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第9章

Anecdote 姉弟 ☆

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 10年前――。

「ねえ、カズ。椋がね、あのカメラすごく気に入ってるよ。毎日、いろんな写真を撮ってるみたい」

「へえ、本当? それは何よりだ。プレゼントした甲斐があったな」

「あんないいカメラ、高かったんじゃないの?」

「高かったねぇ……でも、可愛い姪っ子の入学祝いも兼ねているし、写真を生業にしている手前、下手なものは贈りたくないんで奮発したよ」

「なるほど。ありがとね」

「なんのなんの。そう言えば、姉さんは昔からあまり写真に興味がなかったね」

「あー、確かに。私は実際に経験して目に焼き付ける派だから、カメラを構える習慣がないんだよね」

「でも、椋ちゃんの写真は撮ってるんだろう?」

「うん、いっぱい。もう5桁行ってる」

「あはは、やっぱりね」

「そりゃ、我が子は特別だよ。笑顔はもちろん、泣いても癇癪起こしても、白目剥いてもいちいち可愛いから、永遠に見てられるもん」

「ふふっ、白目まで愛すか。見事な親バカ発言ですな」

「あんたも子供を持てばわかるよ」

「そうか……とは言え、しばらく再婚の予定もないからなあ」

「今は仕事が恋人なのかな」

「そんなところだね。数年先のプランまで考えているよ」

「いいね。充実していて」

「そっちもだろう?」

「んー、まあね~」

「……ごめん、今のは違った。母さんの介護まで任せっきりにして、偉そうなことを言える立場じゃなかったな」

「ほーう? ようやく気付いたか、愚弟め」

「ははっ、失礼しました、姉上。お詫びに近々、最高級特大ウナギを献上いたします」

「無論、家族全員分であろうな?」

「う……御意にござりまする」

「うむ。褒めて遣わす。ウナギ楽しみだな~。みんな好きだから喜ぶよ。で、いつ食べさせてくれるの?」

「ははは、参ったなあ……」

「自分で言い出したんだから仕方ないよね~。さてと、そろそろ椋が帰って来るから、おやつの準備しようっと」

「今日は何にするんだい?」

「マドレーヌ。冷蔵庫で休ませておいた生地が馴染んだ頃だからね」

「姉さん、よく作るよね」

「うん。フランス行った時、親しくなった人から教わったレシピで、これが一番、自信あるんだ。椋も好きだし、ご近所さんにも好評なんだよ」

「その話、初耳なんだけど。相変わらず謎の多い人だね……。私の分もある?」

「もちろん。いっぱい食べてって」

「そこは1個で大丈夫かな。代わりに職場のメンバーに持ち帰ってもいいかい?」

「いいよ。そう言うんじゃないかと思って、多めに仕込んであるから」

「さすが姉さん。気が利くね」

「でしょー? あ、褒めてもらって光栄だけどさー、ウナギのランクは下げないでね?」

「あはは、わかってるよ」

 ガチャ

「ただいまー」

「おっと、噂をすれば。おかえり、椋」

「やあ、椋ちゃん、おかえり」

「あ! 叔父さん、来てたんだ」

「うん。椋ちゃん、お母さんから聞いたんだけど、カメラ使ってくれてるんだってね。どんな写真を撮ったのか見せてくれるかい?」

「いいよ」

「じゃあ、椋、おやつができるまでの間、一緒かずお叔父さんに写真見せてあげて」

「はーい。叔父さん、私の部屋に行こ」

「わかった。楽しみだな」

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