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文治から話を聞いた愛華は、まず事故現場に向かった。現場は地元の商店街の一角で、武が横断歩道を渡ろうとしたところ、信号無視の車が突っ込んで来たのだという。
ぶつかった時の衝撃なのだろうか、割れたライトの破片がまだ飛び散ったままになっている現場を、愛華は見回した。
「山本さん。見つかりそうでしょうか?」
文治は不安そうに愛華に聞いた。爆弾を紛失したと通報したのに、捜査する警察官は一人だけ。爆弾で被害が出たらどうなってしまうのだろうか。本来なら、通報者の文治が捜査についてくる事はないのだが、居ても立っても居られない文治が愛華に同行を求めたところ、愛華は同行を断らなかった。
「ええ、なんとかなるかも知れません。ここが商店街で良かった。」
文治にそう答えると、愛華は現場近くの商店にツカツカと歩いていった。
「警察です。監視カメラを拝見します。」
長身で背がビシッと伸びている愛華が、八百屋の親父を見下ろしていた。ロングの髪を一つに纏めていて、眼鏡を掛けている愛華は一見有能な秘書に見えなくもなかったが、無愛想な表情と、提示された警察手帳がそれを否定していた。監視カメラの検閲は任意なのだが、愛華の堂々とした要求に気圧された親父は、はいと頷くしかなかった。
武が事故にあっただいたいの時間は分かっている。その付近の映像をしばらく見た後、愛華は目的の人物を発見した。
「川田さん、見てください。おそらくこの人物です。」
そこにはさり気なくすいかを拾う稲が、バッチリ映っていた。
「おばあさんですね。」
文治は映像を確認するとそう言った。
「八百屋さんは、このおばあさんをご存知ですか?」
プリントアウトされた画像を見て、八百屋の親父は首を捻った。
「何回か見た事はあるけど、名前までは知らないね。」
「分かりました。ご協力ありがとうございました。」
愛華は八百屋の親父に、綺麗に敬礼すると、キビキビとした足取りで店を出た。
「山本さん、これからどうやって探しましょう?」
「聞き込みです。八百屋さんは見た事があると言っていましたので、おばあさんはこの近所に住んでいる可能性が高いです。誰か知っている人がいるかも知れません。」
警察署でのやり取りを見る限り、捜査は難航するだろうなと思っていた文治は、愛華の有能さに感心していた。案外すいかはすぐに見つかるかもしれない。
付近で虱潰しに聞き込んでいると、何件目かで稲の事を知っている人物に当たった。
「ああ、後藤のバアさんだね。ついに何かやらかしたのかい?」
そう言って、中年の女は嬉しそうに笑った。
「少しお話を聞きたいだけです。犯罪の捜査ではありません。」
愛華がそう答えると、女は露骨にがっかりした表情をした。
「なんだ。てっきり泥棒でもしたのかと思ったのに。あんな性格の悪いババァは、刑務所にでも閉じ込めておいたらいいのよ。」
すいかを勝手に持って帰っているので、窃盗はしてますね。と心の中で思いながら、愛華は稲の家の住所を聞き出した。性格に問題のありそうなおばあさんなので、素直にすいかを返してくれると良いなと思いながら。
愛華と文治が稲の家を訪れたのは、日が沈み始めるころだった。年季の入った一軒家のインターホンを押すと、はーい。と返事をして、息子の敏弘が玄関に出てきた。
家族の前ですいかを拾ったか?と聞いたら、嘘をつかれそうな気がしたので、稲だけを呼び出して話を聞く。最初は知らないと言っていたが、そのすいかは爆弾かもしれないと言う事と、すいかを拾った事は罪には問わない事を約束すると、稲は重い口を開いた。
「いや、返すのは構わないんだけど、そのすいかはもう無いんだよ。」
「無いと申しますと?」
「後で孫と食べようと思って、川で冷やしていたらいつの間にか無くなってたのさ。」
バツが悪そうに、そう答える稲の言葉に嘘はなさそうだった。流されたか。愛華は川の下流の方を睨んだ。海まで流れてくれていれば良いが、途中で引っかかってそこで爆発してしまったら・・・。万が一そこに人がいたら・・・。
川を調べるしかない。だが、自分と文治だけではとても調べきれない。人が要る。嫌がられるとか言っている場合ではない。人の命が失われる可能性があるのだ。なんとしてでも警察を動かさなければ。
稲の家を出る頃には、完全に辺りは暗くなっていた。これではすいかを探すことは不可能だ。
「今日はこれ以上無理です。明日にしましょう。」
愛華の言葉に文治は力なく頷いた。すいかを事故現場から持ち出した人物さえ見つかれば、すぐに解決するだろうと思っていただけに落胆は大きい。
一方その頃、川に流されたすいか爆弾は、ちゃぷちゃぷと河口に向かって流れていた。橋の真下にあるゴミ溜まりで、すいかはその動きを止める。そのまま時間が来て、爆発の時を迎えるかに思われた。
「あ、まずい。」
橋の上を通りかかった不運な男性が、躓いて自身の持っているすいかを川に落としてしまった。そのすいかはゴミ溜まりをすり抜けると、河口に向かって流れていった。
慌てて、橋の下を覗き込んだ男性が見たものは、ゴミ溜まりでプカプカ浮いているすいか爆弾だった。落としたすいかが、辛うじてゴミ溜まりに引っかかってくれていたと勘違いをした男性は、なんとかすいかを回収すると、家族の待つ家に帰っていった。
次の日の朝、B町警察署に出勤した愛華は、捜査状況を中島に報告したが、返ってきたのは捜査員を出せないという答えだった。
「中島さんならそう言うと思っていましたよ。」
完全に呆れた顔で愛華は中島の顔を見た。
「泣き言を言う前に、川を浚ってきたらどうですか?今は夏だし、涼しくて気持ちいいかもしれませんよ。」
爪をやすりで手入れしながら、中島は嫌味ったらしく笑った。
「この事件は私の担当だ。中島さんはそうおっしゃいましたよね。」
「ええ、言いましたよ。山本刑事の責任で進めてください。」
中島は責任の部分を強調した。
「では私の責任で、課長にこの件を報告させてもらいますね。」
愛華がそう言うと中島の顔色が変わった。
「待ちなさい。順番を飛ばした報告を組織は受け入れない。課長への報告は私の仕事だ。何年も警察にいて、そんな事も分からないのか君は。」
「知ってますよ。それどころか、警察には仕事をサボる人間もいるって事も知っています。」
そう中島に言った愛華は、彼の目の前にボイスレコーダーを突き出した。
「直接の上司に報告をした証拠は、これで十分でしょう。では、私は忙しいのでこれで失礼します。」
踵を返して去っていこうとした愛華を、中島は慌てて呼び止めた。
「まぁ、待ちたまえ。少し話をしようじゃないですか。」
「何の話があると言うんですか?」
「私もちょっと言いすぎました。謝罪しましょう。」
「ああ、そうですか。それで?」
愛華は、軽蔑しきった目で中島を見た。怒りで中島の目がピクピクと痙攣する。
「上からあなたには捜査状況を教えるなと言われているので黙っていたのですが、猟奇殺人事件の目途がつきそうなんです。」
「だから、後一日だけ待ってくれませか。明日には応援を送ると約束しましょう。」
「明日の13時に、爆弾は爆発してしまうんですよ?」
「そうですね。ギリギリだという事は理解しています。ですが、それが譲歩できる限界です。課長に話してもきっとそう言うと思います。なんなら今から課長と話してもらっても構いませんよ。」
中島の顔は真剣で、その言葉に嘘はないように思えた。
「一応、課長に確認はさせてもらいます。」
そう言い残して愛華はその場を去った。
「お待たせしました。」
疲れた顔で、愛華が文治の元に戻ってきた。
「ダメ、だったんですね。」
愛華の表情を見て文治はそう判断した。
「ダメではないです。ただ、応援が来るのが明日になるだけですよ。」
「やっぱり、警察の人にはいたずらだと思われてるんでしょうね。」
文治は顔を伏せると、自嘲気味に言った。
「私はいたずらだと思っていませんよ。」
「いや、山本さんは・・・。」
文治は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「明日までに私達で見つけられる可能性も残っています。応援が無いなら無いで切り替えていきましょう。」
話し合った結果、愛華と文治は川沿いを車で移動しながら、すいかが無いか探す事にした。
「川田さん。私がどうして警察に入ったかっていう話、しましたっけ。」
「いえ、聞いてません。」
「私、昔から気が弱くて、言いたい事も言えずによく苛められてたんですよ。」
「えっ?」
文治は思わず聞き返してしまった。何でもズバズバと言う愛華の気が弱い?文治の反応が面白かったのか愛華はフフフと笑った。
「今の私を見たら、気が弱いなんて冗談に聞こえると思います。小学生の頃から背が高かったので、大木なんてあだ名をつけられたりして。すごく嫌だったのに、やめてって言う事すらできなくて。」
「そんなある日、小学校のクラスで給食費が盗まれたんです。盗んだのはクラスの優等生で、私ともう一人がそれを目撃しました。」
「私は恐くて言えなかったんですけど、もう一人の子は先生に言ったんです。そしたら、逆にその子が先生に疑われたんです。何故なら、その子の家は貧乏で普段の素行も悪かったからです。」
「その子は職員室で暴れました。善意で報告したのに、疑われたのが悔しかったのでしょう。でも、それが良くなかった。大暴れしたせいで、他の生徒や先生に事件の事が知れ渡ってしまったのです。」
「その子は嘘をついて、優等生に罪をなすりつけようとしているとして、みんなから責められました。でも私だけが真実を知っていました。さすがに黙っているわけにもいかず、みんなに真実を話したのですが、信じてくれなかったんですね。」
「私も一緒に嘘つき呼ばわりされて、虐められました。事情が事情だけに、先生達も積極的に止めようとしてくれませんでした。結局その子は不登校になってしまい、私への虐めは小学生の間続きました。」
「あの時、どうしたら良かったんでしょう。私にもっと発言力があれば良かったのか。諦めずに外部の相談機関を探してみれば良かったのか。その答えを探していたら、警察に入っていました。」
「一緒にしたら失礼かもしれませんが、あの時と今の状況が少しかぶっているような気がするんです。川田さん、私は最後まであなたの味方です。絶対に爆弾を見つけましょう。」
愛華は文治の目を見て、力強く言った。爆弾を見つけるのはもう無理なんじゃないか。半ば諦めていた文治に、その言葉は優しく響いた。
ぶつかった時の衝撃なのだろうか、割れたライトの破片がまだ飛び散ったままになっている現場を、愛華は見回した。
「山本さん。見つかりそうでしょうか?」
文治は不安そうに愛華に聞いた。爆弾を紛失したと通報したのに、捜査する警察官は一人だけ。爆弾で被害が出たらどうなってしまうのだろうか。本来なら、通報者の文治が捜査についてくる事はないのだが、居ても立っても居られない文治が愛華に同行を求めたところ、愛華は同行を断らなかった。
「ええ、なんとかなるかも知れません。ここが商店街で良かった。」
文治にそう答えると、愛華は現場近くの商店にツカツカと歩いていった。
「警察です。監視カメラを拝見します。」
長身で背がビシッと伸びている愛華が、八百屋の親父を見下ろしていた。ロングの髪を一つに纏めていて、眼鏡を掛けている愛華は一見有能な秘書に見えなくもなかったが、無愛想な表情と、提示された警察手帳がそれを否定していた。監視カメラの検閲は任意なのだが、愛華の堂々とした要求に気圧された親父は、はいと頷くしかなかった。
武が事故にあっただいたいの時間は分かっている。その付近の映像をしばらく見た後、愛華は目的の人物を発見した。
「川田さん、見てください。おそらくこの人物です。」
そこにはさり気なくすいかを拾う稲が、バッチリ映っていた。
「おばあさんですね。」
文治は映像を確認するとそう言った。
「八百屋さんは、このおばあさんをご存知ですか?」
プリントアウトされた画像を見て、八百屋の親父は首を捻った。
「何回か見た事はあるけど、名前までは知らないね。」
「分かりました。ご協力ありがとうございました。」
愛華は八百屋の親父に、綺麗に敬礼すると、キビキビとした足取りで店を出た。
「山本さん、これからどうやって探しましょう?」
「聞き込みです。八百屋さんは見た事があると言っていましたので、おばあさんはこの近所に住んでいる可能性が高いです。誰か知っている人がいるかも知れません。」
警察署でのやり取りを見る限り、捜査は難航するだろうなと思っていた文治は、愛華の有能さに感心していた。案外すいかはすぐに見つかるかもしれない。
付近で虱潰しに聞き込んでいると、何件目かで稲の事を知っている人物に当たった。
「ああ、後藤のバアさんだね。ついに何かやらかしたのかい?」
そう言って、中年の女は嬉しそうに笑った。
「少しお話を聞きたいだけです。犯罪の捜査ではありません。」
愛華がそう答えると、女は露骨にがっかりした表情をした。
「なんだ。てっきり泥棒でもしたのかと思ったのに。あんな性格の悪いババァは、刑務所にでも閉じ込めておいたらいいのよ。」
すいかを勝手に持って帰っているので、窃盗はしてますね。と心の中で思いながら、愛華は稲の家の住所を聞き出した。性格に問題のありそうなおばあさんなので、素直にすいかを返してくれると良いなと思いながら。
愛華と文治が稲の家を訪れたのは、日が沈み始めるころだった。年季の入った一軒家のインターホンを押すと、はーい。と返事をして、息子の敏弘が玄関に出てきた。
家族の前ですいかを拾ったか?と聞いたら、嘘をつかれそうな気がしたので、稲だけを呼び出して話を聞く。最初は知らないと言っていたが、そのすいかは爆弾かもしれないと言う事と、すいかを拾った事は罪には問わない事を約束すると、稲は重い口を開いた。
「いや、返すのは構わないんだけど、そのすいかはもう無いんだよ。」
「無いと申しますと?」
「後で孫と食べようと思って、川で冷やしていたらいつの間にか無くなってたのさ。」
バツが悪そうに、そう答える稲の言葉に嘘はなさそうだった。流されたか。愛華は川の下流の方を睨んだ。海まで流れてくれていれば良いが、途中で引っかかってそこで爆発してしまったら・・・。万が一そこに人がいたら・・・。
川を調べるしかない。だが、自分と文治だけではとても調べきれない。人が要る。嫌がられるとか言っている場合ではない。人の命が失われる可能性があるのだ。なんとしてでも警察を動かさなければ。
稲の家を出る頃には、完全に辺りは暗くなっていた。これではすいかを探すことは不可能だ。
「今日はこれ以上無理です。明日にしましょう。」
愛華の言葉に文治は力なく頷いた。すいかを事故現場から持ち出した人物さえ見つかれば、すぐに解決するだろうと思っていただけに落胆は大きい。
一方その頃、川に流されたすいか爆弾は、ちゃぷちゃぷと河口に向かって流れていた。橋の真下にあるゴミ溜まりで、すいかはその動きを止める。そのまま時間が来て、爆発の時を迎えるかに思われた。
「あ、まずい。」
橋の上を通りかかった不運な男性が、躓いて自身の持っているすいかを川に落としてしまった。そのすいかはゴミ溜まりをすり抜けると、河口に向かって流れていった。
慌てて、橋の下を覗き込んだ男性が見たものは、ゴミ溜まりでプカプカ浮いているすいか爆弾だった。落としたすいかが、辛うじてゴミ溜まりに引っかかってくれていたと勘違いをした男性は、なんとかすいかを回収すると、家族の待つ家に帰っていった。
次の日の朝、B町警察署に出勤した愛華は、捜査状況を中島に報告したが、返ってきたのは捜査員を出せないという答えだった。
「中島さんならそう言うと思っていましたよ。」
完全に呆れた顔で愛華は中島の顔を見た。
「泣き言を言う前に、川を浚ってきたらどうですか?今は夏だし、涼しくて気持ちいいかもしれませんよ。」
爪をやすりで手入れしながら、中島は嫌味ったらしく笑った。
「この事件は私の担当だ。中島さんはそうおっしゃいましたよね。」
「ええ、言いましたよ。山本刑事の責任で進めてください。」
中島は責任の部分を強調した。
「では私の責任で、課長にこの件を報告させてもらいますね。」
愛華がそう言うと中島の顔色が変わった。
「待ちなさい。順番を飛ばした報告を組織は受け入れない。課長への報告は私の仕事だ。何年も警察にいて、そんな事も分からないのか君は。」
「知ってますよ。それどころか、警察には仕事をサボる人間もいるって事も知っています。」
そう中島に言った愛華は、彼の目の前にボイスレコーダーを突き出した。
「直接の上司に報告をした証拠は、これで十分でしょう。では、私は忙しいのでこれで失礼します。」
踵を返して去っていこうとした愛華を、中島は慌てて呼び止めた。
「まぁ、待ちたまえ。少し話をしようじゃないですか。」
「何の話があると言うんですか?」
「私もちょっと言いすぎました。謝罪しましょう。」
「ああ、そうですか。それで?」
愛華は、軽蔑しきった目で中島を見た。怒りで中島の目がピクピクと痙攣する。
「上からあなたには捜査状況を教えるなと言われているので黙っていたのですが、猟奇殺人事件の目途がつきそうなんです。」
「だから、後一日だけ待ってくれませか。明日には応援を送ると約束しましょう。」
「明日の13時に、爆弾は爆発してしまうんですよ?」
「そうですね。ギリギリだという事は理解しています。ですが、それが譲歩できる限界です。課長に話してもきっとそう言うと思います。なんなら今から課長と話してもらっても構いませんよ。」
中島の顔は真剣で、その言葉に嘘はないように思えた。
「一応、課長に確認はさせてもらいます。」
そう言い残して愛華はその場を去った。
「お待たせしました。」
疲れた顔で、愛華が文治の元に戻ってきた。
「ダメ、だったんですね。」
愛華の表情を見て文治はそう判断した。
「ダメではないです。ただ、応援が来るのが明日になるだけですよ。」
「やっぱり、警察の人にはいたずらだと思われてるんでしょうね。」
文治は顔を伏せると、自嘲気味に言った。
「私はいたずらだと思っていませんよ。」
「いや、山本さんは・・・。」
文治は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「明日までに私達で見つけられる可能性も残っています。応援が無いなら無いで切り替えていきましょう。」
話し合った結果、愛華と文治は川沿いを車で移動しながら、すいかが無いか探す事にした。
「川田さん。私がどうして警察に入ったかっていう話、しましたっけ。」
「いえ、聞いてません。」
「私、昔から気が弱くて、言いたい事も言えずによく苛められてたんですよ。」
「えっ?」
文治は思わず聞き返してしまった。何でもズバズバと言う愛華の気が弱い?文治の反応が面白かったのか愛華はフフフと笑った。
「今の私を見たら、気が弱いなんて冗談に聞こえると思います。小学生の頃から背が高かったので、大木なんてあだ名をつけられたりして。すごく嫌だったのに、やめてって言う事すらできなくて。」
「そんなある日、小学校のクラスで給食費が盗まれたんです。盗んだのはクラスの優等生で、私ともう一人がそれを目撃しました。」
「私は恐くて言えなかったんですけど、もう一人の子は先生に言ったんです。そしたら、逆にその子が先生に疑われたんです。何故なら、その子の家は貧乏で普段の素行も悪かったからです。」
「その子は職員室で暴れました。善意で報告したのに、疑われたのが悔しかったのでしょう。でも、それが良くなかった。大暴れしたせいで、他の生徒や先生に事件の事が知れ渡ってしまったのです。」
「その子は嘘をついて、優等生に罪をなすりつけようとしているとして、みんなから責められました。でも私だけが真実を知っていました。さすがに黙っているわけにもいかず、みんなに真実を話したのですが、信じてくれなかったんですね。」
「私も一緒に嘘つき呼ばわりされて、虐められました。事情が事情だけに、先生達も積極的に止めようとしてくれませんでした。結局その子は不登校になってしまい、私への虐めは小学生の間続きました。」
「あの時、どうしたら良かったんでしょう。私にもっと発言力があれば良かったのか。諦めずに外部の相談機関を探してみれば良かったのか。その答えを探していたら、警察に入っていました。」
「一緒にしたら失礼かもしれませんが、あの時と今の状況が少しかぶっているような気がするんです。川田さん、私は最後まであなたの味方です。絶対に爆弾を見つけましょう。」
愛華は文治の目を見て、力強く言った。爆弾を見つけるのはもう無理なんじゃないか。半ば諦めていた文治に、その言葉は優しく響いた。
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