中です...