上 下
208 / 210

happy wedding 2

しおりを挟む
「さんきゅー」

 ブーケを手に取り微笑む涼太は、今日の主役である美織さんよりも綺麗だ、と思う。

「青って何気ロマンチストだよな・・・オレなんかに惚れてなかったら、絶対モテてたのにな。もったいない」

 俺が涼太に惚れてなかったら、絶対モテてたのはお前の方だと思うけどな。・・・涼太の恋路を邪魔してたのは俺だし。

「その分、涼太が幸せにしてくれるんだろ?」

「もちろん。・・・あ!そう言えばさ、男どうしでも妊娠できるらしいぞ!」

 は?

「なんかー、オレたちは『べーた』っていうらしい。んで、『おめが』っていうのになれれば妊娠できるんだって」

 は??

「『べーた』でも、突然『おめが』になる可能性もあるから、望みを捨てんなって言われた」

 は?え?・・・涼太何言い出しちゃってんの?
 ・・・・・・もしかして

「なあ、それって誰に・・・」

「あさみさん」

 やっぱり!!

「あのな、涼太・・・それって、あさみさんお得意のBLの・・・」

 無表情に戻った涼太の瞳だけが、キラキラと輝いて・・・希望に満ち溢れているのがわかる。

 どこまでバカなの?そんな人、現実に見たことあんの?
 ねえ涼太くん、マジで大人なんだよね?

「涼太、いいかよく聞け。それ多分あさみさんの・・・」

 願望なだけだから、と言いかけて・・・

「『ひーと』、オレにも来るかな?」

 涼太の瞳があまりにも純粋に輝き過ぎている・・・!

 ・・・言えねー・・・。
 こんなに無垢な涼太に言えるわけない。それ、BLの架空設定だぞ、なんて・・・

「オレ 青に何回もうなじ噛まれてるから、青とオレは『つがい』なんだって、そんでそんで・・・」

 ブーケを抱えたまま、涼太はあさみさんから仕入れた知識を一生懸命俺に語る。

「青が医者でよかった~!『よくせいざい』処方してくれよな!」

 つーか、俺、専修外科だし関係ねぇだろ多分。じゃねぇ!

「オレ、青のために『おめが』になれるように頑張るからな!妊娠、できるといいな~」

「あ、うん。ソウダネ・・・」

 あさみさん、壮大な誤爆すんなよマジで・・・。

 
 美織さんの結婚式の日に、涼太は何を語って俺は何を聞かされてんだ。まったく・・・。







 披露宴も無事に終わり、夫婦揃って医師である美織さん達は、その足で短い新婚旅行のため空港へと向かって行った。

「なあ、青?・・・明日、仕事だよな?」

 式場からの帰り、タクシーの中、膝の上にのせた指を涼太がぎゅっと握ってくる。

「仕事だけど。どうした?」

「・・・うん、あのさ・・・なんか・・・来たかも」

 来た?何が?

「『ひーと』・・・」

「はあ!?」

 来るはずねーだろ!そんなもん・・・

 思わず涼太の顔を見ると、虚ろな目で呼吸を荒らげて、頬は真っ赤に上気していた。

「『ひーと』になると『おめが』は『あるふぁ』の精子が欲しくて堪らなくなるって・・・だから・・・絶対そう」

 頼むからその呪文みたいな言葉を並べるのはやめてくれ。
 つーかそれ、酒飲み過ぎて酔っ払ってるだけだろうが!

「おれ・・・あおのせーし、欲しい」

 酔っ払って大胆になっている涼太は、タクシーの中だというのに、俺の首に手を掛けて自分の方へ引き倒そうとしてくる。

 ちょいちょいちょい!ドライバーさんがバックミラー越しにめっちゃ見てるし!

「青のせーし、いっぱいいっぱい欲しいから・・・寝かせてやれないかも・・・『ひーと』だから」

「イヤ、涼太それ絶対違うから。そもそも何だよ、ひーとって!」

 涼太の腕を外そうと試みるが、更に強い力でしがみついて来て離れようとしない。

 可愛い。どちゃクソ可愛いけど・・・。真実を教えた方がいいなこれ。

「あのな、その、ひーとだかミートだか、おめがだかガメラだか知らねぇけど、それ作りもんだぞ、きっと」

「青はっ、オレとのこども、欲しくねーの?ずっと気になってた・・・・・・オレは、限りなくゼロに近い可能性でも信じてんの!青のためならできるって!」

 限りなくゼロに近いどころか、可能性はゼロなんだけど・・・。

「涼太のこどもが欲しくないわけ無いだろ。けどな、男女でも難しいケースだって珍しくないんだ。子供ができるって涼太が信じてるなら、俺も信じるから。だから焦んなくていい」

「・・・うん」

 こんな非現実的な話に付き合うなんて、我ながらどうかしてるな。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

処理中です...