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「釣書の絵姿を一目見て私は君を好きになってしまった。だが表向きこの結婚は両家の政略結婚となっていたし君もそう思っているようだったから、君のような若く美しい女性がこんな一度も会ったこともなく、容姿も人よりも劣っていて、顔色も悪く人相も悪いこんな私に言い寄られたら嫌だろうと思い、ならばせめてこんな私と結婚してくれた君に不自由な思いをさせないようにと仕事を頑張って来たのだが……君が私に愛されていないと……そんなに思い詰めていたなんて……そんなに私の事を想っていてくれたなんて!」
夫は私に抱きついたまま興奮したようにそう言った。
だが私はそんな夫の胸を押し返す。
「ソフィア?どうした?」
「アンダーソン、喜んでおられるところ申し訳ありませんが………正直な事を申しますと私は貴方に恋愛感情があるかと聞かれたら…有りませんとお答えします」
「えっ?」
私のその言葉にそれまで笑顔だった夫は酷く驚いた顔をした。
「何を驚いておられるのです?当然でしょう?今までろくに話す時間も無く!家族としての交流も無く!この家に嫁いでからアレクシスに関すること以外嬉しかった思い出も無く!そもそも私は今の今まで貴方にそんな想いを向けられた事も無い!そんな私がどうして貴方に恋愛感情などというものを抱けるのでしょう?私は婚約時代には諦めました、貴方とそのような愛し愛される家庭を築くのは……」
私が言った事がショックだったのか夫の顔は青ざめるのを通り越して蒼白になっていた。
「そ、そうか………」
夫はそう言うのが精一杯のようだった。
「で?貴方は私の言葉を聞いてどうしますか?」
「……君が望む通り離縁を」
「……………私が言いましたか?貴方と離縁すると。一度でも言いましたか?」
「いや、言っては…いないが…だが…」
「貴方には少し思い込みの激しい所がありますね」
私はそう言ってため息を一つ。
「でもそれは私もですわ」
そうして私は夫に向かって微笑んだ。
「アンダーソン!本当に私と離縁したいと思っているの?一目惚れまでした愛しい妻と?」
そして私は初めて自分から夫の胸に飛び込んだ。
「嫌だ!絶対離縁はしない!」
夫はそう言って私を受け止めた。
「そう、それで良いの。私達は家族なのよ。変に今まで思い込んで遠慮して拗れてここまで来てしまったけれど確かに私達は家族なの。これからはいや、とか、だが、は禁止よ!一人で思い詰めるのも禁止!口下手も直して貰いたいし、その無愛想なのも何とかして。結婚式の日でさえ笑わない貴方から愛なんて感じる筈も無いでしょう?」
「それは!すまない!緊張し過ぎて」
そう言って慌てる夫に自然と笑いが漏れる。
「ふふっ」
そんな私を見て夫が言う。
「ありがとう、こんな私を許してくれて」
「…何を言っているの?私は許すなんて言ってないわ。今までの事はこんな事では許せないわ。だから貴方はこれから毎日私に愛を囁いて許しを乞うのよ。期待していないけれど頑張ってね。私が貴方を好きにならなければ今度こそ離縁されてしまうかもしれないわよ」
そうして私は心からの笑顔を向けた。
そんな私を見て夫も初めて笑顔を向けてくれた。
それまで黙って話を聞いていたアレクシスは私達二人の胸の中に飛び込んで来て泣いていた。

私達家族は今正に始まったばかりなのだ。




次回最終話です。
休み上がりのその後など。
王太子夫妻にざまぁがあるのか………。
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