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第11章
90 興味があるだけ
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「──バーデン・バーデンの処女さん、大丈夫っすか?」
ふと顔を上げると、心配そうな表情を浮かべたアムミトがいた。
「ほっぺ、すごいことになってます。病院戻るなら送るっすけど……」
「いえ、大丈夫です。すぐ治ると思いますから」
すると彼はポケットの中からポーチを取り出し、「じゃあ、痛み止めいります? ロキソプロフェン系しかないんすけど」と訊いてきた。
彼が手にしているのは、メジャーな市販の解熱鎮痛薬だ。何故、そんなものを持っているのかと問うと、交際中の彼女の生理痛が酷いため、常備しているうち持ち歩くのが習い性になったとのことだった。
申し訳ないと思い、断ろうとしたら、「気にしないでください。自分が誘ったせいでこんなんなったと思うんで……逆に、サーセン」と頭を下げられた。
「もらっときな。痛みも緩和するだろう」
凌遅がそう言うのでお礼を言って受け取り、早速ペットボトルの水で飲んだ。
アムミトには悪いことをした。せっかく気を利かせてくれたというのに、私が暴走したせいで迷惑をかけてしまった。その旨を詫びると、「全然いいっす。全部勉強なんで」と返された。
彼の言動は軽いが、そこはかとなく誠意を感じる。交際相手への気遣いも然り、この人はどの業界に行っても大丈夫そうだなと思った。
痛みが落ち着いた時点で私達は公園を後にした。エアコンの利いた車内は涼しく、すぐに心地好い眠気に見舞われる。
私が目を閉じ、リラックスし始めた頃、ハンドルを握るアムミトが話し掛けてきた。
「お二人は、付き合わないんすか?」
いきなり何を言い出すんだ、この人は……。
「…………」
質問の意味がわからなかったので、私は空寝入りをして様子を窺うことにした。
「けっこう長い期間、同棲してるんすよね」
凌遅は予想通り「俺は彼女の教育係 兼 相棒だ。それ以上でも以下でもない。あと、同棲じゃなくて同居な」との答えを返した。
「そうなんすか。相性良さそっすけどね」
アムミトはあっけらかんと所見を述べる。
「あれ……てことは、エッチもしてないんすか?」
「…………」
本当に何を言っているんだ、この人は……。顔から火が出そうになりながら、私は必死に寝たふりを続ける。
「考えたこともなかったな」
「えー、現役女子高生ウマそーとか思わないんすか?」
「君は思うタイプか」
「いや、自分は年上好きだし、彼女いるんでそれはナイっすけど、一般論てヤツっす。バーデン・バーデンの処女さんて、地味系だけど胸デカくてなんかエロいっすよね」
頼むから、口を閉じてくれ……。恥ずかしさを噛み殺し、私が居心地の悪い思いをしていると、凌遅は「俺は思わないな」と返した。
続けて、「それに、俺達の場合は出会い方が特殊過ぎた。こんな状況下で性的に意識し合う方が異常だと言えるだろう」と、普段の調子で一蹴する。この、判で押したような淡々とした対応が、今は非常にありがたい。
「凌遅さん、仏過ぎっす。マジで人生何周目なんすか。てか、あれっすか。作品の“素材”として興味あるって感じすか?」
なおも際どい質問を続けるアムミトに、凌遅は言った。
「俺は中立の観点で彼女の行く末を見ていたいんだ。この子がどちらに向かうかによって、俺の立ち位置も変わると思っている」
私がどちらに向かうか──何度も聞いた言葉だが、その意味するところは未だ不明のままだ。
「じゃ、彼女が凌遅さんの望んでない方に進んじゃったら、どうなるんすか?」
凌遅の口から出たのは「俺は何も望んでやしない。ただ、興味があるだけなんだ」というシンプルな答えだった。
「だからどんな結果になろうとも、ああそうかと受け入れるのみだよ」
「え、立ち位置が変わるんじゃないんすか?」
畳み掛けられた彼は、小さく意味ありげな笑声を漏らすと、シートに背中を預けた。
新たな発見に繋がるのではと期待したが、混迷を深めただけだった。この意味が明らかになる日は来るのだろうか。
ふと顔を上げると、心配そうな表情を浮かべたアムミトがいた。
「ほっぺ、すごいことになってます。病院戻るなら送るっすけど……」
「いえ、大丈夫です。すぐ治ると思いますから」
すると彼はポケットの中からポーチを取り出し、「じゃあ、痛み止めいります? ロキソプロフェン系しかないんすけど」と訊いてきた。
彼が手にしているのは、メジャーな市販の解熱鎮痛薬だ。何故、そんなものを持っているのかと問うと、交際中の彼女の生理痛が酷いため、常備しているうち持ち歩くのが習い性になったとのことだった。
申し訳ないと思い、断ろうとしたら、「気にしないでください。自分が誘ったせいでこんなんなったと思うんで……逆に、サーセン」と頭を下げられた。
「もらっときな。痛みも緩和するだろう」
凌遅がそう言うのでお礼を言って受け取り、早速ペットボトルの水で飲んだ。
アムミトには悪いことをした。せっかく気を利かせてくれたというのに、私が暴走したせいで迷惑をかけてしまった。その旨を詫びると、「全然いいっす。全部勉強なんで」と返された。
彼の言動は軽いが、そこはかとなく誠意を感じる。交際相手への気遣いも然り、この人はどの業界に行っても大丈夫そうだなと思った。
痛みが落ち着いた時点で私達は公園を後にした。エアコンの利いた車内は涼しく、すぐに心地好い眠気に見舞われる。
私が目を閉じ、リラックスし始めた頃、ハンドルを握るアムミトが話し掛けてきた。
「お二人は、付き合わないんすか?」
いきなり何を言い出すんだ、この人は……。
「…………」
質問の意味がわからなかったので、私は空寝入りをして様子を窺うことにした。
「けっこう長い期間、同棲してるんすよね」
凌遅は予想通り「俺は彼女の教育係 兼 相棒だ。それ以上でも以下でもない。あと、同棲じゃなくて同居な」との答えを返した。
「そうなんすか。相性良さそっすけどね」
アムミトはあっけらかんと所見を述べる。
「あれ……てことは、エッチもしてないんすか?」
「…………」
本当に何を言っているんだ、この人は……。顔から火が出そうになりながら、私は必死に寝たふりを続ける。
「考えたこともなかったな」
「えー、現役女子高生ウマそーとか思わないんすか?」
「君は思うタイプか」
「いや、自分は年上好きだし、彼女いるんでそれはナイっすけど、一般論てヤツっす。バーデン・バーデンの処女さんて、地味系だけど胸デカくてなんかエロいっすよね」
頼むから、口を閉じてくれ……。恥ずかしさを噛み殺し、私が居心地の悪い思いをしていると、凌遅は「俺は思わないな」と返した。
続けて、「それに、俺達の場合は出会い方が特殊過ぎた。こんな状況下で性的に意識し合う方が異常だと言えるだろう」と、普段の調子で一蹴する。この、判で押したような淡々とした対応が、今は非常にありがたい。
「凌遅さん、仏過ぎっす。マジで人生何周目なんすか。てか、あれっすか。作品の“素材”として興味あるって感じすか?」
なおも際どい質問を続けるアムミトに、凌遅は言った。
「俺は中立の観点で彼女の行く末を見ていたいんだ。この子がどちらに向かうかによって、俺の立ち位置も変わると思っている」
私がどちらに向かうか──何度も聞いた言葉だが、その意味するところは未だ不明のままだ。
「じゃ、彼女が凌遅さんの望んでない方に進んじゃったら、どうなるんすか?」
凌遅の口から出たのは「俺は何も望んでやしない。ただ、興味があるだけなんだ」というシンプルな答えだった。
「だからどんな結果になろうとも、ああそうかと受け入れるのみだよ」
「え、立ち位置が変わるんじゃないんすか?」
畳み掛けられた彼は、小さく意味ありげな笑声を漏らすと、シートに背中を預けた。
新たな発見に繋がるのではと期待したが、混迷を深めただけだった。この意味が明らかになる日は来るのだろうか。
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