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いつまでも泣き続ける夫と思わしき人物に私は意を決して話しかける。
「アンダーソン……いつまでもそうして泣いていても致し方ありませんわ、いい加減に泣き止んで下さい。アレクシスも見ているの、貴方は父親なのよ」
ああ、夫の名前を呼ぶのは何年ぶりだろう。
そんな私の言葉にはっと顔をあげた夫、目はまだ赤かったけれどその顔付きはちゃんと父親の顔付きだった。
一応父親としての自覚はあるらしい。それが分かっただけでも収穫だ。
「……ソフィア…すまなかった」
徐に口を開いた夫はもう何度目か分からない謝罪の言葉を繰り返す。
「…その謝罪は何に対する謝罪ですか?」
「……………」
夫は答えずまた俯いた。
「取り敢えず謝っておけば何とかなるだろうと思っていらっしゃる?そもそも急に謝ろうと思われた理由は?」
「…………」
「もしかして愛人に子供でも出来ましたか?」
「いや!そんな者はいない」
分かっているわ、貴方がそんな人ではない事は。
「では何処かに大金を使った?」
「そんな事も有り得ない!」
ええ、それも分かっています。
「では私達が貴方の仕事に邪魔だからすまない出ていって欲しいと言う事ですか?」
「違う!違う違う違う!」
「では!どういう事なのですか!私とは政略結婚ですし、婚約時代から貴方が私の事を疎ましく思っている事を知っていたから今までなるべく貴方に面倒をかけないように貴方には家族としての役割を求めず貴方はただの同居人だと思ってやって来ました!けれどアレクシスは貴方の子供で、貴方はアレクシスの父親なのよ!」
帰って来るまでは冷静に話をしようと思っていたはずなのに話すうちに感情的になってしまう。これではいけないと思っていても中々言いたい事は止まってくれなかった。
「私は婚約の贈り物は貴方に選んで欲しかった!初夜で領地に置いて帰ってしまったのも嫌だった!出産だって初めてで不安だった!手を握って欲しいとまで思わないけれどそれでも貴方は傍に居てくれると思っていたわ!子供の誕生日にも屋敷にいない!唯一の子供の我儘だって叶えてくれない!そもそも子供が父親と一緒に食事をしたいと言うことの何処が我儘なのよ!私の事は我慢出来たけれどアレクシスの事は別よ!何度でも言うわアレクシスは貴方の子供なの!貴方が嫌だと思っていても貴方と私の子供なの!」
私のあまりの剣幕に夫は逆に少し冷静になったようだった。そんな夫の姿を見て自分のあまりな物言いに後悔しかけたけれど一度自分の口から出た言葉は取り消せないし、今自分が言った事は全て今まで思っていても言えなかった事なのだと思い返し夫の顔を真正面から見つめた。
「…本当にすまない」
夫はまた謝った。そんな夫の態度に今度は私が俯いた。
これだけ言っても夫は何も言ってくれない…夫には私の気持ちは通じない…。
そう諦めかけた私に夫は続けて話し出す。
「君がそんなに思い詰めているとは……本当に今の今まで気づかなかった…本当に私はダメな夫だ」
そう言った夫は私を再び抱き締めた。
「そもそもが間違っているんだ!私達は政略結婚等では無い!私が君に一目惚れしたんだ!」
夫のその言葉は私が思ってもみない言葉だった。
「アンダーソン……いつまでもそうして泣いていても致し方ありませんわ、いい加減に泣き止んで下さい。アレクシスも見ているの、貴方は父親なのよ」
ああ、夫の名前を呼ぶのは何年ぶりだろう。
そんな私の言葉にはっと顔をあげた夫、目はまだ赤かったけれどその顔付きはちゃんと父親の顔付きだった。
一応父親としての自覚はあるらしい。それが分かっただけでも収穫だ。
「……ソフィア…すまなかった」
徐に口を開いた夫はもう何度目か分からない謝罪の言葉を繰り返す。
「…その謝罪は何に対する謝罪ですか?」
「……………」
夫は答えずまた俯いた。
「取り敢えず謝っておけば何とかなるだろうと思っていらっしゃる?そもそも急に謝ろうと思われた理由は?」
「…………」
「もしかして愛人に子供でも出来ましたか?」
「いや!そんな者はいない」
分かっているわ、貴方がそんな人ではない事は。
「では何処かに大金を使った?」
「そんな事も有り得ない!」
ええ、それも分かっています。
「では私達が貴方の仕事に邪魔だからすまない出ていって欲しいと言う事ですか?」
「違う!違う違う違う!」
「では!どういう事なのですか!私とは政略結婚ですし、婚約時代から貴方が私の事を疎ましく思っている事を知っていたから今までなるべく貴方に面倒をかけないように貴方には家族としての役割を求めず貴方はただの同居人だと思ってやって来ました!けれどアレクシスは貴方の子供で、貴方はアレクシスの父親なのよ!」
帰って来るまでは冷静に話をしようと思っていたはずなのに話すうちに感情的になってしまう。これではいけないと思っていても中々言いたい事は止まってくれなかった。
「私は婚約の贈り物は貴方に選んで欲しかった!初夜で領地に置いて帰ってしまったのも嫌だった!出産だって初めてで不安だった!手を握って欲しいとまで思わないけれどそれでも貴方は傍に居てくれると思っていたわ!子供の誕生日にも屋敷にいない!唯一の子供の我儘だって叶えてくれない!そもそも子供が父親と一緒に食事をしたいと言うことの何処が我儘なのよ!私の事は我慢出来たけれどアレクシスの事は別よ!何度でも言うわアレクシスは貴方の子供なの!貴方が嫌だと思っていても貴方と私の子供なの!」
私のあまりの剣幕に夫は逆に少し冷静になったようだった。そんな夫の姿を見て自分のあまりな物言いに後悔しかけたけれど一度自分の口から出た言葉は取り消せないし、今自分が言った事は全て今まで思っていても言えなかった事なのだと思い返し夫の顔を真正面から見つめた。
「…本当にすまない」
夫はまた謝った。そんな夫の態度に今度は私が俯いた。
これだけ言っても夫は何も言ってくれない…夫には私の気持ちは通じない…。
そう諦めかけた私に夫は続けて話し出す。
「君がそんなに思い詰めているとは……本当に今の今まで気づかなかった…本当に私はダメな夫だ」
そう言った夫は私を再び抱き締めた。
「そもそもが間違っているんだ!私達は政略結婚等では無い!私が君に一目惚れしたんだ!」
夫のその言葉は私が思ってもみない言葉だった。
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