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幼馴染×幼馴染=共依存 1
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速水 架は『匂いフェチ』である。
ちなみに幼馴染みの 佐野 市太 の匂いが一番好きだ。
午前8時。まだ眠っている市太の頬を、指の背で架が撫でる。
「いち!起きろ、おーい市太!」
朝が弱い市太の頬を撫でて起こすのが架の日課。
「・・・あー・・・、はよ、架」
頬にかかる架の手に自分の手を重ねて撫でる市太。
「架の手の形、血管の交差具合、関節の曲げ方、爪の形・・・アートでしかない」
これが市太の口癖。
実は市太は『手フェチ』だ。
そして、その市太が理想とする手の持ち主が架。
いちの匂い・・・ヒーリング効果 あり過ぎだろ!
架の手、今日も触り心地最高かよ!
朝イチでお互いの存在に感謝しながら同じ大学へと向かう。
これが二人の日課。
お互いの母親が親友で家が隣どうし。生まれたのは1ヶ月違い。
物心ついた時からずっと、自分の兄弟よりも長い時間を一緒に過ごして来た。
一緒にいないと不自然なほどのソウルメイト。ふたりはそう思っている。
19年間一度も『市太スメル』を超える存在に出逢えていない架に彼女が出来たことは無い。
色白の肌に母親譲りの大きな瞳。控えめにスッと伸びた鼻筋と小さめの唇。
アイドル系の架は小さい頃から「カワイイ」と言われ慣れている。自分より見劣りする女には興味も無いし、例え美人だとしても体が相手の匂いを拒否してしまう。
恋愛したいと思いつつも積極的になれないタイプだ。
市太もまた重度の手フェチが災いして『架ハンド』以上の存在は無いと思いながらも、整った顔と長身、ふんわりとした雰囲気の持ち主で、こちらは女性とほどよく遊ぶタイプである。
特定の相手を作らないのは、女の匂いがついたら架が離れて行く気がしているから。
架の手を拝めなくなってしまうのが何よりも嫌だと考える市太。
幼馴染みの二人はお互いの利が一致した離れられない関係。男どうし、恋愛に発展することこそ無いが、周りからは二人がデキていると誤解を招くほどの仲の良さ。
外に出る時は市太の匂いが無いと落ち着かない架。人が多い場所は特に。
駅のホーム、人混みの中で市太の背中に顔を寄せゆっくりと呼吸を繰り返す。
「架、大丈夫か?」
「うん。だいじょぶ・・・」
架のヤツ、今日は調子が悪そうだな。
市太は思っていた。架は『匂いフェチ』なんかじゃなく『臭覚過敏』なんじゃないか、と。
思い当たる節はいくらでもあった。
更衣室やトイレ、食堂やスーパーマーケット・・・臭いや匂いが濃い場所で嗚咽したり嘔吐する架を小学生の頃から何度も何度も見てきた。
成長と共に嘔吐までする事はなくなって架の症状は多少緩和したように思える。だけど色んな匂いが混ざり合う人混みは、やっぱり苦手みたいだな。
電車に乗り、車両の隅で架を囲うように立つ。
「くっついてていいよ」
「うん。ごめんな、いち」
市太のちょうど鎖骨辺りに来る架の顔。少し上を向いた架の乱れた呼吸が首筋を撫でる。
女だったら、抱きしめてやっても良かったのに。
架が自分の匂いしか受け付けない事に、幾分かの優越感。架には俺しかいない。そう市太は自覚している。
架のぶら下げた手の甲を市太が指でなぞると、ピクッと無意識に反応する中手骨。浮き出た血管の柔らかい膨らみが指先に当たり、体毛が薄い架の肌の滑らかさが心地良い。
俺は女の子の綺麗な手が好きだ。白くて柔らかくて小さくて、男とは違う細い指に小ぶりな爪。節ばっていない関節。浮き上がるほどでは無く、手の甲に薄ら透ける血管。
女性の体でどこを最初に見るか、と聞かれれば「手」と即答するくらいに。
それなのに、どうしても架の手に惹かれてしまう。女の子のような手じゃないのに。
どこが何が、と聞かれるとよく分からない。ただ架の手が好きだ。
気付けばいつも傍にあって、幼い頃は人前でも平気で触れる事ができた。なのにいつの間にか躊躇うようになって・・・人目につかないように触れる事しか出来なくなっていた。
簡単に触れなくなって、握れなくなって、そのもどかしさが執着を増幅させているのかもしれない。
もしくは、他人の匂いを拒絶し遠ざける架に唯一近付く事ができ触れる事を許されているのは俺だけだ、という優越感がそう思わせるのかも。
「市太・・・いい匂い・・・」
譫言のように呟く架に、市太の心臓が大きく脈打つ。
鎖骨に当たる架の唇の感触に市太の神経が集中する。
男の架にこんな感情を抱くのは間違ってる。いくら架がその辺の女より魅力的だとしても。
パーカーの裾 腰辺りをぎゅっと握る架の手を、市太はそっと包むように握る。
自分の手よりも冷たい架の手の温度。市太は冷静になる。
「1コマ目から入ってる日はちゃんとマスクして来いよ。この時間の電車混むんだから」
「・・・だな、ごめん。いちがいつも傍にいてくれるから、油断してたわ」
冷静になった市太の心が再び掻き乱される。
いい加減認めろよ、俺。架をただの幼馴染みだと思えなくなってるって事。
こいつの手に執着するのも、こんな感情になるのも・・・架が好きだから、と認めてしまえばいい。
それができないのは、架に嫌われたくないからだ。
俺達はもう19歳。いつまでもこの近過ぎる距離感ではいられない。
だけど1日でも、1分でも1秒でもいいから長く架の傍にいたい。必要とされていたい。
乱された心を落ち着かせるため市太が大きく息を吸うと、鼻先にある架の柔らかい髪から甘い香りがする。
込み上げる邪な感情に何とか蓋をして、市太は今日も、架専用の空気清浄機に徹する。
ちなみに幼馴染みの 佐野 市太 の匂いが一番好きだ。
午前8時。まだ眠っている市太の頬を、指の背で架が撫でる。
「いち!起きろ、おーい市太!」
朝が弱い市太の頬を撫でて起こすのが架の日課。
「・・・あー・・・、はよ、架」
頬にかかる架の手に自分の手を重ねて撫でる市太。
「架の手の形、血管の交差具合、関節の曲げ方、爪の形・・・アートでしかない」
これが市太の口癖。
実は市太は『手フェチ』だ。
そして、その市太が理想とする手の持ち主が架。
いちの匂い・・・ヒーリング効果 あり過ぎだろ!
架の手、今日も触り心地最高かよ!
朝イチでお互いの存在に感謝しながら同じ大学へと向かう。
これが二人の日課。
お互いの母親が親友で家が隣どうし。生まれたのは1ヶ月違い。
物心ついた時からずっと、自分の兄弟よりも長い時間を一緒に過ごして来た。
一緒にいないと不自然なほどのソウルメイト。ふたりはそう思っている。
19年間一度も『市太スメル』を超える存在に出逢えていない架に彼女が出来たことは無い。
色白の肌に母親譲りの大きな瞳。控えめにスッと伸びた鼻筋と小さめの唇。
アイドル系の架は小さい頃から「カワイイ」と言われ慣れている。自分より見劣りする女には興味も無いし、例え美人だとしても体が相手の匂いを拒否してしまう。
恋愛したいと思いつつも積極的になれないタイプだ。
市太もまた重度の手フェチが災いして『架ハンド』以上の存在は無いと思いながらも、整った顔と長身、ふんわりとした雰囲気の持ち主で、こちらは女性とほどよく遊ぶタイプである。
特定の相手を作らないのは、女の匂いがついたら架が離れて行く気がしているから。
架の手を拝めなくなってしまうのが何よりも嫌だと考える市太。
幼馴染みの二人はお互いの利が一致した離れられない関係。男どうし、恋愛に発展することこそ無いが、周りからは二人がデキていると誤解を招くほどの仲の良さ。
外に出る時は市太の匂いが無いと落ち着かない架。人が多い場所は特に。
駅のホーム、人混みの中で市太の背中に顔を寄せゆっくりと呼吸を繰り返す。
「架、大丈夫か?」
「うん。だいじょぶ・・・」
架のヤツ、今日は調子が悪そうだな。
市太は思っていた。架は『匂いフェチ』なんかじゃなく『臭覚過敏』なんじゃないか、と。
思い当たる節はいくらでもあった。
更衣室やトイレ、食堂やスーパーマーケット・・・臭いや匂いが濃い場所で嗚咽したり嘔吐する架を小学生の頃から何度も何度も見てきた。
成長と共に嘔吐までする事はなくなって架の症状は多少緩和したように思える。だけど色んな匂いが混ざり合う人混みは、やっぱり苦手みたいだな。
電車に乗り、車両の隅で架を囲うように立つ。
「くっついてていいよ」
「うん。ごめんな、いち」
市太のちょうど鎖骨辺りに来る架の顔。少し上を向いた架の乱れた呼吸が首筋を撫でる。
女だったら、抱きしめてやっても良かったのに。
架が自分の匂いしか受け付けない事に、幾分かの優越感。架には俺しかいない。そう市太は自覚している。
架のぶら下げた手の甲を市太が指でなぞると、ピクッと無意識に反応する中手骨。浮き出た血管の柔らかい膨らみが指先に当たり、体毛が薄い架の肌の滑らかさが心地良い。
俺は女の子の綺麗な手が好きだ。白くて柔らかくて小さくて、男とは違う細い指に小ぶりな爪。節ばっていない関節。浮き上がるほどでは無く、手の甲に薄ら透ける血管。
女性の体でどこを最初に見るか、と聞かれれば「手」と即答するくらいに。
それなのに、どうしても架の手に惹かれてしまう。女の子のような手じゃないのに。
どこが何が、と聞かれるとよく分からない。ただ架の手が好きだ。
気付けばいつも傍にあって、幼い頃は人前でも平気で触れる事ができた。なのにいつの間にか躊躇うようになって・・・人目につかないように触れる事しか出来なくなっていた。
簡単に触れなくなって、握れなくなって、そのもどかしさが執着を増幅させているのかもしれない。
もしくは、他人の匂いを拒絶し遠ざける架に唯一近付く事ができ触れる事を許されているのは俺だけだ、という優越感がそう思わせるのかも。
「市太・・・いい匂い・・・」
譫言のように呟く架に、市太の心臓が大きく脈打つ。
鎖骨に当たる架の唇の感触に市太の神経が集中する。
男の架にこんな感情を抱くのは間違ってる。いくら架がその辺の女より魅力的だとしても。
パーカーの裾 腰辺りをぎゅっと握る架の手を、市太はそっと包むように握る。
自分の手よりも冷たい架の手の温度。市太は冷静になる。
「1コマ目から入ってる日はちゃんとマスクして来いよ。この時間の電車混むんだから」
「・・・だな、ごめん。いちがいつも傍にいてくれるから、油断してたわ」
冷静になった市太の心が再び掻き乱される。
いい加減認めろよ、俺。架をただの幼馴染みだと思えなくなってるって事。
こいつの手に執着するのも、こんな感情になるのも・・・架が好きだから、と認めてしまえばいい。
それができないのは、架に嫌われたくないからだ。
俺達はもう19歳。いつまでもこの近過ぎる距離感ではいられない。
だけど1日でも、1分でも1秒でもいいから長く架の傍にいたい。必要とされていたい。
乱された心を落ち着かせるため市太が大きく息を吸うと、鼻先にある架の柔らかい髪から甘い香りがする。
込み上げる邪な感情に何とか蓋をして、市太は今日も、架専用の空気清浄機に徹する。
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