わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ

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17 ダイバーシティ的に最悪な職場

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 五時に、パメラが予定表に入れた「ダイバーシティ・トレーニング」に行くことになっていた。

 ホークは業務が残っていたので、行きたくなかった。

 しかし、出席予定者として名前が登録されており、行かないと「職務怠慢」の警告対象になる、と隣のイーサンに言われた。

 十階のセミナー・ルームの入り口で、自分の社員証兼アクセスカードをカードリーダーにかざす。それが出席の証拠になる。

 横長の机が十列ほど並び、五十人位の社員が座っていた。

 全部男だ。二十階のメンバーばかりだ。

 ホークはトレーダーのライアンを見つけ、彼の隣に座った。

 講義は九十分。

 職場に於ける様々な「不快行為」と男女比について。

 しかしブラックベリーが振動し続けるので、大抵の参加者が下を向いて膝の上でメールを打っていた。

 ホークもそれに倣った。そうしながら、昼間人事部でハルと話したことを考えていた。

 ロニーの恋人のことは、カルロ達も把握していなかった。知っていれば当然これまでにコンタクトしていたはずだ。

 いったい何があったのだ。もしロニーを死に追いやった連中が、ジェニファーのことを知っていたとすると――。

 自分の携帯からカルロにメールを送り、人事部のデータに侵入できないか訊いてみた。ハル・タキガワがジェニファー・ハドリルと退職面接した時の記録が読みたい。

 しばらくすると返事が来た。LB証券のITセキュリティーはガードが堅く、侵入を試みると逆に追跡されるからできない、と言われた。

 では、ジェニファー・ハドリルの診療記録を調べてほしいと依頼した。

 そのうち隣のライアンが居眠りを始めた。前の方でも何人か眠りだした。

 だいたい皆朝が早く、日中プレッシャーに晒されて血糖値が低下する時間だ。

 じっと座って、あまり(というか、全然)興味ない話をちんたら聞かされれば、眠くなるのも無理はない。

 一度ライアンの腕を掴んで目を覚まさせたが、そのあとまた眠りだしたので放っておいた。

 二十階はLBの中で最も男女比率に偏りがあり、管理職は全部男が占めている。

 講師によれば「最悪」の職場だ。

 質疑応答になったので誰かが手を挙げた。入社した日にホークが挨拶をしたチーフ・トレーダーだ。

「男女比率と言われても、おれたち数字が主体の商売なんで、稼げる奴を採用しているだけなんで」

 それに対して講師が、女性の採用人数目標の話を始めたので、とたんにブーイングが起こった。

「先生、逆に言うとおれが女でもたぶん採用されました。たまたま男だったんです」

 債券営業の誰かが言ったので、講師以外は皆笑った。

 何が結論だったのかわからないまま時間になった。講義が終わった。

 エレベーターに制限人数ぎりぎりまでぎっしり乗り合わせて、二十階に戻る。

 誰かが誰かに「性転換しろ」と言ったので、皆が笑った。

 廊下を歩いている時、今日執行したロマネスクの指値さしね注文の件をライアンに話した。

「アンドレがよく指値を当てるよな。値幅スプレッドが微妙なんだけど、どこから情報仕入れているんだろう」

 ガラスドアを入る一瞬、ライアンの顔が強張ったように見えた。

「おれはてっきりおまえが勧めているのかと思ったよ」

「いやまさか。あれは向こうの指値だよ」

 ふうんと頷くだけで、ライアンの反応はあまりなかった。
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