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終章

第39話 真相

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 帰国から数日後。俺は普通に学校に登校してた。
 先生も、また仲間のクラスメイトも何食わぬ顔で淡々と日常を送ってる。ちょっとだけ拍子抜けした。俺が宇宙に行ったこと。帰ってきたことで、もっと質問攻めにあうかと思ったんだ。けれど、後から話に聞いたけど、校内新聞か何かで俺の渡米と宇宙飛行士の件はデマだったって広められたらしい。
 なんだそれ。まあある意味じゃ間違っちゃいないんだけど。

 それでも、久しぶりの登校してきた俺に対して仲間たちは興味を示した。
 俺は今までの出来事を全部話して聞かせたんだ。意外なことに、俺の宇宙旅行がデマだって知っても熱心に耳を傾けてくれた。

「それから?」
「え?」
「それからどうなったのかって聞いてんの!」
「いや、どう考えても終わりだろ……家に帰ってきてハッピーエンドだよ」
「かぁっ、つまんねぇ……宇宙人の正体は? ブライアンってCIAの人のこととかは?」
「なんにも……そのままだよ」
「全部リュウタの作り話でも納得できる話ね」

 と、冷酷な指摘をする伽耶子。いつもは嫌味に聞こえるけど、なんだか日本に帰ってきたんだって思えて微笑ましかった。

「……そうだな」

 そうだ。伽耶子のいうとおりだと思った。でも、それでもいいと思うんだ。作り話でもいい。今となっちゃつくづくそう思うんだよ。

「でもよかった。リュウタが帰ってきて」

 みんなの注目が一穂に集まる。一穂は縮こまって申し訳なさそうにいう。

「だって、隆太もう帰ってこないんじゃないかって思ったんだもん」
「一穂……」
「そうよ、隆太。一穂が一番心配してたんだから」

 覚えてる。あの時、一穂が電話してきてくれなかったらと思うとゾッとした。


 * * *


 何気ない日々が戻ってきたことに正直まだ体が理解できてない。

 自分の部屋のベッドの上で、冷静になって考えてみる。日増しに薄ぼんやりしていく記憶の中で、あの数日間の出来事が一体なんだったのかって。

「俺は、確かに宇宙にいたんだ」

 記憶違いじゃない。俺は間違いなく宇宙にいた。けれど事実として俺は寂れた高層ビルから救出された。だけど、命の恩人のブライアンの前じゃ、とてもじゃないけど言い出せなかった。そんなことを考えているうちに宇宙船の離陸体験が事実であれ、幻想であれどっちでもよくなっていた。ただ生きて大地を踏みしめてるその事実があればほかの事はどうでもよかった。だけど今、冷静になって考えてみると色々と矛盾することは多い。
 例えば景色。ロボットハウスから見た宇宙の景色は最先端映像技術で作られたまやかしとは到底思えない。それから重力装置の故障のトラブル。あの浮遊感はとてもじゃないけどあのオフィスビルの中で再現できるとは思えないんだ。

「やめよう……」

 モヤモヤと脳裏を駆け巡る疑問符に終止符を打った。
 俺はもう宇宙にはいない、日本に帰ってきて、また日常に戻ったんだ。

 夕食の時間になった。
 俺と父さんはいつもみたく、リビングの食卓で静かに夕食を食べる。会話は少なかった。

「ねぇ、父さん。宇宙で何があったか、聞かないの?」
「ふふ。そうだな、正直に言えば気になる」
「じゃあ……!」
「けど、それは隆太にしかわからない感覚だろ?」

 父さんは楽しげに続けて言う。

「大抵のことはさ。体験談を聞いたって全てを追体験できるわけじゃない。だから俺は訊かない。悔しいから。……だから俺はいつか絶対に宇宙に行く!」
「え!?」
「……その時は、父さんの見た宇宙と、隆太の見た宇宙を比べてみようぜ。そうしたら、お互い意見が食い違ってたら面白いだろ?」
「ははは」彼らしいと思った。父さんは朗らかに笑っていた。「……いつかきっと、な」


 * * *


 事後になるけれど、俺はあの日、チャールズロペス邸で誓った約束を破ることになった。
これ以上、あの日の忌まわしい出来事に干渉しないってやつ。まあそれも俺が独断で勝手にいきがって決めたことなんだけれど。

 独自に調べて少しわかったことがある。ネットでゲムギリオっていう検索ワードで調べたら案外簡単に見つけることができた。ロシア語のサイト。黒背景に白地で何かが書かれてた。最初のうちは面白みのないウェブサイトだったんだ。
 けれど日が進むと目に痛い黄色い背景になって、薄っすらと三角の枠にびっくりマークの表示された妙に物々しい画面に変わった。最近になると黄色い背景が赤背景の黒字に変わった。その時ハッとして思ったのは、黄色も赤も警告色なんだ。だけど、ひとつ難点なのは俺がロシア語をまるで理解できないってこと。残念だけどトーカマンは音声にしか対応してない。ロシア語の記述は読めない。
 それから、仲間の前ではああいったけど、ブライアンからは定期的に進捗がEメールで送られてきてる。どうやらマクシミリアンに内通していた組織がわかったらしい。それから近いうちにあの穴を調べるんだともいった。俺は止めたけど、ブライアンは自分自身で穴の底を調べるっていってきかなかった。大丈夫なのかな、俺は少し心配だった。

 それから、一番不思議なのはあの宇宙人小野田獣座衛門のこと。
 改めて考えたら、彼はロボットのはずなのに俺と普通に食事をしていた。あの生ゴミは一体どこに消え去ったっていうのか。獣座衛門は俺の話に一喜一憂し、そして紛いなりにも感情を垣間見せた。人間としては不十分だけど、実現していたならAIとしては恐ろしい技術だと思うんだ。


 正直に言えば、俺はこの有り触れた安息の日々が絶え間なく続く世界を信じていない。
 どう言う事なのかって突っ込む気持ちは重々承知だ。
 だけど現に、宇宙は愚か、親父の借金さえも消えてたんだから。

「え? 何の話だ?」

 後日、父さんが平然としてそんなことを言うもんだから、ゾッとしてしまった。
 嘘だと信じたい俺と、ご都合主義に能天気に現実を受け入れてる俺とが葛藤している。とにかく全ては悪い夢だったんだと、そう思い込むことに決めたんだ。考えたくない。考えないこと。常軌を逸した事態に見舞われたら、まずは緑茶を飲む。それだけが、唯一獣座衛門から教えてもらった、叡智なのかもしれない。

 しかし逆に、あの小野田獣座衛門がロボットじゃなくて、本当の宇宙人だったと仮定したなら。小野田の力が本物なら世界の因果関係に干渉することも可能だったはずだ。そこに厳然としてある事実さえも小野田が関与してくると途端に整合性を疑う。なぜなら小野田はこの世界の物理法則に則らない未知のテクノロジーを行使できるのだから。何が現実で何が非現実なのかさえ境界線が曖昧だった。その証拠に俺は確かに宇宙に向けて飛び立ったし、その感覚だけは鮮明に覚えていて誤魔化しようがない。少なくとも今現在のこの地球上のテクノロジーにおいては。

 そして小野田はいった。「また会う日まで」、と。
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