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目と鼻の先 3

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 いつもは静かな企画部のオフィスに女性社員達が集っている。

「目線こっちくださーい。二人揃って。・・・小林さん、もっと笑顔で」

 うう・・・。こんな大人数に見られながら写真撮られるなんて・・・。緊張以外なんもねぇ。部長、恨んでやるからな~・・・。

 ガチガチのオレとは対照的に、雄大さんは余裕のスマイルを振りまいている。

「オフィスでの撮影は以上です。次は会議室での撮影になります。御社の今シーズンの服をピックアップさせて頂きましたので、着替えて頂きますね」

 女性誌のスタッフに誘導されて会議室へ入る。

「佐々木さんは、こちらにお着替えください。小林さんはこちらに」

 案内されたパーテーションで仕切られた会議室の奥へ入って、シングルハンガーに掛けられた服を手にすると・・・

 ・・・あれ、何これ。間違ってんじゃん。

「すいません、コレ、ウィメンズの商品なんですけど・・・」

 オレは、仕切りの外にいたヘアメイクの女性におずおずと声を掛けてみる。

「そうですよ~。以前からジェンダーレスがテーマで売り出してらっしゃるじゃないですか。うちの本、オトコの娘読者も多いんですよ~」

 ・・・へ?

「小林さんなら、絶対可愛く着こなせます!メイクも気合い入っちゃうな~!楽しみ!」

 嘘だろ。え、オレ女装すんの?マジかよ!聞いてねぇし!
 クソ部長!嵌めやがったな・・・!

「あの、オレやっぱ、ムリ・・・」

「絶対可愛く仕上げますね!」

「・・・あ、ハイ」

 ウキウキのヘアメイクさん。
 オレがやらないって言ったら・・・、困るよな・・・、はあ。

 仕方なく、用意された服に着替える。
 白の薄手のカットソープルオーバーにチェックの膝丈スカート、マスタードカラーのヒールパンプス。
 にしても、ストッキングの履き心地が悪すぎる・・・。

「・・・キモ」

 鏡に映る自分の姿に吐き気がしてくる。
 童貞殺しニットもキツかったけど、モロ女子服は、精神的ダメージでかすぎるわ・・・。
 
「じゃ、メイクしますね。座ってください」

 言われるままされるがままで10分後・・・

「小林さん、元がいいからあっという間に終わっちゃいました!めっちゃ可愛いですよ!」

 恐る恐る鏡と向き合う。

 ライトブラウンの緩いウェーブがかったウィッグ・・・。
 上に向いた睫毛とテッカテカの唇がキモイ!
 ・・・なんだろう。髪型は違うけど、姉ちゃんを見てる気分だな。

「小林さんオッケーです」

 パーテーションから出たくねぇよ~・・・
 でも出なきゃな・・・仕事だと割り切って!

 意を決して、一歩を踏み出す。

「涼太・・・お前・・・」

 雄大さんが女装姿のオレを見て言葉を無くしている。

「わかってます。キツイですよね。オレが一番そう思ってるんで」

「いや。そうじゃなくて・・・なんてゆーか・・・似合ってるよ」

「気つかわなくていいですよ。さっさとやりましょう」

 ちゃっちゃと終わらせて、早くこの姿から解放されたい!




 一人での撮影と、雄大さんとのカップルショットを撮り終えて、ようやく女性誌のスタッフ達が帰って行く。

 はあ。やっと終わった~!速攻で着替えてやる!

「あれ?オレの服・・・」

 会議室の奥へ入って、ハンガーに掛けたハズの自分の服を探すが、無い。

「え?なんでねーんだよ!どこ行ったオレの服!」

「涼太、なに騒いでんの?」

 先に着替え終えていた雄大さんが、パーテーションの向こうから声を掛けてきた。

「オレの服無いんすよ!雄大さん知らないですか?」

「なんで俺が知ってるんだよ。入るぞ」

 そう言って雄大さんがパーテーションの中へ入ってくる。

「あ!そうだ!さっき雄大さんが着てたやつ、オレ買取して・・・」

「広報のやつがもう持ってったけど?」

「ええ!?」

 ガーン・・・どうしよう・・・
 
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