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100 今日、おかしな電話がかかって来たの。
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マーケットが閉まり、フロアには様々な物が散乱している。
トレーダーも営業スタッフも大半がいなくなっていた。
どんなに散らかっていても、翌朝になるときれいに片付いている。
投げ尽くしてしまったせいで、デスクにはペンが一本もない。
パメラに頼むとペンを一束差し出して、イーサンの椅子に座った。
「ねえ、ちょっと飲みに行かない?」大きく開いたブラウスの襟元から、谷間と赤いレースが見える。
そう、“赤の日はフリ―”だ。
しかし、パブで立ったまま、長時間飲み続けるのは今日は無理だ。
「今日は、ちょっと……」
「一杯だけ」パメラがマスカラびっしりの目で見上げている。
「アランに話したいことがあるの」
「じゃあ、一杯だけ」ホークは言った。
アダムは上着を椅子の背に掛けたまま、どこかに行ったままだった。
会社の近くのパブに行くと、同僚が何人かグループで飲んでいた。
債券部の連中もいる。
パメラに席を取っておいてもらい、ビールのパイントを二つ持ってきた。
ひょっとして、昨夜の彼にあてつけするためか?
「ライアン、とうとう戻ってこなかったわね」
ホークは頷いて、一口だけ口をつけた。
アルコールと痛み止めはよくない。
「アラン、昨夜ライアンが帰る時一緒だったんでしょ」
「ああ、タクシー乗り場まで」
「どうしてライアン、一人でロマネスクに行ったのかしら」
「知らないな」
「変だと思わない?」
「そうだね」
「エディが刑事にね、今日、怪我をしているスタッフはいませんかって、訊かれたんですって」
「怪我?」ビールに口をつけたが飲まなかった。
「でも、一人一人それを訊いて回るのは協力できないって断ったの。とにかくエディは、スタッフを疑うようなことは絶対にしないって断ったのよ」
「さすがだ」
「格闘技が趣味のスタッフはいるかとか、訊いたらしいわ」
「それはおれも訊かれた」
パメラが顔を上げる。
「何て答えたの?」
「エディとボクシングしたことがあるって答えたよ」
「そうよね」パメラが頷く。
ぐいっとビールを飲んだ。横目で店の奥の一団をちらっと見た。向こうでも男がこっちを見ていた。
「なんだい、話って?」ホークが言うと、パメラは向き直った。
ビールのグラスを両手でくるくる回している。
「ロマネスクって、なんかやっぱり変な客なの?」
「変?」
「だって……前の担当者は事故で亡くなったっていうし、今度は殺人事件でしょ」
カウンターの端のテレビがニュースを流していた。
ちょうどロマネスクのオフィスが映し出され、昨夜十一時頃、警察が到着した時の映像が映っていた。
“現場には激しく争ったあとがあり、二人を殺害して逃走した犯人も、怪我をしている可能性があるとのことです。”
二人ともテレビの画面を無言で見た。
パメラの顔がこっちに向き直った。
「アラン、大丈夫よね?」ホークは訝しげな表情をつくった。
「……て、何が?」
「だって」ホークは水色の目を見つめた。パメラのマスカラが瞬きをした。
「今日、おかしな電話がかかって来たの」
「いつ?」
「アランが席にいないとき。電話を取ったら、すごい変な声で、『アラン・キャンベルはいるか』って」
「変な声?」
「ボイス・チェンジャーで変えてる声」
「……」
「どちら様ですかって訊いたら、切れたの」
ホークは手を伸ばしてグラスを持つパメラの手に重ねた。
「怖かったんだね」パメラは頷いた。
「ただのいたずらだよ」パメラの目が歪んだ。
「あのブロンドの女の人も、行方不明なんでしょ?」
「……マリー・ラクロワなら、マデイラに引っ越しただけだよ」
「本当に?」また水色の目が歪んだ。ホークは頷いた。
「優雅なものさ」
「アランもいなくなったりしない?」
「しないよ」手でパメラの頬を撫でた。
ヘイ! という声がして、二人の間に男が割り込んできた。
「何か飲むか?」パメラに向かって言い、ホークの方を見た。債券部のトレーダーだった。
「ちょうど帰るところさ」ホークは笑顔で言った。
トレーダーも営業スタッフも大半がいなくなっていた。
どんなに散らかっていても、翌朝になるときれいに片付いている。
投げ尽くしてしまったせいで、デスクにはペンが一本もない。
パメラに頼むとペンを一束差し出して、イーサンの椅子に座った。
「ねえ、ちょっと飲みに行かない?」大きく開いたブラウスの襟元から、谷間と赤いレースが見える。
そう、“赤の日はフリ―”だ。
しかし、パブで立ったまま、長時間飲み続けるのは今日は無理だ。
「今日は、ちょっと……」
「一杯だけ」パメラがマスカラびっしりの目で見上げている。
「アランに話したいことがあるの」
「じゃあ、一杯だけ」ホークは言った。
アダムは上着を椅子の背に掛けたまま、どこかに行ったままだった。
会社の近くのパブに行くと、同僚が何人かグループで飲んでいた。
債券部の連中もいる。
パメラに席を取っておいてもらい、ビールのパイントを二つ持ってきた。
ひょっとして、昨夜の彼にあてつけするためか?
「ライアン、とうとう戻ってこなかったわね」
ホークは頷いて、一口だけ口をつけた。
アルコールと痛み止めはよくない。
「アラン、昨夜ライアンが帰る時一緒だったんでしょ」
「ああ、タクシー乗り場まで」
「どうしてライアン、一人でロマネスクに行ったのかしら」
「知らないな」
「変だと思わない?」
「そうだね」
「エディが刑事にね、今日、怪我をしているスタッフはいませんかって、訊かれたんですって」
「怪我?」ビールに口をつけたが飲まなかった。
「でも、一人一人それを訊いて回るのは協力できないって断ったの。とにかくエディは、スタッフを疑うようなことは絶対にしないって断ったのよ」
「さすがだ」
「格闘技が趣味のスタッフはいるかとか、訊いたらしいわ」
「それはおれも訊かれた」
パメラが顔を上げる。
「何て答えたの?」
「エディとボクシングしたことがあるって答えたよ」
「そうよね」パメラが頷く。
ぐいっとビールを飲んだ。横目で店の奥の一団をちらっと見た。向こうでも男がこっちを見ていた。
「なんだい、話って?」ホークが言うと、パメラは向き直った。
ビールのグラスを両手でくるくる回している。
「ロマネスクって、なんかやっぱり変な客なの?」
「変?」
「だって……前の担当者は事故で亡くなったっていうし、今度は殺人事件でしょ」
カウンターの端のテレビがニュースを流していた。
ちょうどロマネスクのオフィスが映し出され、昨夜十一時頃、警察が到着した時の映像が映っていた。
“現場には激しく争ったあとがあり、二人を殺害して逃走した犯人も、怪我をしている可能性があるとのことです。”
二人ともテレビの画面を無言で見た。
パメラの顔がこっちに向き直った。
「アラン、大丈夫よね?」ホークは訝しげな表情をつくった。
「……て、何が?」
「だって」ホークは水色の目を見つめた。パメラのマスカラが瞬きをした。
「今日、おかしな電話がかかって来たの」
「いつ?」
「アランが席にいないとき。電話を取ったら、すごい変な声で、『アラン・キャンベルはいるか』って」
「変な声?」
「ボイス・チェンジャーで変えてる声」
「……」
「どちら様ですかって訊いたら、切れたの」
ホークは手を伸ばしてグラスを持つパメラの手に重ねた。
「怖かったんだね」パメラは頷いた。
「ただのいたずらだよ」パメラの目が歪んだ。
「あのブロンドの女の人も、行方不明なんでしょ?」
「……マリー・ラクロワなら、マデイラに引っ越しただけだよ」
「本当に?」また水色の目が歪んだ。ホークは頷いた。
「優雅なものさ」
「アランもいなくなったりしない?」
「しないよ」手でパメラの頬を撫でた。
ヘイ! という声がして、二人の間に男が割り込んできた。
「何か飲むか?」パメラに向かって言い、ホークの方を見た。債券部のトレーダーだった。
「ちょうど帰るところさ」ホークは笑顔で言った。
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