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ファーストコンタクト ~未知との遭遇~(飛ばしてOK!)
第1話 宇宙への門出
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ごごごごっと、ものすごい地響きが聞こえてくる。体に振動も伝わる。自分の体を椅子に固定するシートベルトにしがみ付いて、ぐっと目を瞑った。
それはほんの一瞬の出来事だ。世界の終わりかと思うぐらい体が重くなる。自分の体の三倍の負荷がかかる。振動が更に大きくなって、背中が浮き上がる浮遊感があった。
一分後には音速を超えて、打ち上げから約10分間はこの3Gの重力に耐えなくちゃならなかった。だけど俺は普通の高校生じゃない。なんたってNASA公認の宇宙機関で飛行訓練を積んでるから。この3G体験だって研修の最中に何度も体感してる。それどころか訓練じゃ8Gとか9Gだって普通だった。いってみれば朝飯前。……だったんだけど。
「ぐぅっ!?」
宇宙を目前して気が遠くなってくる。視野狭窄の発作が起り始めた。
宇宙船の打ち上げに伴う垂直Gは日常生活を送る上で人間にかかる負荷とはまったく別物。慣れない人がこの負荷を受けると一発で失神してしまうぐらいえげつないものだった。
ふと気づいたときには、辺りに見知った顔があった。
「ここは?」
「気がついたかリュウタ!」
宇宙飛行士のダニエルだ。
他の仲間のパイロットよりずっと親しくさせてもらってる。というか、日本語がまともに話せるのがこの日本オタクのパイロット以外にいない。他のパイロットとの通訳の役割も果たしてた。
「ダニエル、ここは?」
「まさかあの短い間に気絶してたのか! 周りをよく見て見ろよ!」
ダニエルに肩を叩かれる。彼に促されて俺は周囲を見回す。そこには。
「あっ!」
船内のあらゆるものが宙に浮かんでいた。人、カメラ、水入りのプラスティック容器。窓の外には日中にもかかわらず満天の星空が広がってた。そうだ、俺達はもう……。
「宇宙へようこそリュウタ。ここがバーチャルじゃない実物の宇宙の世界さ!」
シートベルトを外すとふわっと体が宙に浮かび上がる。
「ここが……宇宙?」
「お前の見たかったものが外にあるぞ」
「……!」
ダニエルが俺を導いたのは宇宙船の窓だった。窓から外を見る。そこには、大きな青い星があった。
俺はダニエルや他のクルーと別れて管制室に連絡していた。
相手は今回のプロジェクトの直属の上司であるジェイコブだった。通信機を介した特有のくぐもった声が、それを当人のものか判別するのを難しくしていた。
「やぁ、リュウタ。宇宙についた感想は?」
「最高の気分だ! これで……月を一周して帰ってくるならどんなによかったか……」
「ハハハ!」ジェイコブは高らかに笑っていた。
「あらためてになるが、もう一度段取りを確認しておこうと思ってね」
「……慎重なんだな、”向こう”には通信機もあるんだろ?」
「フフ、念には念をということだ……」ジェイコブはまじめな口調で続けていう。「君には聞き知ったことを逐一通信機で報告して欲しい。願わくばこれは義務だ」
「帰った時に報告じゃダメなのか?」
「ああ、私たちも聞いた情報を元に君とディスカッションを踏まえて指示を出したいと考えている。例えば君が必要だとばかりに勘違いして不必要な情報ばかり掘り下げられたら、本末転倒だろう」
「確かに……」
「それから、オノダは通信を嫌う。くれぐれも悟られないようにしてくれたまえ」
「なんだって?」突然の宣告に俺は飛び上がりそうになる。「そんなの無理だ!」
「原始的な交信手段を使う。案ずるな。メッセージの送受信が可能な装置は至る箇所にある。君がうまくやればばれる心配はない」
「そのたびに俺の命が危険に晒されるんだぞ!?」
「それが君の仕事に伴うリスクだ。承知してもらわないと困る」
ジェイコブは俺には構わず続けて言う。
「君の任務は大まかに言って三つ。そのいずれかを達成するたび、成果に応じて、"エン"にして十億の報酬を"スタンダード"としてほしい」
「じゅっ……十億!?」
金の話は何度もしてきたけど、十億なんて大金の話がこの男の口から出てきたことは一度もなかった。ジェイコブはわざとらしくも平謝りしてきた。それから続けていう。
「……欲がない男だ。考えてもみろ、君は"命の値段がだいたい十億"だと値踏みされてるんだぞ? 君は宇宙の真理を目の前にしている。あらゆる発明が君のものだ。それに比べたら十億なんてはした金、霞んで見えると思わないか?」
俺は自分が未来のビルゲイツになることを想像する。ジェイコブは悲しげにいう。
「いや……今のは聞かなかったことにしてくれ、私は本当のことを言いたかった。清廉潔白な身で君と正当な取引がしたかったんだ」
どういう意味だ。この外国人のいうことは度々意味がわからないところがある。もっとまともな日本語が使える人間はいないのか。
「脱線したが……オノダが地球に来た理由。オノダは何者なのか。オノダは何を知ってるのか。君にはこの三つの真相を明らかにしてほしい」
「今までもオペレーター計画はあったわけだろ? たかだかそれだけのことがどうして」
「ふふ、行けばわかるさ」
「?」
それはほんの一瞬の出来事だ。世界の終わりかと思うぐらい体が重くなる。自分の体の三倍の負荷がかかる。振動が更に大きくなって、背中が浮き上がる浮遊感があった。
一分後には音速を超えて、打ち上げから約10分間はこの3Gの重力に耐えなくちゃならなかった。だけど俺は普通の高校生じゃない。なんたってNASA公認の宇宙機関で飛行訓練を積んでるから。この3G体験だって研修の最中に何度も体感してる。それどころか訓練じゃ8Gとか9Gだって普通だった。いってみれば朝飯前。……だったんだけど。
「ぐぅっ!?」
宇宙を目前して気が遠くなってくる。視野狭窄の発作が起り始めた。
宇宙船の打ち上げに伴う垂直Gは日常生活を送る上で人間にかかる負荷とはまったく別物。慣れない人がこの負荷を受けると一発で失神してしまうぐらいえげつないものだった。
ふと気づいたときには、辺りに見知った顔があった。
「ここは?」
「気がついたかリュウタ!」
宇宙飛行士のダニエルだ。
他の仲間のパイロットよりずっと親しくさせてもらってる。というか、日本語がまともに話せるのがこの日本オタクのパイロット以外にいない。他のパイロットとの通訳の役割も果たしてた。
「ダニエル、ここは?」
「まさかあの短い間に気絶してたのか! 周りをよく見て見ろよ!」
ダニエルに肩を叩かれる。彼に促されて俺は周囲を見回す。そこには。
「あっ!」
船内のあらゆるものが宙に浮かんでいた。人、カメラ、水入りのプラスティック容器。窓の外には日中にもかかわらず満天の星空が広がってた。そうだ、俺達はもう……。
「宇宙へようこそリュウタ。ここがバーチャルじゃない実物の宇宙の世界さ!」
シートベルトを外すとふわっと体が宙に浮かび上がる。
「ここが……宇宙?」
「お前の見たかったものが外にあるぞ」
「……!」
ダニエルが俺を導いたのは宇宙船の窓だった。窓から外を見る。そこには、大きな青い星があった。
俺はダニエルや他のクルーと別れて管制室に連絡していた。
相手は今回のプロジェクトの直属の上司であるジェイコブだった。通信機を介した特有のくぐもった声が、それを当人のものか判別するのを難しくしていた。
「やぁ、リュウタ。宇宙についた感想は?」
「最高の気分だ! これで……月を一周して帰ってくるならどんなによかったか……」
「ハハハ!」ジェイコブは高らかに笑っていた。
「あらためてになるが、もう一度段取りを確認しておこうと思ってね」
「……慎重なんだな、”向こう”には通信機もあるんだろ?」
「フフ、念には念をということだ……」ジェイコブはまじめな口調で続けていう。「君には聞き知ったことを逐一通信機で報告して欲しい。願わくばこれは義務だ」
「帰った時に報告じゃダメなのか?」
「ああ、私たちも聞いた情報を元に君とディスカッションを踏まえて指示を出したいと考えている。例えば君が必要だとばかりに勘違いして不必要な情報ばかり掘り下げられたら、本末転倒だろう」
「確かに……」
「それから、オノダは通信を嫌う。くれぐれも悟られないようにしてくれたまえ」
「なんだって?」突然の宣告に俺は飛び上がりそうになる。「そんなの無理だ!」
「原始的な交信手段を使う。案ずるな。メッセージの送受信が可能な装置は至る箇所にある。君がうまくやればばれる心配はない」
「そのたびに俺の命が危険に晒されるんだぞ!?」
「それが君の仕事に伴うリスクだ。承知してもらわないと困る」
ジェイコブは俺には構わず続けて言う。
「君の任務は大まかに言って三つ。そのいずれかを達成するたび、成果に応じて、"エン"にして十億の報酬を"スタンダード"としてほしい」
「じゅっ……十億!?」
金の話は何度もしてきたけど、十億なんて大金の話がこの男の口から出てきたことは一度もなかった。ジェイコブはわざとらしくも平謝りしてきた。それから続けていう。
「……欲がない男だ。考えてもみろ、君は"命の値段がだいたい十億"だと値踏みされてるんだぞ? 君は宇宙の真理を目の前にしている。あらゆる発明が君のものだ。それに比べたら十億なんてはした金、霞んで見えると思わないか?」
俺は自分が未来のビルゲイツになることを想像する。ジェイコブは悲しげにいう。
「いや……今のは聞かなかったことにしてくれ、私は本当のことを言いたかった。清廉潔白な身で君と正当な取引がしたかったんだ」
どういう意味だ。この外国人のいうことは度々意味がわからないところがある。もっとまともな日本語が使える人間はいないのか。
「脱線したが……オノダが地球に来た理由。オノダは何者なのか。オノダは何を知ってるのか。君にはこの三つの真相を明らかにしてほしい」
「今までもオペレーター計画はあったわけだろ? たかだかそれだけのことがどうして」
「ふふ、行けばわかるさ」
「?」
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