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第16章
127 生きる理由 【挿絵あり】
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私と凌遅は、しばらくレストハウスの玄関前に留まっていた。
ショックで動けなかったわけじゃない。この場所で確かめておきたいことがあった。
「私って、生きていて良い人間だと思いますか」
ある疑問が私の口を衝いた。
「どうした。藪から棒に」
凌遅は海の方角を眺めながら返す。
「単純にあなたの意見が聞きたいんです」
「君は、生きているべきじゃないと思うのか」
彼のストレートな問いに思わず口ごもったが、私はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「……母があんなサイトを作らなければ、LR×Dは存在しなかったかも知れません。それを引き継いだ父のせいで多くの人が殺されて……その二人も、もうこの世にいなくなってしまいました。そんな人達の血を引く私だけが生きていることに、何の意味があるんだろうって……」
「最初から森羅万象に意味などない」
凌遅は極めて端的に喝破する。
「だが、誰も“自分という存在の無価値ぶり”に気付きたくないから、適当な理由を作って命の尊さを謳いたがる。それだけのことだ。皆がそうなら、君と言う存在のみを論う必要はない」
「…………」
私が黙っていると、彼はこちらを振り返り、思いがけないことを言った。
「俺はそんなことで悩んだためしがないから、君の言動の逐一が新鮮で飽きない」
「え……?」
「ヴィネは君の話をする時、いつも“妹ができたみたいで嬉しい”と言っていた。君の父親は、動機はさておき “君の将来”を考えて動いていた。そしてあの人は、君を“宝物”だと話していた」
言いながら彼は、持参していた道具袋の中からあのキャンディー缶を探し当て、その底から一枚のポートレートを引き出す。
頭に花の飾りをつけた赤ん坊の写真だった。一目見て、私自身だと気付いた。その赤ん坊がつけていた花の飾りが、母特製のストラップと同じデザインだったからだ。
「モチーフに見覚えはないか」
「ピンポンマム、ですか」
凌遅はうなずく。
「ピンポンマムの花言葉は“高貴”、“真実”、“私を信じて”、“君を愛す”──だそうだ」
私が顔を上げると、彼は微笑し、言った。
「君は、望まれてここにいる。生きる理由などそれで十分だよ、バーデン・バーデンの処女」
「……っ」
写真を受け取った私は、声を上げて泣いた。
ショックで動けなかったわけじゃない。この場所で確かめておきたいことがあった。
「私って、生きていて良い人間だと思いますか」
ある疑問が私の口を衝いた。
「どうした。藪から棒に」
凌遅は海の方角を眺めながら返す。
「単純にあなたの意見が聞きたいんです」
「君は、生きているべきじゃないと思うのか」
彼のストレートな問いに思わず口ごもったが、私はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「……母があんなサイトを作らなければ、LR×Dは存在しなかったかも知れません。それを引き継いだ父のせいで多くの人が殺されて……その二人も、もうこの世にいなくなってしまいました。そんな人達の血を引く私だけが生きていることに、何の意味があるんだろうって……」
「最初から森羅万象に意味などない」
凌遅は極めて端的に喝破する。
「だが、誰も“自分という存在の無価値ぶり”に気付きたくないから、適当な理由を作って命の尊さを謳いたがる。それだけのことだ。皆がそうなら、君と言う存在のみを論う必要はない」
「…………」
私が黙っていると、彼はこちらを振り返り、思いがけないことを言った。
「俺はそんなことで悩んだためしがないから、君の言動の逐一が新鮮で飽きない」
「え……?」
「ヴィネは君の話をする時、いつも“妹ができたみたいで嬉しい”と言っていた。君の父親は、動機はさておき “君の将来”を考えて動いていた。そしてあの人は、君を“宝物”だと話していた」
言いながら彼は、持参していた道具袋の中からあのキャンディー缶を探し当て、その底から一枚のポートレートを引き出す。
頭に花の飾りをつけた赤ん坊の写真だった。一目見て、私自身だと気付いた。その赤ん坊がつけていた花の飾りが、母特製のストラップと同じデザインだったからだ。
「モチーフに見覚えはないか」
「ピンポンマム、ですか」
凌遅はうなずく。
「ピンポンマムの花言葉は“高貴”、“真実”、“私を信じて”、“君を愛す”──だそうだ」
私が顔を上げると、彼は微笑し、言った。
「君は、望まれてここにいる。生きる理由などそれで十分だよ、バーデン・バーデンの処女」
「……っ」
写真を受け取った私は、声を上げて泣いた。
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