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第2章
12 夜会への招待
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一週間が過ぎようとしていた。日がな一日、頭のおかしい薄作り職人と一緒に、見知らぬ土地の一室で漠々たる時間を過ごすのは疲れたが、いつしか慣れた。
部屋には自由に使えるパソコンもテレビも使い慣れた情報端末もない代わりに本だけはあったので、私はもっぱらそれを読んでいた。雑誌からハードカバー、絵本の類いまで、どれもLR×Dの活動方針とはかけ離れた健全なものばかりだった。凌遅曰く、読み終えたら新しいのを入れてくれるよう頼んでやるとのことで、しばらく余暇活動には困りそうにない。
「全部本部の人間が置いていったんだ。目についたものを適当に寄せ集めたとしか思えないごった煮具合だよな」
凌遅が本棚を眺めながら鼻を鳴らした。
「興味のないジャンルだけ揃ってるよりマシですけどね」
私がコメントすると、彼は「それもそうだな」と同意し、「感興をそそられるものはあったか」と訊いてきた。
単なる気まぐれによる質問に違いないが、丁度読んでいた本が一段落したタイミングだったこともあり、私は成り行きで思いを巡らせる。
「そうですね……」
改めて本棚を見てみると、昔、父が買ってくれた絵本と同じものが何冊か見つかり、懐かしさも相俟ってつい感傷的になる。
「これ、好きでした」
私は『100万回生きたねこ』を手に取った。インパクトのある絵と内容で、子供の頃何度も読み返した思い出深い絵本だ。
「たくさん読んだ覚えがあります」
言わずと知れた名作だ。如何に社会性の乏しい凌遅と言えど、タイトルと表紙絵くらいは見聞きしているかも知れない。もしかしたらノスタルジーの一片でも共有できるのではないかと期待したが、凌遅は「ふうん」と言ったきり何の感想も挟まずパソコンの前へ移動しただけだった。
私の思い出の一冊は彼にとって「興味のないジャンル」だったに違いない。
それはそうだろう。彼に絵本のネタを振ること自体間違っていた。そもそも解体作業にしか興味のない彼が、私の関心事など意に介するわけもない。
くだらないことに時間を費やした。私は黙って絵本をしまうと、読書の続きへ戻った。
ヴィネは毎日顔を出した。デリバリースタッフに扮し、私と凌遅の食事や日用品を配達するためだ。
彼女は相変わらずのテンションで「差し入れだよ」と笑う。大荷物だというのに、のほほんとした表情は崩れない。
「今日のおやつなんだけど、デンたん、マンゴー好き? 新作がおいしそうだったから追加してきちゃった」
某チェーン店の宅配弁当と共に可愛らしいプリンが登場した時、思わず顔が綻んだ。
今更ながら、凌遅に拉致された後、初めて食べた“新作のコンビニスイーツ”を用意したのが誰か、はっきりした。
「よかったらどうぞ。で――」
彼女はいくつかの袋を取り出した。
「――りょおちんはいつものね」
「ああ」
凌遅は袋を受け取ると、まっすぐ冷蔵庫へ向かった。“いつもの”食材だけが大量に搬入されていく。
見かけによらず、大食漢なのだ。そして極端な偏食家だった。
彼は牛乳とりんご、卵料理しか口にしない。乳卵菜食主義者なのかと思っていたら「単なる好みの問題で、思想や宗教、アレルギーとはまったく関係ない」と言う。さすがにどうかと思うが、らしいと言えばらしい。
「そうだそうだ。それからこれ、デンたんに」
ヴィネが何やら包みをくれた。開けてみるとシックなドレスとパンプス、さり気ないラメの入ったストッキングに小振りのクラッチバッグ、ネックレス、髪飾りが出てきた。
どれも丁寧な仕立てで、よいものだと一目でわかった。だがパーティにでも着て行く以外、使い道はなさそうだ。
「どうかな。一応、本部からの支給品なんだけど、デンたんに似合いそうなアイテム選んでヴィネがコーデしたんだよ。気に入ってくれるといいな」
「ありがとう、ございます。でも、どうして……」
こんなものを贈られる義理はない。驚いて問うと、
「今度着て行く服、なかったでしょ。サイズ調整とかあるかもだし、早過ぎるってことはないよね。多分大丈夫だと思うんだけど、一応試しに合わせてみて。問題なかったらそのままでいいし、お直し必要なら早めに対応するから」
ヴィネは腕時計に目を遣った後、首を傾げる私を余所にバタバタと帰り支度を始めた。先日の複合商業施設で打ち合わせがあるのだそうだ。
「あそこならホテルやレストランもあるんだし、りょおちん達もあっちにいてくれれば楽なのになぁ」
さり気なく要求するヴィネだったが、凌遅の「オフの時まで同業者と群れたくない」という言い分を聞いて、腑に落ちたようだった。
「うーん、やっぱオンオフはきっちり分けたいよねぇ。まあいいや。デンたん、ドレス完全にヴィネの好みでゴメンね。今度一緒に服見に行く時は、ちゃんとデンたんの好きなの買ってあげるから楽しみにしてて。じゃ、また後でね」
よほど時間が迫っていたのか、彼女は慌てた様子で帰って行った。
「言い忘れていたが」
もらったドレスを持て余し気味に突っ立っていると、凌遅が口を開いた。
「来週の土曜、夜会がある」
「夜会?」
「前に話したオフ会のことだ。この間のビル、スクェア・エッダで18時から」
唐突な話にどきりとしたのは言うまでもない。しかし豪華な贈りものの意味にようやく得心がいった。
「前に言った“会員同士がその成果をシェアする場”だよ」
凌遅はりんごを手にパソコン前に座った。
「それ、私も参加しないといけませんか」
彼は答えない。先日の不本意な代替品で作った動画を編集しているのだろう。
こうなるともう、完全に自分だけの世界に入ってしまうのだ。ひとには「リアクションを返せ」などと言うくせに。まったく以って勝手な男だ。
仕方がないのでひとまずドレスをハンガーにかけ、他の一式と一緒にクローゼットへしまった。できれば着ずに済ませたいけれど、そうも言ってはいられまい。
凌遅が私を残したままでオフ会へ行くとは考えにくい。仮にも教育係兼相棒を自任するくらいなのだから、引き摺ってでも同伴させるつもりだろう。
心配なのは私のメンタル面だ。狂ったケダモノの集会に駆り出されて、平静でいられる気がしない。肉親を惨殺され、誘拐され、引き回され、殺しの片棒を担がされた。今はその元凶と四六時中、行動を共にしている。ただでさえ瀬戸際だというのに、これ以上の刺激に耐えられるだろうか。
できることならさっさと仇討ちを済ませて立ち去ってしまいたい。しかしそううまくは行きそうになかった。
凌遅は毎朝、必ず先に起きていた。こちらが寝るまでまどろみもしない。トイレもシャワーも確実に私を拘束してからさっさと済ます。加えて、私がバスルームを使う時は玄関先に移動して待機するという念の入れようだ。一体、いつどこで寝ているのか不思議に思うほど、彼は気を緩めない。
ひ弱な女子高生に過ぎない私は、大人の男を相手に真っ向勝負を挑むほど無鉄砲ではないつもりだけれど、いざとなればオンナを武器にして油断させ死角を突いてやるくらいの気概はあった。
が、幸か不幸か、彼が私を性的な対象と認識している気配は感じられなかった。
そもそも部屋には武器になり得るものは何一つとして置かれていない。
敵方にはまったく隙がなかった。この分では父に吉報を届けられるのがいつになるか想像もつかない。
私の煩悶を知ってか知らずか、凌遅はじっとモニターを見つめ続けている。時折、カタカタと何やら打ち込む。そしてりんごを齧る。
私は私でヴィネからの差し入れを開封する。さほど空腹でもないが、他にすることもないので早めのランチとしゃれ込む。
同じ空間にいながら一切、接点のない時間が続く。心地好いほど単調で、憎らしいほど自由な隔たりだけがある。だが各々が好き勝手に動いているように見えて、互いの気配だけは常に意識下に置いている。身に覚えのある感覚だ。
母が死んでからの父との日々が、異常な現実と微かにシンクロし始めていた。
オフ会について、凌遅は先に言ったこと以外、何の情報も与えてはくれなかった。何人くらい集まるのか。どんなことをするのか。わからないのが無性に不安を掻き立てる。
「デンたん、もしかしてドレス着なきゃ申し訳ないとか思ってる?」
後日、再訪したヴィネは、おそらく新規メンバーの顔合わせだろうから、どうしても嫌なら出なくても大丈夫だと言ってくれた。
一旦はその提案を受け入れかけたが、凌遅の言葉で私は考えを改めた。
「君の欠席は想定内だ。連中には俺が適当に紹介しておく。どうせ萎縮してろくに喋れないだろうし、繋がれて部屋にいた方がいいだろう」
知った風な口を利かれたのが癪に障った。
「そんなこと、言った覚えありませんけど」
私は言った。
「じゃ、行くのか」
「行きますよ」
売り言葉に買い言葉だ。自覚はなかったが、どうやら私は負けん気が強かったらしい。
「そうか。わかった」
凌遅は何の感慨もない様子でうなずいた。もし「やはり行かない」と言ったとしても、同じように返されただろう。
「厳しいならパスしていいんだよ? もう少し慣れてからだって……」
ヴィネが気を遣っているのが伝わってきた。が、私の気持ちは変わらなかった。
「無理をして消耗することもないのに。強情だな、君は」
私は大仰にそっぽを向いた。凌遅の表情は変わらないが、どうせ内心面白がっているに違いない。
最近になってようやくこの男の本性が見え隠れしだした。当初は何も響かない死人のようだと思っていたけれど、案外アクティブで冗談も解する。言葉遊びが好きで、お喋りで、極まれに他者を労うような真似もする。
が、その言動にヒューマニティは内在しない。人間は多面的だというけれど、彼はただの人でなしだからだ。
考えても仕方ない。現時点で私がすべきことは、この男の側について機が熟すのを待つことだ。そのためには、組織の素性を少しでも把握しておく必要がある。
いつか確実に父の仇を討つのだから。
部屋には自由に使えるパソコンもテレビも使い慣れた情報端末もない代わりに本だけはあったので、私はもっぱらそれを読んでいた。雑誌からハードカバー、絵本の類いまで、どれもLR×Dの活動方針とはかけ離れた健全なものばかりだった。凌遅曰く、読み終えたら新しいのを入れてくれるよう頼んでやるとのことで、しばらく余暇活動には困りそうにない。
「全部本部の人間が置いていったんだ。目についたものを適当に寄せ集めたとしか思えないごった煮具合だよな」
凌遅が本棚を眺めながら鼻を鳴らした。
「興味のないジャンルだけ揃ってるよりマシですけどね」
私がコメントすると、彼は「それもそうだな」と同意し、「感興をそそられるものはあったか」と訊いてきた。
単なる気まぐれによる質問に違いないが、丁度読んでいた本が一段落したタイミングだったこともあり、私は成り行きで思いを巡らせる。
「そうですね……」
改めて本棚を見てみると、昔、父が買ってくれた絵本と同じものが何冊か見つかり、懐かしさも相俟ってつい感傷的になる。
「これ、好きでした」
私は『100万回生きたねこ』を手に取った。インパクトのある絵と内容で、子供の頃何度も読み返した思い出深い絵本だ。
「たくさん読んだ覚えがあります」
言わずと知れた名作だ。如何に社会性の乏しい凌遅と言えど、タイトルと表紙絵くらいは見聞きしているかも知れない。もしかしたらノスタルジーの一片でも共有できるのではないかと期待したが、凌遅は「ふうん」と言ったきり何の感想も挟まずパソコンの前へ移動しただけだった。
私の思い出の一冊は彼にとって「興味のないジャンル」だったに違いない。
それはそうだろう。彼に絵本のネタを振ること自体間違っていた。そもそも解体作業にしか興味のない彼が、私の関心事など意に介するわけもない。
くだらないことに時間を費やした。私は黙って絵本をしまうと、読書の続きへ戻った。
ヴィネは毎日顔を出した。デリバリースタッフに扮し、私と凌遅の食事や日用品を配達するためだ。
彼女は相変わらずのテンションで「差し入れだよ」と笑う。大荷物だというのに、のほほんとした表情は崩れない。
「今日のおやつなんだけど、デンたん、マンゴー好き? 新作がおいしそうだったから追加してきちゃった」
某チェーン店の宅配弁当と共に可愛らしいプリンが登場した時、思わず顔が綻んだ。
今更ながら、凌遅に拉致された後、初めて食べた“新作のコンビニスイーツ”を用意したのが誰か、はっきりした。
「よかったらどうぞ。で――」
彼女はいくつかの袋を取り出した。
「――りょおちんはいつものね」
「ああ」
凌遅は袋を受け取ると、まっすぐ冷蔵庫へ向かった。“いつもの”食材だけが大量に搬入されていく。
見かけによらず、大食漢なのだ。そして極端な偏食家だった。
彼は牛乳とりんご、卵料理しか口にしない。乳卵菜食主義者なのかと思っていたら「単なる好みの問題で、思想や宗教、アレルギーとはまったく関係ない」と言う。さすがにどうかと思うが、らしいと言えばらしい。
「そうだそうだ。それからこれ、デンたんに」
ヴィネが何やら包みをくれた。開けてみるとシックなドレスとパンプス、さり気ないラメの入ったストッキングに小振りのクラッチバッグ、ネックレス、髪飾りが出てきた。
どれも丁寧な仕立てで、よいものだと一目でわかった。だがパーティにでも着て行く以外、使い道はなさそうだ。
「どうかな。一応、本部からの支給品なんだけど、デンたんに似合いそうなアイテム選んでヴィネがコーデしたんだよ。気に入ってくれるといいな」
「ありがとう、ございます。でも、どうして……」
こんなものを贈られる義理はない。驚いて問うと、
「今度着て行く服、なかったでしょ。サイズ調整とかあるかもだし、早過ぎるってことはないよね。多分大丈夫だと思うんだけど、一応試しに合わせてみて。問題なかったらそのままでいいし、お直し必要なら早めに対応するから」
ヴィネは腕時計に目を遣った後、首を傾げる私を余所にバタバタと帰り支度を始めた。先日の複合商業施設で打ち合わせがあるのだそうだ。
「あそこならホテルやレストランもあるんだし、りょおちん達もあっちにいてくれれば楽なのになぁ」
さり気なく要求するヴィネだったが、凌遅の「オフの時まで同業者と群れたくない」という言い分を聞いて、腑に落ちたようだった。
「うーん、やっぱオンオフはきっちり分けたいよねぇ。まあいいや。デンたん、ドレス完全にヴィネの好みでゴメンね。今度一緒に服見に行く時は、ちゃんとデンたんの好きなの買ってあげるから楽しみにしてて。じゃ、また後でね」
よほど時間が迫っていたのか、彼女は慌てた様子で帰って行った。
「言い忘れていたが」
もらったドレスを持て余し気味に突っ立っていると、凌遅が口を開いた。
「来週の土曜、夜会がある」
「夜会?」
「前に話したオフ会のことだ。この間のビル、スクェア・エッダで18時から」
唐突な話にどきりとしたのは言うまでもない。しかし豪華な贈りものの意味にようやく得心がいった。
「前に言った“会員同士がその成果をシェアする場”だよ」
凌遅はりんごを手にパソコン前に座った。
「それ、私も参加しないといけませんか」
彼は答えない。先日の不本意な代替品で作った動画を編集しているのだろう。
こうなるともう、完全に自分だけの世界に入ってしまうのだ。ひとには「リアクションを返せ」などと言うくせに。まったく以って勝手な男だ。
仕方がないのでひとまずドレスをハンガーにかけ、他の一式と一緒にクローゼットへしまった。できれば着ずに済ませたいけれど、そうも言ってはいられまい。
凌遅が私を残したままでオフ会へ行くとは考えにくい。仮にも教育係兼相棒を自任するくらいなのだから、引き摺ってでも同伴させるつもりだろう。
心配なのは私のメンタル面だ。狂ったケダモノの集会に駆り出されて、平静でいられる気がしない。肉親を惨殺され、誘拐され、引き回され、殺しの片棒を担がされた。今はその元凶と四六時中、行動を共にしている。ただでさえ瀬戸際だというのに、これ以上の刺激に耐えられるだろうか。
できることならさっさと仇討ちを済ませて立ち去ってしまいたい。しかしそううまくは行きそうになかった。
凌遅は毎朝、必ず先に起きていた。こちらが寝るまでまどろみもしない。トイレもシャワーも確実に私を拘束してからさっさと済ます。加えて、私がバスルームを使う時は玄関先に移動して待機するという念の入れようだ。一体、いつどこで寝ているのか不思議に思うほど、彼は気を緩めない。
ひ弱な女子高生に過ぎない私は、大人の男を相手に真っ向勝負を挑むほど無鉄砲ではないつもりだけれど、いざとなればオンナを武器にして油断させ死角を突いてやるくらいの気概はあった。
が、幸か不幸か、彼が私を性的な対象と認識している気配は感じられなかった。
そもそも部屋には武器になり得るものは何一つとして置かれていない。
敵方にはまったく隙がなかった。この分では父に吉報を届けられるのがいつになるか想像もつかない。
私の煩悶を知ってか知らずか、凌遅はじっとモニターを見つめ続けている。時折、カタカタと何やら打ち込む。そしてりんごを齧る。
私は私でヴィネからの差し入れを開封する。さほど空腹でもないが、他にすることもないので早めのランチとしゃれ込む。
同じ空間にいながら一切、接点のない時間が続く。心地好いほど単調で、憎らしいほど自由な隔たりだけがある。だが各々が好き勝手に動いているように見えて、互いの気配だけは常に意識下に置いている。身に覚えのある感覚だ。
母が死んでからの父との日々が、異常な現実と微かにシンクロし始めていた。
オフ会について、凌遅は先に言ったこと以外、何の情報も与えてはくれなかった。何人くらい集まるのか。どんなことをするのか。わからないのが無性に不安を掻き立てる。
「デンたん、もしかしてドレス着なきゃ申し訳ないとか思ってる?」
後日、再訪したヴィネは、おそらく新規メンバーの顔合わせだろうから、どうしても嫌なら出なくても大丈夫だと言ってくれた。
一旦はその提案を受け入れかけたが、凌遅の言葉で私は考えを改めた。
「君の欠席は想定内だ。連中には俺が適当に紹介しておく。どうせ萎縮してろくに喋れないだろうし、繋がれて部屋にいた方がいいだろう」
知った風な口を利かれたのが癪に障った。
「そんなこと、言った覚えありませんけど」
私は言った。
「じゃ、行くのか」
「行きますよ」
売り言葉に買い言葉だ。自覚はなかったが、どうやら私は負けん気が強かったらしい。
「そうか。わかった」
凌遅は何の感慨もない様子でうなずいた。もし「やはり行かない」と言ったとしても、同じように返されただろう。
「厳しいならパスしていいんだよ? もう少し慣れてからだって……」
ヴィネが気を遣っているのが伝わってきた。が、私の気持ちは変わらなかった。
「無理をして消耗することもないのに。強情だな、君は」
私は大仰にそっぽを向いた。凌遅の表情は変わらないが、どうせ内心面白がっているに違いない。
最近になってようやくこの男の本性が見え隠れしだした。当初は何も響かない死人のようだと思っていたけれど、案外アクティブで冗談も解する。言葉遊びが好きで、お喋りで、極まれに他者を労うような真似もする。
が、その言動にヒューマニティは内在しない。人間は多面的だというけれど、彼はただの人でなしだからだ。
考えても仕方ない。現時点で私がすべきことは、この男の側について機が熟すのを待つことだ。そのためには、組織の素性を少しでも把握しておく必要がある。
いつか確実に父の仇を討つのだから。
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