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133 残念だよ、あんた有能なのに
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早朝、ニュースが流れた。
“昨夜十時頃、ケント州セブンオークスの広大な地所の一角で、空き家だった古い木造家屋が突然爆発し、全焼しました。
警察による現場検証で、大量の火薬が爆発したことが原因と判明し、何者かが爆発物を仕掛けた可能性もあるとのことですが、今のところ犯行声明のようなものは確認されていないとのことです。
この家屋は十六年前に、過激派のテロによって母屋が爆破された地所と同じ敷地内にあり、今になって廃屋同然の建物が爆破されたことに対し、持ち主は、「全く理由が思い当たらない」とのコメントを寄せております。
幸い死傷者はなく……”
朝五時半、LB証券の地下駐車場に、銀色のポルシェが入ってきた。
既にジャガーが一台エレベーターのドアから一番目の位置に停まっている。ポルシェは二番目の位置に駐車した。
少し離れて黒のZ4が五番目の位置に駐車されている。前日から停まったままだからだ。
ポルシェから降りたエディ・ミケルソンはちらとZ4を見やり、ポルシェに施錠し、エレベーターの方を向いた。と、目の前に立っていた黒いジャンプスーツの男とぶつかりそうになった。
「お、おまえ」
「幽霊だと思ったか」ホークはにやりと笑った。
「どうやって……」
「企業秘密だ」
横をすり抜けようとしたエディの肩に手を掛けホークは押し戻した。反動でエディがよろめいた。
「……どけ!」
「どかしてみろ」
エディがいきなり左のストレートを飛ばして来た。ホークは逆手に左腕を振り、エディの拳をなぎ払った。ドン! と音を立ててエディはポルシェのボンネットに倒れ込んだ。
「……クソ!」
ホークは腕を組んで首をかしげた。
「まだ寝ぼけてるのか?」
「この野郎!」
エディが頭からぶつかってきた。ホークが半身を引いて避ける拍子に脚を払うと、コンクリートの床にドッと倒れた。
「……クッ」
「痛そうだったな、今のは」ホークは倒れたエディの横にしゃがんだ。
「手を貸そうか」
「……ふざけるな」
立ち上がろうとしたエディの膝をホークが蹴った。悲鳴が上がった。
「人が親切に言ってやったのに」
「……」エディは痛みに顔をしかめている。
「あんた、もっと強くなかったっけ?」ホークは再びしゃがんだ。
「随分おれのこと殴ってくれたよな。あれは縛られている相手だからか。それともマスボクシングで殴ってこないとわかっているからか」
「うるさい」
「どうする? あんた、おれを倒さないとオフィスに入れないぜ」
「いいかげんにしろ」
「しないね」
エディがようやく床の上に起き直った。ホークを睨みつけている。いつでも立てる態勢だ。
「ほら、かかってこいよ」ホークは手で「おいでおいで」のサインを送った。
起き上がりざま、また左のパンチが来た。ホークはそれを右に払い、エディがつんのめったところで後ろから腰を蹴った。エディが床に転がった。
「カムオン、エディ!」ヒューヒュー! とホークは口笛を鳴らした。また「おいでおいで」をする。
エディは向き直ってホークを睨みつけた。さっきから何度も転んでいるせいで、スーツがすっかり汚れている。
「……殺してやる」
エディは片脚をひきずりながらポルシェまで戻ると、助手席のドアをあけ、手を入れて何かを取り出した。立ち上がった時、両手に銃を構えていた。
「あ、それはまずい」
ホークは素早くジャンプスーツの胸に手を入れ、出した瞬間手にした銃を撃った。金属音と同時に火花が散り、エディの銃が吹っ飛ぶ。反動でエディがもんどり打った。
「ここでそんなの撃ったら、近所迷惑だ」ホークの銃にはサプレッサーがついている。
エディは這いつくばって手から離れて飛んだ銃を探している。ホークは素早く回り込み、ポルシェの下に入りこんでいた銃を足先で蹴った。
「サプレッサーつけるのがエチケットだろう」
エディはポルシェの傍らに片膝を付いてこっちを睨んでいる。ホークはゆったりと腕を伸ばし、狙いを付けた。
「出てこいよ。そこじゃジョルジオの車が汚れる」
エディは両手を挙げて立ちあがった。
「おまえ、おれをどうする気だ」
「今考えてるんだ」
「殺すのか」
「それも考えた」エディが横目で見た。
「じゃ、どうするんだ」
「逃げないのか。おれ、はずさないぜ」
エディがポルシェの反対側から逃げ出した。少し片脚を引きずりながら、駐車場の出口に向かって走っている。地下三階の駐車場から地上までは、螺旋状の長い急勾配だ。
ホークは銃をしまって軽々と坂を駆け上り、すぐに追いつくと、エディのジャケットの背を掴んだ。
エディが振り払おうとしてホークに殴りかかる。ホークは逆手でエディの背中を殴った。
スロープに斜めに倒れたエディが起き上がるのを待つ。エディが殴りかかってきた。
左のストレートをホークはブロックし、坂下から姿勢を低くして背負い投げを決めた。倒れたエディは悲鳴とともにスロープを転がった。
ハハッとホークは笑った。エディは顔を顰めている。
「失礼。久しぶりに決まったもんで」
「……おまえ、何者なんだ」
「もう知ってるじゃないか」
エディはスロープに腹這いになっている。腰を痛めたらしい。
「こんなのまだ序の口だぜ」
立ち上がりざま、エディがまた左のパンチを繰り出したのを、ホークは手首を掴んでコンクリートの壁に激突させた。突っ張った手首に手刀を打ちおろし骨を折った。
エディが絶叫した。あまりにうるさいので首筋を殴って気絶させた。
「残念だよ、あんた有能なのに」
“昨夜十時頃、ケント州セブンオークスの広大な地所の一角で、空き家だった古い木造家屋が突然爆発し、全焼しました。
警察による現場検証で、大量の火薬が爆発したことが原因と判明し、何者かが爆発物を仕掛けた可能性もあるとのことですが、今のところ犯行声明のようなものは確認されていないとのことです。
この家屋は十六年前に、過激派のテロによって母屋が爆破された地所と同じ敷地内にあり、今になって廃屋同然の建物が爆破されたことに対し、持ち主は、「全く理由が思い当たらない」とのコメントを寄せております。
幸い死傷者はなく……”
朝五時半、LB証券の地下駐車場に、銀色のポルシェが入ってきた。
既にジャガーが一台エレベーターのドアから一番目の位置に停まっている。ポルシェは二番目の位置に駐車した。
少し離れて黒のZ4が五番目の位置に駐車されている。前日から停まったままだからだ。
ポルシェから降りたエディ・ミケルソンはちらとZ4を見やり、ポルシェに施錠し、エレベーターの方を向いた。と、目の前に立っていた黒いジャンプスーツの男とぶつかりそうになった。
「お、おまえ」
「幽霊だと思ったか」ホークはにやりと笑った。
「どうやって……」
「企業秘密だ」
横をすり抜けようとしたエディの肩に手を掛けホークは押し戻した。反動でエディがよろめいた。
「……どけ!」
「どかしてみろ」
エディがいきなり左のストレートを飛ばして来た。ホークは逆手に左腕を振り、エディの拳をなぎ払った。ドン! と音を立ててエディはポルシェのボンネットに倒れ込んだ。
「……クソ!」
ホークは腕を組んで首をかしげた。
「まだ寝ぼけてるのか?」
「この野郎!」
エディが頭からぶつかってきた。ホークが半身を引いて避ける拍子に脚を払うと、コンクリートの床にドッと倒れた。
「……クッ」
「痛そうだったな、今のは」ホークは倒れたエディの横にしゃがんだ。
「手を貸そうか」
「……ふざけるな」
立ち上がろうとしたエディの膝をホークが蹴った。悲鳴が上がった。
「人が親切に言ってやったのに」
「……」エディは痛みに顔をしかめている。
「あんた、もっと強くなかったっけ?」ホークは再びしゃがんだ。
「随分おれのこと殴ってくれたよな。あれは縛られている相手だからか。それともマスボクシングで殴ってこないとわかっているからか」
「うるさい」
「どうする? あんた、おれを倒さないとオフィスに入れないぜ」
「いいかげんにしろ」
「しないね」
エディがようやく床の上に起き直った。ホークを睨みつけている。いつでも立てる態勢だ。
「ほら、かかってこいよ」ホークは手で「おいでおいで」のサインを送った。
起き上がりざま、また左のパンチが来た。ホークはそれを右に払い、エディがつんのめったところで後ろから腰を蹴った。エディが床に転がった。
「カムオン、エディ!」ヒューヒュー! とホークは口笛を鳴らした。また「おいでおいで」をする。
エディは向き直ってホークを睨みつけた。さっきから何度も転んでいるせいで、スーツがすっかり汚れている。
「……殺してやる」
エディは片脚をひきずりながらポルシェまで戻ると、助手席のドアをあけ、手を入れて何かを取り出した。立ち上がった時、両手に銃を構えていた。
「あ、それはまずい」
ホークは素早くジャンプスーツの胸に手を入れ、出した瞬間手にした銃を撃った。金属音と同時に火花が散り、エディの銃が吹っ飛ぶ。反動でエディがもんどり打った。
「ここでそんなの撃ったら、近所迷惑だ」ホークの銃にはサプレッサーがついている。
エディは這いつくばって手から離れて飛んだ銃を探している。ホークは素早く回り込み、ポルシェの下に入りこんでいた銃を足先で蹴った。
「サプレッサーつけるのがエチケットだろう」
エディはポルシェの傍らに片膝を付いてこっちを睨んでいる。ホークはゆったりと腕を伸ばし、狙いを付けた。
「出てこいよ。そこじゃジョルジオの車が汚れる」
エディは両手を挙げて立ちあがった。
「おまえ、おれをどうする気だ」
「今考えてるんだ」
「殺すのか」
「それも考えた」エディが横目で見た。
「じゃ、どうするんだ」
「逃げないのか。おれ、はずさないぜ」
エディがポルシェの反対側から逃げ出した。少し片脚を引きずりながら、駐車場の出口に向かって走っている。地下三階の駐車場から地上までは、螺旋状の長い急勾配だ。
ホークは銃をしまって軽々と坂を駆け上り、すぐに追いつくと、エディのジャケットの背を掴んだ。
エディが振り払おうとしてホークに殴りかかる。ホークは逆手でエディの背中を殴った。
スロープに斜めに倒れたエディが起き上がるのを待つ。エディが殴りかかってきた。
左のストレートをホークはブロックし、坂下から姿勢を低くして背負い投げを決めた。倒れたエディは悲鳴とともにスロープを転がった。
ハハッとホークは笑った。エディは顔を顰めている。
「失礼。久しぶりに決まったもんで」
「……おまえ、何者なんだ」
「もう知ってるじゃないか」
エディはスロープに腹這いになっている。腰を痛めたらしい。
「こんなのまだ序の口だぜ」
立ち上がりざま、エディがまた左のパンチを繰り出したのを、ホークは手首を掴んでコンクリートの壁に激突させた。突っ張った手首に手刀を打ちおろし骨を折った。
エディが絶叫した。あまりにうるさいので首筋を殴って気絶させた。
「残念だよ、あんた有能なのに」
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