わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ

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103 百万ポンド以上稼いでいるトレーダーの生活とは思えない

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「警察に尾行されているぞ。まだ殺人容疑をかけられている」カルロが言った。

 アイリッシュ・マフィアの線も捜査しているが、容疑者が行方不明だから捜査は難航しているのだ。

 その容疑者はこの世にいない――。

 監視カメラの映像その他の件でカルロは警察に手を回した。

 しかしトムソン刑事は納得していない。

 もっと上の方から圧力をかける必要がある、とカルロは言った。

 とはいえ警察の尾行は、却って都合がよかった。

 姿を見せない誰かにつけ狙われているかもしれないのだから、警察のおかげで連中を遠ざけることができる。



 その後、ライアンは拘留を解かれた。

 しかしかなり精神的にまいっているとのことで、会社を休んでいた。

 カルロから連絡が来た――この前相談した件だ。

 ライアンが警察に拘留されている間はよかったが、家に戻った後、ロマネスクが放っておくはずがない。

 一家全員を証人保護プログラムに入れる準備ができた。

 ホークはライアンの携帯にメールを出した。

「サラの様子はどう?」

 手術の後、そろそろ娘が退院したはずだった。数分で返事が来た。

「ありがとう。今家で術後療養している。順調だ」

 唐突に思われないよう気を付けた。

「帰り道に見舞いに寄ってもいいか。みんなから花束を預かっている」

「悪いな」

 花束を用意し、ライアンの部下達にカードを書かせた。

 家が一番近いのはホークなので、行くのは自然だった。

 ライアンの家はエッジウェア・ロード駅近くの、賑やかな通りに面した五階建てアパートの一室だ。

 交通量のかなり多い路上にZ4を停めた。

 三台ほど後ろに、警察の車と思われる、黒塗りのセダンが停まるのが見えた。

 一階のインターホンでライアンを呼び、エントランスのロックを解除してもらった。

 エレベーターで五階へ向かう。

 築五十年は経っており、改装を行ったのは、たぶん十年前と思われた。

 壁にも床にも長年の通行の傷がある。

 廊下を歩いてほどなくライアンの505号室に行きあたった。

 玄関のドアを開けた彼は無精ひげを生やし、アイロンのかかっていないシャツの上に、毛玉の出たセーターを着ていた。

「アラン」笑顔が無理しているように見える。

「これ、みんなから」とホークは花束とカードを差し出した。

「ありがとう。サラが喜ぶよ」

 キッチンと居間がつながっている。居室は廊下の向こう側に並んでいる。

 テーブルも椅子も、リサイクルショップで安く手に入れたような安価なものだ。

 クッションやカーテンの柄と色がちぐはぐなのは、その場しのぎでネットやセールで買ったものだからだろう。

 部屋全体の広さはワシントンでホークが借りている平屋の一軒家に似ていた。

 奥から彼の妻のローラが出てきたので挨拶した。

 ローラはライアンと同じ南アフリカの白人社会で育った。

 ストレートの長い金髪を後ろでまとめている。

 着ているドレスは近所のショッピングモールで量販されているようなプリント柄。

 とても百万ポンド以上稼いでいるトレーダーの生活とは思えないほど質素だ。

 サラは無菌カーテンに囲まれたベッドに寝ているという。

「わざわざおまえが来てくれるなんて」

 ライアンが、マグカップに入れてコーヒーを持ってきた。

「あまり休んでいると、部下に仕事取られるぞ」コーヒーは薄かった。

「……そうだな」窓の外に目を向ける。

「買い物に行く」とローラが言い、玄関のドアがしまる音がした。

「警察になんて言ったんだ」ホークが言うと、ライアンはびくっと身体を震わせた。

「何を?」

「なぜあの日ロマネスクにいたのか、訊かれただろう」

「……」

「ロマネスクに誘われたからか?」

 ライアンは目を伏せた。

「そうだよ」

「それだけじゃないだろう」

 ゆっくりと彼の目が上を向いた。



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