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15「初夏とタコさんウインナー」
しおりを挟む春が終わりを告げると、緑が生い茂り、街路樹も活気に満ちる。
日差しも暖かい。
夏がもうそこまで来ている事を、そよ風が運ぶ若草の香りで微かに感じていた。
そんな、お昼時。
俺は今日は職場近くの公園で、弁当を食べる事にした。
入社してからずっとオフィスの休憩スペースや営業チームに誘われてランチに行っていた が、たまには一人になる時間が欲しいと思い、こうして外に出ていたが、うん。
案外、悪くない。
落ち着くし、ゆっくり考え事をするには丁度良いのだ。
鞄から弁当箱を取り出し、膝の上で広げ始める。
椅子の横に、いつもの缶コーヒーを置いた。
「ふぅ~! 腹減った」
外回り、これから暑そうだから体調管理気を付けないとな。
あと、食生活。
パカッと弁当箱の蓋を開く。
「あっ」
タコさんウインナー、入ってる。
今回、北岸がどうしても俺に「お弁当作りたい!」と言うので、お願いしてみた。
可愛過ぎるような気もするけど、なんだかアイツらしくて嬉しい。
お弁当メニューは、オムレツ、ブロッコリーとコーンとパプリカのチリマヨソース和え、ミニハンバーグとエビピラフ、そしてタコさんウインナー。
洋風でボリューミーで、美味い。
食欲唆る色だし、何故これが俺にはできないのか。センス?ちょっと羨ましい。
「くっ……エビピラフもおいしい……止まらない」
もぐもぐもぐもぐ
「あれ~? 珍しい! 宮田くん?」
横から俺を呼ぶ声が聞こえた。
視線を向けると、そこには水崎さんの姿が。
「あ」
「同期飲み会以来だよね? 久しぶり~! わ、かわいい~! 美味しそうなお弁当じゃん?」
「ええ、まあ」
「あらあら? もしかして……もう彼女できた~? いいねぇ、充実してるねぇ宮田くんは~っ!!」
確かに、充実した日々を送っているなって思う。
充実……うん。いろいろ思い当たり過ぎる。
「……俺、まさかあのタイミングであんな事になるなんて思ってなかった」
「二人だけ一緒に帰ってたしさ、あれは……ってなるよ、うん」
「そうッスよね……って!! えっ、いやいやいや!!? ち、違いますよ!?」
な、な、水崎さんに思いっきり合わせてしまっていた!
ば、バレたか? コレ!!?
動揺を隠しきれない。
なんだろう、凄く優しい菩薩みたいな顔でただ、ただ頷いている。
「うん、うん。応援してるから、うん」
「ぐう!」
飲み会がなければ、俺達はあそこまで北岸と一夜を共にするくらい急接近することもなかったんだ。
そうなると、水崎さんには死ぬまで足を向けて寝られない。
恋のキューピッドということになる、のか?
あ、ミニハンバーグ、中にチーズ入ってる。
ここまで凝るとは。アイツめ……。おいしい……。
「水崎さん、最近仕事どうです? 忙しい?」
「そうだね~! 今、先輩と複数案件それぞれ掛け持ってるんだけど大変! 市場も需要も全く違うし!」
「うちの部署も負けてられないな、俺、契約まだ一人で取った事無い」
「作戦立てて、これは効果がある! って検証して実践して結果が出るとさ、面白! ってなるよね~! 人様相手だと特にさ」
「バリバリの出来る社員になってる……!」
「何をおっしゃいますか~! あ、営業の坂見さん、凄腕だってうちの部署でよく話題に上がるよ? 昔、入社して間もないのに、難しい取引先の契約ゲットしたんだよ~って!」
「他部署に広まってるんだ、流石だな」
「いやいや、社内全体だよ! 寧ろ」
ぐぐいっ!っと俺に顔面を近付け小声で話すその表情は『何か裏がありそう』といった感じだった。
入社してから暫くして、案件リスト、一部だけど見せてもらった時に瀬良さんから聞いたっけ。大手の映像企画会社の案件が取れたんだって。その件か?
週に数回、坂見課長と同行する時があるが、あまり過去の案件について詳細は聞いたことがなかった。
今度、聞いてみようかな。
「ごちそうさまでした」
今日、北岸を外に誘わなくて好都合だった。
水崎さんに付き合ってること、バレ兼ねなかったかもしれない。
いや、もしかしてもう……バレてる……?
応援ありがとうございます!
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