2 / 35
元妻
しおりを挟む
二日続けて届く手紙に嫌でもあの性悪な元妻の事を考えてしまう。
元妻はボトムス伯爵家の次女であった。
我がカーディガン伯爵家とも取り引きのある家で私達は顔見知り以上の知り合いだった。
ボトムス伯爵家の美人な姉妹と言えば社交界でも有名で長女のタイトは華やかな美女で次女で私の元妻だったフレアは儚げな美少女といった様相だった。
その見た目通りフレアは優しい少女だった。
たまに行くボトムス伯爵家で見かける時には、いつも優しく微笑んでいるのが印象的だった。
その姿はまるで妖精のように今にも消えてしまいそうな程儚げで……フレアとの婚約が決まった時には私が一生護ってやろうと思ったものだ。
結婚してから暫くは穏やかな幸せな日々だった。優しく穏やかで美しい妻は当然のように使用人達にも優しく、屋敷で働く使用人達も妻の事をすぐに好きになり代々屋敷に仕えていた使用人達からも「こんなに良い奥様をお迎えになられた旦那様には感謝してもしたりません」とまで言われていた。
それなのに………!
今思えばあれは私と結婚したいが為にあの悪女が聖女のような優しい女を演じていただけだったのだ。
執務室で一人考え込んでいたところにノックの音。
「誰だ」
「私よ」
そう言って入って来たのはチュニックだった。
「どうされたの?こんなに暗くなったのに明かりも付けずに」
そう言ってチュニックは部屋のランプに火を灯す。
明かりに照らされるいつもの美しい笑顔。
「君はずっと美しいな」
私がそう言うとチュニックは満足そうに微笑んだ。
そうチュニックは妻の侍女として妻の後ろに立っていた時でさえいつも美しかった。
思えば妻の美しさが掠かすみ始めたのはチュニックを元妻の侍女へと雇い入れてからだった。
いつも美しいチュニックに比べフレアは化粧っ気も無く髪もほぼほぼ弄らずにいつも同じ引っ詰めたような髪型。
自身に華がないのであれば宝石でも付ければいいものを全くそんな事もせず着飾る事さえしなかった。
………ドレスもいつも同じような色の…古い型で地味な色の………。
結婚する前は……いや、チュニックが屋敷に来るまではフレアは淡い色のドレスを好んで身に付けていたはず……………独身の頃からのドレスも持って来ていた…。
何故あんなにも着飾らなくなったのか…………。
その時、立て続けに送られて来た二通の手紙の内容が頭を過ぎる。
「貴方の記憶の中の私はいつもどんな顔をしていましたか」
「記憶の中の私はいつもどんな格好をしていましたか」
あの手紙には……何か意図があるのだろうか……。
ふっと浮かんだそんな考えを振り払うように私は頭を振った。
元妻はボトムス伯爵家の次女であった。
我がカーディガン伯爵家とも取り引きのある家で私達は顔見知り以上の知り合いだった。
ボトムス伯爵家の美人な姉妹と言えば社交界でも有名で長女のタイトは華やかな美女で次女で私の元妻だったフレアは儚げな美少女といった様相だった。
その見た目通りフレアは優しい少女だった。
たまに行くボトムス伯爵家で見かける時には、いつも優しく微笑んでいるのが印象的だった。
その姿はまるで妖精のように今にも消えてしまいそうな程儚げで……フレアとの婚約が決まった時には私が一生護ってやろうと思ったものだ。
結婚してから暫くは穏やかな幸せな日々だった。優しく穏やかで美しい妻は当然のように使用人達にも優しく、屋敷で働く使用人達も妻の事をすぐに好きになり代々屋敷に仕えていた使用人達からも「こんなに良い奥様をお迎えになられた旦那様には感謝してもしたりません」とまで言われていた。
それなのに………!
今思えばあれは私と結婚したいが為にあの悪女が聖女のような優しい女を演じていただけだったのだ。
執務室で一人考え込んでいたところにノックの音。
「誰だ」
「私よ」
そう言って入って来たのはチュニックだった。
「どうされたの?こんなに暗くなったのに明かりも付けずに」
そう言ってチュニックは部屋のランプに火を灯す。
明かりに照らされるいつもの美しい笑顔。
「君はずっと美しいな」
私がそう言うとチュニックは満足そうに微笑んだ。
そうチュニックは妻の侍女として妻の後ろに立っていた時でさえいつも美しかった。
思えば妻の美しさが掠かすみ始めたのはチュニックを元妻の侍女へと雇い入れてからだった。
いつも美しいチュニックに比べフレアは化粧っ気も無く髪もほぼほぼ弄らずにいつも同じ引っ詰めたような髪型。
自身に華がないのであれば宝石でも付ければいいものを全くそんな事もせず着飾る事さえしなかった。
………ドレスもいつも同じような色の…古い型で地味な色の………。
結婚する前は……いや、チュニックが屋敷に来るまではフレアは淡い色のドレスを好んで身に付けていたはず……………独身の頃からのドレスも持って来ていた…。
何故あんなにも着飾らなくなったのか…………。
その時、立て続けに送られて来た二通の手紙の内容が頭を過ぎる。
「貴方の記憶の中の私はいつもどんな顔をしていましたか」
「記憶の中の私はいつもどんな格好をしていましたか」
あの手紙には……何か意図があるのだろうか……。
ふっと浮かんだそんな考えを振り払うように私は頭を振った。
310
お気に入りに追加
4,336
あなたにおすすめの小説

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。
紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。
学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ?
婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。
邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。
新しい婚約者は私にとって理想の相手。
私の邪魔をしないという点が素晴らしい。
でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。
都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。
◆本編 5話
◆番外編 2話
番外編1話はちょっと暗めのお話です。
入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。
もったいないのでこちらも投稿してしまいます。
また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)


【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。
けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。
悪夢はそれで終わらなかった。
ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。
嵌められてしまった。
その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。
裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。
※他サイト様でも公開中です。
2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。
本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる