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私は昨日決めた通り豆づくしの昼食を用意した。
昨日の側近さんとの話を思い出したら、憎たらしい王子の顔が過って面白い程お弁当を作りが捗った。
私が昨日側近さんに伝えた事は王子の耳には入っているだろうし今日は来ないかもしれないけれど、まぁ来なくてもこのお弁当は私が美味しく頂けばいいだけの事。

なんて思っていたのに今日も変わらず王子は現れた。
目の前の豆づくし弁当を前にいつものようにその表情を胡散臭いほどの笑顔で固定し、お弁当を睨みつけるように見つめている。
「そんな顔をなさるなら無理して毎日一緒に食事を摂らなくてもいいと思いますが」
私はそう言って笑う。
「私達は婚約者同士なのですからそんな寂しい事を言わないで下さい……分かってるならもっと違う弁当を用意すればいいだろう」
王子はそう言って笑う。
傍から見れば婚約者同士が微笑み合う仲の良い光景に見えるのだろう。
そう思うとため息が出そうになったがロゼはグッと我慢する。
まあ、この状況を好ましく思っていないのは私は当然の事だが王子だって別に好き好んでやっている訳では無い。
他の令嬢達に絡まれるのが嫌だから仕方なく嫌いな私とそういう振りをしているだけ。
「王子、昨日の事は勿論側近さんから聞いていますよね」
私のその言葉に顔を上げる王子。
「………何の話だ」
「しらばっくれなくてもいいですよ。昨日側近さんが私の所に来た事です」
「………………」
「以前王子が仰っていらっしゃいましたが、私は何も企んでません。婚約破棄は純粋に私には王妃など務まらないと思ったからです。王妃という立場だけでもプレッシャーのある立場なのにそれを私の事を嫌っている方の隣で一生耐えられるのかと聞かれればそれは絶対に無理です。王子にも私への愛があり私にも王子への愛があって初めて頑張ろうと思えるのです………なので今後一切、私を監視する目的での婚約破棄を考え直せという命令はおやめ下さい。卒業したら王子は私との婚約を無かった事にすると約束して下さいました。ですから私もこうして卒業まで王子のそばにいると約束したのです。王子はその約束を反故にせずきっと守って下さると信じておりますわ。是非ともそんな私の唯一の願いが万が一にも叶えられないなんて事が無いよう、心から願っておりますわ」
私のその物言いに何も言い返さない王子に、流石に言い過ぎだろうか、不敬だったかしらと不安になったが言ってしまった事は無かった事には出来ないし、もう既に婚約破棄したい意思は伝えているのだ、元々嫌われている婚約者でもある、そう思うと開き直れた。


「昨日……お前たちが会っていたのは知っていたが、私が側近に行けと言った訳では無い」
そう言ってお弁当に手を付けず立ち上がった王子の表情は酷く傷付いたような顔で、
その表情に声をかけようと口を開く私に被せるように王子は言った。
「今まですまなかったな。今はお前の事を疑っている訳では無い。明日からはもう昼も別々で大丈夫だ、お前の言う通り適切な距離で必要最低限の交流にしよう」
そして王子は一度も私の顔を見ずにその場から去って行った。

どうして貴方がそんな傷ついた顔をするのよ。私は無言で王子の背中を見送った。



王子の傷付いたような顔が忘れられずその夜は中々寝付く事が出来なかった。
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