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第10章

81 雨間 ③ ☆

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「――あ、そう言えば……はい、これもお土産」

「何ですか、このめっちゃかわいいプ〇ッツ……」

「うん。上海の空港で見つけたご当地〇リッツでね、その名も“四川麻辣風味 四川料理味”。パッケージがパンダだから、君にあげようと思って。自分用にも買って味見したけど、麻婆豆腐っぽい感じでちゃんと美味しいから安心して」

「ありがとうございます。こんなんあるんですね……これも家宝にせな……」

「気にせず食べればいいのに」

「バエルさんからいただいた時点で“宝”なんですが、パンダは別格なんで……」

「あはは、そうかそうか。じゃあ、これはどう? 上海ガニ味」

「……バエルさん、何種類買うてるんですか……」

「とりあえずその場にあったのはコンプしたよ。これ、においはちょっとアレなんだけど味は美味しいから、是非食べてみて。ほら、封を切ったから湿気る前に」

「……ああ、では、いただきます……(パキッ)」

「どうだい?」

「…………。バエルさん、これあかんやつです……」

「えー、そうかなあ。美味しいと思うんだけど……ちょっと他のメンバーにも配って訊いてみよう。あっ、トゥクルカさん、いいところに」

「! バエル代表、お疲れ様です。出張はいかがでし――」

「うん、その前にちょっとこれ、食べてみて」

「何でしょうか。不埒な罰ゲーム、毒味役および人体実験でしたら、遠慮させていただきます」

「うーん、ウチのメンバーは何でこう極端なのかなあ……まあいいや。ただの中国のお土産で危険はないよ。だけど人を選ぶみたいだから、君の意見を聞かせてくれないかな」

「そういうことでしたら――(ポキッ)」

「どうだろう?」

「――まずくはないと思います。ただ、カニのクセは強めですね。好みがわかれるタイプの嗜好品かと存じます」

「なるほど」

「あら……でも、よく味わってみると悪くありませんね。後を引く感じで、おつまみに良さそうです」

「お、よかった!」

「……トゥクルカ、それ、本気で言ってる……?」

「はい、もちろんです」

「よし、一人味方が出来たぞ。もっとみんなに訊いてみよう。あ! アポルオンくーん、エスニウさーん、ちょっといいかなあ。あのね、これ、中国のお土産なんだけど――」


「…………。あの、副代表」

「何……?」

「バエル代表のテンションに違和感を禁じ得ないのですが」

「……そうだね。でも、お元気そうで何よりだ」

「何かあったのでしょうか。代表からお聞きになっていますか?」

「……いや。多分、久々に日本の土を踏んで安心されたんじゃないかと思う」

「…………。確かに、そう解釈するのが一番しっくりきますね。それと、そのパンダグッズの山はどうされたんですか?」

「バエル代表にいただいた。俺がパンダ好きだから、目に付いたの全部買って来たって仰ってた……」

「……そうですか」

「何……どうかした?」

「……いえ、それはよかったですね。お疲れも癒えるのでは?」

「ああ、八割方、回復した。今日も徹夜いけると思う……」

「それはおやめください。何徹目ですか……いい加減、倒れますよ?」

「昨日、2時間寝たし、問題ない。バーデン・バーデンの処女に割いた時間分、取り戻さないと……」

「今夜くらいよろしいでしょう。バエル代表の帰朝祝いのパーティーも催されますし」

「パーティー……?」

「はい。スクェア・エッダ バンケット棟 13階 多目的ホールで、午後8時からだそうです。主催者のベリトさんが、副代表に一言ご挨拶を賜りたいと言っていましたよ」

「……っ、ベリト……あのカス、またいらんことを……初耳やし……」

「スピーチの内容も考えておかないといけませんね」

「……トゥクルカ、俺、そういうの本当に無理だから、辞退するって言っておいて……」

「何を仰るんですか。海外出張からお戻りになられた代表を慰労し、お祝いする席ですよ? No.2のあなたが欠席するなど、よほどの理由がない限り、あり得ません」

「……いや、現に死ぬほど忙しいし、代表へのお祝いは個人的にするから……」

「いけません。社会人として最低限の責任を果たしてください。副代表はただでさえ人望が薄いんですから、ここで少しはポイントを稼がないと誰も付いて来なくなりますよ」

「……ツッコミ エグいな……」

「そうなれば業務全体に支障を来たし、延いては代表にご迷惑をおかけすることになるかと存じますが」

「…………」

「それに、代表も喜ばれると思いますよ。信頼しているあなたから、お祝いの席で特別な言葉をかけられたら」

「……君、説得うまいね……昨日は、君を連れて行くべきだったかも知れない……」

「は? 何のことでしょうか」

「……何でもない。パーティーには出るよ……挨拶だけしたら、すぐ帰る……それでいい……?」

「まあ、副代表の場合は及第点でしょう。ただ、その恰好で参加されるつもりではありませんよね?」

「…………」

「はあ、やっぱり……聞いておいてよかったです。衣装とヘアセットを手配しておきますので、然るべき格好でいらしてください」
(私、こういう覚束おぼつかない人を見ていると、つい世話を焼きたくなってしまうのよ。普段、この人からのプレッシャーに辟易しているはずなのに……凌遅さんからを聞いたからかしらね……)

「……わかった……」

「それから、お仕事はほどほどに、スピーチのネタを考えておいてください。最低1分は欲しいので、300文字程度で構いません。期限は午後4時で。念のため添削いたしますので、完成したら一度お見せください」

「…………」

「そんな絶望的な顔をなさらないでください。あっという間です。と言うか、おそらく参加者は副代表の見た目に気を取られてまともに話など聞いていませんから、睨んだり唸ったりしないで淡々と話しておけばまず心配ないかと」

「……君、俺を野犬か何かだと思ってる……?」

「普段の態度の問題です。だからこそ、きちんとした格好で堂々とスピーチできれば周囲の評価もひっくり返ります。挽回のチャンスなので頑張ってください」

「……あー、しんど……」
(頭痛ぶり返してきた……)
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