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家族旅行
しおりを挟む紅葉の季節。
淡い太陽の光。
落ち着いた青い空の向こうをめがけ、羊雲が浮かんでいる。
様々な紅色に葉を彩らせている山々。
ここは、都内からかなりの距離がある旅館。
温泉スポットとして有名で、老若男女に人気のあり、県内でも知らない人はいないという程の観光名所だ。
毎年、この時期はカップルや親子連れの宿泊客で賑わう。
日本家屋の趣を残したまま、とてもレトロでシックな外観をしており。そのモノトーン基調の佇まいと入り口の左右には大きな提灯を模した照明がある。
夜には光が灯り、また別の風情ある世界へと誘う事だろう。
真正面の入り口の左手前にある駐車場へと、黒い一台の乗用車が停車した。
駐車場は既に満車に近い状態だ。
四人が其々、停車した車内から次々と降りて来る。
「覚、後ろから鞄出すの手伝え」
「はぁ~? 兄貴がやってよめんどくさい」
「お前なぁ」
到着早々、二人の兄弟が喧嘩を仕出かす雰囲気を漂わせた。それを察知した母が間に入り、静止。
「こら! やめなさいよ悠一、覚! せっかくの旅行なんだからね」
「まぁまぁ、母さんも落ち着いてよ。荷物はボクが持ってくから先に受付に行ってて」
「俺も行く~!」
柔らかい口調で妻を宥める夫。
車の荷台からキャリーバッグと鞄を下ろす。
その間に、弟は既に旅館の中へと向かっていた。
「本当に覚のヤツ……。いつも自由過ぎるだろ」
「悠一、ほら、先に行った行った!」
悠一は自分の大きな手荷物を持ちながら、覚の後を追う。
この場所に到着してから、彼は周囲の景色に目を向けることもなく、ただ不満そうな視線を覚の背中に向けていた。
エントランスで受付を済ませた保辰一家は、客室へと向かう。
長い廊下の先は、所々和モダンの要素を取り入れられており。想像以上に高級感に満ち、日々の都会の喧噪を忘れさせてくれそうな気がしてくる。
「月の間……ってここか、広いね」
一家は早速客室の座敷へと入る。
「はぁ~! やっと着いたー! 俺、ちょっと飲み物買ってきていい」
覚がスマートフォンを片手に鞄を置くと、部屋を後にする。
「ちょっと! いいけど迷わないでよ~?」
「何言ってんの、ガキじゃないんだから迷わないって! んじゃー!」
「……母さん、あのままでいいの。いろいろと、アイツ」
「いつもあの調子じゃないの、せめて今日は仲良くね、頼んだわよお兄ちゃん」
不満が爆発しそうな悠一を宥める母。
「大人の自覚、あるのかな……」
夕飯まで時間があるということで、両親は先に入浴を済ませて来る、と言うと同じように部屋を後にしてしまった。
「み、みんな……自由過ぎる」
ぽつん、と部屋に一人きり。
悠一は溜め息をつくと、スマートフォンに何気なく目を向けた。
そこには悠一と女性が親しそうにツーショットで写っている画像。
ホーム画面上には PM 17:04 の表示。
部屋の中に壁掛け時計があるのに。日頃から、無意識に画面を見てしまう癖がここに来ても顕著に表れてしまう。
「……」
こんなものに依存している自分が、ちょっとだけ腹立たしくなった。
悠一は畳の上へ座ると、文字を打ち始めた。
画面にはメッセージ入力欄に
『都合付かなくなってごめん、また予定立てよう。夜に電話する』
の一文が見える。
「………俺も露天風呂、行こうかな」
少し間を置いた後、彼は送信ボタンを押した。そして、メッセージがその女性の元へ送信されたことを確認すると、背伸びをする。
あぐらをかいていた彼は、少し面倒そうに立ち上がると、部屋の隅に置いたバッグを開け、がさごそと探しものを始める。
「えーっと、着替え着替え」
「なに、兄貴風呂行くの」
「わっ!!!!」
突然の声に悲鳴を上げる悠一。
背後を振り向くと、片手に持った炭酸飲料水を飲みながらヘラヘラしている覚の姿が。
「戻ってたのか、脅かすな!」
「ははは! ビビった?」
「うるさい! 皆、浴場行ったから、俺ももうちょいしたら行く」
「そお、ふ~ん」
「ふ~ん、って……あのさ、覚もいい大人なんだから、程々にしろよな全く。協調性無さすぎ」
悠一は荷物から着替えを取り出すと、覚から目を逸らし、部屋を出ていった。
「……」
その後ろ姿を見送る覚は一気に缶ドリンクを飲み干した。
「……いいオトナ、ねぇ……兄貴はどうなんだよ」
脱衣場。
よくよく考えたら、悠一にとって温泉旅行は中学以来だ。
その時も、今回のように地方への旅行だった。
覚は小学生でまだ小さく、目がくりくりしてて可愛かったっけ。
思い出に浸りながら、カチャカチャとベルトを外し、長袖の白いスウェットとネイビーのジーンズを脱ぎ始める。
「どこでああなったんだアイツ、性格に難アリだよ」
「悠一も入るのか」
脱衣ロッカーの真向いに、風呂上がりの父が来た。
「あれ、偶然。父さんもう上がるの?」
「あぁ。前より長風呂できなくなっちゃった。売店コーナーで飲み物と、ついでにホールの方でお土産見てこようかなぁ~」
「まだ時間ありそうだし、いいんじゃない」
「そう言えば、覚はどうした? 一緒じゃないのかい」
「知らないよ、もう。夜遅くにでも一人で浸かりに来るんじゃないの」
明らかにムスッとした表情を浮かべる悠一。
学生時代の反抗期から、いつの間にか徐々に会話を交わす機会も無くなり、互いに避け、すれ違うようになってしまった。
社会人になってから、当時に何も気遣う事ができなかった自分のせいでは、と悩むこともあった。
今となっては、どうしようもない半ば諦めのような感情に落ち着いてしまった。
昔のように、仲が良かった記憶もくすぶって、色褪せ始めている。
白いタオルを手にすると、悠一は浴場へと向かう。
大浴場。
とてつもなく、広い。湯気がもくもくと夕暮れの空へと向かい、ゆらゆらと漂う。
紅葉に染まる山々が一望できた。
ずっと山の向こうの木々は、綺麗にライトアップされているようだった。
「うわぁ……規模が凄いな」
旅館に到着した際は、全くと言っていい程周囲の景色を気に掛ける余裕が無かったが、この瞬間の絶景に圧倒され、心を奪われた。
赤く色付いた葉が、ちらちらと舞い散り、湯船の中の水面へと浸る。まるで映画のワンシーンのようだった。
わぁ……と感動している間、出入り口で立ち尽くしてしまった悠一の後ろには同じように浴場へと足を運びたがっている他の客の姿で混み始めていた。
「す、すみません」
横に移動すると。どうぞ、と人々と浴場へと促し、申し訳なさそうにお辞儀をした。
今日くらいは面倒な弟のことなど忘れて、楽しみたい。
そして早く自宅へ帰り、来週末こそ彼女に会いたい。と思っていた。
まだ、この時は。
浴場の床は、大きく様々な研磨された石が敷き詰められていた。浴槽近くの足場は温水で濡れ、そのぬくもりで足裏がすぐぽかぽかになった。
歩くとピチャピチャと音を立てていると思うが、小学生と思われる子供たちが楽しそうにはしゃぐ音に掻き消された。
かけ湯をしたあと、髪と全身を洗う。
思ったよりも、この時間帯はやはり混んでいるようだ。
夕日がこんなにも綺麗なのだから、納得がいった。続々と人が増えて来る。
かと言って、早めに上がりますさようなら、という訳にはいかない。変に意地を張り始めた悠一。
そろそろお湯に浸かりたい。浸からねば。
本当に混み合ってしまいそうな気がして、悠一は身体を綺麗に洗い流し終えると、人の気配が少ない場所から湯船に浸かり始めた。
白いにごり湯で、体の芯まで温まりそうだ。
案の定、皆が紅葉の見える良い場所を、と、既に大自然が一望できる開けた箇所は人々がいる様子だった。
もう少し、落ち着いた場所に行こう。周辺の数メートル先は木々がすぐ横に生い茂っている。
もしかしたら、ゆっくりできる穴場があるかもしれない、と童心に返ったように悠一は辺りを散策し始めた。
この露天風呂は、一望できるエリアから、左右それぞれ奥の方まで向かうことが出来るようだった。
「この先ずっといけるのかな」
人がいないことは無く、疎らだ。人がいる気配に少し安堵して、悠一は左側奥へと進んでいく。
そこには所々に人が余裕で隠れてしまう程の大きな岩場があった。手のひらを当ててみると、温かい。
やはり、穴場の場所があるのではないか。
その大きな岩場を回り込む。周辺には誰も居なかった。
「やっとゆっくりできる……。ふう」
折り畳んだ 手ぬぐいを頭の上にちょこんと乗せる。
やってみたかった、これ。
空を見上げると、先程までの夕日は既に沈み終えそうだった。空が、徐々に濃い紫色へと染まっていく。
山奥の別エリアもライトアップが施され始めた。
都会ではネオンの光で微かにしか見えない星空が、ハッキリと見えた。
「星って、あんなに輝いて見えるんだな。思ったより大きい。子供の頃はそんなでもなかったのに」
大人になって、初めて星が綺麗だ、と体感した。
ロマンチストという訳でも無く、無意識に、素直にそう思えた自分がいたのだ。
「……」
「わーっ!!!!」
「なーーっ!?!?」
突然背後から水面の湯を両手でバシャー!!!と掛けられる。
ほら、また、アイツだよ。
「くくく! 兄貴の声! でか! くくっ……!!」
「覚、お前……、いい加減にしろよ!」
必死に笑いを堪え肩を震わせている弟に心底腹が立ったが、怒ってはいけない。その時点で兄は負けるのである。冷静に、落ち着け、と自分にとにかく言い聞かせた。
「どんどん奥の人気のないとこ行っちゃうんだもん、後ろから観察してた!」
「ヤバいな、ストーカーじゃんそれ」
「うん、俺も途中でそう思った」
「風呂くらいゆっくり楽しませて欲しいよ」
「いいじゃん、久ぶりに『二人』でゆっくりできそうだしさ」
覚は突然立ち上がると、徐々に悠一の方へと近付いて来る。
また何か悪戯でもする気なのか。抵抗する事すらもう面倒くさい。そう思っていた。
「ここなら、バレにくそうだよね」
覚が周囲をきょろきょろと見渡す。近くは上方向のライトアップがあるとはいえ、かなり巨大な岩場の後ろは薄暗い。おまけに、湯けむりがもくもくと上がっている。
「何が言いたいんだよ、ハッキリ言うんだな」
「へー、ハッキリ言っていいの」
そう言うと、覚が悠一の右隣に体を寄せてきた。
こんなにも近距離で、互いの肌が触れ合ったのはかなり久しぶりな気がした。
あまりの唐突さに、兄は声が出なかった。
「!?」
「兄貴さ、なんでいつもそうなの」
二の腕に弟の胸部が触れる。鍛えられていて、昔の小さい頃の弟の面影は全然無く、男性の体付きをしていた。
間近で感じる、弟の圧。少し強張っている悠一の表情。兄は、こんなにも覚は成長していたんだ、と認めざるを得なかった。
もうお互いに大人なのだと。
「おい、近い」
大声を押さえながら小声で抵抗。
だが、覚の大きな腕が、力強く兄を離さずにいる。
どことなく優しく包んでくれているような気もした。
「兄貴に、やっと触れた」
その弟の言葉に、少しだけホッとしたというか、なんだか肩の力が抜けた。
「……そうだな」
昔もこうして、一緒に風呂に入ってたな、なんて呑気に考えていたのも束の間。
「兄貴さ、彼女いるでしょ」
「えっ」
「バレてないとでも思ったの? いつも顔に出てるよ」
恥ずかしくはなかった。だが、なんとなく弟には知られたくなかった。
「ところでさ、兄貴の彼女が、どんなカンジか知りたくない」
「どんな? ん、どういうこと」
「カノジョがどう感じてるか、俺が思い知らせてあげよっか」
「……すまん、言ってることがよく分からな……っ!?」
悠一の後孔に指の腹が押し当てられる。その全く慣れない感触に、兄はかなり動揺した様子で、顔を一気に真っ赤にさせていた。手ぬぐいが落ち、にごり湯の中へ消える。
「兄貴さ、たまには俺にも甘えてよ、なんでいつも怒ってんの」
「ちょっと! うしろ、触るなって!」
弟はそのまま、後孔を指で優しく撫でた。むにむにと押し撫でると、僅かに温水がそこへ少しずつ入っていく感覚が、正直癖になりそうだった。
「お湯が白く濁っててよく分からないけど、その分ちょっと興奮しない? 次は……どこ触られるか……分かる?」
「ふざけるな、いい加減にしろ」
いつもの調子であれば怒鳴り散らし拒むところなのだが、ここは浴場。湯けむりのすぐ数メートル先にはたくさんの人々がいる。
この状況、何があってもバレてはいけない。
兄は全てを察した。だが、弟の好き勝手、自由には絶対にさせない。負けるか、と覚悟する。
弟は微笑した。
「せっかくだから。前も触ってあげようか」
「バカ……!」
白く濁った浴槽の中で弟の左手を探し出すと、静止するように手首を掴み離そうとするが、それに反発するかのように覚の指先の動きは、厭らしさを増すばかりだった。
「ん……! うぅ」
彼の指が、悠一の亀頭を撫で回している。
なんの滑らかさもない、湯の中で直に触られる感触。それが堪らなく自分が思う以上に感じてしまい、声を堪えるのに必死だった。
それから、何度もペニスを往復し湯の中で優しく扱く。
「カノジョと俺、どっちのが気持ちいい」
「うるさい……! 全然、感じてなんか」
果たして、今自分はどのような表情をしているのだろう。悠一はそればかり考えていた。
「うっそだぁ~~! 俺、兄貴が涙目で気持ちよさそうに感じてるとこ、見たかったんだ。悪いけど、もっと……苛めたくなっちゃう」
「……まって、待てって……なんで!」
「なんで…? 俺、兄貴『嫌い』だから。犯したくなるくらい」
「俺はそっちの気は……ない!た、頼むから……!」
「知らない間に、女と付き合うんだもんな…」
悠一の彼女と弟は面識があった。一度だけ、高校時代に家に招いたことがあり、そこで偶然対面した程度だったが。その時から、弟は反抗期でかなり無愛想だった。
「……」
「俺の好きな人は………兄貴しかいなかったのに」
「おい、何する……」
「分かってる癖に……俺のをここに挿れる」
「……え、つまりそれって……」
「ほら、ケツこっちに出してよ、彼女にもそうしてんでしょ」
弟が半ば強引に兄を岩場の方へと挟み込み、前傾になるよう体勢を屈ませた。自然と、腰から臀部が弟の方へと突き出される。
「いってぇ! ……嘘だろ、覚」
弟の両手が兄の臀部を腰側へ寄せながらアナルが見えるように鷲掴みにすると、入り口が丸見えの状態になった。
「嘘じゃない。ここ、綺麗なピンク色してる」
湯に浸かるギリギリの位置から覗くアナル。弟は、兄をどこまでも愛し尽くしたい衝動に駆られた。
「うまそう…………たべたい……」
「!?」
兄は咄嗟に両手で口を塞ぐ。
「~~~~っ!!」
ニュルニュルとした唾液まみれの舌が、アナルの中を犯す。顔を左右に振りながら奥へ奥へと舌先がグイグイ入り込み、兄の中で目まぐるしく蠢き、粘膜を潤す。
「何も無いからちょっと痛いかもだけど、ごめん、耐えて、兄貴」
その言葉を聴いた瞬間だった。兄の背後の水面が大きく揺れた。
彼らの距離が一気に縮まり、繋がる。
「んんう……!!」
前戯も何もあったものではなかった。突然浴槽の中で、アナルにペニスを突っ込まれた訳で。
明らかに、彼のカリ部分まで入っている状態になる。
「あ~あ~、だめだよ、力んだら! 抜けちゃう」
「ん……ぅ………ぐ」
流石の悠一も、まさかこんな展開になるとは、と、声を殺し、耐え続ける。
「兄貴の中……」
「ぁ……あ」
「きっつい」
「はぁ……入って……る……覚の……」
「今更、手加減できないから」
途中で止める気など毛頭ない弟の様子に、兄は岩場に手を置き重心がブレないように全身をできるだけ固定させた。
水中で、もごもごと徐々に挿入されていく弟のペニス。
とても、暑い。汗だくだ。
「っく!」
弟が腰を振る反動で、身体に挟まれた行き場のない白濁とした湯がパシャパシャと音を立てる。
その音に合わせ、パン、パンっと肌と湯が打ち付け合う濡れた音が周囲に静かに響いた。
兄は激しすぎる弟の腰つきに、周囲にバレてしまうのでは、と緊張し身体が強張る。
そしてその締め付けで、更に強く兄のナカを感じてしまう、弟の悦楽した顔。
「兄貴の彼女も、セックスする時、こんな風に感じてるんだよ」
「あ……ん……! うぅ……!!」
「どう? どんな感じ? 聞かせてよ、感想」
「……っ! ……やめて…お願いだから…」
「やめてやめて…って…さ!」
「だめ、俺…変になる……壊れそう!!」
「壊れちゃえばいいよ、もう……俺だけ見ててよ……」
浴槽の向こうから湯けむりに人影が。
二人組の年配男性だ。
「ほらあの子たち見てみ、あんなにくっついてらぁ、仲良しだなぁ、何やってんだ」
「ばーか! 邪魔するんじゃねぇ! 分かるだろが!」
その後、大浴場を後にした兄弟。
客室へ戻る二人。
「あら、お帰り! 一緒だったのね珍しい」
母が目にした彼ら。兄は何故かゲッソリしている横で、弟はにこにこととても満足そうな笑みを浮かべる。
「うん、超気持ちよかった! やっぱ広い露天風呂は最高だね兄貴!」
「そう……だな……」
生きた心地がしない。絶対見られたし。見てたし。
悠一はそう思った。
夜の静けさ。
AM 01:46
両親とは別に仕切られた客室間で、二人は浴衣姿のまま、繋がろうとしていた。
「さっきは人来ちゃったし。気が散ったよね、ごめん」
覚は仰向けになった兄の上に身体を密着させ、耳元で優しく囁いた。
「ごめん」なんて言葉を久しぶりに聞いた気がする。いつも喧嘩腰で言葉遣いが荒々しい日常からして、今の状況は考えられない。
熱い吐息が耳の奥にまで届き、思考が全て持っていかれてしまうのではと思う程だった。身体が明らかに弟に対して敏感になっている。
間近に耳にする弟の低い声を聴いていたら、なんだか身体がムズムズして熱くなってくる。この感覚はなんだというんだ。
覚の舌は、耳筋をツーッとなぞる。そのまま耳の中へ舌を挿入させると、悠一はほんの少し声を漏らし、少しずつ、本気で弟を受け入れ始めようとしていた。
「兄貴、どうする? 浴場の続き……したい? 嫌なら俺、やめる」
ベランダから覗く深夜の月明りだけが、二人を見つめ、横顔のシルエットを浮かび上がらせる。
兄の返答はまだない。
「……」
正常位の体勢で、兄の帯は緩められ、乱れ切った浴衣の中から、太腿がだらしなく覗く。
弟は兄の艶やかな太腿を指先でそっと撫でながら言った。
「俺は……兄貴ともっとセックスしたい、これからも」
「……」
「本気だった」
弟は帯を完全に外すと、浴衣をゆっくりと開けさせつつ、兄のくびれ、腹部を優しく撫でる。キスをしていく。滑らかな肌が弟の理性を狂わせていく。
悠一自身の体温が上がっているのだろうか、弟の手が冷たく感じた気がした。
「……勝手にしろ」
きっとここで否定したら、今まで通りに戻るのだろう。それが、兄にとっては腑に落ちなかった。ここまで来たのなら、いっそ……。
いつまでこんな『スリル』を味合わなくてはいけないのだと思う反面、弟が今まで知る事の無かった部分を次々と曝け出し続けている。
「好き、兄貴、ごめん」
興奮と嬉しさ、懐かしさ…あらゆる感情に刺激され、感化されてしまいそうになる。『新しい自分自身』にも。
「さっきは浴槽で強引に挿れたから痛かったでしょ」
「別に」
「あ、怒ってる。今度はちゃんと使うから、ローション」
「なんでそんなモノ持ってる」
「え? 飲み物買いに行くついでに買ってきた」
「えぇ……」
「いいじゃん別に! これで気持ち良くなれるんだから」
「そうだといいけど……」
「ちょっと緊張してるでしょ、大丈夫だよ」
弟は優しく微笑むと、唇を重ねた。
「んっ」
呼吸を奪うように、激しく舌を絡ませながら、口の中を犯す。
「はぁっ……んう………うっ」
兄が苦しそうにする。だが、その反応こそが、弟の性欲を掻き立てる。
にちゅにちゅと舌が厭らしく絡まる音。
「………っ」
舌同士が離れると、唾液が細く糸を引いているのが見えて下唇にその余韻を残していった。それは兄の顎まで厭らしく垂れていく。
「ふふ。もう絶対に後戻りさせない、気持ち良くさせてあげるから」
弟は両手を兄の胸部を覆うと、優しく摩り始める。
「う」
初めて胸に触れる男の大きい手に、つい声を上げてしまう。
「兄貴ってさ、オナニーってどうしてる? チクニーもするの」
「は…なんで教えないと…ぁ…いけな……だよ…ンッ…」
「ん? なに? 聞こえないよ」
人差し指と親指で乳首を捏ね擦りながら、悪戯に兄を責める。
「あんなに兄貴のナカ、きっっつかったから、アナニーはしてないっぽいよね」
「そんなの当然だろ……ない……もん」
「でもさ、心配しないで。これから拡張させるの手伝ってあげる」
「かくちょう……」
聞き慣れない単語を平然と口にする。
弟は既に遠くへ、もう自分が理解できない次元にいるんだと悟る。そして恐らく、自分もその場所に確実に足を踏み入れようとしている。
「乳首はなんだか感じやすいね、なんで?」
弟は右の乳首に吸い付き、ちゅぱちゅぱと静かにしゃぶり、左も動揺に舌で苛め抜く。
「ぁ……! っうう……!」
胸部が前に反って、声がこれ以上漏れないよう、左手の甲で口元を塞いだ。
「兄貴って感じてる時そんな顔するんだ。もしかして、このまま続けたらさ、イッちゃう?」
「そんな、ワケ」
チュウ…チュパチュパ…チュゥゥウ
「んんっ」
思いっきり吸い付かれ、甘咬みをされると、兄ははぁはぁと吐息を漏らす。
「ふふふ、しゃぶられるの好きなんだね、じゃあこれは……どうかな」
乳頭を人差し指の先で素早く擦り続ける。
「だめ、だって! きもちいい……感じる……から……!」
「感じやすすぎでしょ、どんだけエロい身体してたの」
「あうっ……んぅう」
「兄貴が家に居たときの声は……そっか、乳首弄ってイク時の声だったんだなー! 隣の俺の部屋まで、漏れてたよ」
「嘘っ」
「はは、嘘じゃないよ~俺もその声聞きながら抜いてたもん」
それから弟が乳首舐めを丹念に続けると、兄のペニスはヒクヒクと大きく膨れ上がり、グレー色のパンツの上から我慢汁が滲み、濃い染みが滲み始めていた。
「んぐ……はぁ……は………ぁっ」
舌先で、チロチロと刺激すると、仰向けの体勢で仰け反り、口を半開きにさせ、静かに喘ぐ兄。
「はは…! すんげーかわいい、女みたいな感じ方。乳首舐めただけでもうイキそうじゃん」
「ううう」
「生地の上からグリグリ指で弄ると……ほーら、糸引いてる。すんごいエッチじゃない?これ、見てよ」
「い、言うな……っ」
亀頭の位置上から、弟の指先にかけて細く我慢汁が確かに糸を引いていた。その瞬間、一気に恥ずかしさが込み上げ、泣きそうな表情で覚を見つめた。
「恥ずかしい?ふふふ……俺のも触ってもらおうかな~……直で」
弟は浴衣の前を完全に開けると、下着を敷布団の端に投げ捨てる。
「!」
兄は一瞬目のやり場に困った。弟がめちゃくちゃ巨根だったことに衝撃を受けたのだ。
ハッキリ言って、自分のモノよりもデカい。
陰毛が深く生えたすぐ下の陰茎がとにかく太く、陰嚢も亀頭も大きく、突き出たカリを目にするだけでこちらが興奮してしまいそうで視線を逸らす。
あんなもので突かれたら、きっと内壁を強く刺激されて一溜まりもない。
目の前でムクムクと滾っているアレが、自分のナカに入っていたのか、と信じられない気持ちになったが、つまりあの大きさでも身体は受け入れられるのか、とも思えてしまった。
自分でも信じられない。
「触り合おうよ、俺のと兄貴の………」
「構わないけど、うまくできるかな……お前の大きいし」
「え?ははは! 俺は兄貴が触ってくれるだけで嬉しいんだよ、気持ちいいかどうかは二の次」
「そ、そうか」
「俺も、触るよ、脱がせるけどいい?」
「うん………いや、やっぱり待って……恥ずかしいから自分で……」
「俺の為に脱いでくれるとかなんのご褒美だよ……!!」
兄は完全に開け露わになったパンツに手をかけると、ゆっくりと脱ぎ始める。
やっぱり、どっちにしろ恥ずかしい!!と思う悠一であった。
クチュクチュクチュ……
互いペニスが我慢汁で亀頭がヌルヌルだ。扱くと、陰茎にまで刷り込まれて艶やかになっていく。
「ふぅ……う……」
「はぁ………ん……っ」
「……なんか不思議……兄貴と一緒にシコり合ってる……夢みたい」
「俺だって……こんなの初めてだし。っつーか、弟とセックスするだなんて思ってなかった」
「ずっと好きだったんだもん、だめだって分かってても」
弟は兄と向き合うと、頬にそっとキスをした。
「……う」
「ほんとさ、前から好きだったんだよ」
直接そう伝えられると、嬉しいものだ。やめてくれ。そんなことをされたら……。
「んんう……」
「……もしかして、兄貴……イキそう……な感じ?」
「……た……たぶん……は……ぁあ」
「そうなの、じゃあこっちも、頑張っちゃおうか」
「んう!うっ!んんん~~………!」
弟は再び、兄の乳首を指で捏ね重点的に攻め続けた。
「だめっ、やっぱり来る……!」
「イってもいいよ、出しちゃえ、全部」
兄はまたもや、必死に両手で口元を塞ぎ、快楽に溺れそうに涙目で喘ぐ。
「恥ずかしがらないで」
「ああ……イク! ……あぁっ! はぁあっ! ~~っ!!!!」
敷布団を両手で握りしめる。
胸部を突き出して弓なりに綺麗に反ったかと思うと、上半身をビクビクと激しく痙攣させ、のけ反った顔面の口元からは唾液が垂れていた。
そして悠一のペニスからはドピュドピュと精液が放出され続け、自らの腹部を濡らした。
「あ~あ、イッちゃった」
覚の手と自身の太腿に飛び散ってしまった精液を確認すると、荒い呼吸のまま疲れ果てたように枕へ頭を埋めた。額が汗でしっとりと滲んでいて、髪がほんの少しだけ張り付いていた。
「はぁ……はぁ…………は」
「兄貴が乳首イキしてる表情間近で見てたら……すんごい勃起しちゃった」
陰茎は血管が浮き出て、裏筋もクッキリ確認できる。先程まで扱かれていた亀頭からは、透明で粘度の高い体液が滴ろうとしている。
「舐めて。フェラ、してほしい」
「……」
ジュプッチュプッコプ…ゴプゥッゴュプ…
我慢汁の量が凄く、そしてあまりのペニスの大きさに口を全開にするだけでも大変だ。
「ん、ぐっ……んぷ」
「兄ちゃんが俺のちんぽフェラしてる~……嘘みたい。あぁー…きもちい」
右手を添えて、そして左手で自分のアナルを解す。
「自分で弄り始めるなんて、そんなに入れてほしいんだね……」
フェラをしながら、とろとろになった瞳で弟へ視線を向け続け、コクリと頷いた。
顔はほんのり赤く、自ら積極的に裏筋や陰嚢へと舌を這わせる。
「ドスケベ変態兄ちゃん……さいこう…」
そう。自分は、覚の全てが、欲しい。
空白の過去を、埋めてほしいと今更になって願い始めていた。
先程まで、昔の幼い覚の姿を思い出し懐かしんでいたというのに。
今、その弟が自分を抱こうとしている。
弟はローションを手に取ると、いよいよアナルと、その周囲をゆっくり解し始める。
「兄ちゃんをやっと抱ける」
「覚、挿れたかったんだろ、いいよ」
「……『オトナ』になるまで長かった……挿れるよ、痛かったら言って」
弟の柔らかい肉厚な亀頭が、兄のアナルを中心に上下に数回優しく往復させ、ローションを馴染ませる。そして遂にグググとゆっくり後孔へ押し当てられていく。
「入ってるの、分かる?兄ちゃん」
「きつい……デカくて……! いろんな所に擦れてくっ!」
「まだ途中だよ」
「まって、ゆっくりそこから、動いて……」
グプ…グ…プ…グプ……
「あっ……ん! …う…ぐ…う!!」
「痛くない? 大丈夫かな、兄ちゃんのケツマンコ…気持ちいいよ、熱くてすっごくちんぽに纏わり付いて、吸い付かれてるみたい」
「そんなに、気持ちいいの……んっ」
「うん、毎日抱いてたい」
グプッグプッグプッグプッ…ググググ……
「ああああ!」
「まだ、まだだよ、まだ完全に入って……な!……いっ!!!」
ジュグプッ!!!
「だめだ…てば…俺の…ほんとに…! 壊れる! 奥まで来てる…!」
「ああっ! ハアッ! ハアッ…! っく!!!」
グボッグボッグボッ!!
「んぐ! あ……なんかきそう、漏れる!! つよいって……!」
「兄ちゃん…やっぱり、チクニーしてるでしょ。乳首弄るたびにケツマンコがすごく締まるじゃん」
「うん……してたぁ……乳首だけで…たくさん…イッてたぁあ!」
涙目で赤くなりながら白状した。
恥ずかしいのか、すぐ顔を横にそむけ、乱れた前髪で表情が上手く読み取れなくなる。
「一人で開発したの?偉いね」
両親指で再び乳首を撫で回しながら、腰を当てつける。
静かな嬌声を上げながら、兄の声は徐々に高くなる。また、別の限界が近づいているようで、今にも弾けて壊れそうに身体中をビクつかせる。
「う! ぐ……来る!! 何か漏らしちゃいそうだよ! 覚っ!!」
グュポッグュポッグュポッグュポッ
「兄ちゃん、大丈夫、怖くないよ、出して……!」
「んぅああ! ……ぁあ! 出ちゃうぅ!! 覚ぅう……!!!」
シュㇽルッシュョォォオオオ……
兄は弟に擦り突かれながら潮吹き。それは勢いが止まらず、宙を舞い、今まさに結合して激しく動いているその箇所をびしょびしょに濡らした。
グュポグュポグュポグュポグュポグュポグュポグュポ
「突かれると…ぉ……これ、とまんなぃい!…あん……ぁああぁ」
シュォッ……シュッォオォ……
身体の一番深い部分で弟のペニスを咥え切って、涎をだらしなく垂らしながら嬌声を放つ兄。その姿を愛しそうに見守っていた弟も遂に……
「ああ、兄ちゃん…! 俺も、だめだ…! イきそう…!!」
「ナカに……覚の……全部……ちょうだい…!」
夜空に浮かぶ白い月が静かに見守る中、二人の兄弟は熱い鼓動、呼吸を肌で感じ合い、抱き合っていた。
兄の半端に開いたバッグの中で、着信通知の白いランプが点滅している。
家族と温泉旅行に行ってから、一か月。
悠一の隣では、いつも覚が頻繁に寄り添うようになっていた。ただ、それは本当に二人きりの時だけ。
誰にも悟られず、兄弟は昔の頃のように笑い合う。
二人の姿を、太陽の優しい光が包み込んでいた。
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