向かいの蓮くんは甘く見える

Hiiho

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夕飯を食べ終え、着替えを持って蓮くんと共に塩田家へと移動する。

「俺はシャワーでいいけど、お前湯浸かんなら風呂沸かすけど」

「僕もシャワー・・・」

いや

「やっぱお湯張ってもらおうかな」

特に気に止める様子もなく「りょーかい」と言って蓮くんはバスルームへ行って部屋に戻ってくる。


「おばさん、帰って来てないの?」

「帰って来てるよ。たぶん日中短時間だろーけど。掃除とか洗濯とかしてあるし」

「ふーん。夜は帰って来ない?」

僕が泊まり込んでいた時は夜は一度も帰って来てなかったし。

「そうだな。たぶん帰ってこないんじゃねぇ? なに、今更遠慮してんの? こんだけ強引に押しかけて来といて」

「は、はは・・・」

違うよ。遠慮なんかしてない。
笑って誤魔化す僕は蓮くんにエッチなことをしたくて堪らなくて、誰にも邪魔されたくない、ただそれだけなんだよ。



15分くらい無言のまま、蓮くんは公認会計士について書かれた本を読み込んでいた。
その間僕はスマホを触る振りをしながらずっと、蓮くんの伏せた目に影を落とす睫毛とか、文章を反芻して時折小さく動く唇や ページを捲るしなやかな指に見蕩れていた。


「そろそろお湯溜まってるし、奏汰 先入ってこいよ」

ようやく顔を上げた蓮くんが時計を見て僕に言う。

「うん。じゃあ・・・」

蓮くんの手から本を取り上げ手首を掴む。

「蓮くんも一緒に」

「・・・・・・え。 や、無理無理! そんな風呂広くねーし!」

「ウチよりは広いよ。男同士なんだし恥ずかしがることないって」

「男同士だから嫌なんだよっ! お前のこと、そういう目で見たくねぇから!」

「『そういう目』って?」

あ・・・、と呟いて蓮くんが目を逸らす。

「お前はただの、か、開発係だし。音々の弟だし・・・」

「だから? セックスする対象じゃないって?」

「うん」

俯く蓮くん。

「でもできたじゃん。僕は男なんか好きじゃなかったけど蓮くんを好きになって、無理矢理だったけど挿れて、イッた。蓮くんだってイッてたじゃん」

「そうだけど・・・っ、でも違うんだよ! 奏汰を汚すような感情持ちたくねぇから・・・。同性に性的な目で見られて、気持ちいいわけないし。俺ホモだから、やっぱどうしてもそういう目で見ちゃうかも・・・だし」

ねえ、それってどういう意味?
0.1パーセントでも0.01パーセントでもいい。蓮くんが僕を男として意識してくれてるって可能性があるって自惚れていい?

顔を上げようとしない彼の頬に手を伸ばすと、反射的に ビクッ と小さく肩を上げる。

「蓮くん、もう少し危機感持った方がいいよ」

「は・・・、それはお前だろ」

「逆だよ。鈍感すぎる。蓮くんが男の人を『そういう目』で見てるのと同じように、ううん、それ以上に僕に『そういう目』で見られてるって自覚したほうがいい」

何度も好きだって言ってるのに、どうしてわからないんだこの人は。


床に座っている蓮くんの背中がベッドの側面に寄り掛かるようにして、彼に跨り両手で顔を包んで上を向かせる。
ベッドの上で天井を向いた蓮くんの顔は困っているようにも見えるけれど、赤く染めた肌で ただ照れているだけのようにも見える。

「蓮くんの恋が叶う確率は何パーセント?」

「そん・・・なの、結城さんがノンケの時点で、限りなくゼロに近いだろ」

「僕を好きになれば100パーセント叶うよ」

「そんな簡単に、お前を好きになれるわけ・・・」

「じゃあ体だけでもいい。僕を『そういう目』で見てよ。お願い」

「ちょ・・・まっ、奏汰! キスは無理っ」

唇を寄せると抵抗して、頬を包んだ僕の手を剥がそうと蓮くんが藻掻く。

「どうして? キスしたら、“結城さん”より僕を好きになっちゃいそうだから?」

「おまっ、どんだけ自信満々なんだよ! ありえねぇっつの!」

完全否定されたらさすがの僕も傷つかずにはいられない。蓮くんに好きになってもらえないなら、こうするのも無駄なのかもしれない。
幼なじみの弟以上に思ってもらえないなら、僕の想いはどこに向かえばいいの。

「それでも蓮くんにキスするよ」

「奏汰! 待っぅ・・・・・・」

うるさい口を塞ぐと、今度は息を止め頑なに開こうとしない強情っぷり。

蓮くんの下唇を食んで隙間に舌を押し込んでも、噛み締めた歯が邪魔でそれ以上侵入できない。
歯茎を舐め歯列をなぞると、僕の舌は彼の控えめな八重歯に引っかかる。

ぎゅっと目を閉じて耐える蓮くんが子猫みたいに可愛らしくて、前田くんが猫を好きな気持ちが少しわかる気がした。

蓮くんは猫じゃないってわかってはいるけど、こしょこしょと首を撫でてみると、すん、と鼻から息を漏らし喉仏を上下させる様はやっぱり猫みたいだと思う。

行き場を無くしているのか、彼の両手は僕の腕を緩く掴んだままで動かない。抵抗しないのは、僕に何をされても揺るがない“結城さん”への想いがあるからなのかな。


首筋に触れた手を滑り落とすと、びくんっ と蓮くんの胸筋が跳ねる。薄手のシャツの上から指先に当たる他の場所より柔らかい部分。

これは・・・蓮くんの、ち、ち、ちくびでは!?

中指の腹でスリスリと擦ると、僕の手首を掴んだ蓮くんが顔を顰めて抵抗を見せる。歯は食い縛ったままで僕の舌を拒み、好き勝手させてくれているようで拒絶されているこの感じが堪らなく不快に思えてくる。
唇を離すと、顔を背けた蓮くんは咳払いをして横目で僕を睨んだ。

「てめ、マジふざけんな」

「蓮くん、ここも開発しよっか」

片方の乳首の周りに円を描いて柔らかい中心を押す。

「そんなとこ別にいらねぇ。俺 女じゃねーし」

蓮くんは僕を押し返そうとするけれど、僕が無駄にイイ身体で無駄に力があるばっかりに、彼のその反抗は無意味なものになる。

無意味な蓮くんの反抗を受け流して、柔らかいだけのその部分の皮膚をシャツの上からカリカリと引っ掻くと、中心が小さく膨らみ硬くなってくる。

「奏汰! テメー調子乗ってんんぅ」

少しでも離したら途端に文句しか出なくなる唇をもう一度塞ぐ。
蓮くんが油断していたおかげで、今度はうまく舌を咥内に滑り込ませることができた。

「・・・なた、    は、  ぅ・・・」

うるさい、うるさい! こうでもしないともう蓮くんは触らせてくれないつもりだったんだろ。
この関係をリセットして、ただの向かいの家の幼なじみの弟として僕を扱うつもりなんだろ。

今更そんなこと、絶対にさせない。


舌の裏側を撫でると蓮くんは苦しそうに低く呻き、上顎を舐めると「ん」と上擦った吐息を漏らす。
立ち上がった胸の突起を潰すように捏ねると、蓮くんは痛がる仕草を見せる。

乳首はまだ未開発だから乱暴に触れば痛みが伴うはず。できるだけ慎重に扱いたいのに、蓮くんを手に入れたい気持ちが先走って、優しくする余裕が今の僕には無い。

震える舌で僕のそれを必死に押し返そうとする蓮くんに苛立ちが込み上げて、左右の突起を力任せに強く摘む。

「いぁ・・・っ! ぅう・・・」

僕の腕に蓮くんの指がくい込んで、涙目になる彼は相当な痛みに苛まれているんだと思うとちょっとだけ胸が痛んだ。

でもここで引けない。


蓮くんの唇の端から零れそうになっている唾液を舌で掬い、僕はそのまま舌ごと彼の口へ押し込み咥内を掻き回す。
咥内で混ざり合ったふたりの唾液がまた零れそうになって、そうさせないように隙間なく唇を塞ぐと、上を向いているせいで喉の奥に流れ込むそれを こくん と蓮くんが飲み込む。

彼が望んでそうした訳じゃないのにどうしようもなく煽られて、まるで蓮くんが自分のものになったかのように錯覚してしまう。


けれど、僕を見る蓮くんの瞳が涙を溜めて怯えているのに気付いて、胸の痛みが少し大きくなる。

「1回ヤッたんだから2回も100回もきっと変わんないよ。ビビってないで空気読んでよ」

「ひゃく!?  てかなんの空気だよ! 読めるような空気なんか流れてねぇわ!」

「蓮くんが抵抗するから空気が悪くなるんだよ」

ああ~・・・こんなくだらない意地しか張れなくて、力でしか支配できなくて、好きになって欲しいなんて馬鹿げてるよな・・・。

蓮くんを好きになる前はもっと上手くやれてたはずなのに。優しくできてたはずだったのに。


立ち上がり彼の手を引くと、よろけながら腰を上げた蓮くんは諦めたように震えた息で深呼吸をする。

「・・・風呂、入るんだろ」

「え、それって一緒に?」

「じゃなきゃまた暴走しそうだからな、お前」

「うう、蓮くん、この男前・・・!」

ねえ蓮くん、あなたを襲った僕が言えた事じゃないけど、どうしてそんなにガードが激ユルなんですか? 僕にとっては都合がいいけど。

そんなに甘やかされると僕、かえって暴走しちゃいそうなんですけど!?
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