bias わたしが、カレを殺すまで。

帆足 じれ

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第15章

120 来た!

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「──バエル、あなたはもうじき、すべてを失う」

 がらんとしたホールに凌遅の言葉が響いた後、数秒間の空白があった。あまりに唐突且つ意外な話だったため、聞いていた者達の頭が一時的にフリーズしたのだと思う。

「うん?」

 バエルは軽く首を傾げ、視線をゆっくり落としながら、その言葉の意味を理解しようとしているようだった。

 静かな空間に、風の音がさざ波のように打ち寄せる。やがて、その合間に微かな振動音が交じり始める。

 ヴ―……ヴ―……ヴ―……

 テーブルの上に無造作に置かれたままになっていたバエルの携帯端末が、何度も振動を繰り返している。彼はちらと画面を一瞥すると、黙ってそれをポケットにしまう。
 なおも端末は振動し続けている。先方はよほど急ぎの用なのだろう。憶測に過ぎないが、相手はあの献身的な副代表のような気がする。

「出ないんですか」

 凌遅は真っ直ぐにバエルを見る。いつもの如く、得体の知れないガラス球の目が彼を捉えている。
 バエルは穏やかな表情を貼り付けた顔で「今は、君の話の方が大切です」と言うと、矢のような視線を返した。

「……さっきの話、どういう意味か、もう一度説明してくれますか」

 聞き慣れた優しい声だ。
 しかし、内側から滲む攻撃的な気配が、私の皮膚をビリビリと刺激してくる。

「構いませんが、電話に出た方が良いと思いますよ。ベルフェゴールが教えてくれるはずです」

 凌遅が水を向ける。
 だがバエルは視線を離さず、「僕は、君の口から聴きたいんですよ。いいから話を進めてください」と返した。

「そうですか」

 凌遅は軽く息を吐くと、手にしていた携帯端末をテーブルの上に伏せ、居住まいを正す。

「では、遠慮なく」

 来た──! ついに、彼の“仕掛け”が発動するのだ。
 この至上の処刑人が何を仕込んでいて、これから何が起こるのか……私には想像が付かない。でもすべてがひっくり返るほどの大事であることは間違いがない。

 不安と期待が同時に神経を揺さぶる。
 空気が張り詰め、熱中症要警戒の猛暑日だというのに鳥肌が止まらない。
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