bias わたしが、カレを殺すまで。

帆足 じれ

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第10章

79 雨間 ① ☆

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 executiveエグゼクティブ roomルーム

「副代表、どうされました?」

「……何……?」

「顔色が優れないようですが」

「……何でもない。ただの低気圧頭痛……」

「このところ雨が続いていますからね。少しお休みになられた方がよろしいのでは」

「そんな暇ない……ついさっき、代表から連絡があった。今、空港にいるみたいだから、あといくらも経たずに着くと思う……」

「そうですか。では、せめて何かお持ちしましょう。お水でよろしいですか?」

「……できればコーヒーがいい。頭痛が楽になるし、寝不足だから気付けが欲しい……」

「わかりました。お砂糖やミルクはどうされますか?」

「いらない……」

「承知しました。しばらくお待ちください」

「ああ、トゥクルカ……」

「はい、何でしょうか」

「……いや、いい……」

「気になりますね。最後まで仰ってくださると助かるのですが」

「…………」

「ご心配なく。詮索するような真似は致しませんので」

「……ああ。ありがとうな……」

「お気になさらないでください」

 バタン

(お礼を言われた……珍しいわね。代表が戻るまでに“彼女”を排除できなかったから、いつも以上に気持ちが弱っているのかしら。コーヒーは少し濃いめに淹れてあげた方がいいかも知れないわね)


 数分後──。

「お待たせしました」

「…………」

「副代表、コーヒーをお持ちしました」

「……ああ、ぼーっとしてた……そこ置いてくれる……?」

「はい、どうぞ」

「ん……(ゴクッ)……っわ、苦ぁ……」

(今のリアクション、素っぽいわね)
「そんなに苦かったですか」

「暴力的に苦い……これ、どこのヤツ……?」

「定期購入のインスタントですが」

「そう……おかしいな……粉、多めに入れた?」

「規定の5倍と少々ですが?」

「……!? 5ぉ、て……」

「気付けと頭痛緩和を兼ねている以上、濃い方がよろしいかと思いまして」

「……ああ、そういうこと……。理由はわかった……とりあえず、薄めてくる……」

(これは、しくじったみたいね。5倍はさすがに多かったかしら……)
「申し訳ありません。すぐに淹れ直します。そちらは回収しますね」

「……いいよ。薄めれば飲めるし、目は覚めたから……」

「そうですか。それは良かったです。気付けとして機能したのであれば、成功裏に解決したと言えますね」

「……その思考回路、無敵過ぎないか……? あやかりたいよ……」

「――あら、雨が止んだようですね」

「……本当だ。晴れ間が出てる……」

「風聞ですが、バエル代表は自他共に認める晴れ男だそうですよ」

「……へえ。こうも綺麗に晴れると、信じたくもなるな……」

「副代表の頭痛も落ち着くといいですね」

「……ああ。そう願うよ……」



※タイトルの“雨間(あまあい)”には、「一時、雨が降りやんでいる間」という意味があるようです。ここから暫し、主人公と仇敵が顔を合わせるまでのわずかな安穏を切り取ったギャグテイストの会話劇が続きます。
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