132 / 151
第15章
120 来た!
しおりを挟む
「──バエル、あなたはもうじき、すべてを失う」
がらんとしたホールに凌遅の言葉が響いた後、数秒間の空白があった。あまりに唐突且つ意外な話だったため、聞いていた者達の頭が一時的にフリーズしたのだと思う。
「うん?」
バエルは軽く首を傾げ、視線をゆっくり落としながら、その言葉の意味を理解しようとしているようだった。
静かな空間に、風の音がさざ波のように打ち寄せる。やがて、その合間に微かな振動音が交じり始める。
ヴ―……ヴ―……ヴ―……
テーブルの上に無造作に置かれたままになっていたバエルの携帯端末が、何度も振動を繰り返している。彼はちらと画面を一瞥すると、黙ってそれをポケットにしまう。
なおも端末は振動し続けている。先方はよほど急ぎの用なのだろう。憶測に過ぎないが、相手はあの献身的な副代表のような気がする。
「出ないんですか」
凌遅は真っ直ぐにバエルを見る。いつもの如く、得体の知れないガラス球の目が彼を捉えている。
バエルは穏やかな表情を貼り付けた顔で「今は、君の話の方が大切です」と言うと、矢のような視線を返した。
「……さっきの話、どういう意味か、もう一度説明してくれますか」
聞き慣れた優しい声だ。
しかし、内側から滲む攻撃的な気配が、私の皮膚をビリビリと刺激してくる。
「構いませんが、電話に出た方が良いと思いますよ。ベルフェゴールが教えてくれるはずです」
凌遅が水を向ける。
だがバエルは視線を離さず、「僕は、君の口から聴きたいんですよ。いいから話を進めてください」と返した。
「そうですか」
凌遅は軽く息を吐くと、手にしていた携帯端末をテーブルの上に伏せ、居住まいを正す。
「では、遠慮なく」
来た──! ついに、彼の“仕掛け”が発動するのだ。
この至上の処刑人が何を仕込んでいて、これから何が起こるのか……私には想像が付かない。でもすべてがひっくり返るほどの大事であることは間違いがない。
不安と期待が同時に神経を揺さぶる。
空気が張り詰め、熱中症要警戒の猛暑日だというのに鳥肌が止まらない。
がらんとしたホールに凌遅の言葉が響いた後、数秒間の空白があった。あまりに唐突且つ意外な話だったため、聞いていた者達の頭が一時的にフリーズしたのだと思う。
「うん?」
バエルは軽く首を傾げ、視線をゆっくり落としながら、その言葉の意味を理解しようとしているようだった。
静かな空間に、風の音がさざ波のように打ち寄せる。やがて、その合間に微かな振動音が交じり始める。
ヴ―……ヴ―……ヴ―……
テーブルの上に無造作に置かれたままになっていたバエルの携帯端末が、何度も振動を繰り返している。彼はちらと画面を一瞥すると、黙ってそれをポケットにしまう。
なおも端末は振動し続けている。先方はよほど急ぎの用なのだろう。憶測に過ぎないが、相手はあの献身的な副代表のような気がする。
「出ないんですか」
凌遅は真っ直ぐにバエルを見る。いつもの如く、得体の知れないガラス球の目が彼を捉えている。
バエルは穏やかな表情を貼り付けた顔で「今は、君の話の方が大切です」と言うと、矢のような視線を返した。
「……さっきの話、どういう意味か、もう一度説明してくれますか」
聞き慣れた優しい声だ。
しかし、内側から滲む攻撃的な気配が、私の皮膚をビリビリと刺激してくる。
「構いませんが、電話に出た方が良いと思いますよ。ベルフェゴールが教えてくれるはずです」
凌遅が水を向ける。
だがバエルは視線を離さず、「僕は、君の口から聴きたいんですよ。いいから話を進めてください」と返した。
「そうですか」
凌遅は軽く息を吐くと、手にしていた携帯端末をテーブルの上に伏せ、居住まいを正す。
「では、遠慮なく」
来た──! ついに、彼の“仕掛け”が発動するのだ。
この至上の処刑人が何を仕込んでいて、これから何が起こるのか……私には想像が付かない。でもすべてがひっくり返るほどの大事であることは間違いがない。
不安と期待が同時に神経を揺さぶる。
空気が張り詰め、熱中症要警戒の猛暑日だというのに鳥肌が止まらない。
6
☆拙作に目を留めていただき、本当にありがとうございます。励みになりますので、もし何かしら刺さりましたら、是非とも『いいね』・『お気に入りに追加』をお願いいたします。感想も大歓迎です!
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる