25 / 40
22「見えない刃」 *差別的表現あり
しおりを挟む
※差別的なセリフや描写が含まれますので苦手な方はご注意ください。
※GLカップルが登場します。(絡みなし)
俺達は会場を後にした。
天気が良くて涼しげな風が吹いている。
日差しが地面に反射し路上の人混みも多くなっていた。
お出かけ日和。
ん、これって――。
デート、ではなかろうか?
秋之が腕時計を見ながら言った。
「お昼になるね~。どこかお店入ろっか」
「もうそんな時間か、いつもの洋食屋でパスタにする?」
「こっちまで来てみたんだし、もっと散策しようよ~! そういえば、この辺の近くに美
味しい和食屋さんがあるみたいだからさ、行ってみない?」
「いいね、健康的! 野菜食べたい」
「野菜不足なの? しっかりバランス取れたもの食べないとだよ~!」
ジト目で見つめられた俺は、無意識に後退り。
だって、肉のほうがいろいろと都合良いんだもん。
道順としては来た道を途中まで戻り、デパートのある通りの真向いの路地を入ったところにあるらしい。
昼時だからだろう、既に歩道は物凄い人で溢れかえっていた。
俺達は、繋いだ手が解けない様に、人混みの中を進む。
現場近くまで来ると、行列が見えてきた。
「わ~!? 並んでる! …うーん、どうする?」
列の最後尾を覗き込む秋之。
「いいよ、並ぼう」
俺は手を引きながら列の最後尾へ並ぼうとした。
「ねぇ、あれ見てみ」
「うわ、マジ」
「え、あれ隣女じゃねーの?」
列に並んでいるそれ相応の年齢の男女グループの数人が囁くのを耳にした。
え。なに、これ。
動揺しつつも、平静を装うのに必死だった。
横目で秋之に視線を移した。
彼らは、俺達より少し年上のような雰囲気だった。男性グループの三人。
その人たちが発する言葉の刃に、秋之は気付いていないようだったが。
「あれってホモだろホモ」
「よく来るよこんな所まで」
囁く声が聞こえてくる……。
やめてくれ、頼む。頼むから。
一緒に握っていた手、感情がぐちゃぐちゃになって、強く握ってしまっていた。
苦しい。
「どっちだと思う?」
こうして出歩くことすらもままならないのか。
息苦しい。
頭の中が真っ白になりそうだ。
「おい、お前」
え。
「お前だよ、そこ」
嘘、秋之?
気付くと手は振り解かれていて、隣に彼の姿がない事に気付いた。
「ちょっと、いいって、やめろ」
俺は咄嗟に声に出して静止しようとした。
「よくない! 黙って聞いてたけどさ! なんなんですか!!」
「誰か一人でも……! 本気で……愛した事、……あるの……」
秋之は顔を俯かせ、小声で寂しそうに呟いた。
そして怒りで声が震えていたのが俺には分かった。
本当に、秋之……だよな。
静かな怒りに体を震わせている。
俺は秋之の右肩に手を置き、もう、いいから。とその場から去ろうとした。
「ねぇ、ボクも黙ってぜ~~~んぶ聞いてましたけど、無いっすよ、そこのオッサン」
男達の前に並んでいた和食屋の常連客らしき二人組の女性が同時に振り返った。
一人は長身でショートカット、そしてセミロングの可愛らしい華やかな服装をした二人が、立っていた。心なしか、俺には救世主のように見えた。
男たちに向かい、言葉をぶつけたその子は、いかにも芯が強そうな雰囲気を醸し出している。
「ボクたちさぁ~、レズビアンなんですけど、それについても何か言いたい事あったりする~? さっき後ろでナンパがどうとか聞こえたんだけど」
「は、はぁ!?」
男の一人が挙動不審になる。
「自分に理解できないものを頭から否定し貶す。カナシイですね」
無口そうな連れの彼女が落ち着いた声で呟いた。
「そうやって文句垂れてる奴程、都合悪くなると逃げるんだろ、なぁ?」
その子は、一歩ずつ男達へ近付き、感情と声量を一定に保ったまま捲し立てる。
それが、めちゃくちゃ怖い。
「も、もう他行こう!」
「あの子たち姉妹なんかじゃなかったじゃねぇかよ! オイ!」
「お前がナンパしたいとか言うから!」
陰口を叩いていた男性グループは、俺達より真っ先に、そそくさとその場を立ち去って行った。
どうしたらいいんだってテンパった。
まだ体が強張ってる。
俺、何もできなかった。
どうしたら、よかったんだろう。
「あの、すみません。ありがとう。夏樹、だいじょうぶ? ごめんね……」
秋之が彼女達に近寄ると礼を言った。
「いいんですよ。腹立ちますよね。ボクたちもこういう事、よくあったから。なんか見てられなくて。首突っ込んでごめんなさい」
その後、互いのことを少しだけ話し、周辺のお店をたくさん教えてもらった。
秋之は目をキラキラさせて、今度行こう、行こうと、元気になった様子で俺は内心かなりホッとした。
俺らのことを気遣ってのことだろう、二人は近くのパンケーキ屋へ向かいますとの事で、その場を去っていった。
なんだか、嵐のような二人組だった。
強いインパクトを俺達に残したまま、秋之の家へ帰宅。
「逞しかったなぁあの子たち……」
どうやら二人は大学生で、駅の近くで同棲しているらしい。
同棲か。
※GLカップルが登場します。(絡みなし)
俺達は会場を後にした。
天気が良くて涼しげな風が吹いている。
日差しが地面に反射し路上の人混みも多くなっていた。
お出かけ日和。
ん、これって――。
デート、ではなかろうか?
秋之が腕時計を見ながら言った。
「お昼になるね~。どこかお店入ろっか」
「もうそんな時間か、いつもの洋食屋でパスタにする?」
「こっちまで来てみたんだし、もっと散策しようよ~! そういえば、この辺の近くに美
味しい和食屋さんがあるみたいだからさ、行ってみない?」
「いいね、健康的! 野菜食べたい」
「野菜不足なの? しっかりバランス取れたもの食べないとだよ~!」
ジト目で見つめられた俺は、無意識に後退り。
だって、肉のほうがいろいろと都合良いんだもん。
道順としては来た道を途中まで戻り、デパートのある通りの真向いの路地を入ったところにあるらしい。
昼時だからだろう、既に歩道は物凄い人で溢れかえっていた。
俺達は、繋いだ手が解けない様に、人混みの中を進む。
現場近くまで来ると、行列が見えてきた。
「わ~!? 並んでる! …うーん、どうする?」
列の最後尾を覗き込む秋之。
「いいよ、並ぼう」
俺は手を引きながら列の最後尾へ並ぼうとした。
「ねぇ、あれ見てみ」
「うわ、マジ」
「え、あれ隣女じゃねーの?」
列に並んでいるそれ相応の年齢の男女グループの数人が囁くのを耳にした。
え。なに、これ。
動揺しつつも、平静を装うのに必死だった。
横目で秋之に視線を移した。
彼らは、俺達より少し年上のような雰囲気だった。男性グループの三人。
その人たちが発する言葉の刃に、秋之は気付いていないようだったが。
「あれってホモだろホモ」
「よく来るよこんな所まで」
囁く声が聞こえてくる……。
やめてくれ、頼む。頼むから。
一緒に握っていた手、感情がぐちゃぐちゃになって、強く握ってしまっていた。
苦しい。
「どっちだと思う?」
こうして出歩くことすらもままならないのか。
息苦しい。
頭の中が真っ白になりそうだ。
「おい、お前」
え。
「お前だよ、そこ」
嘘、秋之?
気付くと手は振り解かれていて、隣に彼の姿がない事に気付いた。
「ちょっと、いいって、やめろ」
俺は咄嗟に声に出して静止しようとした。
「よくない! 黙って聞いてたけどさ! なんなんですか!!」
「誰か一人でも……! 本気で……愛した事、……あるの……」
秋之は顔を俯かせ、小声で寂しそうに呟いた。
そして怒りで声が震えていたのが俺には分かった。
本当に、秋之……だよな。
静かな怒りに体を震わせている。
俺は秋之の右肩に手を置き、もう、いいから。とその場から去ろうとした。
「ねぇ、ボクも黙ってぜ~~~んぶ聞いてましたけど、無いっすよ、そこのオッサン」
男達の前に並んでいた和食屋の常連客らしき二人組の女性が同時に振り返った。
一人は長身でショートカット、そしてセミロングの可愛らしい華やかな服装をした二人が、立っていた。心なしか、俺には救世主のように見えた。
男たちに向かい、言葉をぶつけたその子は、いかにも芯が強そうな雰囲気を醸し出している。
「ボクたちさぁ~、レズビアンなんですけど、それについても何か言いたい事あったりする~? さっき後ろでナンパがどうとか聞こえたんだけど」
「は、はぁ!?」
男の一人が挙動不審になる。
「自分に理解できないものを頭から否定し貶す。カナシイですね」
無口そうな連れの彼女が落ち着いた声で呟いた。
「そうやって文句垂れてる奴程、都合悪くなると逃げるんだろ、なぁ?」
その子は、一歩ずつ男達へ近付き、感情と声量を一定に保ったまま捲し立てる。
それが、めちゃくちゃ怖い。
「も、もう他行こう!」
「あの子たち姉妹なんかじゃなかったじゃねぇかよ! オイ!」
「お前がナンパしたいとか言うから!」
陰口を叩いていた男性グループは、俺達より真っ先に、そそくさとその場を立ち去って行った。
どうしたらいいんだってテンパった。
まだ体が強張ってる。
俺、何もできなかった。
どうしたら、よかったんだろう。
「あの、すみません。ありがとう。夏樹、だいじょうぶ? ごめんね……」
秋之が彼女達に近寄ると礼を言った。
「いいんですよ。腹立ちますよね。ボクたちもこういう事、よくあったから。なんか見てられなくて。首突っ込んでごめんなさい」
その後、互いのことを少しだけ話し、周辺のお店をたくさん教えてもらった。
秋之は目をキラキラさせて、今度行こう、行こうと、元気になった様子で俺は内心かなりホッとした。
俺らのことを気遣ってのことだろう、二人は近くのパンケーキ屋へ向かいますとの事で、その場を去っていった。
なんだか、嵐のような二人組だった。
強いインパクトを俺達に残したまま、秋之の家へ帰宅。
「逞しかったなぁあの子たち……」
どうやら二人は大学生で、駅の近くで同棲しているらしい。
同棲か。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
24
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる