bias わたしが、カレを殺すまで。

帆足 じれ

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第15章

118 愛犬家 ② ☆

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 実は先日、を見たんだ。世にも美しくて、どことなくジョリィに似ていた。見た目も、性格もね。勝手に重ねて懐かしくなってしまったよ。
 やはり、ジョリィはワタシにとって特別な犬なんだと実感させてもらえた気がして、良い経験ができた。

 さて、ずいぶん前置きが長くなってしまって悪かったね。本題に移ろう。
 ここからは、ワタシの信念にかかわることだ。

 世の中には多種多様な価値観があり、基本的にはそのすべてが尊重されるべきだと思っている。たとえ自分には到底理解できなくとも、誰かにとっては譲れないことだったりするからねえ。ワタシの嗜好もまさにそうだ。

 何にせよ、よく知りもせず否定だけするというのは、ひどく身勝手で己の狭量さを知らしめる行為に過ぎない。まずは一旦受容し咀嚼することで、イノベーションに繋がっていく──自分のルーツで悩んだこともあったから、ずっとそう胸に刻んで生きてきた。

 だけど、物事には限度ってものがある。そして、どれほど頭で理解しようとも、到底我慢ならないことは存在する。そうだろう?

 いくら主人と言えど、を虐待していいはずはないねえ。

 彼とはそれなりに長い付き合いだから、ワタシがどれだけ犬を愛しているか幾度となく伝えていたつもりだったんだが、何も聞いていなかったようだ。
 だから、愛犬家の前でができるんだろうよ。

 犬に限った話じゃないな。ワタシはねえ、何かを囲っておきながら相応の愛情を注がない人間は、地獄に落ちればいいと思っている。ビジネスでもそうだが、身内を尊重し守る覚悟のない者に、“群れ”を率いる資格などないんだ……。

 おや、そんなに険しい顔をしていたかい。ワタシもまだまだ未熟者だな。
 だが、こちらの言いたいことは伝わったようだねえ。お前さんなら、きっと酌んでくれると思ったよ。

 それで、ワタシには何ができるかねえ? 
 ふーん、そうか。長期戦になるねえ。
 いや、構わない。付き合うよ。何を隠そう、ワタシもんだ。こんなことでもなけりゃ、永遠に拝めそうにないからねえ。

 Hochmut kommt vor dem Fall. 
 でも、彼が気付いているとは思えない。

 ああ、これは今から楽しみだ。金に糸目は付けない。人も出すよ。だから、うまくやっておくれ。

 しかし、気遣わしいのはのことだねえ。“この計画”が成就しても、しなくても、カレにとっては不幸に変わりない。

 フッフッ、ワタシが善人に見えるかい。そんなつもりはまったくないよ。ただ、嵐に巻き込まれるしかないカレが、あまりに不憫だからねえ。
 ジョリィを重ねてしまった以上、できる限りのサポートはする予定だけど、果たしてそれが救いになるのか……甚だ、疑問だねえ。

 おっと、もうこんな時間か。続きは、またにしよう。これから連れ合いと食事に行くんだ。もちろん愛犬このコ達も一緒にね。
 さっきも言ったが、ワタシは家族や仲間、そしてに対して、惜しみない愛情を注ぐ主義なんだよ。

 だけど、それ以外のモノにはさほど興味がない。
 況して、尊敬に値しない者に、かける情けはないんだ。ほんの爪の先ほどもね……。



 ※Hochmut kommt vor dem Fall. はドイツのことわざで、「傲慢は破滅の前触れ(驕れる者は久しからず)」。
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