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138 LB証券東京支店(2)

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 午後四時、山口はロンドンに電話した。

「ルパート。驚いた。売れたぜ」買った相手はどこかの外国人だと聞いた。

「……だろ?」

「今日び世の中はどうなっているんだ。おれたち隔絶されているのか」

「そういうこともあるさ」

 山口は隣の真紀子の方を見た。

「伊藤、こいつな、すげえ女ったらしで、殆どの女の客とできてるんだとさ」

 伊藤真紀子はヘッドホンをつけてアラン・キャンベルの写真を眺めながら電話していた。聞いちゃいねえ。

「マキ?」電話を取ると同時にアラン・キャンベルが真紀子の名を呼んだ。

「売れましたー!」

「ありがとう。クライアントも喜んでいる。僕も嬉しい」

「どういたしましてー」

「君のおかげだ。楽しい夜を。じゃあまた」

 真紀子は電話が切れてもまだスクリーンを眺めている。やれやれと山口は首を振った。



 そろそろ帰ろうかと思っていたら、山口の携帯が鳴った。非通知と出た。誰だろう。

「もしもし?」

「タック?」外人だ。

「そうです」英語になった。

「アラン・キャンベルだ。今日はありがとう。実は頼みがある」

 そもそもなんでプライベートの携帯をこいつが知っているんだ。初めて直接話す相手とはいえ、山口には言いたいことがあった。

「あのなあ、あんなプライス出されると、怪しい取引だって言われて当局に報告されるぞ。とばっちりはごめんだからな」

「報告されていないよな」

「今日はされてないが、次は断る」

「わかった」――なんだ、結構素直じゃん。

「で、頼みがあるんだが」

「なんだい」

「あのプライスで買った相手が誰かを知りたい」

 トレーダーから外国人だとは聞いている。しかしブローカーがどこかはわかるが、普通、客の名前までは……。

「すぐわかるかどうか」

「調べてくれ」

 カチンと来て、山口は押し黙った。なんでおまえに何かしろと言われなきゃならないんだ。すると相手が言い方を変えた。

「できれば調べてもらえると、とても助かるんだが。重要なんだ」

 英語に丁寧な言い回しがあるとすれば、今彼が言ったのはそれにあたる。

「まあ……訊いてみるよ」

「この携帯に連絡をくれ。何時でもかまわない」相手は44で始まる番号を言った。

 山口の問い合わせが知り合いから知り合いを回り、それが知り合いの知り合いを経てようやく戻ってきた。翌日の昼になっていた。ロンドンは夜中の三時。何時でもいいと言っていたので、山口はアラン・キャンベルが言っていた番号に携帯から電話した。

 ツー・コール目に返事があった。

「……タック?」少し声が擦れている。

「わかったか」

 外国人の名前を言った。個人だった。

「ちょっと待ってくれ」

 直後に何か物が落ちるような音が伝わってきた。イテエ……という声が聞こえたような気もする。

「どうかしたか」

「……ペンを取ろうとして……名前を言ってくれ」

 もう一度その外国人の名前を言った。

「スペルアウトしてくれ」発音が悪かったらしい。ロンドンL,大阪Oなどと言っていく。

「ありがとう。とても助かる」

「なんでこれが重要なんだ」

「……あとできっと話す。それまで時間をくれ」電話が切れた。
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