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136 これでは懲罰ものだ
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ワシントンはよく晴れていた。
合同捜査局鑑識のトビアスは、今年のイースター休暇こそは自分が休むと決意し、部下達の休暇申請をことごとく待たせていた。
その一人の女性職員は結婚のための休暇なので、トビアスが許可してくれないと新婚旅行のキャンセル料金が発生してしまう。そのことで婚約者の捜査官と先ほどからずっと携帯で話していた。
捜査官の男は、トニー・リナルディのチームの一員だった。
本当なら、近々ある証券会社に潜入する任務を与えられるところだったが、ちょうどロンドンの証券会社での任務を終えて帰国する同僚がいるので、実績からすればその男が最適だ――という幸運に恵まれてトニーに免除されたのだ。
「結婚は大事な事だからな」とは、組織犯罪対策課主任特別捜査官に休暇の許可をもらいに行った際に言われた言葉である。
だから彼は「ボス、ちょっとトビアスに言ってやってくれませんか」と頼んでみた。
おりしもトビアスが恋人のリンと携帯でイースター休みの計画について話しこんでいた時に、デスクの電話が鳴った。
ごめん、リン、仕事の電話だ、と言って携帯を切り「トビアス・オルセンです」と電話に出た。
「うちの部下が困ってるんだ」その声を聞いてトビアスの背中に緊張が走った。トニー・リナルディだ!
「な、なんのことで?」
「実は、お宅の部下と結婚するから休暇をやった奴がいるんだが、肝心の嫁さんの休暇が取れてない」
「え、それって……」トニーは部下達の名前を言った。
「ああそうか、わかったよ……」
「頼むぜ。ホークが任務完了で帰国するおかげであいつは次のミッションを免除されたんだ。めったにない幸運だろう?」
「ああ、まあね」トビアスは眼鏡を取って顔を拭った。それって、結婚式があっても潜入捜査に出されることがあるってことか? 自分の結婚でも? つまり、結婚を延期しろってか……。
電話を切ってからトニーは部下の男に「大丈夫だ」と言った。
「ありがとうございます!」
「で、ホークは何時に来るんだ?」
「予定では、もう着いている時間ですが」
トニーは眉を顰めた。
「便名は?」特にフライトが遅れたという情報もなかった。
「ボス」先ほどの部下が振り向いた。
「どういうわけか、出入国記録に名前がありません」
「フライトを間違えたのか」
「いいえ。予約は確かにチケットの便でしてありましたが、搭乗記録がありません」
「……」トニーは部下のPCの画面を見た。
「まさか、何かあったんじゃ……」
トニーはしばらくPCの画面を見つめたまま考えていた。最悪の場合を想定すれば、出国前に正体がばれて、敵に拉致された可能性がなくもない。
「携帯のGPSは?」最後に確認された場所はヒースロー空港だった。空港で襲われたのか?
「ボス、一つわかったことが」
「なんだ」
「向こうでホークが乗っていた車が売られたようです」
「なんだと?」それは捜査局の資産だ。いくら便宜上名義をアラン・キャンベルにしてあったからといって、勝手に売却していいはずがないことくらいホークは知っている。
じゃあ、何者かが盗んだのか?
「現在の持ち主は、ルパート・コワルスキー。オーストラリア国籍です。あれ、LB証券の社員ですよ」
「じゃあ、あいつが売ったんだ」トニーは安堵した。しかしまた別の心配をしなければならない。
車を売ったのは、現金がほしかったからだ。当座の手持ちとして。でも、何のためだ? いったいどこへ行ったんだ、ホーク?
全くよけいな世話をかけるやつだ。この不始末を、上にどう言いわけしろというんだ。言いわけなどできるはずがない。せっかく大きな仕事を成功裏に収めたと言うのに、これでは懲罰ものだ。
「その金額、やつの給料から引くように給与課に言っておけ」
「払いきれませんが」
「何か月かかってもいい!」
「あの、ボス、自分の休暇は……」
「保留だ」トニーの青い目が刃のような光を帯びた。
「文句はホークに言え」
合同捜査局鑑識のトビアスは、今年のイースター休暇こそは自分が休むと決意し、部下達の休暇申請をことごとく待たせていた。
その一人の女性職員は結婚のための休暇なので、トビアスが許可してくれないと新婚旅行のキャンセル料金が発生してしまう。そのことで婚約者の捜査官と先ほどからずっと携帯で話していた。
捜査官の男は、トニー・リナルディのチームの一員だった。
本当なら、近々ある証券会社に潜入する任務を与えられるところだったが、ちょうどロンドンの証券会社での任務を終えて帰国する同僚がいるので、実績からすればその男が最適だ――という幸運に恵まれてトニーに免除されたのだ。
「結婚は大事な事だからな」とは、組織犯罪対策課主任特別捜査官に休暇の許可をもらいに行った際に言われた言葉である。
だから彼は「ボス、ちょっとトビアスに言ってやってくれませんか」と頼んでみた。
おりしもトビアスが恋人のリンと携帯でイースター休みの計画について話しこんでいた時に、デスクの電話が鳴った。
ごめん、リン、仕事の電話だ、と言って携帯を切り「トビアス・オルセンです」と電話に出た。
「うちの部下が困ってるんだ」その声を聞いてトビアスの背中に緊張が走った。トニー・リナルディだ!
「な、なんのことで?」
「実は、お宅の部下と結婚するから休暇をやった奴がいるんだが、肝心の嫁さんの休暇が取れてない」
「え、それって……」トニーは部下達の名前を言った。
「ああそうか、わかったよ……」
「頼むぜ。ホークが任務完了で帰国するおかげであいつは次のミッションを免除されたんだ。めったにない幸運だろう?」
「ああ、まあね」トビアスは眼鏡を取って顔を拭った。それって、結婚式があっても潜入捜査に出されることがあるってことか? 自分の結婚でも? つまり、結婚を延期しろってか……。
電話を切ってからトニーは部下の男に「大丈夫だ」と言った。
「ありがとうございます!」
「で、ホークは何時に来るんだ?」
「予定では、もう着いている時間ですが」
トニーは眉を顰めた。
「便名は?」特にフライトが遅れたという情報もなかった。
「ボス」先ほどの部下が振り向いた。
「どういうわけか、出入国記録に名前がありません」
「フライトを間違えたのか」
「いいえ。予約は確かにチケットの便でしてありましたが、搭乗記録がありません」
「……」トニーは部下のPCの画面を見た。
「まさか、何かあったんじゃ……」
トニーはしばらくPCの画面を見つめたまま考えていた。最悪の場合を想定すれば、出国前に正体がばれて、敵に拉致された可能性がなくもない。
「携帯のGPSは?」最後に確認された場所はヒースロー空港だった。空港で襲われたのか?
「ボス、一つわかったことが」
「なんだ」
「向こうでホークが乗っていた車が売られたようです」
「なんだと?」それは捜査局の資産だ。いくら便宜上名義をアラン・キャンベルにしてあったからといって、勝手に売却していいはずがないことくらいホークは知っている。
じゃあ、何者かが盗んだのか?
「現在の持ち主は、ルパート・コワルスキー。オーストラリア国籍です。あれ、LB証券の社員ですよ」
「じゃあ、あいつが売ったんだ」トニーは安堵した。しかしまた別の心配をしなければならない。
車を売ったのは、現金がほしかったからだ。当座の手持ちとして。でも、何のためだ? いったいどこへ行ったんだ、ホーク?
全くよけいな世話をかけるやつだ。この不始末を、上にどう言いわけしろというんだ。言いわけなどできるはずがない。せっかく大きな仕事を成功裏に収めたと言うのに、これでは懲罰ものだ。
「その金額、やつの給料から引くように給与課に言っておけ」
「払いきれませんが」
「何か月かかってもいい!」
「あの、ボス、自分の休暇は……」
「保留だ」トニーの青い目が刃のような光を帯びた。
「文句はホークに言え」
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