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第二章
今日は遊ぶ(鋼の意思)
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それにしても、昨日は大変だった。
ミレイユを見つけた時点でお昼くらいだったから、午後だけで色々やったしなぁ。
宿に帰ってきたあとも、ちゃんと宿の人に宿泊者が増えることを伝えたけど・・・
多分怪しまれたなぁ。ミレイユの姿を見せてないし。
精霊種の外見はほとんど純人種と同じだ。特徴として、髪の色は緑か青であることが多く体重が非常に軽い。
また、外部からダメージを受けても傷は残らず、ただ存在が希薄になる。
つまり、精霊種はみんな傷一つないわけだ。
ただし、精神状態によって肌や髪といった部分の状態が変わる。会ったときのミレイユなんて最悪に近い状態だったと思う。
さて、外見はほとんど人種と同じなので、少し顔を会わせただけで精霊種とはわからないとは思う。
体重だって、よっぽどのことがない限りわからない。
問題があるとすれば・・・やはり髪の色か。
緑や青の髪は賢人種や麗人種などに多いんだけど・・・純人種には少ない。
精霊種は特に耳も尖ってないので、やはりそこが一番の懸念点だ。
とはいえ。流石にそれくらいは予想できる範囲だったので。
「・・・よし、できた!」
「これは、見事な帽子ですね・・・シルヴァは裁縫もできたのですね。」
「裁縫って言うか編み物だけどね。」
僕の手元を見て感心した様子のヒルダにそう答える。
ヒルダの言葉通り、僕の手元にあるのは幾つかの糸で作った簡単な帽子だ。
ちなみに獣人種に溶け込めるよう、耳の形もつけてみた。決して僕の趣味というわけではないです。
編み物は一人旅の賜物・・・というわけではなく、師匠のところにいた時に何故か仕込まれたものだ。
師匠曰く、『自分で自分用のマフラーとかセーター編むのはなんかヤダ』
だそうだ。
じゃあ既製品を買えよ・・・
「とりあえず有り合わせのものだけど、無いよりマシでしょ。ミレイユ、つけてみて。」
「う、うん・・・」
ヒルダの後ろでチラチラとこちらをうかがっていたミレイユに帽子を手渡す。
ミレイユはしばらく僕の顔とヒルダの顔、そして手元の帽子へと視線を忙しなく動かしていたが、恐る恐るといった様子で帽子をかぶる。
「・・・これで、いいの、かな?」
「ふふっ、よく似合っていますよ、ミレイユ。」
やはりどこか不安そうなミレイユに、ヒルダが優しく微笑みかける。
「どう、きつくない?一応、伸縮性のあるもので作ったから伸びるとは思うけど・・・」
「う、うん、大丈夫。」
「そっか。もし変な感じあったら遠慮しないですぐに言ってね。」
あくまでも素人仕事だからね。
「うん・・・うんっ!シ、シルヴァ、ありがとう・・・!」
そう言って顔を綻ばせるミレイユ。それは、出会ってから初めて見る本当に嬉しそうな笑顔だった。
そ、そんなに喜ばれるとなんか照れるな・・・
「ど、どういたしまして。とりあえず、それをかぶっておけば怪しまれないから安心してね。」
厳密に言えばおまじない程度の効果しか期待できないかもしれないけど、ここはミレイユを安心させるためにも断言しておく。
「あと他に気をつけるのは体重だけど・・・まあ、それはヒルダにくっついてれは大丈夫かな。・・・今みたいにね。」
多少なり僕にも心を開いてくれたみたいではあるけど、まだミレイユはヒルダにべったりだ。でも、その方が都合が良くもあるので問題はない。
「ええ、ミレイユのことは任せてください。」
「・・・えっと、どういう、こと?」
あ、まだミレイユにはちゃんと言ってなかったね。
「ミレイユ、今日はこれから遊びに行くよ。」
「え・・・?」
「といっても、僕達もシャクシャラに詳しくは無いからね。ただ街を適当に回ろうかな。」
「そ、そんなこと・・・わたしがしても、いいの・・・?」
「あはは、もちろん。」
質問の意味がよくわからないけど、良いに決まってる。
「そもそもここに来てから勤勉に働きすぎてたよね。」
「・・・そうですか?」
そうだと思うよ。シャクシャラに来てから毎日ちゃんと何らかの目的をもって動いてるからね。
「だから今日は何の目的もなく遊びます。異論は認めないのでよろしく。」
「ふふっ、シルヴァがそう言うのなら仕方ありませんね。」
そう言って笑うヒルダ。ちなみに彼女には今日一日遊ぶことを昨日のうちに伝えてある。
「そ、そんな迷惑かけられない・・・」
「僕達が遊びたくて出掛けるんだ。迷惑なわけないよ」
「ち、ちが・・・そうじゃ、なくて・・・」
困ったような表情で、しかしそれ以上言葉を紡ぐことなくミレイユは黙り込んでしまう。
この精霊種の少女が何かしら抱えていることは僕だってわかっている。
だから別に、何か起こっても別に問題はない。
「だいじょーぶだいじょーぶ。例え何かあったとしても、僕達に対応できない状況はそうないだろうし。」
「ええ、そうですね。私は戦闘力に自信がありますし、シルヴァには多くの知識がありますから。だから、どんなことがあっても、ミレイユは心配しなくても良いんですよ。」
そう言ってミレイユの頭を撫でるヒルダ。
「・・・ほ、ほんとにいいの?」
「ミレイユが嫌って言っても行くからね。とりあえず最初はごはん食べて・・・魔導遺産のお店とか探して見るのも面白いかも。」
「あ、良いですね。それに、ミレイユの服も見たいです。」
お、ヒルダも乗り気になってきたね。
仕事に協力してもらってからは、遠慮しないようになってくれて僕も嬉しい。
「よっし、それじゃ出掛けよう!」
「・・・・・・うんっ」
今日は目一杯楽しもう。
もちろん、昨日のレオニールさんとの話を忘れたわけではないけど・・・ミレイユのことをなにも知らないまま精霊種の里のことを聞き出すのも、ね。
というわけで、とりあえずまずは何か食べようって話になったので。
僕達は初めてシャクシャラに来た時に訪れた、犬人のおやじさんの屋台まで来てみた。
「おやじさん、これ三つくださーい。」
「へい、まいど・・・って、この前の兄ちゃんじゃねえか。」
「仲介所の件は助かりました、ありがとうございます。」
あの情報のおかげで、色々スムーズに準備できた。
「はっはっは、大したことじゃねえさ。んで、三つだったな?・・・っと、そういや初めて見る顔があんな。」
「ああ、この子はミレイユです。最近ちょっとした縁で知り合ったんですよ。」
なんでもないことのように流す。
おやじさんはそれだけ聞くと、一度納得したようにうなずく。
「ほほー、ずいぶん可愛らしい嬢ちゃんじゃねえか。うちの娘ほどじゃねえけどな!」
「あ、あはは・・・」
笑うしかない。だって娘さん知らないし・・・
ちなみにミレイユはさっきからヒルダの後ろにずっと隠れている。
「さて、じゃあ少し待ってな。最近肉が高くなってきたからか、うちの店も売り上げが上がってきててな。ありがたいことなんだが、ちっとばかし追い付かねえんだ。ったく、面倒なこと起こしやがるぜ。」
「っ・・・」
屋台のおやじさんの何気ない言葉に、ミレイユが僅かに体を強ばらせる。
ほんの小さな動きだったけど、流石にぴったりくっつかれていたヒルダも気付いたらしく、自然な動きでミレイユの頭を撫でる。
僕は二人の様子を目の端にとらえながら、話を続ける。
「あはは、まあ駐留軍も動いているようですし、じきに解決しますよ。」
「ま、それもそうだよな。・・・っよし、お待ち!」
「おー、相変わらず美味しそうですね。」
おやじさんから商品を受け取り、ヒルダとミレイユに手渡す。
魚と香草の良い香りが食欲を掻き立てる。
「さっそくいただきまーす。ほら、ミレイユも食べてみなよ」
「う、うん。・・・っ!!美味しい・・・!」
恐る恐る口をつけたミレイユだけど、一口で驚いたような顔になり、夢中で頬張る。
有角兎の肉を食べてた時や、帽子をあげた時にも思ったけど・・・
どうにも、この子は良い方向の刺激に対する慣れがない。
妙なトラウマもあるみたいだし、気遣いは忘れないようにしよう。
「で、おやじさん。また質問なんですけど。」
「おう、なんだい?」
「この辺で遊べるような場所とか、なんか面白い場所とかありますか?」
「またずいぶんと大雑把な質問だな・・・」
それは勘弁してください。今日のお出掛けは完全に行き当たりばったりなので。
「そうだなぁ・・・遊ぶってんなら、適当な魔導遺産の店とかがオススメってことになるか。ああいう店には、実用性はともかく見た目が派手なアイテムとかあるもんだぜ。」
「ほほう。」
「あとは、演劇とかか?シャクシャラの北の方に屋外演劇場があってな。毎日興行をしてたはずだぜ。俺は行ったことねえけど、結構評判良いって聞いたな。」
なるほど、演劇か。僕もあんまり見たことないし、行ってみても良いかもしれない。
服を見に行って、ちょっと魔導遺産の店を覗いて・・・
そのあとに演劇でも見に行こうか。
「ありがとうございます。とりあえず演劇見に行って見ますよ。」
「おう、楽しんできな。また来いよ!」
そう言って笑顔で手を振るおやじさん。他にもお客さんいたのに丁寧に答えてくれてありがたい限りだ。
僕達は最後にもう一度お礼を言ってから、その場を離れた。さて、服屋さんはもう開いているかな?
それにしても、屋台のおやじさんの情報のおかげで思いがけず充実した1日になりそうだ。
「ミレイユ、次は服屋さんに行こうと思うんだけど・・・どんな服を着てみたい?あ、せっかくだし靴とかも良いの買いたいなぁ。」
「え、ええっ!?わたし・・・!?」
「ま、僕とヒルダはこの前にてひとしきり楽しんだからね。今回の主役はミレイユだよ。」
ある意味予想通りの反応をするミレイユに、少し笑ってしまう。
「そ、そんなこと・・・い、今着てる服だって貰った物なのに、これ以上なんて・・・」
「何を言っているのですか、ミレイユ。あなたも女の子なのですから、服が一枚だけというわけにはいかないでしょう。」
「そ、そう、なの?」
「そうなのです。そして何より、私が色々な服を着たミレイユを見たいのです。」
そう言ってミレイユに微笑みかけるヒルダ。
・・・なんか、話し方が僕に似てきてない?
「し、シルヴァと、ヒルダがそう言うなら・・・」
「よし、じゃあ話は決まりだ。店は、前と同じで良いか。」
と、店に向かう前に。
僕はヒルダに耳打ちをする。
「ねえ、ヒルダ・・・」
「ひゃんっ!」
「あ、ごめん。」
前触れなく顔を近づけたせいで驚かせてしまったようだ。凄いかわいい声が出てた。
「く、くすぐったいじゃないですか・・・!」
「ごめんごめん。」
「もう・・・それで、なんですか?」
「店に行ったときに、店員さんに採寸して貰うわけにもいかないからね。ちょっと強引な店員さんだったら危ないから、ずっとミレイユについててあげてね。」
まあ今でもべったりだけど、念のためだ。
「え、ええ、わかりました。」
「よろしくね。・・・よーし、じゃあ行こう!」
あとは、僕が気を付けてればいいでしょ。
ヒルダも言ってたけど、今からミレイユに何を着せるのか楽しみになってきた。
ミレイユを見つけた時点でお昼くらいだったから、午後だけで色々やったしなぁ。
宿に帰ってきたあとも、ちゃんと宿の人に宿泊者が増えることを伝えたけど・・・
多分怪しまれたなぁ。ミレイユの姿を見せてないし。
精霊種の外見はほとんど純人種と同じだ。特徴として、髪の色は緑か青であることが多く体重が非常に軽い。
また、外部からダメージを受けても傷は残らず、ただ存在が希薄になる。
つまり、精霊種はみんな傷一つないわけだ。
ただし、精神状態によって肌や髪といった部分の状態が変わる。会ったときのミレイユなんて最悪に近い状態だったと思う。
さて、外見はほとんど人種と同じなので、少し顔を会わせただけで精霊種とはわからないとは思う。
体重だって、よっぽどのことがない限りわからない。
問題があるとすれば・・・やはり髪の色か。
緑や青の髪は賢人種や麗人種などに多いんだけど・・・純人種には少ない。
精霊種は特に耳も尖ってないので、やはりそこが一番の懸念点だ。
とはいえ。流石にそれくらいは予想できる範囲だったので。
「・・・よし、できた!」
「これは、見事な帽子ですね・・・シルヴァは裁縫もできたのですね。」
「裁縫って言うか編み物だけどね。」
僕の手元を見て感心した様子のヒルダにそう答える。
ヒルダの言葉通り、僕の手元にあるのは幾つかの糸で作った簡単な帽子だ。
ちなみに獣人種に溶け込めるよう、耳の形もつけてみた。決して僕の趣味というわけではないです。
編み物は一人旅の賜物・・・というわけではなく、師匠のところにいた時に何故か仕込まれたものだ。
師匠曰く、『自分で自分用のマフラーとかセーター編むのはなんかヤダ』
だそうだ。
じゃあ既製品を買えよ・・・
「とりあえず有り合わせのものだけど、無いよりマシでしょ。ミレイユ、つけてみて。」
「う、うん・・・」
ヒルダの後ろでチラチラとこちらをうかがっていたミレイユに帽子を手渡す。
ミレイユはしばらく僕の顔とヒルダの顔、そして手元の帽子へと視線を忙しなく動かしていたが、恐る恐るといった様子で帽子をかぶる。
「・・・これで、いいの、かな?」
「ふふっ、よく似合っていますよ、ミレイユ。」
やはりどこか不安そうなミレイユに、ヒルダが優しく微笑みかける。
「どう、きつくない?一応、伸縮性のあるもので作ったから伸びるとは思うけど・・・」
「う、うん、大丈夫。」
「そっか。もし変な感じあったら遠慮しないですぐに言ってね。」
あくまでも素人仕事だからね。
「うん・・・うんっ!シ、シルヴァ、ありがとう・・・!」
そう言って顔を綻ばせるミレイユ。それは、出会ってから初めて見る本当に嬉しそうな笑顔だった。
そ、そんなに喜ばれるとなんか照れるな・・・
「ど、どういたしまして。とりあえず、それをかぶっておけば怪しまれないから安心してね。」
厳密に言えばおまじない程度の効果しか期待できないかもしれないけど、ここはミレイユを安心させるためにも断言しておく。
「あと他に気をつけるのは体重だけど・・・まあ、それはヒルダにくっついてれは大丈夫かな。・・・今みたいにね。」
多少なり僕にも心を開いてくれたみたいではあるけど、まだミレイユはヒルダにべったりだ。でも、その方が都合が良くもあるので問題はない。
「ええ、ミレイユのことは任せてください。」
「・・・えっと、どういう、こと?」
あ、まだミレイユにはちゃんと言ってなかったね。
「ミレイユ、今日はこれから遊びに行くよ。」
「え・・・?」
「といっても、僕達もシャクシャラに詳しくは無いからね。ただ街を適当に回ろうかな。」
「そ、そんなこと・・・わたしがしても、いいの・・・?」
「あはは、もちろん。」
質問の意味がよくわからないけど、良いに決まってる。
「そもそもここに来てから勤勉に働きすぎてたよね。」
「・・・そうですか?」
そうだと思うよ。シャクシャラに来てから毎日ちゃんと何らかの目的をもって動いてるからね。
「だから今日は何の目的もなく遊びます。異論は認めないのでよろしく。」
「ふふっ、シルヴァがそう言うのなら仕方ありませんね。」
そう言って笑うヒルダ。ちなみに彼女には今日一日遊ぶことを昨日のうちに伝えてある。
「そ、そんな迷惑かけられない・・・」
「僕達が遊びたくて出掛けるんだ。迷惑なわけないよ」
「ち、ちが・・・そうじゃ、なくて・・・」
困ったような表情で、しかしそれ以上言葉を紡ぐことなくミレイユは黙り込んでしまう。
この精霊種の少女が何かしら抱えていることは僕だってわかっている。
だから別に、何か起こっても別に問題はない。
「だいじょーぶだいじょーぶ。例え何かあったとしても、僕達に対応できない状況はそうないだろうし。」
「ええ、そうですね。私は戦闘力に自信がありますし、シルヴァには多くの知識がありますから。だから、どんなことがあっても、ミレイユは心配しなくても良いんですよ。」
そう言ってミレイユの頭を撫でるヒルダ。
「・・・ほ、ほんとにいいの?」
「ミレイユが嫌って言っても行くからね。とりあえず最初はごはん食べて・・・魔導遺産のお店とか探して見るのも面白いかも。」
「あ、良いですね。それに、ミレイユの服も見たいです。」
お、ヒルダも乗り気になってきたね。
仕事に協力してもらってからは、遠慮しないようになってくれて僕も嬉しい。
「よっし、それじゃ出掛けよう!」
「・・・・・・うんっ」
今日は目一杯楽しもう。
もちろん、昨日のレオニールさんとの話を忘れたわけではないけど・・・ミレイユのことをなにも知らないまま精霊種の里のことを聞き出すのも、ね。
というわけで、とりあえずまずは何か食べようって話になったので。
僕達は初めてシャクシャラに来た時に訪れた、犬人のおやじさんの屋台まで来てみた。
「おやじさん、これ三つくださーい。」
「へい、まいど・・・って、この前の兄ちゃんじゃねえか。」
「仲介所の件は助かりました、ありがとうございます。」
あの情報のおかげで、色々スムーズに準備できた。
「はっはっは、大したことじゃねえさ。んで、三つだったな?・・・っと、そういや初めて見る顔があんな。」
「ああ、この子はミレイユです。最近ちょっとした縁で知り合ったんですよ。」
なんでもないことのように流す。
おやじさんはそれだけ聞くと、一度納得したようにうなずく。
「ほほー、ずいぶん可愛らしい嬢ちゃんじゃねえか。うちの娘ほどじゃねえけどな!」
「あ、あはは・・・」
笑うしかない。だって娘さん知らないし・・・
ちなみにミレイユはさっきからヒルダの後ろにずっと隠れている。
「さて、じゃあ少し待ってな。最近肉が高くなってきたからか、うちの店も売り上げが上がってきててな。ありがたいことなんだが、ちっとばかし追い付かねえんだ。ったく、面倒なこと起こしやがるぜ。」
「っ・・・」
屋台のおやじさんの何気ない言葉に、ミレイユが僅かに体を強ばらせる。
ほんの小さな動きだったけど、流石にぴったりくっつかれていたヒルダも気付いたらしく、自然な動きでミレイユの頭を撫でる。
僕は二人の様子を目の端にとらえながら、話を続ける。
「あはは、まあ駐留軍も動いているようですし、じきに解決しますよ。」
「ま、それもそうだよな。・・・っよし、お待ち!」
「おー、相変わらず美味しそうですね。」
おやじさんから商品を受け取り、ヒルダとミレイユに手渡す。
魚と香草の良い香りが食欲を掻き立てる。
「さっそくいただきまーす。ほら、ミレイユも食べてみなよ」
「う、うん。・・・っ!!美味しい・・・!」
恐る恐る口をつけたミレイユだけど、一口で驚いたような顔になり、夢中で頬張る。
有角兎の肉を食べてた時や、帽子をあげた時にも思ったけど・・・
どうにも、この子は良い方向の刺激に対する慣れがない。
妙なトラウマもあるみたいだし、気遣いは忘れないようにしよう。
「で、おやじさん。また質問なんですけど。」
「おう、なんだい?」
「この辺で遊べるような場所とか、なんか面白い場所とかありますか?」
「またずいぶんと大雑把な質問だな・・・」
それは勘弁してください。今日のお出掛けは完全に行き当たりばったりなので。
「そうだなぁ・・・遊ぶってんなら、適当な魔導遺産の店とかがオススメってことになるか。ああいう店には、実用性はともかく見た目が派手なアイテムとかあるもんだぜ。」
「ほほう。」
「あとは、演劇とかか?シャクシャラの北の方に屋外演劇場があってな。毎日興行をしてたはずだぜ。俺は行ったことねえけど、結構評判良いって聞いたな。」
なるほど、演劇か。僕もあんまり見たことないし、行ってみても良いかもしれない。
服を見に行って、ちょっと魔導遺産の店を覗いて・・・
そのあとに演劇でも見に行こうか。
「ありがとうございます。とりあえず演劇見に行って見ますよ。」
「おう、楽しんできな。また来いよ!」
そう言って笑顔で手を振るおやじさん。他にもお客さんいたのに丁寧に答えてくれてありがたい限りだ。
僕達は最後にもう一度お礼を言ってから、その場を離れた。さて、服屋さんはもう開いているかな?
それにしても、屋台のおやじさんの情報のおかげで思いがけず充実した1日になりそうだ。
「ミレイユ、次は服屋さんに行こうと思うんだけど・・・どんな服を着てみたい?あ、せっかくだし靴とかも良いの買いたいなぁ。」
「え、ええっ!?わたし・・・!?」
「ま、僕とヒルダはこの前にてひとしきり楽しんだからね。今回の主役はミレイユだよ。」
ある意味予想通りの反応をするミレイユに、少し笑ってしまう。
「そ、そんなこと・・・い、今着てる服だって貰った物なのに、これ以上なんて・・・」
「何を言っているのですか、ミレイユ。あなたも女の子なのですから、服が一枚だけというわけにはいかないでしょう。」
「そ、そう、なの?」
「そうなのです。そして何より、私が色々な服を着たミレイユを見たいのです。」
そう言ってミレイユに微笑みかけるヒルダ。
・・・なんか、話し方が僕に似てきてない?
「し、シルヴァと、ヒルダがそう言うなら・・・」
「よし、じゃあ話は決まりだ。店は、前と同じで良いか。」
と、店に向かう前に。
僕はヒルダに耳打ちをする。
「ねえ、ヒルダ・・・」
「ひゃんっ!」
「あ、ごめん。」
前触れなく顔を近づけたせいで驚かせてしまったようだ。凄いかわいい声が出てた。
「く、くすぐったいじゃないですか・・・!」
「ごめんごめん。」
「もう・・・それで、なんですか?」
「店に行ったときに、店員さんに採寸して貰うわけにもいかないからね。ちょっと強引な店員さんだったら危ないから、ずっとミレイユについててあげてね。」
まあ今でもべったりだけど、念のためだ。
「え、ええ、わかりました。」
「よろしくね。・・・よーし、じゃあ行こう!」
あとは、僕が気を付けてればいいでしょ。
ヒルダも言ってたけど、今からミレイユに何を着せるのか楽しみになってきた。
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