わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ

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127 おれは、仲間を売る奴が嫌いなんだ

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 手洗いを借りてキャロリンに挨拶し、玄関の外に出ると、エディが煙草を吸っていた。

「猫がなついていたな」

 ホークは玄関ポーチの明かりを頼りに、スーツに付いた猫の毛を取った。

「動物に好かれる性質なんだ」

 車は冷えた外気のせいで結露に覆われていた。革のシートから冷気が伝わってくる。

 エディが暖房を入れた。車内にたまった煙草の匂いが強くなる。

 ロンドン方面に向かう高速はすいていた。この分なら一時間半で会社まで戻れそうだ。

 ブラックベリーには急ぎのメッセージがなかったので、携帯でグレンのSNSサイトを見た。

 今日は夕方サッカーの練習に行く、とある。それ以降の更新はなかった。

「誠意は通じたみたいだな」ホークが言った。

「だといいが」

「どうかしたのか?」

 エディは前を見たまま言った。

「おれは、仲間を売る奴が嫌いなんだ」

 ホークはエディを見た。

「なんだって?」

「おれは学校を出てすぐ軍に入った。訓練が終わると内部調査班に回された。法学部を出ていたからだ。

 嫌な仕事だったよ。常に仲間を疑わなければならない。

 だが、何より嫌いだったのは、内部通報する奴だ」

「……なんで今その話をするんだ?」

「あの日、駐車場でおまえとアダムに会った。会社に刑事が来た日――アダムを解雇する前の日の夜だ」

 対向車のライトが一瞬エディの顔を照らした。黒い眉と瞳がくっきり見えた。

「アダムは、おまえの指紋を刑事が欲しがっているから協力したい、とか言っていた。

 おれはそういう行為が嫌いなんだ。

 刑事が絶対的な証拠を掴んでおまえを逮捕するなら仕方ない。

 だが、おれたちの誰かに仲間を売らせるのは拒否する」

「何が言いたいんだ、さっきから」

「仮にだ。アダムがアレック殺しの犯人はおまえだと疑って、カフリンクスの写真をネタにおまえを脅したとする。おまえはアダムを殺したのか?」

「殺すわけないだろ」

「どこまでが演技なのか、わからん」

「演技なんかしていない」

 エディがふっと笑う。

「おまえはいつもそう言う」

「あんたこそ、人のことを殺人犯扱いするなよ」

「おまえは犯罪者の匂いがしない」

「……当たり前だろ」

「アレックは元レスリングの選手だ。犯人はあいつを素手で斃したと聞いた。そんなことができるのは、相当な腕の持ち主だ」

「へえ。あんたみたいな?」

「見くびるなよ。ジムでマスボクシングをやった時、おまえは手加減していただろう」

「……そんなことない」

「おまえは素手で人を殺せるかもしれない。アレック殺害現場におまえのカフリンクスが落ちていた。

 それに気づいたアダムはおまえを脅そうとして転落死した。いや、もう一つある。

 アレックを殺した犯人は、ナイフの傷を負った」

「なあ、いい加減に……」

「おまえ、あの朝遅刻したな。傷の手当てをしていたからじゃないのか」

「いい加減にしろ」

「あの時、身体検査されなくてよかったな」

「なんのつもりだ、いったい」

「おまえ、本当は株の営業が本業じゃないだろう」

「……なんだって?」

「おまえの手口は全てロニー・フィッシャーのコピーじゃないか。毎日見ていればわかる」

「……」

「不思議だな。おまえとあいつは同じ会社にいたこともないのに。今成績が落ちているのは、ロマネスクがいなくなったせいもあるが、ロニーがいた頃と相場が変わったからだろう」

 心臓が、心持ち大きく鼓動し始めた。

「なんでLB証券に来たんだ。ロニー・フィッシャーの何を調べているんだ」

「採用されたからだよ。自分の前任者が謎の事故死だなんて、めったにないことだ」

「いつもながら、たいした演技だ」エディは笑う。

「ある調査員がおまえの養父の住所に行ってみたそうだ。

 するとその名前の人物も住所も存在しないことがわかった。

 住所は何世紀遡ってもないそうだ。

 つまり、おまえが南イングランドに住む養父母に引き取られたという記録は偽物だ。

 これはどういうことなんだ、キャンベル?」

「調査員がいいかげんなんだろう」

「いいかげん? そいつはおまえが『セブンオークス』の社長の甥だと言っている」
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