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4、新たなステージに向かいましょう①
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「──で?男連れで我が離宮に乗り込んできた、と?」
「ええ。そうなりますわね」
「3年ぶりに会う婚約者となる俺に対する当て付けかそれは……」
「?」
珍しいことに、自らの足でマリアを出迎えたランドルフは、早々に眉を顰める結果となった。彼自身昔から破天荒なこの少女には振り回されてばかりだが、歳を重ねてもなおその突飛な発想と行動力は昔と何ら変わらないらしい。まあ、それも美点のひとつか、と、15となった彼は静かに溜息を着く。
「ということで、これからお世話になります。ランドルフ殿下」
「誰が貴様まで世話すると言った下男!!」
所変わって、クロステル帝国南部。オートクチュール領からおおよそ2時間弱程の馬車旅の末辿り着いたそこは、海風が心地よく吹き付ける美しい土地であった。城内の窓の外からは広々とした海が見え、常夏の愉快な花が咲き、まるであのランドルフを育んだ土地とは思えないほど穏やかである。
あの書面が届いてから、3年。約束の期日ぎりぎりに離宮へと滑り込んだマリアは既に10歳となっていた。
7つの時から飛び抜けて美しい少女であったが、10歳ともなれば、美しさ、可愛らしさの中に仄かな色気も香り出す。年頃の乙女となった彼女は誇張ではなく、帝都一と言われてもおかしくないほどの才媛と化していた。
「にしても、なんというか……貴方は本当にここで暮らしていたんですの?」
「失礼な事を考えているな貴様。まあ、今更構いもせんが。俺は王宮に居た時間よりこちらに居る時間の方が余程長い。叔父上が治めている土地だが、ただ……この日和見主義な風土はどうにも肌に合わずに困る」
「ええ。失礼ながら殿下はてっきり北部にある鋼鉄の要塞……のような所に住んでいるものだと」
「マリア様」
「其方の方が寧ろ良かった。北部であれば帝都にも近いしな」
はあ、とまたもや溜息をつきながら、ランドルフは出会った頃よりもフランクにぼやく。嫌い嫌いと言えどやはり故郷である故だろうかと思ったが、特に言及はしないでやり過ごすこととした。
「まあ、良い。貴様が此処に暮らすとなれば名目きって俺とオートクチュール家の婚約関係は認められるだろう。我が叔父は古風な者でな、女が家に入るのは常識と疑わない。貴様が軍家の娘であると分かっているのか否か知らんが……長旅、ご苦労であった。部屋へ案内させる。荷物を置いて来い。揃って挨拶に向かうぞ」
「ええ。ありがとうございます」
「ああそれと下男。貴様の部屋は見繕っていない。……仕様が無い。我が世話係と同室で良いか」
「構いません。押しかけたのは私ですから。ただ……部屋やら職務やらの希望はひとつとしてございませんが、後で調理室を見学させて頂けませんか」
後生です、と目を伏せるレイ。ランドルフは片眉を上げてそれを聞き届けると、
「料理の心得が?まあ、構わないだろう。給仕長に伝えておく」
と、ぶっきらぼうに告げた。心象は良くないといえど、だからといって別段なにやら拘束したりといったつもりは無いのだろう。その程度には彼は大人であるらしい。
「ありがたき幸せ」
流れるように跪いたレイを見つめて、マリアは内心ほっと胸を撫で下ろす。あれだけ言い募ったとはいえ、殿下の機嫌によってはレイのみ追い返される可能性も考えていたのだ。
「……なんだじろじろと。据わりが悪い」
「いえ。殿下、なんだか大人びましたわね。背が伸びたのも勿論ですけれど」
「はあ?」
「丸くなられた、というのかしら。出会った頃はもっとこう、近寄り難いような感じでしたでしょう」
「近寄り難いだと?良く言う。ずけずけと王族に皮肉を言うようなお転婆砂塵女が。貴様こそ多少常識を学んで落ち着いたのではないか」
「まあ酷い。わたくしがそれほど不躾な女に見えますこと?」
「どの口が言うか、たわけ」
ふ、と、ランドルフの口元に笑みが浮かぶ。
「……本当に、良く参った」
その言葉を聞いたマリアは初めて会った時のように、黒衣のスカートを摘んで膝を折り、美しい礼を披露した。その横で、レイも最敬礼の姿勢をとる。
「ええ、殿下。たいへんお待たせ致しました」
……こうして、マリア・オートクチュールはランドルフの離宮へ世話になることになったのである。
「ええ。そうなりますわね」
「3年ぶりに会う婚約者となる俺に対する当て付けかそれは……」
「?」
珍しいことに、自らの足でマリアを出迎えたランドルフは、早々に眉を顰める結果となった。彼自身昔から破天荒なこの少女には振り回されてばかりだが、歳を重ねてもなおその突飛な発想と行動力は昔と何ら変わらないらしい。まあ、それも美点のひとつか、と、15となった彼は静かに溜息を着く。
「ということで、これからお世話になります。ランドルフ殿下」
「誰が貴様まで世話すると言った下男!!」
所変わって、クロステル帝国南部。オートクチュール領からおおよそ2時間弱程の馬車旅の末辿り着いたそこは、海風が心地よく吹き付ける美しい土地であった。城内の窓の外からは広々とした海が見え、常夏の愉快な花が咲き、まるであのランドルフを育んだ土地とは思えないほど穏やかである。
あの書面が届いてから、3年。約束の期日ぎりぎりに離宮へと滑り込んだマリアは既に10歳となっていた。
7つの時から飛び抜けて美しい少女であったが、10歳ともなれば、美しさ、可愛らしさの中に仄かな色気も香り出す。年頃の乙女となった彼女は誇張ではなく、帝都一と言われてもおかしくないほどの才媛と化していた。
「にしても、なんというか……貴方は本当にここで暮らしていたんですの?」
「失礼な事を考えているな貴様。まあ、今更構いもせんが。俺は王宮に居た時間よりこちらに居る時間の方が余程長い。叔父上が治めている土地だが、ただ……この日和見主義な風土はどうにも肌に合わずに困る」
「ええ。失礼ながら殿下はてっきり北部にある鋼鉄の要塞……のような所に住んでいるものだと」
「マリア様」
「其方の方が寧ろ良かった。北部であれば帝都にも近いしな」
はあ、とまたもや溜息をつきながら、ランドルフは出会った頃よりもフランクにぼやく。嫌い嫌いと言えどやはり故郷である故だろうかと思ったが、特に言及はしないでやり過ごすこととした。
「まあ、良い。貴様が此処に暮らすとなれば名目きって俺とオートクチュール家の婚約関係は認められるだろう。我が叔父は古風な者でな、女が家に入るのは常識と疑わない。貴様が軍家の娘であると分かっているのか否か知らんが……長旅、ご苦労であった。部屋へ案内させる。荷物を置いて来い。揃って挨拶に向かうぞ」
「ええ。ありがとうございます」
「ああそれと下男。貴様の部屋は見繕っていない。……仕様が無い。我が世話係と同室で良いか」
「構いません。押しかけたのは私ですから。ただ……部屋やら職務やらの希望はひとつとしてございませんが、後で調理室を見学させて頂けませんか」
後生です、と目を伏せるレイ。ランドルフは片眉を上げてそれを聞き届けると、
「料理の心得が?まあ、構わないだろう。給仕長に伝えておく」
と、ぶっきらぼうに告げた。心象は良くないといえど、だからといって別段なにやら拘束したりといったつもりは無いのだろう。その程度には彼は大人であるらしい。
「ありがたき幸せ」
流れるように跪いたレイを見つめて、マリアは内心ほっと胸を撫で下ろす。あれだけ言い募ったとはいえ、殿下の機嫌によってはレイのみ追い返される可能性も考えていたのだ。
「……なんだじろじろと。据わりが悪い」
「いえ。殿下、なんだか大人びましたわね。背が伸びたのも勿論ですけれど」
「はあ?」
「丸くなられた、というのかしら。出会った頃はもっとこう、近寄り難いような感じでしたでしょう」
「近寄り難いだと?良く言う。ずけずけと王族に皮肉を言うようなお転婆砂塵女が。貴様こそ多少常識を学んで落ち着いたのではないか」
「まあ酷い。わたくしがそれほど不躾な女に見えますこと?」
「どの口が言うか、たわけ」
ふ、と、ランドルフの口元に笑みが浮かぶ。
「……本当に、良く参った」
その言葉を聞いたマリアは初めて会った時のように、黒衣のスカートを摘んで膝を折り、美しい礼を披露した。その横で、レイも最敬礼の姿勢をとる。
「ええ、殿下。たいへんお待たせ致しました」
……こうして、マリア・オートクチュールはランドルフの離宮へ世話になることになったのである。
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