bias わたしが、カレを殺すまで。

帆足 じれ

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第13章

108 ベルフェゴールの回想 ⑥ ♤

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 あれから5年が経った。ディーテさんが趣味で始めたアングラ系コミュニティサイト・フィンブルヴェトは、LR×Dリンガリングデスと名前を変え、大勢の顧客を抱える本格的な会員制殺人サイトへと進化を遂げた。

 長かった。ここに至るまで、いろいろなものを犠牲にしてきた……。

 最後にバランスの良い食事を摂ったのはいつだったろう。俺は食いものにあまりこだわりがないから、毎食、簡単にエネルギー補給ができる菓子類や栄養ドリンク、蜂蜜なんかで適当に腹を満たしている。
 特にブドウ糖と焼き菓子は欠かせないが、あの日以来、マドレーヌだけは食べる気がしなくなった。あれを見ると、ディーテさんの無邪気な笑顔が思い出されて、自分のしたことは正しかったのだという自信が揺らぐ。
 バエルさんがあんなに感謝してくれたことだ。悩む必要ないはずなんやけどな……。

 長年の不摂生が祟ってか、近頃、無理がきかなくなってきたから、俺が今の業務品質を維持できるのはあと数年だろうと踏んでいる。その間に一つでも多く、バエルさんの理想を実現させる。
 休んでいる暇など一瞬もない。可能な限り無駄を排し、合理的に事を運ばねばあっという間にガス欠になるとわかっているからだ。

 ところが少し前、日々フルスロットルで仕事をこなす俺に、バエルさんが信じがたい話を振ってきた。

「今度、娘をLR×Dに加えることにしたよ。教育係は、凌遅くんに任せるつもりだ」

 これは決定事項らしい。
 俺は頭を抱えた。娘はまだ高校生だ。殺しのスキルもなければ、裏で生きて行く覚悟も決意もない。そんな者を入会させたら場が混乱し、統制が取れなくなるのは目に見えている。
 いくらバエルさんの意向でも、さすがに承服し兼ねる。

 だが、こそ彼がディーテさんと決定的にたもとを分かつ原因となり、俺が彼女を手に掛けた理由にも繋がっていたので、最終的には受け入れるしかなかった。

 とは言え、ただ手をこまねいているつもりはない。もし娘の存在理由がわからない場合、を使って始末する。たとえバエルさんの娘でも、組織にとって害となる存在は取り除かねばならない。

 彼女は普通の女子高生だから、あの男と引き離しさえすれば、一瞬でかたが付く。
 そう高を括っていたが、俺が差し向けた刺客は総崩れになった。警戒すべきはあの男で娘は戦力外だと思いきや、彼女は能動的に動いてすべて退け、最悪の神経剤すら克服した。潜在的な能力が高い。
 それに、裏社会の人間を取り込むカリスマ性のようなものがあるらしい。そうでなければ、要所要所で都合よく救いの手が伸びるはずはない。
 さすがはの娘と言うべきか……。

 処刑人として機能するのであれば、彼女がLR×Dに籍を置く理由にはなるが、忌々しいことには変わりない。
 娘に対し、こんがあるのは認める。両親の愛情を一身に受けて育ち、どことなくディーテさんの面影を宿す彼女がLR×D俺達の庭を横行闊歩するのは耐え難い。

 その上、バエルさんに目をかけられている凌遅が教育係を務めるとなれば、俺の苛立ちをより先鋭化させるのはわかりきっている。
 あの男は天才だ。生まれながらにして人並外れた才能を持ち合わせている。俺が死ぬ気で努力しても、一生あの男には及ばない。正味、ムカつく……しかし、奴が広告塔となり、集客に多大な貢献をしたのは事実だ。
 娘にしてもそうだ。巧く使えば、組織の役に立ってくれると割り切って泳がせるのが正解なのだろう。精神的に消耗しそうだが、辛抱すべきなのかも知れない。

 懸念材料は他にもある。ここしばらくの間に、使える人間が軒並み減ってしまったことだ。まるで図ったかのように絶妙なタイミングで引き抜かれたり、仕事を覚えさせた途端、謎に死んだり飛んだりで人材が育つ暇がない。そして、相対的に俺の業務負荷がデカくなる。
 しかも、バエルさんから“あるアイデアを形にしたい”と仰せつかったばかりだ。ただでさえ専門外過ぎて詰みかけてるのに……本当に勘弁して欲しい。
 トゥクルカに指摘された通り、人が去るのは俺の人望の無さ故かも知れないが、こちらの知らないところでが働いているのではないだろうかと勘繰りたくなる。

 まあええわ。まだ時間あるし、最悪くたばる前までに何とかしたらええんや。
 明日、死ぬかもわかれへんけど……。
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