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「ロゼ」
呼ばれたその声に思わず振り返りそうになってはっと気付く…その声が誰の声か…。
この声は……王子……。
振り返りたく無い。…このまま聞こえませんでしたよーって感じにならないかな~。とか思っていたら…。
「ロゼ、ちょっといいかな」
と再び声をかけられた。
ギギ…ギギ…と油が切れた機械人形の如くぎこち無く振り返ると嫌な予感しかしない満面の笑みの王子がそこに立っていた。
「っ…ど、どうなさったのですか?ダミアン王子」
本当に一体どうしたと言うんだ。学園に入学してからこんな風に学園で声をかけられたのは初めてで、だから直ぐに噂になる。
「ダミアン様とロゼ様仲がよろしかったかしら?」
「ダミアン様ロゼ様の事を呼び捨てになさっているわ」
とか、もう勘弁して。ただでさえ目立つのに何を思って私に声を掛けて来たのか……嫌がらせか?
そんな事を心の中では思っていたが顔には出さず王子に対する標準装備の無表情で対応する。
「ダミアン王子なんて…そんな他人行儀な呼び方は止めて下さい。私達は婚約者なのですよ?」
お、おおーい!!!
何サラッと重大発言入れてんだよー!
「えっ?」「婚約者?」
周りがザワザワしている。
ほら見ろ!ザワザワしてますよ!
「ダミアン王子ご冗談…」
を、と言いかけてやめた。ご冗談じゃないから!真実だから!私は王子の婚約者!否定なんて出来ないじゃない!
何も言えず無表情で固まる私に王子はまたまた胡散臭いぐらいの笑顔で近付き
「折角同じクラスなのです、これから毎日お昼を共にしましょう」と言った。
「いえ、王子それは…!」
慌てて断ろうとした私の言葉は王子の言葉で掻き消される。
「そう言う訳ですので、私と婚約者の大切な時間を邪魔をしないで頂きたいんです」
とクラスメイト全員に聞こえるように言った王子の言葉で。
…私はその場に卒倒しかかった…。
「ロゼ、行きましょう」
次の日王子が昼の誘いに来た。
…嫌だ。絶対に嫌だ。あー嫌だ。今すぐにでも逃げ出したい。
そうは思っていてもそんな事を言えるわけも無く私は渋々王子に着いて行く。
嫌いな私の顔を見ながら食事したいって…この王子は本当に変わっているわ。
折角の食事なのに…折角なら美味しく楽しく食べたいのが普通でしょ?なのにわざわざ私を誘うなんて…考えれば考えるだけ王子の事が分からない。
目の前に並んだ美味しそうな食事…今日の食堂のメニューはビーフシチュー。
よく煮込まれたソースにホロホロのお肉…そして付け合せのサラダは野菜がとても瑞々しくて…そして何よりこのパン!
焼きたてのパンはバターと小麦の匂いがする。掴むとふわふわで口に入れるとほんのり甘く…やっぱり私の作るパンとは全然違う。
これまで私にとって食事はただの栄養摂取だったが自分でパンを作るようになってからは食べるということはこの世の全てに感謝する事だと知る。
当たり前だが小麦を育てる人がいて、バターの為に牛を育てて、言い出したらキリがない程パン1つ作る為にも色んな人が頑張っている。
それを知ってから私の食事に対する価値が変わった。
…だから………っこれは…許せない!
目の前の王子はシチュー以外には手を付けず、それに加えシチューに入っている野菜までも食べていなかった。
っ…好き嫌いなの?…野菜が嫌いなの?…何なの?作ってくれた人の事をどう思っているの?
ワナワナと肩が震え出す。
っ!口を出さないつもりだったけれど我慢出来ないわ!
「ダミアン王子…」
自分で思っているよりもワントーン低い声が出た。
「…なんですか?」
不穏な空気を感じとったのか相変わらず笑顔だったがその笑顔に一瞬の躊躇いが見えた。
でも!今そんな事は関係ないのよ!
「野菜を残しておられるようですが?」
「…はっ?」
思わぬ事を言われたのか王子は呆気に取られた顔をしている。
「ですから…野菜が残っていると言っているんです。…もしかしてお嫌いですか?」
「…あ、ああ。野菜…あまり食べる意味を見いだせなくて…」
はっ?
「野菜を食べる意味?…お嫌いなのですね」
「いや、嫌いとかそういう事では…」
「お、き、ら、い、な、の、で、す、ね?」
「…………」
チッ認めないわね。
「貴方が嫌いな野菜も…この国の民が作っているものなんです…」
「だから嫌いな訳では…」
「…ならば食べられますわね…」
「えっ…」
「ですから…野菜、嫌いでないなら食べられますね」
「……………」
「嫌いでは無いのですよね?王子がそんな子供っぽい嘘つきませんよね?」
私は手付かずのサラダの皿を王子に押し出す。
笑顔でサラダの皿を見つめる王子と無表情でサラダの皿を王子に押し出す私。(しかも若干目が据わっている…)
「…分かりました…食べます」
そう言って王子は震える手でフォークを持ちおもむろにサラダを食べた。
最後まで食べるのを見届けて私はすかさず席を立つ。
「これからも私とお昼を食べるのでしたら野菜を残そうなんて考えない方がいいですわ」
そして私はその場を去った。
頭に血が上った勢いでやってしまった事が思わず嫌われるという作戦に一役かっていた事には気づかなかった。
呼ばれたその声に思わず振り返りそうになってはっと気付く…その声が誰の声か…。
この声は……王子……。
振り返りたく無い。…このまま聞こえませんでしたよーって感じにならないかな~。とか思っていたら…。
「ロゼ、ちょっといいかな」
と再び声をかけられた。
ギギ…ギギ…と油が切れた機械人形の如くぎこち無く振り返ると嫌な予感しかしない満面の笑みの王子がそこに立っていた。
「っ…ど、どうなさったのですか?ダミアン王子」
本当に一体どうしたと言うんだ。学園に入学してからこんな風に学園で声をかけられたのは初めてで、だから直ぐに噂になる。
「ダミアン様とロゼ様仲がよろしかったかしら?」
「ダミアン様ロゼ様の事を呼び捨てになさっているわ」
とか、もう勘弁して。ただでさえ目立つのに何を思って私に声を掛けて来たのか……嫌がらせか?
そんな事を心の中では思っていたが顔には出さず王子に対する標準装備の無表情で対応する。
「ダミアン王子なんて…そんな他人行儀な呼び方は止めて下さい。私達は婚約者なのですよ?」
お、おおーい!!!
何サラッと重大発言入れてんだよー!
「えっ?」「婚約者?」
周りがザワザワしている。
ほら見ろ!ザワザワしてますよ!
「ダミアン王子ご冗談…」
を、と言いかけてやめた。ご冗談じゃないから!真実だから!私は王子の婚約者!否定なんて出来ないじゃない!
何も言えず無表情で固まる私に王子はまたまた胡散臭いぐらいの笑顔で近付き
「折角同じクラスなのです、これから毎日お昼を共にしましょう」と言った。
「いえ、王子それは…!」
慌てて断ろうとした私の言葉は王子の言葉で掻き消される。
「そう言う訳ですので、私と婚約者の大切な時間を邪魔をしないで頂きたいんです」
とクラスメイト全員に聞こえるように言った王子の言葉で。
…私はその場に卒倒しかかった…。
「ロゼ、行きましょう」
次の日王子が昼の誘いに来た。
…嫌だ。絶対に嫌だ。あー嫌だ。今すぐにでも逃げ出したい。
そうは思っていてもそんな事を言えるわけも無く私は渋々王子に着いて行く。
嫌いな私の顔を見ながら食事したいって…この王子は本当に変わっているわ。
折角の食事なのに…折角なら美味しく楽しく食べたいのが普通でしょ?なのにわざわざ私を誘うなんて…考えれば考えるだけ王子の事が分からない。
目の前に並んだ美味しそうな食事…今日の食堂のメニューはビーフシチュー。
よく煮込まれたソースにホロホロのお肉…そして付け合せのサラダは野菜がとても瑞々しくて…そして何よりこのパン!
焼きたてのパンはバターと小麦の匂いがする。掴むとふわふわで口に入れるとほんのり甘く…やっぱり私の作るパンとは全然違う。
これまで私にとって食事はただの栄養摂取だったが自分でパンを作るようになってからは食べるということはこの世の全てに感謝する事だと知る。
当たり前だが小麦を育てる人がいて、バターの為に牛を育てて、言い出したらキリがない程パン1つ作る為にも色んな人が頑張っている。
それを知ってから私の食事に対する価値が変わった。
…だから………っこれは…許せない!
目の前の王子はシチュー以外には手を付けず、それに加えシチューに入っている野菜までも食べていなかった。
っ…好き嫌いなの?…野菜が嫌いなの?…何なの?作ってくれた人の事をどう思っているの?
ワナワナと肩が震え出す。
っ!口を出さないつもりだったけれど我慢出来ないわ!
「ダミアン王子…」
自分で思っているよりもワントーン低い声が出た。
「…なんですか?」
不穏な空気を感じとったのか相変わらず笑顔だったがその笑顔に一瞬の躊躇いが見えた。
でも!今そんな事は関係ないのよ!
「野菜を残しておられるようですが?」
「…はっ?」
思わぬ事を言われたのか王子は呆気に取られた顔をしている。
「ですから…野菜が残っていると言っているんです。…もしかしてお嫌いですか?」
「…あ、ああ。野菜…あまり食べる意味を見いだせなくて…」
はっ?
「野菜を食べる意味?…お嫌いなのですね」
「いや、嫌いとかそういう事では…」
「お、き、ら、い、な、の、で、す、ね?」
「…………」
チッ認めないわね。
「貴方が嫌いな野菜も…この国の民が作っているものなんです…」
「だから嫌いな訳では…」
「…ならば食べられますわね…」
「えっ…」
「ですから…野菜、嫌いでないなら食べられますね」
「……………」
「嫌いでは無いのですよね?王子がそんな子供っぽい嘘つきませんよね?」
私は手付かずのサラダの皿を王子に押し出す。
笑顔でサラダの皿を見つめる王子と無表情でサラダの皿を王子に押し出す私。(しかも若干目が据わっている…)
「…分かりました…食べます」
そう言って王子は震える手でフォークを持ちおもむろにサラダを食べた。
最後まで食べるのを見届けて私はすかさず席を立つ。
「これからも私とお昼を食べるのでしたら野菜を残そうなんて考えない方がいいですわ」
そして私はその場を去った。
頭に血が上った勢いでやってしまった事が思わず嫌われるという作戦に一役かっていた事には気づかなかった。
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