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第11章
85 方途
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仕方なくりんごの皮を剥き、一人で食べた。
それだけでは物足りなかったので、松葉杖を突きながらコンテナまで移動し、凌遅に声をかける。
「りんご、剥いたら食べてくれますか」
「ああ、付き合うよ」
彼がそう言うので、私はりんごを3つ取ってベッドに戻った。
「ウサギにできるか」
凌遅が意外なリクエストをしてきた。
「挑戦したことはありませんが、できそうな気はします」
「じゃあ、やってみてくれ」
これも練習になるだろうと思い、私は初めての“ウサギりんご”作りを試みる。工作が不得手な自覚はあるが、剥き方自体は決して難しくないためイケると思った。
しかし、出来上がったものは、果てしなくブサイクな“ウサギのようなナニカ”だった。
「ウサギかと思ったらツチブタだったレベルの衝撃だな。こんな単純なものが、何をどうしたらこの造形になるんだ……」
凌遅はその“ナニカ”を眺めながら、不思議そうに首を傾げる。
「聖護院大根はそこそこ切れていたし、俺の枕元で剥いていた時はもう少しまともな形だったはずだ。となると、神経剤の後遺症か……」と言われたが、私の元々の料理スキルや芸術的素養の乏しさに鑑みれば、十中八九 無関係だ……。
彼はりんごを1つ手に取ると、「見本を作ってやろう」と提案した。
「それを見ながら残り全部剥いてみな。少しはウサギに近付くかも知れない」
「……やってみます」
言われて、3つのりんごすべてを8等分にし、ひたすらウサギを生み出す努力をしたが、結果的に23体――凌遅が作った1体を除く――のクリーチャー群が爆誕してしまった。
凌遅はしばし言葉を失い、
「率直に言う。君は刃物を扱うのに向いていないようだ。別の手段を考えた方がいいかもな」と評した。
「そうですか……」
自分でも「だろうな」と思ったので、今回ばかりは何の反論もできなかった。
皿の上でひしめき合っていた“ナニカ”どもは、凌遅によって殲滅された。彼が作ったウサギりんごは、後学のために携帯端末のカメラで写真を撮った後、私がいただいた。
他人に剥いてもらった果物は、何故か自分で剥いた時より美味しく感じるから不思議だ。
「――時に、私に向いている攻撃手段は何だと思いますか」
果物ナイフをしまいながら訊くと、凌遅は少し考え、「君も、会話がいいだろう」と返してきた。
「も?」
「そこは重要じゃないから流していい」
彼が言うには、刃物ではなく言葉で相手の急所を突くのがベストとのこと。理由は、私がバエルの人となりを知っているからだ。親しい相手だからこそ、彼の思考や思想にも心及ぶのではないかということらしい。
「でも……こんな活動をしているなんて想像もしませんでしたし、その意味では何も知らなかったのと同じじゃないでしょうか……」
「身内と言えど、相手のすべてを把握できている人間なんかいない。だが、付き合いが長ければ、汲み取れる部分は多くなる」
そんなものだろうか。
釈然としない様子の私を見て、凌遅は言った。
「君は論理的だし、洞察力も胆力もある。何より、俺と議論を重ねて鍛えられているはずだ。だからこそ何度も命の危機を脱し、脅威であるベルフェゴールを逆に揺さぶることができたんだろう。その時点でポテンシャルは高い」
「……だと、いいんですけど」
「君の知っているバエルについて、もう一度よく分析してみな。そうすれば、自ずと方途も見えてくる」
彼の話に何となく説得力を感じ、従うことにした。
向き合うのは怖いが、他に方法も浮かばないので目の前の課題に集中するしかない。
それだけでは物足りなかったので、松葉杖を突きながらコンテナまで移動し、凌遅に声をかける。
「りんご、剥いたら食べてくれますか」
「ああ、付き合うよ」
彼がそう言うので、私はりんごを3つ取ってベッドに戻った。
「ウサギにできるか」
凌遅が意外なリクエストをしてきた。
「挑戦したことはありませんが、できそうな気はします」
「じゃあ、やってみてくれ」
これも練習になるだろうと思い、私は初めての“ウサギりんご”作りを試みる。工作が不得手な自覚はあるが、剥き方自体は決して難しくないためイケると思った。
しかし、出来上がったものは、果てしなくブサイクな“ウサギのようなナニカ”だった。
「ウサギかと思ったらツチブタだったレベルの衝撃だな。こんな単純なものが、何をどうしたらこの造形になるんだ……」
凌遅はその“ナニカ”を眺めながら、不思議そうに首を傾げる。
「聖護院大根はそこそこ切れていたし、俺の枕元で剥いていた時はもう少しまともな形だったはずだ。となると、神経剤の後遺症か……」と言われたが、私の元々の料理スキルや芸術的素養の乏しさに鑑みれば、十中八九 無関係だ……。
彼はりんごを1つ手に取ると、「見本を作ってやろう」と提案した。
「それを見ながら残り全部剥いてみな。少しはウサギに近付くかも知れない」
「……やってみます」
言われて、3つのりんごすべてを8等分にし、ひたすらウサギを生み出す努力をしたが、結果的に23体――凌遅が作った1体を除く――のクリーチャー群が爆誕してしまった。
凌遅はしばし言葉を失い、
「率直に言う。君は刃物を扱うのに向いていないようだ。別の手段を考えた方がいいかもな」と評した。
「そうですか……」
自分でも「だろうな」と思ったので、今回ばかりは何の反論もできなかった。
皿の上でひしめき合っていた“ナニカ”どもは、凌遅によって殲滅された。彼が作ったウサギりんごは、後学のために携帯端末のカメラで写真を撮った後、私がいただいた。
他人に剥いてもらった果物は、何故か自分で剥いた時より美味しく感じるから不思議だ。
「――時に、私に向いている攻撃手段は何だと思いますか」
果物ナイフをしまいながら訊くと、凌遅は少し考え、「君も、会話がいいだろう」と返してきた。
「も?」
「そこは重要じゃないから流していい」
彼が言うには、刃物ではなく言葉で相手の急所を突くのがベストとのこと。理由は、私がバエルの人となりを知っているからだ。親しい相手だからこそ、彼の思考や思想にも心及ぶのではないかということらしい。
「でも……こんな活動をしているなんて想像もしませんでしたし、その意味では何も知らなかったのと同じじゃないでしょうか……」
「身内と言えど、相手のすべてを把握できている人間なんかいない。だが、付き合いが長ければ、汲み取れる部分は多くなる」
そんなものだろうか。
釈然としない様子の私を見て、凌遅は言った。
「君は論理的だし、洞察力も胆力もある。何より、俺と議論を重ねて鍛えられているはずだ。だからこそ何度も命の危機を脱し、脅威であるベルフェゴールを逆に揺さぶることができたんだろう。その時点でポテンシャルは高い」
「……だと、いいんですけど」
「君の知っているバエルについて、もう一度よく分析してみな。そうすれば、自ずと方途も見えてくる」
彼の話に何となく説得力を感じ、従うことにした。
向き合うのは怖いが、他に方法も浮かばないので目の前の課題に集中するしかない。
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