bias わたしが、カレを殺すまで。

帆足 じれ

文字の大きさ
上 下
99 / 151
第11章

90 興味があるだけ

しおりを挟む
「──バーデン・バーデンの処女さん、大丈夫っすか?」

 ふと顔を上げると、心配そうな表情を浮かべたアムミトがいた。

「ほっぺ、すごいことになってます。病院戻るなら送るっすけど……」

「いえ、大丈夫です。すぐ治ると思いますから」

 すると彼はポケットの中からポーチを取り出し、「じゃあ、痛み止めいります? ロキソプロフェン系しかないんすけど」と訊いてきた。
 彼が手にしているのは、メジャーな市販の解熱鎮痛薬だ。何故、そんなものを持っているのかと問うと、交際中の彼女の生理痛が酷いため、常備しているうち持ち歩くのが習い性になったとのことだった。
 申し訳ないと思い、断ろうとしたら、「気にしないでください。自分が誘ったせいでこんなんなったと思うんで……逆に、サーセン」と頭を下げられた。

「もらっときな。痛みも緩和するだろう」

 凌遅がそう言うのでお礼を言って受け取り、早速ペットボトルの水で飲んだ。

 アムミトには悪いことをした。せっかく気を利かせてくれたというのに、私が暴走したせいで迷惑をかけてしまった。その旨を詫びると、「全然いいっす。全部勉強なんで」と返された。
 彼の言動は軽いが、そこはかとなく誠意を感じる。交際相手への気遣いも然り、この人はどの業界に行っても大丈夫そうだなと思った。


 痛みが落ち着いた時点で私達は公園を後にした。エアコンの利いた車内は涼しく、すぐに心地好い眠気に見舞われる。
 私が目を閉じ、リラックスし始めた頃、ハンドルを握るアムミトが話し掛けてきた。

「お二人は、付き合わないんすか?」

 いきなり何を言い出すんだ、この人は……。

「…………」

 質問の意味がわからなかったので、私は空寝入りをして様子を窺うことにした。

「けっこう長い期間、同棲してるんすよね」

 凌遅は予想通り「俺は彼女の教育係 兼 相棒だ。それ以上でも以下でもない。あと、同棲じゃなくて同居な」との答えを返した。

「そうなんすか。相性良さそっすけどね」

 アムミトはあっけらかんと所見を述べる。

「あれ……てことは、エッチもしてないんすか?」

「…………」

 本当に何を言っているんだ、この人は……。顔から火が出そうになりながら、私は必死に寝たふりを続ける。

「考えたこともなかったな」

「えー、現役女子高生ウマそーとか思わないんすか?」

「君は思うタイプか」

「いや、自分は年上好きだし、彼女いるんでそれはナイっすけど、一般論てヤツっす。バーデン・バーデンの処女さんて、地味系だけど胸デカくてなんかエロいっすよね」

 頼むから、口を閉じてくれ……。恥ずかしさを噛み殺し、私が居心地の悪い思いをしていると、凌遅は「俺は思わないな」と返した。
 続けて、「それに、俺達の場合は出会い方が特殊過ぎた。こんな状況下で性的に意識し合う方が異常だと言えるだろう」と、普段の調子で一蹴する。この、判で押したような淡々とした対応が、今は非常にありがたい。

「凌遅さん、仏過ぎっす。マジで人生何周目なんすか。てか、あれっすか。作品の“素材”として興味あるって感じすか?」

 なおも際どい質問を続けるアムミトに、凌遅は言った。

「俺は中立の観点で彼女の行く末を見ていたいんだ。この子がによって、俺の立ち位置も変わると思っている」

 私がどちらに向かうか──何度も聞いた言葉だが、その意味するところは未だ不明のままだ。

「じゃ、彼女が凌遅さんの望んでない方に進んじゃったら、どうなるんすか?」

 凌遅の口から出たのは「俺は何も望んでやしない。ただ、興味があるだけなんだ」というシンプルな答えだった。

「だからどんな結果になろうとも、ああそうかと受け入れるのみだよ」

「え、立ち位置が変わるんじゃないんすか?」

 畳み掛けられた彼は、小さく意味ありげな笑声を漏らすと、シートに背中を預けた。

 新たな発見に繋がるのではと期待したが、混迷を深めただけだった。この意味が明らかになる日は来るのだろうか。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔女の虚像

睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。 彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。 事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。 ●エブリスタにも掲載しています

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...