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シチュエーション ~宇宙への旅支度~
第7話 チャールズ・ロペス
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「久しぶりか……とはいえ、二週間ほどだ。元気だったかリュウタ?」
「ええ。おかげさまで刺激的な時間でした」
「ハハハハ。それは良かった。ロボットハウスに行けば今とは比較にならないほど刺激的な時間が待ってる!」
「チャールズ・ロペス……何者なんですか」
「俺も詳しくは知らないがNSIAにとっては目の仇であり、できるだけ接触はしたくない人物なのは確かだ」
「なぜ?」「サラから教えてもらわなかったのか? "教えなかった男"だからだよ」
「宇宙人から聞き知った情報をNSIAに共有しなかった。宇宙人から得る情報は国家機密にもかかわらず、ですか?」
ステイマンが無言で俺の方を振り返ってきた。丸く見開かれた両の目が、驚いたように俺の顔を一瞥する。そして、何事もなかったかのように、前を向いていう。
「チャールズ・ロペスが何を知ったかは謎だ。しかし、奴は確かに神のみぞ知る真理を知った。そして巨万の富を築いた」
「……!」「それが……まあ、チャールズ・ロペスという男の簡単な経歴だ」
ウェストバージニア州のチャールストンへとやってきた。人通りもまばらだ。この田舎の州の中では大きな都市なんだという。俺達は昼食を取るために巨大な駐車場に車を停めた。チャールストンタウンセンターという、町一番で唯一のショッピングモールだった。中には多くのレストランがある。ステイマンに連れられて、名前のわからないハンバーガーショップに入った。言葉足らずに昼食を済ませるとすぐに出発する。
チャールストンから北上すること1時間。「ようこそ! エルキンズへ!」と書かれた寂れた看板のそばを通った。人通りのまったく無い道路。左右には見渡す限り広大な森だ。さっきまでちらほらと見かけていた民家の姿はなくなっていた。
灰色の空。雷が鳴る。雨が降ってきた。徐々に雨足は強くなってフロントガラスにせわしなく打ち付ける音がうるさい。ワイパーが忙しく行き来している。強い雨が霧のようになって行く手の視界を奪う。薄暗い森の道。やけに不気味だった。
チャールズ・ロペスの家は深い山の中にあった。想像と違った。
巨万の富を築いたなんていうもんだから、もっと都心に馬鹿でかい豪邸を構えているもんかと思った。しかも山の中の森はやけに不気味で薄暗くじめじめしている。
「なぜこんな場所に?」
「さぁな、俺が知るもんか……」と、ステイマンは思い出したように付け加える。
「薄気味悪い森が好きなんだろうぜ」
サラに手渡された住所だけを頼りになんとか人の住処と見られる巨大な洋館へとたどり着く。俺達は生唾を飲み込む。
「こんなところに本当に人が住んでるんでしょうか?」
「行こう……時間がない」
ステイマンは終始腕時計を気にしている。暗くなる前に切り上げたい様子だ。
インターフォンを鳴らす。普通に返答が返ってきた。ステイマンと家主が何やらやり取りを交わす。緊張の色が俺にも伝わる。会話の途中、辛うじてだが「サラ」の名前を聞き取ることができた。ステイマンの顔にホッと安堵の色が浮かぶ。俺も安堵する。
通話を切ると、鉄格子の門扉に手を掛けてステイマンは振り返ってきた。
「いこうぜ」
俺はステイマンの後に続き屋敷の中へと踏み込む。枯れた草木が目立つ。雨足が強く急ぎ足だったが、まるで手入れする気のない中庭が不気味に思えた。大きな玄関扉は既に開かれていた。俺達が駆け足で中に入ると真正面にタオルをかけた女性の使用人が頭を下げていた。いわゆるメイドってやつだった。随分と美人に思えた。メイドさんはいう。
「ようこそお越しいただきました。チャールズロペスの館へ」
日本語だ。俺は驚いた。メイドはにこりとも微笑まない。感情が欠如しているように思えた。俺達はタオルを受け取るとぬれた体をぬぐい、メイドに催促されて上着を手渡した。ステイマンが日本語で話しかけた。
「早速で悪いが、チャールズ氏と話をさせていただきたい」
「ええ、ご主人様は上階でお待ちです。どうぞこちらへ」「……話が早くて助かる」
俺達はメイドについていった。薄暗い洋館が不気味だ。西洋甲冑や、見たこともない剥製。それから廊下には所狭しと積み上げられた分厚いハードカバーの本が目立つ。この書物全てが頭の中に入っているとしたなら、家主は相当に聡明で好奇心の旺盛な人物に違いない。屋敷の三階へやってきた。廊下の途中でメイドが止まる。無言。思わずステイマンが英語で話しかける。メイドは淡々と答えた。
「ここです。ご主人様の下へはオペレーター様ひとりでお願いします」
「なんだと!? 話と違う!」
「……どうやら不手際があったようで。サラ・ミラーには伝えてあったのですが」
俺とステイマンは顔を見合わせた。ステイマンは俺を見つめたまま顎で扉を示唆する。俺は静かに頷く、一歩歩み出す。メイドはうなづいて扉を開けた。俺は部屋に踏み込む。ハッとして驚いた。そこは洋館とはまるで世界観の違う部屋だったんだ。全面が真っ白で明るい無機質のタイルに覆われた明るい空間だ。部屋にひとつだけあるシステムチェアに男は腰掛けていた。ぐるりと椅子を回転させこちらに振り向いてくる。男はスーツを着た壮年の男性だった。屋敷と違って不気味な印象はない、精悍な顔つきとさえ見える。英語で挨拶してきた。俺は無言で頭を下げる。メイドの女性が入り口から男のそばへと近寄ってきた。代わりに翻訳する。
「ようこそ次世代のオペレーター。今君の椅子を出そう」「?」
ギュイイイン、と。どこからともなく機械音が鳴った。俺は慌てふためいた。俺の立っているすぐ真後ろのハッチが開いて床下から椅子が現れた。メイドが男口調でいう。
「どうぞ、楽にしてくれたまえ」「……!」
俺は警戒したまま椅子に腰掛けた。男の口がもぞもぞと動くとメイドはいう。
「すまない。しかしNSIAの人間とは話したくなかった。私がチャールズロペスだ」
言葉こそ発しないものの、チャールズ・ロペスの目はしっかりと俺を見据えていた。
「ええ。おかげさまで刺激的な時間でした」
「ハハハハ。それは良かった。ロボットハウスに行けば今とは比較にならないほど刺激的な時間が待ってる!」
「チャールズ・ロペス……何者なんですか」
「俺も詳しくは知らないがNSIAにとっては目の仇であり、できるだけ接触はしたくない人物なのは確かだ」
「なぜ?」「サラから教えてもらわなかったのか? "教えなかった男"だからだよ」
「宇宙人から聞き知った情報をNSIAに共有しなかった。宇宙人から得る情報は国家機密にもかかわらず、ですか?」
ステイマンが無言で俺の方を振り返ってきた。丸く見開かれた両の目が、驚いたように俺の顔を一瞥する。そして、何事もなかったかのように、前を向いていう。
「チャールズ・ロペスが何を知ったかは謎だ。しかし、奴は確かに神のみぞ知る真理を知った。そして巨万の富を築いた」
「……!」「それが……まあ、チャールズ・ロペスという男の簡単な経歴だ」
ウェストバージニア州のチャールストンへとやってきた。人通りもまばらだ。この田舎の州の中では大きな都市なんだという。俺達は昼食を取るために巨大な駐車場に車を停めた。チャールストンタウンセンターという、町一番で唯一のショッピングモールだった。中には多くのレストランがある。ステイマンに連れられて、名前のわからないハンバーガーショップに入った。言葉足らずに昼食を済ませるとすぐに出発する。
チャールストンから北上すること1時間。「ようこそ! エルキンズへ!」と書かれた寂れた看板のそばを通った。人通りのまったく無い道路。左右には見渡す限り広大な森だ。さっきまでちらほらと見かけていた民家の姿はなくなっていた。
灰色の空。雷が鳴る。雨が降ってきた。徐々に雨足は強くなってフロントガラスにせわしなく打ち付ける音がうるさい。ワイパーが忙しく行き来している。強い雨が霧のようになって行く手の視界を奪う。薄暗い森の道。やけに不気味だった。
チャールズ・ロペスの家は深い山の中にあった。想像と違った。
巨万の富を築いたなんていうもんだから、もっと都心に馬鹿でかい豪邸を構えているもんかと思った。しかも山の中の森はやけに不気味で薄暗くじめじめしている。
「なぜこんな場所に?」
「さぁな、俺が知るもんか……」と、ステイマンは思い出したように付け加える。
「薄気味悪い森が好きなんだろうぜ」
サラに手渡された住所だけを頼りになんとか人の住処と見られる巨大な洋館へとたどり着く。俺達は生唾を飲み込む。
「こんなところに本当に人が住んでるんでしょうか?」
「行こう……時間がない」
ステイマンは終始腕時計を気にしている。暗くなる前に切り上げたい様子だ。
インターフォンを鳴らす。普通に返答が返ってきた。ステイマンと家主が何やらやり取りを交わす。緊張の色が俺にも伝わる。会話の途中、辛うじてだが「サラ」の名前を聞き取ることができた。ステイマンの顔にホッと安堵の色が浮かぶ。俺も安堵する。
通話を切ると、鉄格子の門扉に手を掛けてステイマンは振り返ってきた。
「いこうぜ」
俺はステイマンの後に続き屋敷の中へと踏み込む。枯れた草木が目立つ。雨足が強く急ぎ足だったが、まるで手入れする気のない中庭が不気味に思えた。大きな玄関扉は既に開かれていた。俺達が駆け足で中に入ると真正面にタオルをかけた女性の使用人が頭を下げていた。いわゆるメイドってやつだった。随分と美人に思えた。メイドさんはいう。
「ようこそお越しいただきました。チャールズロペスの館へ」
日本語だ。俺は驚いた。メイドはにこりとも微笑まない。感情が欠如しているように思えた。俺達はタオルを受け取るとぬれた体をぬぐい、メイドに催促されて上着を手渡した。ステイマンが日本語で話しかけた。
「早速で悪いが、チャールズ氏と話をさせていただきたい」
「ええ、ご主人様は上階でお待ちです。どうぞこちらへ」「……話が早くて助かる」
俺達はメイドについていった。薄暗い洋館が不気味だ。西洋甲冑や、見たこともない剥製。それから廊下には所狭しと積み上げられた分厚いハードカバーの本が目立つ。この書物全てが頭の中に入っているとしたなら、家主は相当に聡明で好奇心の旺盛な人物に違いない。屋敷の三階へやってきた。廊下の途中でメイドが止まる。無言。思わずステイマンが英語で話しかける。メイドは淡々と答えた。
「ここです。ご主人様の下へはオペレーター様ひとりでお願いします」
「なんだと!? 話と違う!」
「……どうやら不手際があったようで。サラ・ミラーには伝えてあったのですが」
俺とステイマンは顔を見合わせた。ステイマンは俺を見つめたまま顎で扉を示唆する。俺は静かに頷く、一歩歩み出す。メイドはうなづいて扉を開けた。俺は部屋に踏み込む。ハッとして驚いた。そこは洋館とはまるで世界観の違う部屋だったんだ。全面が真っ白で明るい無機質のタイルに覆われた明るい空間だ。部屋にひとつだけあるシステムチェアに男は腰掛けていた。ぐるりと椅子を回転させこちらに振り向いてくる。男はスーツを着た壮年の男性だった。屋敷と違って不気味な印象はない、精悍な顔つきとさえ見える。英語で挨拶してきた。俺は無言で頭を下げる。メイドの女性が入り口から男のそばへと近寄ってきた。代わりに翻訳する。
「ようこそ次世代のオペレーター。今君の椅子を出そう」「?」
ギュイイイン、と。どこからともなく機械音が鳴った。俺は慌てふためいた。俺の立っているすぐ真後ろのハッチが開いて床下から椅子が現れた。メイドが男口調でいう。
「どうぞ、楽にしてくれたまえ」「……!」
俺は警戒したまま椅子に腰掛けた。男の口がもぞもぞと動くとメイドはいう。
「すまない。しかしNSIAの人間とは話したくなかった。私がチャールズロペスだ」
言葉こそ発しないものの、チャールズ・ロペスの目はしっかりと俺を見据えていた。
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