灰色のねこっち

ひさよし はじめ

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第三話 ねこっちとピンチ

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 北風が冷たく感じる季節になりました。
 最近のねこっちは夜にくんちゃんの家にお泊りして、くんちゃんが仕事に行く時に外に出ます。どうしてもまだ一人でお留守番が不安なのです。
 その日は特に風が冷たくて、ねこっちはどこか暖かい場所を探してウロウロしていました。
 そして見付けたのです。くんちゃんの駐車場の隅っこに。
 それは地面の中にありました。重たい網状の四角い鉄の蓋の下から暖かい空気が流れてきます。覗いてみると大きな配管があるだけでした。でも、そこが暖かいのは確かです。ねこっちはどこか入れる場所はないかと探しました。そして見付けました。鉄の蓋の繋ぎ目に丁度ねこっちが入れるくらいの隙間があったのです。ねこっちは早速入ることにしました。隙間はねこっちの体のギリギリの大きさでしたが、なんとか中にストンと降りることができました。

 今日はここでくんちゃんを待っていよう。

 中は結構広くて天井も高くてとても暖かい。ねこっちはいつの間にかウトウトしてしまいました。

 どれくらい時間が経ったでしょう。くんちゃんの車の音が聞こえました。ねこっちは慌てて飛び起きます。だって、くんちゃんに「おかえりなさい」を言うことがねこっちの仕事だから。

 入ってきた隙間目掛けてジャンプ!
 ゴン! ベソン!

 隙間にうまく入れなくて落っこちました。もう一回チャレンジです。

 ジャンプ! ゴン! ベソーン!

 全然うまくいきません。入る時は簡単だったのに……そう思っていると外からくんちゃんの声がしました。

「あれ? ねこっちー! どこー?」

 いつもお出迎えをしているねこっちがいないことに気が付いてくれたくんちゃんがねこっちを呼んでくれます。ねこっちは一所懸命くんちゃんに助けを求めました。

「くんちゃん! ねこっちはここですよ! 出られなくなってますよ!」

 ねこっちの声が聞こえたのか、くんちゃんもねこっちの名前を呼びながら探してくれている様子です。

「くんちゃん! ねこっちはここです! 助けてほしいのです!」

 しかし、くんちゃんの足音は遠ざかります。

「くんちゃん! くんちゃん! ねこっちはここですよ!!」

 ウロウロとねこっちを探してくれているくんちゃんの足音がとうとう聞こえなくなりました。ねこっちは泣きそうになりました。見付けてもらえなかったらねこっちはどうなっちゃうんだろう。もうくんちゃんと会えないのかな。どうしてねこっちはこんな所に入っちゃったんだろう。しょんぼりしているとくんちゃんの大きな声が聞こえました。

「ねこっち! 名前を呼んで! ピンチなら私の名前を呼び続けて! 助けてって言って!」

 その声にねこっちはくんちゃんがまだ近くでねこっちを探してくれているんだと嬉しくなって力一杯くんちゃんを呼びました。

「くんちゃん! ねこっちはここです! 助けてほしいです!」

 必死に助けを求めていると鉄の網状の蓋の上からくんちゃんが顔を出しました。

「ねこっち! こんな所で何してんの?」
「出られなくて困っています」

 ねこっちがしょんぼり顔で答えるとくんちゃんは腕まくりをして地面に寝そべるとねこっちが入ってきた隙間に手を突っ込みました。

「掴まれる?」

 ねこっちはくんちゃんの手を目掛けてジャンプします。でもうまくいきません。
 くんちゃんは「うーん……」と少し考えて「仕方ないか」と独り言のように言いました。ねこっちは、もうくんちゃんがねこっちを諦めたのかと思って不安で一杯でした。そんなねこっちにくんちゃんが言います。

「ちょっと待ってて。絶対そこから動かないで」

 そう言ってどこかに行ってしまいました。
 5分後、戻ってきたくんちゃんの手にはいろんな工具がありました。

「仕方ないからこの蓋外す。危ないからねこっちはちょっと下がってて」

 そう言ってくんちゃんは器用に固定されている蓋の止め具を外していきます。最後に蓋を持ち上げようとしましたが、重くて動かないようでした。ねこっちはドキドキハラハラです。でもくんちゃんは落ち着いていて、鉄の棒のような物を手にしました。そしてねこっちに指示を出してくれました。

「これで持ち上げるから、隙間が広がったら思いっきりジャンプして出てきて」
「わかったのです。頑張るのです」

 ねこっちはいつでもジャンプ出来るように準備します。

 ギ……ギギ……ギギギギギ……

 隙間が広がりました。

「ねこっち! 今!」

 くんちゃんの声を同時にねこっちは思いっきりジャンプして脱出しました。

 ガゴン!! と大きな音をたてて蓋が閉まります。

「はぁ~重かった!」

 くんちゃんはそう言いながら、外した留め具を元に戻していました。ねこっちはまたくんちゃんに迷惑かけてしまいました。

「くんちゃん、ごめんなさい」
「いいよ。それより人間は猫より耳が悪いから呼び続けてくれないと見付けにくいんだよね。だからピンチの時は絶対呼び続けてね」

 くんちゃんはそう言って笑ってたけど、服は汚れて腕も傷付いていました。ねこっちは何かお返しがしたいと思いました。でも、ねこっちに出来ることはたくさんはありません。しょんぼり顔で考えていると、くんちゃんがねこっちの顔を覗き込みました。

「もうだいぶ家の中には慣れた? やっぱり昼間にひとりで留守番は嫌かな? 嫌じゃなかったらうちの家猫になってくれたら嬉しいんだけどな」

 くんちゃんはねこっちが家にいた方が嬉しいのかな?だったらねこっちはくんちゃんの喜ぶ方がいいな。そう思って、翌朝は玄関までくんちゃんを見送りに行き外には出ませんでした。くんちゃんは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに嬉しそうな顔になりました。

「仕事終わったら急いでで帰ってくるから! いってきます!」
「うん。ねこっちはお利口にして待ってますよ! いってらっしゃい!」

 こうしてねこっちは家猫になりました。外に未練はないかといえばないわけではないけれど、やっぱりくんちゃんの傍がいいのです。
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