上 下
199 / 210

理事長のお墨付き 2

しおりを挟む
「理事長!どういうことです?話が違うじゃないですか!」

 祖父に向かって声を荒らげる父。

「違う?院長はどういうつもりでここへ来たんだ?」

 父とは対照的に、のんびりとした様子で茶を啜る祖父。

「もちろん、涼太の見合いのつもりで来ましたよ!」

「私は、見合いなんてひとことも言っとらん。涼太に会わせたい良い人がいる、と言ったんだ」

「っ!そうですが、涼太に見合いをさせたいと相談してから、それほど経っていませんでしたし・・・」

「知らん。院長が勝手に勘違いしただけだろう?・・・しかし、そうか、これは見合いの席だったか・・・・・・で、若いふたりはどうだ?院長もこう言っている事だし、今日は見合い、という事でいいか?」

 祖父にそう問われても、オレはまだ目の前に座っているこいつが本物なのかどうなのか分からなくて・・・もしかしたら、現実逃避したいオレの脳ミソが勝手に見せている幻覚かもしれない、と思ったりする。

 先に答えたのは、幻覚かもしれないその相手。

「俺には願っても無いことです。そちらさえ宜しければぜひ・・・・・・・・・見合い相手が俺じゃ不満か?涼太」

 こいつ、本物だ。
 
 ・・・不満なわけねぇだろ。てか、どうしていつもお前はこんな・・・めちゃくちゃで強引なんだよ。

「オレは青がいい。そんなの聞かなくたってわかってんだろ」

「涼太も気に入ってくれたみたいで、じいちゃんはホッとしたよ。連れてきてよかった」

 わはは、と豪快に笑う祖父。
 じいちゃん、こんなんカッコよすぎだろ。やっぱりじいちゃんは、オレの大好きなじいちゃんだ。


「理事長・・・ご冗談が過ぎるのでは・・・?」

 父は膝の上でワナワナと拳を震わせ、祖父を睨み付けた。

 そんな父を見ても、祖父は顔色ひとつ変えず湯呑みを口へ運ぶ。

「少し昔話をしてもいいかな?」

 その場の緊張感を完全に無視して、祖父は話を続ける。

「私には一人娘がいてな。本当にかわいらしくて、大事に大事に育ててきたんだ」

 祖父以外が一斉に ぽかん、となる中、話は続く。

「突然、子供ができた、つまり妊娠したと聞かされたんだよ。娘が15の時だ。相手の男はウチの研修医だと言うじゃないか」

「理事長!こんな時に何を・・・」

「まあ聞きなさい。・・・私の妻は喘息持ちでね、酷い時は入院することもあった。娘は見舞いに来ていてその研修医と知り合ったらしいんだが・・・」 

 俯いた父の額から流れ落ちた汗が、スーツのボトムに染みを作っているのが視界に入る。

「娘はまだ子供、相手の男は25だ。どう思う?院長。控えめに言っても犯罪、だとは思わないか?」

「申し訳ございませんでしたぁ!!」

 いきなり大声を上げて、土下座する父。

「頭をあげなさい。私は娘とお前が真剣に愛し合っていると思ったから一緒になる事を許したんだ。今度は、お前の番じゃないのか?」

 祖父の言葉を聞いて、顔を上げる父。

「このふたりの本気がわからん奴を、娘婿として迎えたつもりはなかったんだがなぁ。やはりただのロリコン男だったと言う事か・・・残念だなぁ」

「お義父さん、それとこれとは・・・・・・・・・・・・ああ、もう・・・・・・わかりましたよ!」

「・・・だそうだ。よかったな、青」
 
 祖父は青の肩に、ポン、と片手を置いてにっこりと微笑んで、もう片方の手を青の前に差し出す。

「はい。ありがとうございます」
 
 祖父とガッチリ握手する青。


 え、なんかオレ、置いてけぼり感ハンパないんですけど、どういう事?

 この状況についていけないオレに、母がこっそり耳打ちしてくる。

「おじいちゃんのところにね、涼くんをください、って青くんが来たらしいの。涼くん単体が無理なら病院ごと涼くんをください、って」

 ええ!?青、なんつー無茶な行動に出たんだよ!

「青くん、毎日毎日本家に通って来て、ゴルフにも釣りにもついて来て・・・今じゃおじいちゃんの将棋に付き合うくらい仲良しなんだって。おじいちゃん、互角に勝負できる相手が見つかったって喜んでた」

 母は、ふふっ、と笑って立ち上がり、正座のまま項垂れる父の傍へ行き、丸まった父の背中を力いっぱい叩いた。

「ほら!もう、しっかりしてパパ!孫は美織ちゃんに期待しましょ!なんなら、わたしまだ46だし、もうひとり頑張っちゃう?今夜にでも」

 かーちゃん、父と息子の前で何言ってんだよ。

「ううう・・・。涼太ぁ。・・・大事な涼太が男なんかと・・・うう~」

 親父、泣きすぎだし。


「涼太、お前は可愛い孫で、青は私の大切な友人だ。ふたりがうちの病院を守っていってくれたら、こんなに嬉しいことはない」

 オレの祖父は、最高にクールで、信じられないくらい器がデカい。

「じいちゃん、ありがと」

「ばあちゃん惚れ直すだろうな、こんなカッコイイじいちゃんだぞ?帰ったら褒めてもらわないとな!わはは」

 自分でこんなん言っちゃう、ちょっと痛いところもあるけど・・・。




 こうしてオレのお見合い騒動は、想像もしていなかった形で幕を閉じたのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

消えない幻なら、堕ちるのもいい

Kinon
BL
美少年系バリタチSの高畑玲史と、ゴツめでマジメなM素質アリの川北紫道。セックスの経験はあれど恋愛経験ナシの2人は、気持ちが曖昧なままつき合うことになった。『リアルBL!不安な俺の恋愛ハードルート』と同じ学園モノです。 ※玲史視点:R、紫道視点:Sですが、同じシーン(セリフ重複)はありません。

【完結】『それ』って愛なのかしら?

月白ヤトヒコ
恋愛
「質問なのですが、お二人の言う『それ』って愛なのかしら?」  わたくしは、目の前で肩を寄せ合って寄り添う二人へと質問をする。 「な、なにを……そ、そんなことあなたに言われる筋合いは無い!」 「きっと彼女は、あなたに愛されなかった理由を聞きたいんですよ。最後ですから、答えてあげましょうよ」 「そ、そうなのか?」 「もちろんです! わたし達は愛し合っているから、こうなったんです!」  と、わたくしの目の前で宣うお花畑バカップル。  わたくしと彼との『婚約の約束』は、一応は政略でした。  わたくしより一つ年下の彼とは政略ではあれども……互いに恋情は持てなくても、穏やかな家庭を築いて行ければいい。そんな風に思っていたことも……あったがなっ!? 「申し訳ないが、あなたとの婚約を破棄したい」 「頼むっ、俺は彼女のことを愛してしまったんだ!」 「これが政略だというのは判っている! けど、俺は彼女という存在を知って、彼女に愛され、あなたとの愛情の無い結婚生活を送ることなんてもう考えられないんだ!」 「それに、彼女のお腹には俺の子がいる。だから、婚約を破棄してほしいんだ。頼む!」 「ご、ごめんなさい! わたしが彼を愛してしまったから!」  なんて茶番を繰り広げる憐れなバカップルに、わたくしは少しばかり現実を見せてあげることにした。 ※バカップル共に、冷や水どころかブリザードな現実を突き付けて、正論でぶん殴るスタイル。 ※一部、若年女性の妊娠出産についてのセンシティブな内容が含まれます。

偽りの婚姻

迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。 終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。 夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。 パーシヴァルは妻を探す。 妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。 だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。 婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……

伯爵令嬢は婚約者として認められたい

Hkei
恋愛
伯爵令嬢ソフィアとエドワード第2王子の婚約はソフィアが産まれた時に約束されたが、15年たった今まだ正式には発表されていない エドワードのことが大好きなソフィアは婚約者と認めて貰うため ふさわしくなるために日々努力を惜しまない

ある愛の詩

明石 はるか
恋愛
彼と彼女と、私の物語

幸せなΩの幸せの約束

萌於カク
BL
αとβしかいない学園に君臨するトップαが、ある日、Ωに変えられてしまう。 Ωになったことがバレたら、学園を追放されてしまう。 αの親友に助けられながら何とかしのぐも、次第に追い詰められていく。 爽やかなイケメン×高慢美人 ※微レイプ、微暴力、ヤンデレ 20221031 タイトル変更しました。元『Victim』です。ラストも変更しました。

最後に笑うのは

りのりん
恋愛
『だって、姉妹でしょ お姉様〰︎』 ずるい 私の方が可愛いでしょ 性格も良いし 高貴だし お姉様に負ける所なんて ありませんわ 『妹?私に妹なんていませんよ』

【完結】わたしの娘を返してっ!

月白ヤトヒコ
ホラー
妻と離縁した。 学生時代に一目惚れをして、自ら望んだ妻だった。 病弱だった、妹のように可愛がっていたイトコが亡くなったりと不幸なことはあったが、彼女と結婚できた。 しかし、妻は子供が生まれると、段々おかしくなって行った。 妻も娘を可愛がっていた筈なのに―――― 病弱な娘を育てるうち、育児ノイローゼになったのか、段々と娘に当たり散らすようになった。そんな妻に耐え切れず、俺は妻と別れることにした。 それから何年も経ち、妻の残した日記を読むと―――― 俺が悪かったっ!? だから、頼むからっ…… 俺の娘を返してくれっ!?

処理中です...