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大っっ嫌いなアイツ *R18挿絵あり

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 俺の大っっ嫌いな幼馴染が……

「全っっ然、キモチよくない!!」

 と。ひどい。
 こんな状態よ?今繋がってんの。繋がっちゃってんの!

「うる……っさいっ……!」

 白いシーツ上に、雑に脱ぎ捨てられた衣類が散らばり、ベッドには二人の背広が落ちたままだ。
 俺が背面騎乗位で抱いているその人は、こちらに背を向けたままで顔が全く見えない。乱れる赤茶色の髪。首の後ろから汗がツーと背中をなぞり落ちてゆく。
 密着する二人の内腿。熱く火照り、しっとりとしているのがすぐに分かった。
 彼は両腕を背面側へ向けると、反らせた上体を俺の方へ委ねる。
 俺は彼の胸部へ手を回し、ぷっくりとした乳首を中指で愛撫すると、高鳴る鼓動がトクントクンと手の平を通して伝わってきた。

「っ……は……ぁ……っ!」

 鍛えられた身体が時折ビクッと反応を示す。言葉では「キモチよくない」と言い放ちつつも、腰を上下に動かす姿はいかにも性欲には抗えず、といった感じ。
 俺に聞こえないように、微かに喘ぎ声混じりの吐息を溢していた。
 全く、バレバレだっての。

「嘘つき……。気持ちいい癖に」

 どんな顔してるんだろ。

「フッ……。まだ、全然……」

「ちょっとは素直に……なりなーーよっ!!」

 アイツの奥を突き上げ、中を犯す。

「ァ……ッ!! 俺がっ! こんなので……イクわけ、ないから……っ!!」

 そこまで言わなくてもいいじゃん。
 本当に自分を認めようとしない。どれだけ頑固なんだ。
 その後、俺達は互いに負けるかクソ!!と、アイツは一度も喘ぐことなく、静かに堪えたまま。俺は全て中に挿入させた状態で、全く揺るがないアイツを挑発的に責め立てた。
 仕舞いには、「もういい、俺が動くから」と、俺の両足の間に手をつき、そのまま前傾姿勢になる。



 彼は目前に大きな尻を突き出し、ジュパジュパと俺のペニスを深く咥え込み一点集中。激しくアナルでしごかれ続けた。

「ん……っ、あ……ぁ!」

 コイツ、こんなに厭らしい身体だったのかよ!?
 ……くっそ!

 完全に、慣れた『男の扱い方』。
 目の前で、俺の滾ったそれがアイツの中を出たり入ったり。結合部がぐちょぐちょになっているのが丸見えだ。
 ペニスへ断続的に伝わる彼のナカの圧と、擦れて熱くなる感覚が初めてで、思わず息を吞んだ。俺が快感を得てしまうには十分すぎる刺激。
 俺達の『隙間』は、ローションの透明でつやつやした糸をたくさん引かせ、激しく湿った肌を打ち付け合う。

 ギシ、ギシ、と深く繋がる反動で軋む。
 彼が腰を落とす瞬間に合わせ、ペニスで中を突き上げる。
 燃えるように熱い粘膜がまとわりつき、俺は射精を堪えるのに必死だった。

「はぁ! ……いいよ、出して……! ナカ……ぁ!」

 いつもより少しだけ優しいトーンで、アイツの声が耳へ届いた。
 そこまでは、覚えている。



 ――ここまでは、つい先日の話だ。

 
 なぜ、俺が大嫌いなアイツとこんな状況になってしまったのか。



 俺と幼馴染は、ガキの頃から近所でも有名な程の仲の悪さだった。
 幼稚園での玩具の取り合いから全てが始まる。
 それ以降、事あるごとに傷だらけの喧嘩。
 特に小学生の頃なんて一番酷かった。
 体育でサッカーの試合をした時も、いつも足より手が先に出る。ちなみに同じチーム内ね。内戦だよ、もう。
 そう、このガキ。コイツが俺が抱いていた男、国峰琉季。


 親同士は、ケンカする程仲が良いとかなんとか言っていた記憶があるが、俺達は全然そんなこと無かった。
 本当に、本気で嫌いだった。

 地元の小、中、高校と同じ学校へ通ったが、まぁまぁやはりソリが合わず。互いが明らかに苦手意識を持っているのが雰囲気で読み取れるくらいだった。そしてそれがいつの間にか、当たり前の距離感となっていく。

 進学を機に、故郷を離れる事になった俺は、都会で大学生活を過ごし、IT企業に就職。それなりに、ごくごく平凡な日常を送っていた。

 そこへ同窓会の連絡が届く。正確には、実家へ封筒が届いていた。それを通話で伝えてくれたのは兄だった訳だが、俺は迷った。
 
 同窓会の開催は、夏。
 言い方は悪いが、この類の集まりは苦手だ。知り合いは少なくはない方だったが、上辺だけの集まりに付き合わされてしまうことが、昔から苦痛でしかなかった。

 俺は迷いながらも、勢いで一先ず『出席』の連絡をした。

 もし『欠席』を選択していたら、きっと俺は『国峰の傍』には居なかっただろう。
 運命か、必然か、タイミングとは不思議なものだ。



 それから時が過ぎ、仕事の繁忙期に入った俺は同窓会の事など忘れかけていた。
 帰省準備と仕事のスケジュール調整にだいぶ手間取りながらも、スーツ姿でなんとか故郷へと向かう。

 その途中の空港でバッタリ再会したのが、アイツ。
 彼の事は、高校時代までしか記憶にないのに、直感で気付いてしまった。
 少し大人びた佇まいや仕草が、彼そのものだった。あの誰も寄せ付けないような雰囲気や眼差しは絶対に間違いない。
 昔から変わらない赤茶色の髪、黒のスラックス、そして白いワイシャツの襟付近にチラッと覗くうなじのホクロ。
 身長はすっと伸びていて、大人の男になってる……と。幼い頃の面影を僅かに残した彼の姿につい胸がざわめき、まじまじと見つめてしまった。

「……あの――なんですか。何か付いてますか、俺の顔に」

 しまった、余りに凝視してしまったせいで、本人にバレたっ!!…と思ったが、どうやら向こうは俺の正体に気付いていない様子だった。
 心臓が…ドキドキして…冷や汗が。手に汗握るとはまさにこのこと。
 向こうは一切視線を逸らすことなく、俺の様子を見続けている。

「すすす、すみませーーーん!」

 なんだこの返し、恥ずかしい。
 もう、だめ。

 この対応で精一杯だった。

 彼は俺の顔を見つめると、「なんだ、コイツ」と言わんばかりの表情でその場を立ち去り、人混みの中に消えていった。
 時間差で、体の芯が熱くなる。ずっと握ったままの手の中は汗だくだった。なんでこんなに緊張しなきゃならないんだ……。

 苦手過ぎて、トラウマレベルじゃん、これ。


 空港からキャリーケースと手土産を片手に、更に電車へと乗り継ぎ実家へと向かう。この電車は一時間に数本だけ、車両もそう多くはない――いわゆる、ローカル線というやつだ。

「車体のデザイン、ちょっと変わった?」

 学生時代は深緑色だったような気がしたが、いつの間にか群青色のような涼しげな色合いへと生まれ変わっていた。
 早速乗車すると、座席のレイアウトこそ当時のままではあるが、内装が全て改装され、綺麗な作りになっていた。照明の灯りも、座席のシートの柄もだ。
 
 車両内には、地元のおばあちゃんと、女子高校生の三人組が居る。
 俺は昔と同じように後ろ側の窓際の座席へと落ち着く。
 すると車窓から懐かしい景色が目の前に飛び込んで来た。
 そうだ、こんな感じだった。
 浜辺や青空、入道雲、眩い日差し、通学路だった小さな路地、よく通っていた駄菓子屋も見つけた。
 
 あの通りの桜の木、だいぶ成長したなぁ。春は花びらが舞って綺麗だろうな。

 過去の記憶と重ね、懐かしい思い出に浸りながら、俺は暫くゆらゆらと電車の揺れに身を委ねた。



 実家の最寄り駅で降車し、ここからは徒歩だ。
 この道、よく一緒に国峰と帰ったっけ。

「……」

 アイツ、来るのかな。

 いつの間にか、同窓会の事で頭がいっぱいになっていた。
 歩みを進めていくうちに、気付くと、足元は実家の近くの砂利道になっていた。ほんの少し不安定で石同士が擦れる振動が、都会で履き慣れているビジネスシューズ越しに伝わってくる。

 数分真っすぐ歩いて行く。実家はもうすぐそこだ。
 この時期、昔からいつも我が家の目印は紫陽花の花だった。角を曲がると、紺色の屋根で木造の見慣れた住まいが見える。

 中庭を一望すると、母が育てているのであろう、色鮮やかな様々な草花が花壇を彩っていた。

「ただいま~」

 玄関の戸を開けると、青緑のアンクルパンツに白いTシャツというラフな姿で兄の飛鳥が出迎えてくれた。

「お帰り、予定通りに来れてよかった」
 
 兄は地元で事務職をしていて、いかにも優男!という感じ。

「うん、久しぶり」

「母さんたちは買い物に行ってるから」

「そっか、はい! これお土産」

 職場の近くにオープンした、和菓子屋のお煎餅の詰め合わせ。紙袋を手渡す。

「いいのに、ありがとう」

 兄は微笑み、キッチンの方へ向かっていった。

「真斗、飲み物何いる~? 炭酸もあるけど」

「えーっと、麦茶!」

 真っすぐ廊下を進み、荷物を自室へ置きに向かうことにした。
 懐かしい。ドアノブのひんやりとした感触。
 
「おお」

 自室なのに、妙に緊張してしまった俺は、扉をゆっくりと開いた。
 壁に飾られたままの野球選手のポスターから、長年愛用していたグローブ、部員達との記念写真。青春時代と野球部の思い出の品々が次々と目に留まった。
 そういえばアイツに貸したCD、まだ返ってきてない。今思い出した。
 ――借りパクされたのかな。
 本棚へ何気なく向かうと、そこに気になる背表紙が。
 
「これ、アルバム……?」

 こんなところにあったんだ。全然、記憶にない……。俺、こんな場所に片付けたっけ?
 何故それが目についたのか。卒業してから一度も開いていないような気がする。
 表紙は傷一つ無く、綺麗な状態だった。

 高校時代の卒業アルバム。
 当時のクラスページを開いてみた。
 
 A組は……と。そこにはクラス担任だった、陸海先生の懐かしい顔写真が。
 体育担当であの頃は体格も良くてかなりガッチリした印象だったが、数年ぶりに改めて見てみると、思ったよりも華奢に見えて驚いてしまった。

「元気かなぁ陸海先生。怖かったな。――なんだか昔より若く見える気がする」

 そして――。

「……若い!」

 アイツを、たまたま見つけた。
 ――違う、興味本位で探してしまった。
 写真の中のアイツは、髪は明るい茶色でシルバーのピアスをしていた。
 国峰は三年間、サッカー部で女子生徒に人気だった。
 『別グループ』の同級生達とつるんでいて、殆ど俺とは交流は無かったが。
 こんなだったか?と記憶を遡る。

「真斗ー? 麦茶入れたよー。あとお隣からもらったスイカー!」

 居間の方で兄の声がした。

「はーい!」

 呼ばれたのに、動けない。
 俺は夢中になり、しばらくアルバムを眺め続けてしまった。


 あれ、俺もしかして何気に――同窓会凄く楽しみにしてない?



 両親も帰宅し、四人で迎えた夕飯の時間。こうして食卓を囲むのはいつぶりだろう。
 母が、「懐かしくなっちゃって~」と、ほんわかした口調で、具材ごろごろたっぷりの夏野菜カレーを作ってくれた。ちなみに中辛ね!そしてコーンサラダと鶏のから揚げとポテサラとオニオンスープ。

「いただきます!」

 空腹のあまり思いっきり頬張ってしまい、少し咽る。

「大丈夫? ゆっくり食べなよ」

 隣に座った兄が笑う。
 向こうでも、やっと自炊でカレーが作れるようになったが、やっぱり違うんだよなぁ。味が全然。同じカレールーを使ってるはずなのに。何か隠し味があるのだろうか。
 やっぱりウマいな、家のカレー。
「ほ~んと懐かしい。小さい頃、よくこのカレー食べさせてたわね~。ところで、同窓会の準備は大丈夫なの? もうこのままこっちに戻ってきちゃえばいいのに」

 母が心配そうに俺を見つめてきた。

「準備? 大丈夫だよ、もう全部済んでる。ここにも六日滞在する予定だよ、仕事もあるから帰らなきゃ」

「みんな集まるの? 琉季君も? よく一緒に小さい頃遊んでたじゃない~」

「あー……知らない! 来ないんじゃない?」

「そうなの?」

 あらぁと、残念そうな顔をする。

「皆さんや先生に失礼の無いようにな」

「もう、父さんまで。真斗はもう子供じゃないんだよ?」

 兄が父に向かいクスクスと笑いながら言った。

「兄さんも、俺の扱い昔と全然変わってないけどねー!」
 
「えー? そーお?」






 来てしまった。ついに、この日が。

 開催会場へ到着した俺は、兄から借りてきた黒の乗用車を駐車場へ停める。
 周囲の人々は施設中へ続々と向かっている。

 身だしなみ……大丈夫だよな!うん!ミラーでしっかりと確認。

 車を降り受付へと向かうと、懐かしいメンツと遭遇した。鶴山と滝西、柚原だ。
 この三人は全員野球部で、プライベートでもかなり世話になった仲だ。恋愛についても相談したっけ。
 会話を交わしながら、そのまま俺達は大広間へ案内された。

「そういやさー、桜葉は彼女とかいんの?」

 鶴山がニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んできた。
 
「うーん、今はいない……?かな」
 
「そういえば、聞いた? 木島ちゃん、結婚したらしいじゃん!」
 
 横から滝西が会話に入り込んできた。他校の噂話にも敏感で、情報もいち早くゲットするのが得意だったなぁ。
 
 木島、木島か……すぐに思いつかなかったが、そうだ、確か彼女はB組だったっけ。
 
「やっと思い出したよ。演劇部だったあの子だろ、学園祭で歌披露してたよな」
 
 これと言って、特に興味は無かったが、話を合わせた。
 
「相手はどうやら先輩みたいなんだけど! ほら、剣道部だった――えーっと誰だっけなぁ~?」
 
 当時、その木島と同じくらいモテモテだった柚原が言った。

「なんか、柚原が言うとあざとさが先に来るな!?」

 鶴山がガハハ!と笑うと、頬を膨らませて柚原が

「えーー! なんでだよーー!」

 と反論していた。横で滝西も笑顔で楽しそうだ。
 そうそう、この雰囲気。本当に落ち着く。
 自分が辛かったとき、何度皆に救われた事か。俺も自然と笑みがこぼれた。
 元々みんな連絡先は交換していたが、こうして直に再会できて、本当に良かったと心の底から思った。

 三人がわいわいと盛り上がっている中で、俺は国峰の姿を探していた。

「あ……」

 ずっと奥の席で他の同級生たちと楽しそうに団欒中だった。

 やっぱり、来てたんだ。

 先日空港でバッタリ会った彼の姿、そのものだった。
 あの時のこと、覚えているだろうか。
 どちらかというと気まずくなりそうなので、空港での事は忘れておいてもらえると嬉しいんだけど。

 ん?待て。

 なんで俺、アイツと会話する気満々なんだ?



 数時間が経ち、同窓会は『無事』に終了。
 結局俺は、国峰と会話を交わすことなんて出来なかった。
 まぁ、考えてみれば、声を掛ける理由も無かった。

 今回のように各地から同級生が集合するといった機会は、なかなか無いと思う。
 近況の報告から、起業した、結婚した、子供が産まれた、など多くの話題を耳にした。刺激になった反面、なんだか俺だけが、あの時に取り残されているような、そんな感覚になった。

 なんだろう、これ。
 何か、引っかかる。
 心のどこかで。

 この違和感を僅かに抱えたまま、俺は駐車場に向かった。
 停めてある黒い車の運転席近くまで行き、ドアロックを解除する……と、そこには。

「……やっぱり。あの時会ったの、真斗だったんだ」

 ネイビーのスーツを身に着けた国峰が、ちょうど助手席側のフロントドアに寄りかかりながら、こちらを振り返った。タバコを吸っている。
 微かに漂う紫煙。俺を待っていた、のか?

 曇り空。
 薄暗くなった駐車場に、俺と国峰二人だけ。
 そんなハズは無い。同窓会終了直後だ。駐車場は他の同級生で溢れかえっていても、おかしくなかった。
 ただハッキリしているのは、俺の視界にはアイツしか見えていなかった。

「お久しぶりです」
 
 俺はぎこちない挨拶をした。今度はしっかり彼の瞳を見つめながら。

「どうした、畏まって。空港で会ったじゃん」

 携帯灰皿でタバコをもみ消しながら、彼は言った。

「お、覚えてた……。そっちこそ、何だよ突然」

「さっきホールのとこで鶴山に聞いた。桜葉いるよーって。だから挨拶だけでもと思って、さ」

 微笑している。こうして面と向かって話すのは何年ぶりだろう。

「……あ、あのさ、なんであの日、あそこに居たんだよ、そういえば」

 咄嗟に聞いてしまった。
 聞かない方が良かったか、と思ったが時既に遅し。

「…………あぁ、空港? ――別れた後だったから。彼と」

「そうか……って、彼……? ええっ!?」

「……うん、彼と、別れた」

 国峰って――ゲイだったのか……?

 なんて返せばいいのか分からなくて、直ぐに言葉が出なかった。

「……それは、残念、だったな」

 え、これ合ってる?この返し、完全にまたミスった感じがすごいんだけど。
 
 絶対、目が完全に泳いでるよ、俺。

「励ましてるつもりか、ホントはザマァ見ろとか、思ってるんだろ?」

「うぐ!!」

「それとも、慰めてくれる? ……ン?」

 ぐいっと国峰は一気に距離を俺の方へ詰めてきた。

 あ。目線が少し上だ……。身長……抜かれてる。

「っく!」

 わざとか?わざとなのか?

「フフッ」

 嘲笑うと、彼は車の助手席からそのまま中に乗り込んだ。

「え? ……は!? ちょっと!」

「またさ、『喧嘩』しようよ、昔みたいに」

 挑発的な態度でそう言い放つと、シルバーの腕時計を見た。

「今から、しよ」

「何を!?」

 俺は運転席の窓から顔を覗かせつつ聞き直した。

「セックス、しよ」

 助手席に気怠そうに乗車した状態で、俺の顔を横目で見つめてくる。とても落ち着いた表情をしているが、確かに今、信じ難い言葉が飛び出した。

 ん?――夢?

 違う、現実だ。余裕たっぷりだ、コイツは、何年経っても……。

「な、なんでお前となんだよ!!」

「誰も来なそうな場所、知ってるから。地元のラブホだと何かと、アレだし」

「勝手に決めるな!」

 ラブホ?誰も来ない場所?本気なのかそれとも揶揄ってるのか。
 そもそも俺が国峰を抱く?なんて……絶っっ対に無い!と思っていたが――。
 気持ちが微かに揺れ動いてる自分に気付いてしまった。

 なんでだよ……。

 なんで俺、拒否しない。

 嫌いなら、ハッキリ拒めよ…!!

 昔から大嫌いなコイツが……。

 どう考えたって有り得無い、はずなのに。

 悟ってしまった。この瞬間に、全て。
 心の中で絡んでいた糸が、少しずつ解れていく。

「? ……ねぇ、真斗聞いてる?」


 人気が殆どない夏の夕方、少し開けた高台の見晴らしの良い場所に行くというので、俺は車を走らせる。
 ポツポツと、小雨が降り始めた。
 窓の表面を掠め、徐々に濡らしていく。

 国峰が付き合ってたのって、誰だったんだろう。
 空港で別れたってことは、もうこの地域には居ないって事なんだよな、恐らく。

「その人、長かったの? 付き合って」

「あぁ、高校時代からね。2つ上の先輩。卒業してからもずっと二人で地元に居たから」

 高校時代から!?俺が同じクラスだった頃に――。
 
 誰とも付き合ってないって噂を聞いた事があったが、そうか、そういう事だったのか、と俺は少し下唇を噛んだ。

「…………ふうん……」

 俺の頭の中で黒い何かが蠢いている。
 胸が苦しい。鼻が痛い、顔が少し火照って目頭が熱くなる。

 悔しい。

「愛してたよ。長い間。でも、フラれた」
 
 進行方向を見つめた状態であっけらかんと国峰は言った。
 目元は前髪に隠れていて、よく見えなかった。

 その相手とどんな日々を送っていたのだろうと想像してしまったが、余りにも堪えられなくて、考えることを放棄した。
 今、この状況と過去の真実、自分自身の心境を受け入れることで、俺はいっぱいいっぱいだ。

「俺にその傷……どうにかする事ってできるの?」

 何を言ってるんだ、俺は。

「フフ、できると思ったから、今こうして隣にいるんじゃないの? …違う? 何も知らないのにね、互いに」

 窓から雨に濡れていく外の景色を眺めながら、彼はため息混じりの冷静な口調で言った。

 雨の影響だろうか。道を進むに連れ、心なしか車内の湿度が徐々に上がっていくように感じた。
 肌に張り付くような空気、彼の落ち着いた声。
 
 仄かに白く曇り始める車窓。

「卒業以降の国峰のこと、全然知らないのは確かだけどさ……連絡先も知らなかったし」

「いいよー、それでも」

 結露した窓を長い人差し指でなぞり、適当ならくがきを始める国峰。
 「もうどうでもいい」と自棄になっている彼の雰囲気を感じ、国峰を落ち着かせようと、会話を続けながら車を走らせた。



 俺達が車を降りた頃、時刻は午後の九時半を過ぎていた。
 ここは隣県のホテル。
 結局、最終的に来てしまった。
 
 国峰は同窓会の会場へ行く際は知り合いと同乗して来たそうだ。
 この流れ、単純に俺の車でタダ乗りで帰れるからラッキーと思っただけなのでは、と思った。

 そして、まだ一緒にセックスすると決まった訳ではない。
 不仲だった知人と再会して酒を酌み交わし、和解するなんてよくある話で。もしかしたら、このまま朝まで彼の失恋話の愚痴を聞く、なんて事もあるかもしれない。
 俺は無駄にあらゆる可能性に思考を巡らせていたせいか、無性にイライラしていた。
 国峰のことを考えていると、やはり腹が立ってくる。何故か悔しくて、許せなくて。心がざわついて余裕が無くなる。子供の頃から、いつもそうだった。
 今はとてつもなく、何もかもめちゃくちゃにしたい。そんな衝動に駆られていた。
 空港で出会った時の国峰の立ち姿を思い返す。
 そして今、隣にいる彼。

 なんで、俺、こんなにコイツのこと……。

 頭の中から消し去ろう、忘れよう、そう強く思う程、脳裏から離れない。
 
 ロビーを後にし、カードキーで部屋のロックを解錠すると、我先にと、国峰が入室した。

「ふう、肩凝った」
 
 国峰が伸びをすると、俺の方を振り向いた。

「さて――ほら、慰めてみせてよ」
 
 それが人に『お願い』する側が言う事か。
 挑発するかのように、俺に向かい両手を広げ、ハグを要求するような仕草を見せる。

「チッ! 黙れよ……!」

 その手を跳ね除けると同時に国峰は微笑した。

「また昔みたいに強がって。おもしろ」

 俺はとうとう、カチンと来た。

 無理だ。

「抱けばいいんだろ」

 俺は部屋の壁に彼を押し付けると、キスをした。
 そして激しく舌を絡め合う。
 今までの、このモヤモヤ、ズキズキする感情と、長年の鬱憤を晴らすように。

「んっ……」

 俺は視線を逸らすことなく、彼の呼吸を奪い続ける。

「っ……! ……はぁ……、フフ、それで……どう? 大嫌いなヤツのキス……」

 彼が囁いた。
 俺は、元々煙草が苦手だ。だが――。

「煙草の味。――でも、嫌いじゃない」

「真斗、舌入れンの下手すぎ」

「さっき」

「?」

「国峰が別れたって言ってたそいつに俺、少しだけ…………嫉妬した」

「……」



 壁際に国峰を追い遣った状態のまま、俺たちはあらゆる感情と欲望に我慢できず、互いを脱がし始めた。

 うん。始めたのだが、これ……もう既にある意味喧嘩腰だ。

「や、真斗さ、もう少し優しくできないのか! この不器用! ベルト外させろ!!」

「国峰こそ、慰めて欲しいなら静かにしてろ! 滑るから! ボタンが!!」

 互いのグシャグシャな背広が床に脱ぎ捨てられる。俺は彼のワイシャツを、彼は俺のベルトを外すのに四苦八苦。

 俺達、良くも悪くも昔のままだった。

「あーもう! 琉季! このままでいい! ベッド来い!」

 咄嗟に彼の手首を掴むと、そのままベッドの上へと連れ出し押し倒す。
 仰向けで俺と向き合う彼の瞳は真っすぐで、口元にはいつもの笑みが浮かんでいた。
 カーテンの向こうには、青白く冷たい月の光が微笑み、太陽色をしたベッドサイドライトが仄かに俺たちを照らし続けた。

「……あれ、黙っちゃった。さっきまでの勢いはどこいったの」

「うっ」

 押し倒した体勢のまま、向かい合う。
 シーツの上に沈む俺の両手の間に、彼がいる。
 
「…………どうしたらいいか、分かんない?」

 そう言うと、ネクタイを緩めすぐ脇に放った。自らワイシャツのボタンをゆっくりと、一つずつ外し始め、全てボタンを外し終えると、俺のベルトに手を掛ける。

「大丈夫。いいんだよ」

 琉季が囁いた。

「え」

「好きにしても、いいよ」

 俺は本当に“慰め”られるだろうか、彼を。

「なんで、こうなったんだろ、俺達」

「フフ……なんで、だろうね」

 その理由は、もうとっくに気付いていた。気付かない、分からないフリをしていただけ。

 琉季の胸部に触れる。こんなに肌が滑らかで白かったんだ。その見た目とは裏腹に、彼の身体は熱く、あらゆる欲に駆られた俺は、手を這わせながらそっと、キスをした。

 これが、本当の俺――なのかもしれない。



 こうして、俺とアイツの身体の関係が始まった。

 初めての、そして恐らく一番お互いが素直になれなかったセックスだった。

 ここまでが、彼を抱くことになった経緯。



 帰省して六日目の滞在日。
 今日は、予定をキャンセルして、最後に、もう一晩だけ、アイツと時間を共にしている。

 相変わらず、何を考えているのか分からなくて、乱暴で、荒々しくて。
 激しく、時には甘く、共に寄り添っていたいと願った俺達は一日中繋がり続けて、溶け合ってしまいそうなくらい、深く深く、その想いのままに溺れ、沈み続けた。

 幼稚園から高校時代まで、クタバレ!と思うくらいに大嫌いだったヤツと、抱き合い交わっている事が信じられない。

 仮に過去の自分に今の状況を伝えられたとしても、恐らく、いや、絶対信じてもらえなさそうだ。殴られる気がする!

 恋人繋ぎをしたまま、彼は今、ベッドの上で仰向けになった俺の上に跨り、向き合っている。
 彼はとろとろの表情で気持ちよさそうに前髪を乱れさせ、微笑しながら全身で俺を受け止める。

 過去の感情や記憶を、素直に愛しく懐かしいと受け入れられるようになったのも、国峰と再会したからなのかもしれない。

 誰よりも大嫌いで、誰よりも大好きな幼馴染。


「どうした? もうイきそう? 早いんじゃない、このソーロー」

「なっ、挑発してんのか!」

「フ……」

「絶対ヒィヒィ言わす! 足腰立てないくらいにしてやる!」

「こっちだって! すぐにイカせてやるよ、ほらッ! 早くイけ、童貞!!」

「うるさい! というか初めてはこないだの琉季だったっての!!」

「え、真斗お前……、ホントに俺と寝るまで童貞だったの……」

「悪いかよ!」

「…………嬉しい」

「へ?」

 この後、激しく何度も抱いて彼のお腹がいっぱいになるまで、ボダボダとシーツ上に滴るくらいに、俺の熱を注ぎ続けた。


 本当に、俺の大っっ嫌いで大好きな幼馴染のナカが……死ぬほど気持ち良くて困ってます。
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