64 / 139
64 アダムが危ない! 獣医もだ!
しおりを挟む
同僚たちとジムに寄って、そのあと食事をした。
ベイズウォーターのフラットに帰宅したのは十二時近かった。
地下駐車場に入った時、何か変だと思った。
視界にいつもと違う何かを認めたのだ。
自分の駐車スペースにZ4を停める。
フロントグラスの前に二人の男が近寄って来た。
一人の顔に見覚えがあった。
マリーが蛇の餌を貰いに行くペットショップの男だ。
名前はボリス。
もう一人は知らない。
レスリングの選手のような、大きな筋肉の塊そのものの身体をしていた。
急発進して二人を吹っ飛ばしてやってもいいが、車に傷がつくのはいやだ。
エンジンを切った。男が運転席の窓をノックした。うすら笑いを浮かべている。
ドアを開け、外に出た。
周りの駐車スペースには全て車が戻っている。
このフラットの他の住民は全て帰宅しているようだった。
「あんたを待っていた」癖のあるアクセントでボリスが言った。
「それじゃ、長いことお待たせしただろうな」
向かい合って立つと、ホークはボリスより頭一つ背が高く、もう一人の大男には見降ろされていた。
「あんた、あの鼠をどうした?」
二人の顔を交互に見た。
「なんのことだ?」
ボリスがホークに詰め寄った。
「とぼけるな。お前、あの金を口座から引き出しただろう」
「あの金って?」
「しらばっくれるな。キャッシュカードの口座から、金を引き出したのはおまえだろう?」
「何言ってるのかわからないな」
ボリスは腰に手をやり、ベルトの後ろに差していたらしいナイフを持ち、刃をホークの顔に向けた。
「金を返してもらおうか」
ホークは両手を肩まで上げて言った。
「落ちつけよ。防犯カメラに写っているぜ」
二人が同時に後ろを見た。
その瞬間、身体をひねって十分に矯めた逆手チョップでボリスの首の後ろを強打した。
ナイフがコンクリートの床に落ちて音を立てた。
大男が襲いかかってくるより先に、床に転がりながら拾ったナイフを投げた。
大男の胸に突き刺さった。
ボリスは倒れて気を失っている。死んでいるかもしれない。
大男は傷の痛みに呻きだした。ナイフが小さいので致命傷にはなっていない。
こんな奴とまともに格闘したら自分が殺される。
呻き声を上げている大男の頭部を蹴りつけた。静かになった。
しかし、華奢なイタリア製の革底靴だったために、自分の足への衝撃が大きかった。
蹴った足を引きずりながら、ボリスの首筋に手を当てた。脈は感じなかった。
襲ってきたのが二人だけでよかった。携帯でカルロに連絡した。
二人の死体と駐車場の防犯カメラの映像処理を頼んだ。
「他にこの件を知っているのは?」カルロに訊かれてはっとした。
「アダムが危ない! 獣医もだ!」
自分の部屋のクローゼットの床下に、支給された武器一式が保管してある。
しかし今、そこにある銃を持ってくる時間はない。
大男の胸からナイフを引き抜き、溢れる血を避けて男の衣服で刃を拭った。
二人の死体を他の車の陰に隠し、再びZ4に乗った。
こういう時に限ってガソリンが足りなくなりそうだった。
給油する間ももどかしく、クレジット・カードを取り落とした。
落ちつけ!
あいつらはアラン・キャンベルの顔は知っているが、アダムも獣医も知らないはずだ。
アダムの居場所を突き止めるために、獣医のクリニックのファイルを調べるはずだ。
しかしクリニックは今の時間誰もいない。
クリニックに押し入って、獣医の自宅を調べただろうか。
アダムの住所も突き止めたかもしれない――。
アダムは今日ホークが帰る時、まだ残った数人と一緒にパブで飲んでいた。
だがもう閉店の時間を過ぎているから帰ったはずだ。
アダムの携帯に電話した。
呼び出し音が鳴るが、応答がない。
生きているなら出ろ、アダム! まもなく留守電メッセージになった。
いや待て。
ボリスが「あんたを待っていた」と言ったじゃないか。
あいつはかなり前から駐車場にいたんだ。
マリーが獣医のことで電話して来たのは、確か四時過ぎだった……。
鼠をマリーに返したのが、十一時二〇分頃。
トマシュ達がキャッシュカードを復元して、口座から金を引き出すまでに、たぶん一時間くらいかかる。
残高がないと気づいてまずボリスに文句を言う。
ボリスは知らないと言う。
しばらく口論したりして、盗んだ可能性のある奴は誰かをリストアップする。
アラン・キャンベル、その同僚、獣医……そしてマリーに電話させる。
再びカルロに電話した。
獣医の名前で自宅を調べて様子を見てくれと頼む。
「おまえは今どこに向かっている?」
「アダム・グリーンバーグの家に。今、フェンチャーチ・ストリートの駅だ」
間に合わないかもしれない。
応答がなくても、何度も繰り返しアダムに電話し続けた。
ベイズウォーターのフラットに帰宅したのは十二時近かった。
地下駐車場に入った時、何か変だと思った。
視界にいつもと違う何かを認めたのだ。
自分の駐車スペースにZ4を停める。
フロントグラスの前に二人の男が近寄って来た。
一人の顔に見覚えがあった。
マリーが蛇の餌を貰いに行くペットショップの男だ。
名前はボリス。
もう一人は知らない。
レスリングの選手のような、大きな筋肉の塊そのものの身体をしていた。
急発進して二人を吹っ飛ばしてやってもいいが、車に傷がつくのはいやだ。
エンジンを切った。男が運転席の窓をノックした。うすら笑いを浮かべている。
ドアを開け、外に出た。
周りの駐車スペースには全て車が戻っている。
このフラットの他の住民は全て帰宅しているようだった。
「あんたを待っていた」癖のあるアクセントでボリスが言った。
「それじゃ、長いことお待たせしただろうな」
向かい合って立つと、ホークはボリスより頭一つ背が高く、もう一人の大男には見降ろされていた。
「あんた、あの鼠をどうした?」
二人の顔を交互に見た。
「なんのことだ?」
ボリスがホークに詰め寄った。
「とぼけるな。お前、あの金を口座から引き出しただろう」
「あの金って?」
「しらばっくれるな。キャッシュカードの口座から、金を引き出したのはおまえだろう?」
「何言ってるのかわからないな」
ボリスは腰に手をやり、ベルトの後ろに差していたらしいナイフを持ち、刃をホークの顔に向けた。
「金を返してもらおうか」
ホークは両手を肩まで上げて言った。
「落ちつけよ。防犯カメラに写っているぜ」
二人が同時に後ろを見た。
その瞬間、身体をひねって十分に矯めた逆手チョップでボリスの首の後ろを強打した。
ナイフがコンクリートの床に落ちて音を立てた。
大男が襲いかかってくるより先に、床に転がりながら拾ったナイフを投げた。
大男の胸に突き刺さった。
ボリスは倒れて気を失っている。死んでいるかもしれない。
大男は傷の痛みに呻きだした。ナイフが小さいので致命傷にはなっていない。
こんな奴とまともに格闘したら自分が殺される。
呻き声を上げている大男の頭部を蹴りつけた。静かになった。
しかし、華奢なイタリア製の革底靴だったために、自分の足への衝撃が大きかった。
蹴った足を引きずりながら、ボリスの首筋に手を当てた。脈は感じなかった。
襲ってきたのが二人だけでよかった。携帯でカルロに連絡した。
二人の死体と駐車場の防犯カメラの映像処理を頼んだ。
「他にこの件を知っているのは?」カルロに訊かれてはっとした。
「アダムが危ない! 獣医もだ!」
自分の部屋のクローゼットの床下に、支給された武器一式が保管してある。
しかし今、そこにある銃を持ってくる時間はない。
大男の胸からナイフを引き抜き、溢れる血を避けて男の衣服で刃を拭った。
二人の死体を他の車の陰に隠し、再びZ4に乗った。
こういう時に限ってガソリンが足りなくなりそうだった。
給油する間ももどかしく、クレジット・カードを取り落とした。
落ちつけ!
あいつらはアラン・キャンベルの顔は知っているが、アダムも獣医も知らないはずだ。
アダムの居場所を突き止めるために、獣医のクリニックのファイルを調べるはずだ。
しかしクリニックは今の時間誰もいない。
クリニックに押し入って、獣医の自宅を調べただろうか。
アダムの住所も突き止めたかもしれない――。
アダムは今日ホークが帰る時、まだ残った数人と一緒にパブで飲んでいた。
だがもう閉店の時間を過ぎているから帰ったはずだ。
アダムの携帯に電話した。
呼び出し音が鳴るが、応答がない。
生きているなら出ろ、アダム! まもなく留守電メッセージになった。
いや待て。
ボリスが「あんたを待っていた」と言ったじゃないか。
あいつはかなり前から駐車場にいたんだ。
マリーが獣医のことで電話して来たのは、確か四時過ぎだった……。
鼠をマリーに返したのが、十一時二〇分頃。
トマシュ達がキャッシュカードを復元して、口座から金を引き出すまでに、たぶん一時間くらいかかる。
残高がないと気づいてまずボリスに文句を言う。
ボリスは知らないと言う。
しばらく口論したりして、盗んだ可能性のある奴は誰かをリストアップする。
アラン・キャンベル、その同僚、獣医……そしてマリーに電話させる。
再びカルロに電話した。
獣医の名前で自宅を調べて様子を見てくれと頼む。
「おまえは今どこに向かっている?」
「アダム・グリーンバーグの家に。今、フェンチャーチ・ストリートの駅だ」
間に合わないかもしれない。
応答がなくても、何度も繰り返しアダムに電話し続けた。
11
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
生きている壺
川喜多アンヌ
ホラー
買い取り専門店に勤める大輔に、ある老婦人が壺を置いて行った。どう見てもただの壺。誰も欲しがらない。どうせ売れないからと倉庫に追いやられていたその壺。台風の日、その倉庫で店長が死んだ……。倉庫で大輔が見たものは。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる