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64 アダムが危ない! 獣医もだ!

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 同僚たちとジムに寄って、そのあと食事をした。

 ベイズウォーターのフラットに帰宅したのは十二時近かった。

 地下駐車場に入った時、何か変だと思った。

 視界にいつもと違う何かを認めたのだ。

 自分の駐車スペースにZ4を停める。

 フロントグラスの前に二人の男が近寄って来た。

 一人の顔に見覚えがあった。

 マリーが蛇の餌を貰いに行くペットショップの男だ。

 名前はボリス。

 もう一人は知らない。

 レスリングの選手のような、大きな筋肉の塊そのものの身体をしていた。

 急発進して二人を吹っ飛ばしてやってもいいが、車に傷がつくのはいやだ。

 エンジンを切った。男が運転席の窓をノックした。うすら笑いを浮かべている。

 ドアを開け、外に出た。

 周りの駐車スペースには全て車が戻っている。

 このフラットの他の住民は全て帰宅しているようだった。

「あんたを待っていた」癖のあるアクセントでボリスが言った。

「それじゃ、長いことお待たせしただろうな」

 向かい合って立つと、ホークはボリスより頭一つ背が高く、もう一人の大男には見降ろされていた。

「あんた、あの鼠をどうした?」

 二人の顔を交互に見た。

「なんのことだ?」

 ボリスがホークに詰め寄った。

「とぼけるな。お前、あの金を口座から引き出しただろう」

「あの金って?」

「しらばっくれるな。キャッシュカードの口座から、金を引き出したのはおまえだろう?」

「何言ってるのかわからないな」

 ボリスは腰に手をやり、ベルトの後ろに差していたらしいナイフを持ち、刃をホークの顔に向けた。

「金を返してもらおうか」

 ホークは両手を肩まで上げて言った。

「落ちつけよ。防犯カメラに写っているぜ」

 二人が同時に後ろを見た。

 その瞬間、身体をひねって十分に矯めた逆手チョップでボリスの首の後ろを強打した。

 ナイフがコンクリートの床に落ちて音を立てた。

 大男が襲いかかってくるより先に、床に転がりながら拾ったナイフを投げた。

 大男の胸に突き刺さった。

 ボリスは倒れて気を失っている。死んでいるかもしれない。

 大男は傷の痛みに呻きだした。ナイフが小さいので致命傷にはなっていない。

 こんな奴とまともに格闘したら自分が殺される。

 呻き声を上げている大男の頭部を蹴りつけた。静かになった。

 しかし、華奢なイタリア製の革底靴だったために、自分の足への衝撃が大きかった。

 蹴った足を引きずりながら、ボリスの首筋に手を当てた。脈は感じなかった。

 襲ってきたのが二人だけでよかった。携帯でカルロに連絡した。

 二人の死体と駐車場の防犯カメラの映像処理を頼んだ。

「他にこの件を知っているのは?」カルロに訊かれてはっとした。

「アダムが危ない! 獣医もだ!」

 自分の部屋のクローゼットの床下に、支給された武器一式が保管してある。

 しかし今、そこにある銃を持ってくる時間はない。

 大男の胸からナイフを引き抜き、溢れる血を避けて男の衣服で刃を拭った。

 二人の死体を他の車の陰に隠し、再びZ4に乗った。

 こういう時に限ってガソリンが足りなくなりそうだった。

 給油する間ももどかしく、クレジット・カードを取り落とした。

 落ちつけ!

 あいつらはアラン・キャンベルの顔は知っているが、アダムも獣医も知らないはずだ。

 アダムの居場所を突き止めるために、獣医のクリニックのファイルを調べるはずだ。

 しかしクリニックは今の時間誰もいない。

 クリニックに押し入って、獣医の自宅を調べただろうか。

 アダムの住所も突き止めたかもしれない――。

 アダムは今日ホークが帰る時、まだ残った数人と一緒にパブで飲んでいた。

 だがもう閉店の時間を過ぎているから帰ったはずだ。

 アダムの携帯に電話した。

 呼び出し音が鳴るが、応答がない。

 生きているなら出ろ、アダム! まもなく留守電メッセージになった。

 いや待て。

 ボリスが「あんたを待っていた」と言ったじゃないか。

 あいつはかなり前から駐車場にいたんだ。

 マリーが獣医のことで電話して来たのは、確か四時過ぎだった……。

 鼠をマリーに返したのが、十一時二〇分頃。

 トマシュ達がキャッシュカードを復元して、口座から金を引き出すまでに、たぶん一時間くらいかかる。

 残高がないと気づいてまずボリスに文句を言う。

 ボリスは知らないと言う。

 しばらく口論したりして、盗んだ可能性のある奴は誰かをリストアップする。

 アラン・キャンベル、その同僚、獣医……そしてマリーに電話させる。

 再びカルロに電話した。

 獣医の名前で自宅を調べて様子を見てくれと頼む。

「おまえは今どこに向かっている?」

「アダム・グリーンバーグの家に。今、フェンチャーチ・ストリートの駅だ」

 間に合わないかもしれない。

 応答がなくても、何度も繰り返しアダムに電話し続けた。
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