【R18】恋人CONTRACT

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8「同期交流会」

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 まずはキッチンカウンターで、たっぷり水を飲まされた。木のお椀で三杯。一度に飲む量としては多過ぎる。三杯目を拒否しようとしたら、「俺に飲ませて欲しいのか?」とロルガが口の端を片方あげて、何かを企むような顔をしたので、あわてて流し込んだ。
 そして食糧庫へとむかった。
 ここに初めて入った時はひとりで、天井まで続く棚に納められた食料の多さに圧倒されたのを思い出す。ロルガとの二人暮らしで食料はだいぶ減り、中にはもう何もない段もある。
「なんで食糧庫なの?」
 いナントカ——俺の発音できない何かは正体不明だし、サウナに入るという話はどこにいったのか。困惑する俺をよそにロルガは楽しそうだ。
 ロルガの足なら、五歩もしないで突き当たりまでいけるはずなのに、なかなか進まない。転がっていたイモをサッカーのリフティングの要領で蹴り上げて棚に戻したり、目に入った蜂蜜の瓶を指で弾いたりと忙しない。
「さて、行くか」
 気が済んだらしいロルガが指差した先には初めて見る引き戸があった。いつもは薪が山積みになっている場所だ。ロルガが勢いよく戸を開けると、ぶるり、俺の体が震える。そこは外だった。
「え、え、えぇ~?」
 すぐ目の前には小さなログハウスが建っている。平屋の物置にしては立派なそれまでは三歩も行けば入れそうだが、道のりはもちろん雪が積もっている。腰布一枚で震えながら辺りを見回すと視界の端で何かが動いた。そちらに気を取られていたら、ロルガに後ろから背中を押され、右足が雪に触れた。
「つめたッ」
「なんだ、だらしない。これくらいで」
「だって!」
 振り向いて抗議しようとしたら、体がふわりと浮いた。まるでフィギュアスケーターがパートナーを持ち上げるように、ロルガは後ろから俺の腰を掴んだ。両足が空を蹴る。
「ひぇ……」
 ロルガだってターザンみたいな毛皮しかないのに、寒そうなそぶりは見せずに素足のまま雪の上を歩いた。
「開けろ」
 目の前のドアに手を伸ばすと、それだけで熱を感じる。開けると共に押し寄せる熱気に一瞬呼吸が止まった。確かに、サウナだ。鼻を通り抜ける匂いにベーコンが頭に浮かんだ。
 小屋の中の光源は、屋根の近くにある小さな明かりとりの窓から入る日差ししかないので、薄暗い。広さは四畳くらいだろうか。部屋の奥には煉瓦で組んだ腰ぐらいの高さの立方体があり、上には真っ黒な石が山のように積まれている。昔テレビで見た北欧の古いサウナにもそっくりなサウナストーブが出てきた。小窓の奥をみると真っ白な灰が積もっているからきっと同じ役目を果たすのだろう。
 ロルガは俺を抱き上げたまま壁に近寄り、階段状になった作り付けの腰掛けの前で止まった。
「初めてだから加減した。あまり熱くはしていないが、心配なら手前の下段が良い。奥の上に行くほど熱くなるがどこに座る?」
「じゃあ、……真ん中で」
 三段あるうちの二段目中央に下ろされると、熱い木の感触に息がもれる。ロルガは俺よりも熱源寄りの上段に腰を下ろした。俺の横に投げ出されたロルガの足が目に入る。筋肉の筋に沿って、早くも汗がたれた。気がつけば俺も鼻の頭に汗をかいている。
「あぁ、あつい……」
「そうか。無理はするな。熱すぎるなら一段下に座れば良い」
「うん。大丈夫。きもちいい」
 熱された空気に息を吸うにも慎重になる。懐かしい感覚を思い出しながら、細く、長く、ゆっくりと呼吸を繰り返す。自分の肌の上に浮いた汗がしずくとなって流れていくのを目で追っていた。
 体が熱に慣れ余裕が生まれてくると、ロルガの呼吸する音が聞こえてきた。自然とリズムが近づき、やがて重なる。ぱた、ぱた、と汗が垂れる音が加わり、互いのつばを飲み込む音さえわかる。鋭くなった神経が何かを感じ、振り返るとロルガと目が合った。軽く脚を開き、膝に腕を預けてこちらを見ている。表情はないが、瞳の奥で何かが燃えていた。
 今のロルガはむき出しだ、と思う。
 いつもは隠されている感情が顔を出していた。だけど、それが何かわからない。
 俺に向けられた感情の正体が知りたいが、恐ろしくもあった。知ったら、きっと何かが変わってしまう。そんな予感があった。
 恐々とためらいながらもロルガへと手を伸ばす。どうしたいのかもわからない無意識の行動だったが、ロルガはそれを待っていたかのように俺の手を取り、自分の座っている最上段へと引き上げた。
 熱に慣れたはずの体が再び悲鳴をあげる。また、一から呼吸を整えなければいけない。
 細く、長く、ゆっくりと。
 考えなくても、自分の体が導いてくれる。
 研ぎ澄まされていく感覚が捉えるのは、隣に座るロルガのことだった。言葉も交わさず、膝の上に座っているわけでもないが、自分の一部のように近く感じる。

 どれだけの時間が経ったのだろう。
「そろそろ出るか」
 ロルガに声をかけられた俺は両腕を広げる。何も言わなくても、当然のように抱き上げられて小屋を後にした。
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