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111 キャンベルさんて……警察の人みたいでした

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 一番前にいた私服の男が身分証を見せた。警部補だった。

 ホークは彼らを招じ入れ、寝室のドアを示した。

 玄関の外に立ち入り禁止のテープが貼られ、現場検証が始まった。

 ホークはソファに戻った。

 ハルは目を閉じてぐったりと背もたれにもたれかかっている。

 隣に座り、肩を抱き寄せた。ハルが薄目を開けた。

「……」

「何?」

「キャンベルさん……」

「大丈夫だよ」

「どうして……」

 巡査の階級章をつけた若い警官が近付いてきた。

「通報して下さったのは、あなたですか」

 ホークは頷いた。名前と身分証明と言われたので、運転免許証を見せた。

 アラン・キャンベル名義の完璧な運転免許証だ。

「そちらは?」

 ここの住人のハル・タキガワ、と答え、今朝からの行動を説明した。

 玄関の二つのバッグは死んでいる女性の持ち物だ、と言った。

 もとルームメイト、ルーマニア人、レベッカ・オプリザン。

 下でぶつかりそうになった男の人相と体格も伝えた。

 巡査は熱心にメモを取る。

 階段にいる鑑識が足跡の型を取るだろう。

 周辺の監視カメラの映像を精査するだろう。

 巡査が離れていくと、ハルが言った。

「どうしてそんなに落ちついていられるんですか」

「いや、そうでもないよ」

「キャンベルさんて……警察の人みたいでした」

 先ほどの巡査が居間の窓のあたりを検分している。侵入経路を特定するためだ。

 恐らく玄関から入ったに違いない。

 レベッカの後をつけて来たか、または一緒に来たのか。

 あの二つのバッグは女一人が持って五階に昇るには重すぎる。

 男が付いてきていたとしても不思議はない。

 だとすると、そいつはロマネスクの関係者かもしれない。

「ハル、特に部屋に異常はないかい?」ハルは眉をひそめた。

「わかりません……」

「何か無くなったものとか」

「だって、何もまだ見ていませんから」

 鑑識があちこちの指紋を取っている。

 ホークが手袋を取ったのは、レベッカの首に触れた時だけだ。

 裏を取るまでもなく、通りで自分たちを張っている黒いセダンの刑事がアリバイを証明してくれる。

 アラン・キャンベルが別の殺人事件の容疑を疑われていて、ハルも同じLB証券の社員で、レベッカがキャンベルの担当顧客、ロマネスクの社員だったとわかるのも時間の問題だ。

「ハル、当分泊まるところはあるかい?」ハルは目を開けた。

「ここにはいられないよ。立ち入り禁止になる」途方に暮れたように瞬きをする。

「でも……」

「容疑者が逮捕されて犯行現場で検証されたりするから、ここには住めないよ」

「でも、どこに行ったら……」

「なければホテルに。でも、一人で大丈夫かい」

 とても大丈夫そうには見えなかった。

 捜査責任者の警部補に、ハルを連れて出る許可を求めた。

 今晩は自分の所に預かる、と言うと、警部補はホークとハルを交互に見た。

 レベッカの遺体が運び出されるのを待って、ハルの身の回りの物を取りに寝室に入った。

 クローゼットにあったスーツケースに衣類を詰めた。

 床の上にレベッカが倒れていた形の人型がチョークで書かれている。

 これはとてもハルには見せられない。

 バスルームに干してあった物もスーツケースに入れた。

 ハルに現金や貴重品はどこにあるのか訊いて、引き出しごとはずして持ってきた。

「どこに行くんですか」

 玄関でダウンコートを着せてマフラーをかけてやるとハルが言った。

「僕のフラット」

「え?」

 黄色い立ち入り禁止テープをくぐって玄関の外へ出ると、階段の踊り場に近所の住民らしき人たちが何人か固まっていた。

 中年の女性が「ハル」と呼びかけた。

「何があったの、あんた、大丈夫?」

 下ではベッカの遺体を収容した救急車が、サイレンを消して出て行ったところだった。

 警官が二人パトカーの近くに立っていたので、軽く会釈をしておいた。

 Z4の真後ろに黒いセダンがいる。

 ハルを乗せて後ろのトランクを開け、スーツケースを入れた。

 黒いセダンに近づくと、助手席の窓が下がった。

「どこへ行くんだ?」赤ら顔の男が言った。

「ベイズウォーター」

 護衛のように黒いセダンを従えて、午後遅い街をベイズウォーターに向かった。
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